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第十七章 盲目流転
フォレの想い
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フォレが腰に置く武器の形状。
それは一度も実物を見たことはないが、俺が良く知っているもの。
椅子へ腰を掛けるように促すと、彼は一礼をしてベッド傍の椅子に座った。
俺はどうしても腰の剣が気になり、まず最初に尋ねた。
「その剣って?」
この言葉を受けて、フォレは腰から鞘ごと剣を抜き見せつけてきた。
「ええ、日本刀。あなたの故郷の剣ですね」
「えっ!?」
「サシオン様から聞きました。あなたのことを……」
「あ……それは……」
俺は言葉に窮して、返事に惑う。
そんな俺にフォレは柔らかな笑みを見せる。
「大丈夫ですよ。事情はある程度、わかっているつもりです」
「あの、どこまで……?」
「あなたが記憶を失っていないこと。マヨマヨと同じ異世界の人間であること。サシオン様が女神コトア様の騎士であること。そして、助けに入ってくれた青のマヨマヨがあなたの友人であること」
「そう……ごめん」
「いいんです。話せなかった事情も、話せないでいた事情もわかっているつもりですから」
「うん……」
優しく微笑むフォレの顔から目を逸らす。
ずっと、黙っていた罪悪感が心を押しつぶしていく。
(苦しい……)
友達に大切なことを話せなかったことがこんなにも、こんなにもつらいことだったなんてっ。
俺は自分の心を両手で覆い握り締める。
泣く気なんてまったくないのに、涙が溢れてくる。
止め処なく湧き出る後悔の念。
このままでは涙が止まらなくなってしまう。
俺は目を強く瞑り、涙をフォレに見せまいと抵抗した。
すると、暖かな両手が俺を包む。
「もういいんです。我慢しなくても……」
「フォレ……フォレ、ふぉれ、ふぉれぇぇぇぇぇ!」
彼の懐に顔をうずめて、泣いた。
最初は都合がいいから――そんな理由で記憶喪失を偽った。
その後も警戒心を盾にみんなに話せなかった。
みんなを信頼し、伝えることができるようになっても勇気がなくて言えなかった。
気がついたら、言えない状況になっていた。
だけど、もう、我慢する必要はない。
フォレには俺のことを話せる。知ってもらえる。
「ごめん、ごめんよ、フォレ。俺が疑り深くて卑怯で勇気がなくて!」
ひたすらに彼の胸元で泣きじゃくる。
フォレはそれを黙って受け止めてくれた……。
涙を流すだけ流し、しゃくり声を上げていた呼吸は落ち着いていく。
俺は彼の暖かな胸元から顔を離し、涙を拭う。
「ああ~、もう。泣いちゃったよっ。恥ずかしいなぁ」
「ふふ、あっという間にいつものヤツハさんに戻りましたね」
「これは自分を誤魔化すためにやってんだけどね」
「あれ、随分と素直ですね?」
「うっさいよっ。まぁ、今ので予行練習ができたからいいか」
「練習?」
「いつかアプフェルたちにも話す時が来る。そんなときにこんなみっともない姿を見せずに済むからな」
「みっともなくなんかありませんよ。ヤツハさん、あなたは美しい……」
「え、フォレ?」
フォレは瞳に熱を籠めて、俺を見つめる。
彼の熱にあてられてか、俺の心の熱が上がるのを感じる。
フォレはそっと、俺の頬に手を置く。
「あなたは美しく気高い人だ。私……いえ、俺にとって、あなたは……」
フォレの鳶色の大きな瞳に、俺の顔が映り込む。
俺の瞳にも、美しきフォレの姿が映っている。
互いの鏡に宿る姿を見つめ合い、俺は気づく
(そうか、フォレは俺のことを……)
彼はゆっくりと顔を近づけてくる。
なのに、俺は何故かただじっと待ち、受け入れる。
だけど、フォレは途中で顔を逸らし、席を立った。
