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第十五章 絶望の先にあるもの
誓い
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出鼻をくじいてしまった感はあるけど、とにかくシュラク村へ向かおう。
道中の足は、馬。
各自、馬に乗って移動を開始する。
アマンはケットシーなので足が鐙に届かず、フォレの前にちょこんと座っている。
それをアプフェルとパティが恨めしそうに眺めていた。
「なんで、私は馬に乗れるんだろう……」
「ああ、乗馬なんて習うんじゃありませんでしたわ……」
「いや、乗れなくてもフォレの後ろに付く選択肢はないぞ。そん時は馬車に、っと」
馬が手綱の操作を嫌がって、軽く首を振った。
「もう~、びっくりするなぁ。馬なんて操ったことないから、いまいちなぁ……」
「ねぇ、ヤツハ。やっぱり馬車の方が良かったんじゃない?」
「いや、これから色々あるかもしれないって考えると、乗馬ぐらいできないとっとっと。頼むから言うこと聞いてくれ」
首を振る馬の手綱を無理やり引いて押さえようとする。
すると、パティが真横に馬を寄せてきて、俺の手綱を持った。
「ヤツハさん、目線は馬じゃなくて、まっすぐ前を見なさい。お尻の力を抜いて鞍に座り、体重を均等に分散させます。踵は上げて、肩とお尻と踵が一直線になるように」
「こ、こうか?」
「ええ。両足で馬の胴体を挟み、背筋を伸ばして。では、手綱を返します。手綱で馬の口を引っ張ったり、バランスを取ろうとしない。僅かに抵抗を感じる程度で握りなさい」
「わかった」
パティに言われた通り、馬を操る。
首を振っていた馬は大人しくなり、素直に前へ歩くようになった。
「おおぅ、いい感じ」
「筋はよろしいようですね」
「そう? 言われた通りしたら、馬の上下する振動や力の向きが体に伝わってきて、一体感みたいなものを感じるよ」
「馬は生き物。気持ちがありますから。無理を押さず、歩み寄ることが大切なのですのよ」
「なるほどねぇ」
「では、少しずつ速度を上げていきましょうか」
それから二十分程の講義を受けて、俺はすっかり馬を操れるようになった。
「うわ~、面白れぇ。乗馬って意外に簡単だね」
「いえ、普通はもっと時間がかかるものなんですが……ヤツハさんは才能がおありなようね」
「え、そう。もっと褒めて」
「調子に乗らない。落馬は大怪我の元。命を失うことだってあるんですから」
「あ、ごめんね、てへ」
「ふふ、まったく」
パティと向き合い、互いに軽い微笑みを浮かべる。
そこへ、先行していたアプフェルとフォレが速度を緩めて近づいてきた。
「お、結構乗れるようになったね」
「まぁね。パティのおかげだよ。パティ、ありがとね」
「どういたしまして」
フォレの脇から、アマンが頭をコロンと出してくる。
「私には馬の正確な操作ができませんので羨ましいですよ」
「正確な操作? 乗ることはできるの?」
「はい。馬の背びれを握って、走らせるくらいなら」
「危なそう……」
「ですから、フォレさんに乗せて頂いているんですよ。ご迷惑おかけします、フォレさん」
「いえいえ。おかげでアマンさんと楽しいひと時を一緒に過ごせるのですから」
「ふふふ、フォレさん。その一言は命とりですよ」
「え?」
アプフェルとパティがギラリと目を光らせながら、フォレを挟みこんでいく。
これは一悶着起こりそうだ。
そんな面倒が起きる前に、俺は話題を変える。
「そういや、フォレ。食事のときにパラディーゾ様から何か話があるとか言われてたけど?」
「ああ、それですか」
この話題にアプフェルとパティが食いついた。
「それ、私も気になりますっ」
「ええ、トレーニングが終えた後、フォレさんはケイン様と侯爵閣下に引き連れられて行きましたから、いったい何がっ?」
「何もありませんよ。ただ、サシオン様が私の先のことをお考えになっていたみたいで」
フォレは少しはにかみつつ、困ったような顔を見せる。
それは父親の話題を口にする子どもの姿。
「私の出自は卑しく、後ろ盾となる家も人もいません。そこで、サシオン様はパラディーゾ様とケイン様に引き合わせたようです」
