マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第十二章 地球の影響

頑張ってます、空間魔法

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 俺たちとエルフへの贈り物を乗せた荷馬車は人通りのない旧街道を進んでいく。
 街道は見通しが良く、木陰など一切ない。
 おかげさまで、お肌に悪そうな紫外線をたっぷり含んだ夏の日差しが容赦なく照りつけてくる。
 
 
 アプフェルは荷台に乗った後もしばらくは不満を口にしていたが、あっさりと暑さに負けて、ひたすら風の魔法を使い自分自身を扇いでいる。
 
 パティも同じく、扇子に風の魔力を乗せてパタパタと優雅に扇いでいる。
 だが、そのパティの表情に生気はない。
 
 彼女は汗かきなのか、俺やアプフェルと比べて顔がぐっしょりと濡れ、尋常ではない汗の量が流れ落ちている。
 それにも関わらず彼女はいつもの白いドレス姿。
 汗かきなら、もっとラフな格好をすればいいのに……パティにはパティのこだわりがあるんだろうけど。
 
 パティのことはそっとしておいて、俺は俺でひんやりとした花瓶に抱き着き、暑さを凌ぐことにした。

 
 誰も一言もしゃべらず、ガラガラと回る車輪の音だけが響く。

 突き抜けるような青い空を見上げながら、せめて幌の付いた馬車を用意できなかったのかなと、サシオンに呪いを飛ばす。

(サシオンめ、タコ焼きになれ! 火星人だけに……はぁ、暑い。でも、日本の夏よりかは乾燥しているからマシか。フォレとアマンは大丈夫か?)

 
 彼らもずっと無言で馬車を操っている。
 フォレはこの暑いのにも関わらず金属製の鎧を纏っている。 
 アマンは言わずもがな、自前の真っ黒な毛皮に海賊服まで着ている。
 二人とも熱中症にかかってないだろうか?

 俺は馬車の後ろから贈り物を避けながら前へ移動する。
 後ろ姿からではあるが、二人とも特にバテている様子はない。
 不思議に思い、二人に近づいたところで、何故かとても涼しげな風を感じた。
 その風は、夏の風とは思えない冷風。
 まるでエアコンのような心地よさ。

 なんだろうと、さらに二人へ近づき覗き込む。
 そこで目にしたものは、アマンが右手に氷の魔法と左手に風の魔法を宿し、二つの魔法を組み合わせて冷風を生んでいるところだった。
 アマンは暑さなどないかのように涼しげな顔。気のせいか、帽子のドクロマークも涼し気。
 フォレも冷風の恩恵を受けて健やかな表情で馬車を操っている。
 
 俺は二人の姿を見て、声を荒げる。

「ずるいっ、二人とも! なんで、自分たちだけ!?」
「あれ、ヤツハさん?」
「あら、どうかされましたか、ヤツハさん?」

「あれもあらもないよっ。自分たちだけ涼しいなんてずるいじゃん!」

 俺が怒気を交え詰め寄ると、フォレは驚いた表情を見せた。

「え? 皆さんは私と違い、魔導を修める魔法使いですからアマンさんと同じことができるのでは? アマンさんがそう仰ってましたよ」
「できないよっ。氷の魔法は操作が難しんだから、荷台に荷物を載せている状態で使って万一ミスったら贈り物が氷漬けになっちゃう」

「そうなんですか、アマンさん?」
「そうですね、水の魔法に卓越してないと細かな調節は難しいかもしれません」

「何が、しれませんだよ。俺たちにそれができないことくらいわかってるくせに、ひでぇな」
「クスクス、あまり元気で居てもらってはあの二人が騒がしいですからね」
「ま、たしかに……って、俺が犠牲になってるじゃん。アマン、魔法の効果エリアを拡大して、俺が適当に結界張って冷気が漏れにくくするから」
「わかりました。でも、二人が荷台で口喧嘩を始めないように見張っててくださいよ」

「大丈夫大丈夫。そろそろ手綱をあいつらに任せるつもりだから」
「それは、大丈夫って言えるのですか?」
「なんだかんだでさ、二人ともきっちりしてるから、手綱持たせておけば派手なケンカはしないでしょ」
「だと、いいのですけど……」
「まぁまぁ……んじゃ、結界をと」


 前を見て、馬との距離を測る。後ろを見て、荷台の全長を図る。

(別に防御魔法を張るわけじゃないから薄めのでいいな。冷気が逃げにくい程度の結界っと。でも、普通の結界だと壊れやすいから~)
 
 紫色の輝きが両手を覆う。輝きを特殊な結界の力へと還元し、パンと柏手を打つ。
 煌めく紫の音の広がりに合わせ、シャボン玉のように薄い結界が荷馬車を覆った。
 ほんの少し強く押すだけで、砕けてしまう結界。
 でも、冷気を逃がさない程度ならこれで十分。

