マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第七章 それぞれの心

パティの憂鬱

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 太陽が西に少し傾きかけた頃の東表通り。
 強制捜査を明日に控え、フォレは準備に忙しくて、剣の稽古はお休み。
 エクレル先生も用事があるらしく、魔法の練習もお休み。
 仕事は明日に支障がないように午前中のものだけにしておいたので、午後からは特に予定はなかった。


 キャンディ屋さんのそばで、キャンディを舐めつつ、表通りを眺める。
 交通規制がうまくいっているようで、馬車や人々の行き交いは以前よりも整然としていた。
 導入当初は反発もあったけど、今では交通指導員にちゃんと従っているみたいだ。

(これで交通事故が減るといいけど。さて、これからどうしようかなぁ。明日に備えて、英気を養いますか)

 英気を養う……要はゴロゴロするってこと。
 キャンディを口に含んだまま、宿屋へ帰ろうとする。
 そこに、聞き覚えのある女性の声が耳に届いた。


「あら、あなたはヤツハさん」
「うん? あ、パティか」

 パティが一人で扇子を片手に優雅に立っている。この時間帯は授業中じゃなかったっけ?

「パティ、何してんの? 学校は?」
「その学校の行事に駆り出されていたんですの。途中でお暇させていただきましたが。はぁ~、面倒ったらありませんわ」

 いかにも嫌そうにため息を吐く。
 それにはなんとなくシンパシーを感じる。

「行事って?」
「英雄祭ではわたくしたち学校の生徒の一部が、警備役として酷使されるんですのよ」
「はは、酷使か……でも、なんで学生が?」
「社会貢献というやつですわね。こういったことに参加していると就職などで役に立ちますの。わたくしは家の事情ですけど」
「へぇ~、大変そう。でも、せっかくのお祭りなのに……」

「まったくですわ。わたくしたちは学生なのですから、警備よりもお祭りを楽しませてあげることが大切だと思いますの」
「そうだよなぁ。楽しそうなお祭り前に指をくわえさせて見物させるんじゃなくて、祭りを楽しませて、次代につなげる種を育てることの方が大切だよなぁ。祭りは素晴らしいってね」

「ええ、まったく」
「俺の方もたぶん、警備の手伝いをさせられるだろうし、はぁ~、めんどい」
「あら、ヤツハさんはどうして警備の手伝いを?」
「便利屋みたいなことしてて、騎士団の手伝いも頼まれるんだよ。それで」
「なるほど、お互い大変ですわね」


 俺たちはほぼ同時にため息を吐く。
 重なったため息にパティがくすりと笑い声を立てる。

「クスッ、あなたとはなんだか気が合いそうな気がしますわ」
「俺もだ。でも、さぼりたいのはわかるけど、時計塔の件はちょっとひどいと思うぞ」
「それに関しては、申し訳ない気持ちはあります」
「だったら、素直にアプフェルに」
「それはできません」
「なんで?」


 パティは扇子を口元に持ってくる。答える気はないようだ。
 なので、質問を変えてみる。

「時計塔の掃除をさぼったのは面倒だったから? それとも何か理由が?」
「……時計塔の中って何がいるかわからないから、入りたくなかったんですの」
「何がいると思ってたの?」

「ああいった長い間、閉じられている倉庫につきものの……虫」
「ああ、虫が苦手なのか。でも、そんなのはいなかったぞ。その前に封印されているんだから虫はいないだろ」
「万が一という可能性がありますわっ」

 口調が少しだけ強くなる。よほど、虫が嫌いなようだ。

「それならそうとアプフェルに言えばよかったじゃないか。話せば、わかるやつだろ」
「そうでしょうけど……アプフェルさんにそんな弱みを握らせ、なんでもありませんわっ」


 ほぼ答えを口にしたところで、言葉を切り、扇子を持つ手と言葉に力を込めて、そっぽを向いた。
 彼女の態度からみて、アプフェルを相当ライバル視している。
 だから、自分の弱い部分を見せたくないし、簡単に頭を下げたくもないみたいだ。

 金と階級を鼻にかけてサボってるのかと思いきや、意外に可愛いところがある。
 俺はパティを見ながら、顔が綻ぶ。
 それに気づいた彼女は釘を刺してきた。

「言っておきますけど、今の話はアプフェルさんには」
「わかってるよ。そんなに野暮じゃないって。そう言えば、アプフェルも行事に参加してんの?」
「ええ、人一倍張り切っていますわ。今も先生方と話を詰めているみたいで……アプフェルさんは馬鹿がつくくらい真面目な人だから」
「たしかにねぇ。軽い性格のくせに、仕事に関してはしっかりしてんだよなぁ。真面目なのはいいけど、もう少し肩の力を抜いても」
「同感ですわ」


 再び、互いにため息を交わす。

「はは、それじゃ、俺は行くわ」
「何か御用事が?」
「うんにゃ、とくには」
「でしたら、少しだけ付き合っていただけません?」
「別にいいけど、どこに?」
「今日の占いで、二人でケーキ屋さんに行くと吉と出ていますの」
「占い?」

「ええ、わたくしの専門は占いですから。正確に言うと、世界に満ちるマフープの変化を読む観測官。マフープの動きから、今後の環境や世界の動静を導き出す役目」
「へぇ~。じゃあ、将来は観測官、もしくは占い師に?」
「そうですわね。望めるなら、街角の占い師としてのわたくしがあってもよいのでしょうけど。フィナンシェ家の人間である以上、そのような勝手は許されませんから……」


 パティは小さく息を吐いて、寂しげな笑みを浮かべる。
 お金持ちのお嬢さんっぽいから、すでに将来が決まっているのだろう。自分の意思を全く無視された将来が……。

(金持ちは金持ちで大変ってわけか。なら、今日は少しでも楽しんでもらいたいな)
「えっと、ケーキ屋さんだっけ。もちろん、付き合うよ。占いで吉って出てるんなら、幸運を授かりたいし」
「ふふ、ありがとうございます。ヤツハさん」
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