パティはフォレの言葉に、静かなる熱を持って言葉を返す。
「パラディーゾ様は七大貴族のお一人。今後、フォレさんが近衛騎士団の団長として、いえ、議会への影響力を行使できるお立場になるために必要な方々」
「私がですか? サシオン様がご健在である現在、団長はまだ先の話です。ましてや議会への選出なんて私には」
「そんなことありませんっ! フォレ様はお優しくご立派な方。そんな方にこそ、民のための政を振るっていただかないと!」
アプフェルは馬から体を乗り出して、声を跳ね上げた。
さらにパティ、アマンも続く。
「そうですわね。フォレさんは人の痛みを知る方。わたくしがフィナンシェ家の一翼を担う際は、フォレさんを表裏で支えたいと思っております」
「フォレさんは人間以外の種族に対しても寛容な方。人猫族としては、あなたのような方に中央にいて頂きたい。私も陰ながら応援しますよ」
みんなは次々にフォレへ、叱咤と激励と期待を込めて声を掛けていく。
俺も何か声を掛けようかと思ったけど……特に何も思いつかない。
なのに、フォレを挟んで向こう側にいるアプフェルが俺に向かい、口をパクパクさせながら何でもいいから声を掛けろと催促してくる。
(そうは言ってもねぇ。政治かぁ……面倒なことを背負い込むことになって大変そうなんだけど、応援していいものか)
俺としては、今あるフォレが好きだ。
(だけど、歩もうとしてる奴の足を止めるなんてできないよな)
そうだ。フォレが新たな道を目指すというなら、俺は止めはしない。
「フォレ」
「ヤツハさん?」
「頑張れ、応援してる。でも、迷ったら俺に会いに来い。悩みくらいなら聞いてやる」
「ふふ、以前、同じような話をしましたね……期待はしてもいいんですか?」
「いや、そんなに期待されたら困る。ほどほどな」
俺は眉を跳ねて、ニヤリと笑う。
アプフェルたちは呆れ返った顔を浮かべ、俺を見る。
だけど、フォレだけは羽のように軽やかな笑い声を上げた。
そして……。
「ははははっ。……みなさん」
フォレは自分を囲む仲間たちをゆっくりと見回す。
彼は心に決意を刻む。
「私には過ぎる評価ですが……もし、機会があれば迷わず、席に座ります。アプフェル、パティさん、アマンさん、ヤツハさん。そして……サシオン様の期待を裏切らぬように」
彼は優しく手を胸に置き、思いを奥底へと浸透させていく。
俺はフォレに拳を向ける。
「フォレ」
「え? ふふ、はい」
フォレは俺の拳に軽く拳をぶつけた。
続いて、アマンがちっさな猫の手をフォレに向ける。
フォレは優しく、拳をアマンの手に乗せる。
アプフェルとパティもフォレに拳を伸ばす。
フォレは決意の証として、彼女たちの拳に熱を乗せて伝える。
それはとても粗野で野暮ったい誓いの儀式。
でも、俺たちにとっては何よりも神聖な誓いだった。
儀式を終えた俺たちは、シュラク村へと目を向けた。
そこでアプフェルが空を指さす。
「ねぇ、あれなに?」
「え?」
俺は彼女が差した空を見上げる。
空には数本の黒い煙が見える。
煙はこの先のシュラク村から上がっているようだ。
俺は首を傾ける。
「なんだろうね? たき火?」
「まさかっ!?」
「フォレ?」
フォレは大声を上げて、一気に青ざめる。
「アマンさん、しっかり捕まっていてください!」
「わかりましたっ! 急ぎましょうっ!」
フォレは鞭をしなるように打ち、シュラク村へと駆け出す。
アプフェルも馬に鞭を打つ。
「パティ! 早く!」
「わかっていますわ! ヤツハさん、行きますわよ!」
「え?」
パティは俺の馬の傍に寄り、尻に鞭を打つ。
彼女は俺の馬に寄り添い呼吸を合わせて、一緒に走りだした。
俺は激しく上下する馬にしがみつき、舌を噛まないように気をつけながら問いかける。
「パ、パティっ?」
「ヤツハさん、あれはたき火などではありませんわ! シュラク村が何者かに襲われていますの!」
「えっ!? 誰に?」
「わかりませんっ。盗賊か、それとも……とにかく、急ぎますわよっ!」
「わ、わかった」
風車の修理道具を届けるだけだったはずの依頼。
しかし、届け先の村からは黒煙立ち昇る。
それは、なに?