「私には、まだ……」
フォレは寂しげな微笑みを見せる。
そして、彼の過去の欠片を漏らした。
「私は過去にかけがえのない友を失っている」
「え?」
「それは私が諦めてしまったからです。そして、彼は取り返しのつかないことをしてしまった……それでも、あの時、もう少し冷静に……だけど、未熟な私は彼を思いやることもなく感情的に!」
「彼? それは、誰のこと?」
問うが、フォレは寂しげな微笑みのまま顔を横に振るだけ。
彼は日本刀を俺の前に差し出す。
「これはサシオン様があなたに授けようとした、女神の黒き装具を超える剣だそうです」
「俺に?」
「はい。ですが、私がこの剣を賜りました。絶望を前にしても諦めることなく、大切な人を守るために!」
大切な人……俺の心は熱に浮かされ、高まった鼓動が耳奥に響く。
フォレは瞳に俺を映しながら、言葉をかける
「私はしばらく暇を貰い、剣の腕を磨くつもりです。もう二度と、あの時のようなっ!」
彼は鞘を強く握り締める。
拳はブルブルと震え、血管が浮き出ている。
表情には苦悶浮かび、悔しさと悲しさが混じる悲痛の思いが圧を持って俺に届く。
フォレは一度目を閉じて、表情を逞しき漢の顔へと変える
「ヤツハさん。旅立つ前に、あなたにお願いしたいことがあります」
「なに……?」
「この、女神の黒き装具を超えし装具。日本刀にあなたの名をつけてもよろしいですか?」
「俺の名前を……」
俺は日本刀から視線を、フォレの瞳へと向ける。
――ドクンッ!
心は激しく脈を打った。
男の瞳は先を見つめる目。
時に迷い、時にくじけそうになろうとも、歩み続ける覚悟を宿した目。
俺の血は腹から熱を帯び、全身へと駆け巡る。
とても心地良い熱。
ずっと、フォレの姿を見つめていたい。
だけど、男の歩みを止める愚かな女になるわけにはいかない。
「俺の名前でよければ、好きにしろ」
「では……女神が騎士にして、異界の友邦サシオン=コンベルが創りし、頂にある天穹の装具――日本刀『ヤツハ』。アクタがただ一の男、フォレ=ノワール。身命を賭して、持てる全てを捧げよう!」
フォレは日本刀『ヤツハ』を両手で持ち、頭を垂れ差し出す。
そんな彼の姿へ俺は、軽い笑いを交え話しかける。
「はは、大仰だな」
「ふふ、そうですね。でも、大切なんですよ」
「そうだな。覚悟には、それをそうとするものが必要だよな」
俺はフォレから日本刀を受け取り、彼に言葉を授ける。
「フォレ=ノワール。俺の……私の名を世界に轟かせる活躍をお前に求める」
「はい!」
「強くなれ、フォレ。どのみち、俺はしばらく動けないんで、ゆっくり待ってるからな」
「待たせません! あなたに苦難及ぶその時、必ずあなたの傍に私はいますから!」
「ふふ、ありがとな。これはオマケだ」
俺は刀へ、そっと祝福の口づけをする。
「あ……」
「うん? 嫌だったか?」
「い、いえ、そんなことは」
フォレは頬に熱を乗せる。
それを見て、俺は笑い声を上げた。
「あはは、相変わらずこういうのに弱いなぁ」
「それは……放っておいてください!」
「一度、サダさんあたりに遊びに連れて行ってもらった方がいいんじゃない? じゃないと、悪い女に騙されるよ」
「余計なお世話です。それに、すでに騙されてますから」
「ほぉ~、フォレ君。言うようになりましたねぇ」
「はは、サシオン様からも同じこと言われましたよ」
俺は微笑みで彼の言葉に応える。
フォレもまた、同じく微笑みを返す。
俺はフォレに『ヤツハ』を差し出す。
「大切にしろよ。なにせ、俺の祝福付きだからな」
「はい、女神の恩寵を手放すような真似はしませんよ」
「女神って、俺のこと?」
「ええ。多少、いえ、かなり問題のある女神様ですが」
「この~、もう行けよっ」
「くすっ、はい」
「じゃあ、またなっ」