 アマンは結界を見回して、琥珀色の大きなお目目をさらに大きく開いている。

「お見事ですねっ。この絶妙な力の調節。こうまで洗練された結界魔法を目にするとは……その技量に惚れ惚れしてしまいます」
「えへへ、そう。そこまで褒められると、なんだか照れるなぁ」
「いえいえ、称賛に値する魔法ですよ。これほどの魔導を修めているとは、ヤツハさんはさぞかし素晴らしい魔法使いになるでしょうね」

「ん~、そうでもないんだねぇ。小さな魔法の制御なら、ほぼ完璧に使いこなせるんだけどね。クラス3以上の魔法になると、調節が難しくて駄目になるし」
「ああ、話は聞いています。記憶のせいで、魔力の制御が不安定だそうですね」
「うん……まぁ……」


 記憶のせい……じゃなくて、魂が男だから。
 いい加減、うんざりする事情だけど、どうしようもない。
 それに現状、マヨマヨと同じ異世界人です。とは、口が裂けても言えない。
 
(いつか、話せる時が来たら……ああ~、でも、男って説明が難しいよなぁ。これすっごい邪魔)

 もう、何回目だろうか? 両手で頭を抱えて、いずれ来るかもしれない説明の時をどうしようかと悩む。
 そんな俺をアマンとフォレは不思議そうに見つめている。
 そこに、アプフェルとパティの声が聞こえてきた。


「涼しくなったと思ったら、ヤツハとアマンだったんだ」
「体の火照りを納める程度の冷気。さすがはアマンさんですわね」
「お褒めに預かりありがとうございます。ですが、ヤツハさんの特殊結界には敵いません」

 この言葉に、アプフェルとパティはコクリと頷く。
 魔法使いではないフォレだけは、俺の張った結界の特殊性に気づけずに首を傾げていた。

「先ほどアマンさんもお褒めになっていましたが、ヤツハさんの張った結界は何が特殊なんですか?」

 彼の疑問にアプフェルが答える。

「ヤツハの結界は普通の魔法の結界じゃないんです。空間魔法の力が使われています。その力のおかげで薄い膜のような結界でありながら、気密性の高い結界になっているんです」

「そうなんですか、気づきませんでした。ヤツハさんは空間魔法を会得したのですか?」
「うんにゃ、全然。力の弱い空間魔法は操れるけど、実践レベルになると手を痛めるから使えない」
「手を……あの時のように」

 
 エクレル先生の屋敷の地下練習場で、空間魔法の初歩、空間の力が宿る透明な立方体を生む練習の失敗。
 そのせいで魔力が乱れ、俺の右手には肉、骨、神経を切り刻むような痛みが走った。


「そう、最悪ね。でも、空間系攻撃呪文みたいな派手な魔法を使わなければ大丈夫」
「空間の攻撃呪文? 具体的にどのようなものですか?」
「空間を切り裂いたり、空間を振動させて相手にぶつけたりってのが主流かな」
「話に聞く限り、凄そうな魔法ですね」
「たしかに凄い魔法なんだけどね~」

 俺は空間の力が宿る、紫色に輝く右手を広げてフォレに見せる。

「今の俺だと、皮膚皮一枚まで攻撃呪文を発動できる。でも、外へ具現しようとしたら、前みたいなことに。それでも、無理に使おうとしたら、ゼロ距離から一気に相手の内部に放つしかないかな」
 説明をしつつ、フォレの鎧に手を当てる。

 フォレは触れらえた箇所を見ながら、軽く息をつく。
「なるほど。それでは魔法の優位性、遠距離からの攻撃を失ってしまいますね」
「そういうこと。しかも、放ったあとは手が吹き飛ぶ可能性があるし。実質使えないかな。調節も利かないから、相手の内臓ぐちゃぐちゃにしちゃうし」

「それは、お互いに怖い魔法ですね」
「だろ。ま、今回の簡単な結界程度なら使えるようになってるし、徐々にだけど空間魔法に慣れている気がするよ」


「そうですか。でも、決して無理をしないでくださいよ」
「わかってるって。さて、涼しくなったし、森に着くまで寝てようかな。あ、そろそろ、アプフェルとパティが手綱を代わってやれよ」

「待ってっ。なんで、あんたが寝て、私とパティが手綱を?」
「そうですわよ。なぜ、わたくしがアプフェルさんとっ」

「今後、組んで仕事をするわけだし、もっともっと仲良くしてもらおうという配慮だよ。ふぁ~あ、んじゃ、よろしく。結界は固定しとくから、俺が寝ても二時間くらいは大丈夫なはず。空気穴もあるし問題ないからねぇ~、ふぉあ、寝るか」

 
 俺は欠伸を交えつつ荷台の後ろに戻り、花瓶の近くでごろりと横になる。
 先頭ではアプフェルとパティが騒いでいるが、フォレが宥めているようなので何とか収まるでしょ。
 では、ゆっくりと体を休めますか…………。
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