道中の足は、馬。
各自、馬に乗って移動を開始する。
アマンはケットシーなので足が鐙に届かず、フォレの前にちょこんと座っている。
それをアプフェルとパティが恨めしそうに眺めていた。
「なんで、私は馬に乗れるんだろう……」
「ああ、乗馬なんて習うんじゃありませんでしたわ……」
「いや、乗れなくてもフォレの後ろに付く選択肢はないぞ。そん時は馬車に、っと」
馬が手綱の操作を嫌がって、軽く首を振った。
「もう~、びっくりするなぁ。馬なんて操ったことないから、いまいちなぁ……」
「ねぇ、ヤツハ。やっぱり馬車の方が良かったんじゃない?」
「いや、これから色々あるかもしれないって考えると、乗馬ぐらいできないとっとっと。頼むから言うこと聞いてくれ」
首を振る馬の手綱を無理やり引いて押さえようとする。
すると、パティが真横に馬を寄せてきて、俺の手綱を持った。
「ヤツハさん、目線は馬じゃなくて、まっすぐ前を見なさい。お尻の力を抜いて鞍に座り、体重を均等に分散させます。踵は上げて、肩とお尻と踵が一直線になるように」
「こ、こうか?」
「ええ。両足で馬の胴体を挟み、背筋を伸ばして。では、手綱を返します。手綱で馬の口を引っ張ったり、バランスを取ろうとしない。僅かに抵抗を感じる程度で握りなさい」
「わかった」
パティに言われた通り、馬を操る。
首を振っていた馬は大人しくなり、素直に前へ歩くようになった。
「おおぅ、いい感じ」
「筋はよろしいようですね」
「そう? 言われた通りしたら、馬の上下する振動や力の向きが体に伝わってきて、一体感みたいなものを感じるよ」
「馬は生き物。気持ちがありますから。無理を押さず、歩み寄ることが大切なのですのよ」
「なるほどねぇ」
「では、少しずつ速度を上げていきましょうか」
それから二十分程の講義を受けて、俺はすっかり馬を操れるようになった。
「うわ~、面白れぇ。乗馬って意外に簡単だね」
「いえ、普通はもっと時間がかかるものなんですが……ヤツハさんは才能がおありなようね」
「え、そう。もっと褒めて」
「調子に乗らない。落馬は大怪我の元。命を失うことだってあるんですから」
「あ、ごめんね、てへ」
「ふふ、まったく」
パティと向き合い、互いに軽い微笑みを浮かべる。
そこへ、先行していたアプフェルとフォレが速度を緩めて近づいてきた。
「お、結構乗れるようになったね」
「まぁね。パティのおかげだよ。パティ、ありがとね」
「どういたしまして」
フォレの脇から、アマンが頭をコロンと出してくる。
「私には馬の正確な操作ができませんので羨ましいですよ」
「正確な操作? 乗ることはできるの?」
「はい。馬の背びれを握って、走らせるくらいなら」
「危なそう……」
「ですから、フォレさんに乗せて頂いているんですよ。ご迷惑おかけします、フォレさん」
「いえいえ。おかげでアマンさんと楽しいひと時を一緒に過ごせるのですから」
「ふふふ、フォレさん。その一言は命とりですよ」
「え?」
アプフェルとパティがギラリと目を光らせながら、フォレを挟みこんでいく。
これは一悶着起こりそうだ。
そんな面倒が起きる前に、俺は話題を変える。
「そういや、フォレ。食事のときにパラディーゾ様から何か話があるとか言われてたけど?」
「ああ、それですか」
この話題にアプフェルとパティが食いついた。
「それ、私も気になりますっ」
「ええ、トレーニングが終えた後、フォレさんはケイン様と侯爵閣下に引き連れられて行きましたから、いったい何がっ?」
「何もありませんよ。ただ、サシオン様が私の先のことをお考えになっていたみたいで」
フォレは少しはにかみつつ、困ったような顔を見せる。
それは父親の話題を口にする子どもの姿。
「私の出自は卑しく、後ろ盾となる家も人もいません。そこで、サシオン様はパラディーゾ様とケイン様に引き合わせたようです」
パティはフォレの言葉に、静かなる熱を持って言葉を返す。