「はい。次、お会いするときは、私はあなたの剣となって帰ってきます」
フォレは深々と一礼すると、逞しく広き背中を見せて、旅立っていった。
それは一度も実物を見たことはないが、俺が良く知っているもの。
椅子へ腰を掛けるように促すと、彼は一礼をしてベッド傍の椅子に座った。
俺はどうしても腰の剣が気になり、まず最初に尋ねた。
「その剣って?」
この言葉を受けて、フォレは腰から鞘ごと剣を抜き見せつけてきた。
「ええ、日本刀。あなたの故郷の剣ですね」
「えっ!?」
「サシオン様から聞きました。あなたのことを……」
「あ……それは……」
俺は言葉に窮して、返事に惑う。
そんな俺にフォレは柔らかな笑みを見せる。
「大丈夫ですよ。事情はある程度、わかっているつもりです」
「あの、どこまで……?」
「あなたが記憶を失っていないこと。マヨマヨと同じ異世界の人間であること。サシオン様が女神コトア様の騎士であること。そして、助けに入ってくれた青のマヨマヨがあなたの友人であること」
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「いいんです。話せなかった事情も、話せないでいた事情もわかっているつもりですから」
「うん……」
優しく微笑むフォレの顔から目を逸らす。
ずっと、黙っていた罪悪感が心を押しつぶしていく。
(苦しい……)
友達に大切なことを話せなかったことがこんなにも、こんなにもつらいことだったなんてっ。
俺は自分の心を両手で覆い握り締める。
泣く気なんてまったくないのに、涙が溢れてくる。
止め処なく湧き出る後悔の念。
このままでは涙が止まらなくなってしまう。
俺は目を強く瞑り、涙をフォレに見せまいと抵抗した。
すると、暖かな両手が俺を包む。
「もういいんです。我慢しなくても……」
「フォレ……フォレ、ふぉれ、ふぉれぇぇぇぇぇ!」
彼の懐に顔をうずめて、泣いた。
最初は都合がいいから――そんな理由で記憶喪失を偽った。
その後も警戒心を盾にみんなに話せなかった。
みんなを信頼し、伝えることができるようになっても勇気がなくて言えなかった。
気がついたら、言えない状況になっていた。
だけど、もう、我慢する必要はない。
フォレには俺のことを話せる。知ってもらえる。
「ごめん、ごめんよ、フォレ。俺が疑り深くて卑怯で勇気がなくて!」
ひたすらに彼の胸元で泣きじゃくる。
フォレはそれを黙って受け止めてくれた……。
涙を流すだけ流し、しゃくり声を上げていた呼吸は落ち着いていく。
俺は彼の暖かな胸元から顔を離し、涙を拭う。
「ああ~、もう。泣いちゃったよっ。恥ずかしいなぁ」
「ふふ、あっという間にいつものヤツハさんに戻りましたね」
「これは自分を誤魔化すためにやってんだけどね」
「あれ、随分と素直ですね?」
「うっさいよっ。まぁ、今ので予行練習ができたからいいか」
「練習?」
「いつかアプフェルたちにも話す時が来る。そんなときにこんなみっともない姿を見せずに済むからな」
「みっともなくなんかありませんよ。ヤツハさん、あなたは美しい……」
「え、フォレ?」
フォレは瞳に熱を籠めて、俺を見つめる。
彼の熱にあてられてか、俺の心の熱が上がるのを感じる。
フォレはそっと、俺の頬に手を置く。
「あなたは美しく気高い人だ。私……いえ、俺にとって、あなたは……」
フォレの鳶色の大きな瞳に、俺の顔が映り込む。
俺の瞳にも、美しきフォレの姿が映っている。
互いの鏡に宿る姿を見つめ合い、俺は気づく
(そうか、フォレは俺のことを……)
彼はゆっくりと顔を近づけてくる。
なのに、俺は何故かただじっと待ち、受け入れる。
だけど、フォレは途中で顔を逸らし、席を立った。
「私には、まだ……」
フォレは寂しげな微笑みを見せる。
そして、彼の過去の欠片を漏らした。