「パラディーゾ様は七大貴族のお一人。今後、フォレさんが近衛騎士団の団長として、いえ、議会への影響力を行使できるお立場になるために必要な方々」
「私がですか? サシオン様がご健在である現在、団長はまだ先の話です。ましてや議会への選出なんて私には」
「そんなことありませんっ! フォレ様はお優しくご立派な方。そんな方にこそ、民のための政を振るっていただかないと!」
アプフェルは馬から体を乗り出して、声を跳ね上げた。
さらにパティ、アマンも続く。
「そうですわね。フォレさんは人の痛みを知る方。わたくしがフィナンシェ家の一翼を担う際は、フォレさんを表裏で支えたいと思っております」
「フォレさんは人間以外の種族に対しても寛容な方。人猫族としては、あなたのような方に中央にいて頂きたい。私も陰ながら応援しますよ」
みんなは次々にフォレへ、叱咤と激励と期待を込めて声を掛けていく。
俺も何か声を掛けようかと思ったけど……特に何も思いつかない。
なのに、フォレを挟んで向こう側にいるアプフェルが俺に向かい、口をパクパクさせながら何でもいいから声を掛けろと催促してくる。
(そうは言ってもねぇ。政治かぁ……面倒なことを背負い込むことになって大変そうなんだけど、応援していいものか)
俺としては、今あるフォレが好きだ。
(だけど、歩もうとしてる奴の足を止めるなんてできないよな)
そうだ。フォレが新たな道を目指すというなら、俺は止めはしない。
「フォレ」
「ヤツハさん?」
「頑張れ、応援してる。でも、迷ったら俺に会いに来い。悩みくらいなら聞いてやる」
「ふふ、以前、同じような話をしましたね……期待はしてもいいんですか?」
「いや、そんなに期待されたら困る。ほどほどな」
俺は眉を跳ねて、ニヤリと笑う。
アプフェルたちは呆れ返った顔を浮かべ、俺を見る。
だけど、フォレだけは羽のように軽やかな笑い声を上げた。
そして……。
「ははははっ。……みなさん」
フォレは自分を囲む仲間たちをゆっくりと見回す。
彼は心に決意を刻む。
「私には過ぎる評価ですが……もし、機会があれば迷わず、席に座ります。アプフェル、パティさん、アマンさん、ヤツハさん。そして……サシオン様の期待を裏切らぬように」
彼は優しく手を胸に置き、思いを奥底へと浸透させていく。
俺はフォレに拳を向ける。
「フォレ」
「え? ふふ、はい」
フォレは俺の拳に軽く拳をぶつけた。
続いて、アマンがちっさな猫の手をフォレに向ける。
フォレは優しく、拳をアマンの手に乗せる。
アプフェルとパティもフォレに拳を伸ばす。
フォレは決意の証として、彼女たちの拳に熱を乗せて伝える。
それはとても粗野で野暮ったい誓いの儀式。
でも、俺たちにとっては何よりも神聖な誓いだった。
儀式を終えた俺たちは、シュラク村へと目を向けた。
そこでアプフェルが空を指さす。
「ねぇ、あれなに?」
「え?」
俺は彼女が差した空を見上げる。
空には数本の黒い煙が見える。
煙はこの先のシュラク村から上がっているようだ。
俺は首を傾ける。
「なんだろうね? たき火?」
「まさかっ!?」
「フォレ?」
フォレは大声を上げて、一気に青ざめる。
「アマンさん、しっかり捕まっていてください!」
「わかりましたっ! 急ぎましょうっ!」
フォレは鞭をしなるように打ち、シュラク村へと駆け出す。
アプフェルも馬に鞭を打つ。
「パティ! 早く!」
「わかっていますわ! ヤツハさん、行きますわよ!」
「え?」
パティは俺の馬の傍に寄り、尻に鞭を打つ。
彼女は俺の馬に寄り添い呼吸を合わせて、一緒に走りだした。
俺は激しく上下する馬にしがみつき、舌を噛まないように気をつけながら問いかける。
「パ、パティっ?」
「ヤツハさん、あれはたき火などではありませんわ! シュラク村が何者かに襲われていますの!」
「えっ!? 誰に?」
「わかりませんっ。盗賊か、それとも……とにかく、急ぎますわよっ!」
「わ、わかった」
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