「私は過去にかけがえのない友を失っている」
「え?」
「それは私が諦めてしまったからです。そして、彼は取り返しのつかないことをしてしまった……それでも、あの時、もう少し冷静に……だけど、未熟な私は彼を思いやることもなく感情的に!」
「彼? それは、誰のこと?」
問うが、フォレは寂しげな微笑みのまま顔を横に振るだけ。
彼は日本刀を俺の前に差し出す。
「これはサシオン様があなたに授けようとした、女神の黒き装具を超える剣だそうです」
「俺に?」
「はい。ですが、私がこの剣を賜りました。絶望を前にしても諦めることなく、大切な人を守るために!」
大切な人……俺の心は熱に浮かされ、高まった鼓動が耳奥に響く。
フォレは瞳に俺を映しながら、言葉をかける
「私はしばらく暇を貰い、剣の腕を磨くつもりです。もう二度と、あの時のようなっ!」
彼は鞘を強く握り締める。
拳はブルブルと震え、血管が浮き出ている。
表情には苦悶浮かび、悔しさと悲しさが混じる悲痛の思いが圧を持って俺に届く。
フォレは一度目を閉じて、表情を逞しき漢の顔へと変える
「ヤツハさん。旅立つ前に、あなたにお願いしたいことがあります」
「なに……?」
「この、女神の黒き装具を超えし装具。日本刀にあなたの名をつけてもよろしいですか?」
「俺の名前を……」
俺は日本刀から視線を、フォレの瞳へと向ける。
――ドクンッ!
心は激しく脈を打った。
男の瞳は先を見つめる目。
時に迷い、時にくじけそうになろうとも、歩み続ける覚悟を宿した目。
俺の血は腹から熱を帯び、全身へと駆け巡る。
とても心地良い熱。
ずっと、フォレの姿を見つめていたい。
だけど、男の歩みを止める愚かな女になるわけにはいかない。
「俺の名前でよければ、好きにしろ」
「では……女神が騎士にして、異界の友邦サシオン=コンベルが創りし、頂にある天穹の装具――日本刀『ヤツハ』。アクタがただ一の男、フォレ=ノワール。身命を賭して、持てる全てを捧げよう!」
フォレは日本刀『ヤツハ』を両手で持ち、頭を垂れ差し出す。
そんな彼の姿へ俺は、軽い笑いを交え話しかける。
「はは、大仰だな」
「ふふ、そうですね。でも、大切なんですよ」
「そうだな。覚悟には、それをそうとするものが必要だよな」
俺はフォレから日本刀を受け取り、彼に言葉を授ける。
「フォレ=ノワール。俺の……私の名を世界に轟かせる活躍をお前に求める」
「はい!」
「強くなれ、フォレ。どのみち、俺はしばらく動けないんで、ゆっくり待ってるからな」
「待たせません! あなたに苦難及ぶその時、必ずあなたの傍に私はいますから!」
「ふふ、ありがとな。これはオマケだ」
俺は刀へ、そっと祝福の口づけをする。
「あ……」
「うん? 嫌だったか?」
「い、いえ、そんなことは」
フォレは頬に熱を乗せる。
それを見て、俺は笑い声を上げた。
「あはは、相変わらずこういうのに弱いなぁ」
「それは……放っておいてください!」
「一度、サダさんあたりに遊びに連れて行ってもらった方がいいんじゃない? じゃないと、悪い女に騙されるよ」
「余計なお世話です。それに、すでに騙されてますから」
「ほぉ~、フォレ君。言うようになりましたねぇ」
「はは、サシオン様からも同じこと言われましたよ」
俺は微笑みで彼の言葉に応える。
フォレもまた、同じく微笑みを返す。
俺はフォレに『ヤツハ』を差し出す。
「大切にしろよ。なにせ、俺の祝福付きだからな」
「はい、女神の恩寵を手放すような真似はしませんよ」
「女神って、俺のこと?」
「ええ。多少、いえ、かなり問題のある女神様ですが」
「この~、もう行けよっ」
「くすっ、はい」
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