マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第十八章 奇妙なパーティー

宿営地

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 すさまじく名残り惜しそうなクレマをトルテさんから引き離し、メプルへ向かう。
 森を出て小一時間ほど進むと、カルア率いる警備隊の宿営地が見えてきた。
 彼らはこの周辺に出た魔物を狩るために遠征してきたらしいが、しっかりと仕事をしているのかはわからない。


 宿営地は道を挟むように両脇にあり、兵士たちが休むくすんだ白色の幕舎が張られてあった。
 メプルへと続く道は木の柵で封鎖され、柵の前には門番らしき二人の兵士が見える。
 兵士はやる気がないのか、欠伸を交えながら背伸びをしていた。

 俺は荷馬車の上から兵士を見つめる。
「王都にいる近衛このえ騎士団と違って、質低そう」
「ヤツハ、そういうことは口に出さない」
「あ、すみません。トルテさん」
「とりあえず、あの門番と話そうかね」

 荷馬車の速度を緩めて、柵の前で止まる。
 それを見た兵士たちはだらだらと歩きながらこちらへやってきた。
 彼らとトルテさんが会話を始める。

「通りたいのか?」
「はい、この先にあるメプルへ向かう途中です」
「そっかぁ、ほら」
 
 兵士の一人が手の平を見せて突き出してきた。
 トルテさんは懐から数枚の硬貨を取り出して、彼に握らせる。
 兵士は何度か手の平を動かして、チャリチャリと硬貨の音を立てて枚数を確認した。

「ん、いいだろ。通れ」

 柵は開かれ、俺たちは宿営地内へと入ってくる。
 兵士たちからある程度距離を取ったところで、トルテさんに声を掛けた。


「今のって……」
「ああ、仕方ないさ。下手に問答して、こじれるよりかね」
「うわ~、ダメダメだな、この警備隊は。さっきの様子からして、予め用意してたんですか?」
「あまりいい評判を聞かないからね。クレマから警備隊がいるって聞いて、こうなるだろうと予想できてたし」

「どうしようもないな~。でも、この様子だと、ここから出る時も……」
「おそらくね」
通行料わいろの二重取りかよ。腹立つなぁ」
「怒っても仕方ないよ。だから、ヤツハ」
「わかってます。地面でも見ときますよ」
「ふふ、地面って」
 
 トルテさんは小さな笑いを零して、出口へと向かう。
 

 俺は今のやり取りでピケのことが気になった。
 こんな厭らしいもの、幼い子に見せてもいいものかと。

 顔をピケに向ける。
 見つめられたピケは首を捻った。

「どうしたの、おねえちゃん?」
「いや、なんて言ったらいいんだろうね」
「ん? もしかして、さっきのまだ怒ってるの?」
「まぁ、そうだけど……ピケは大丈夫?」
「え……? ああ、そういうこと。平気だよ。そういう人たちもいるからね」
「そうだね……」

 あっけらかんとした声を返してきた。
 そこには怒りも嫌悪もなく、まるで何気ない日常会話。
 俺はそこに価値観の違いを感じる。

(そうか。ここはそういうのは当たり前の世界なんだ。考えてみれば、貴族などの身分制度があるわけだし、庶民に対する理不尽は当然存在するわけで……今まで、そんな不快な目に合わなかった俺は運が良かったんだな)

 ピケに視線を向ける。
 ピケは宿営地の様子に興味を惹かれて観察しているようだ。
 無邪気な表情を見せるピケに、寂しさを感じる。

(子どもがあんなものを見ても動じずに、当たり前のように受け入れるなんて。仕方のないことなんだろうけど、もやもやするな……俺の方が子どもだってことなんだろうか?)

 俺は小さくため息をついた。
 その音を聞いた先生が、心配そうに声を掛けてくる。


「大丈夫、ヤツハちゃん?」
「はは、中身が子どもなんで、理不尽を目の当たりにすると、ちょっと。まったく、こんなことくらいで」
「いえ、ヤツハちゃん。それはとても大切な気持ちよ」
「先生?」

「その気持ちを忘れずいられる人が増えれば、より良い世界を産みだせるからね」
「……そうですね。怒りは発露せずに内に秘め、あんな連中が少しでも減るように頑張りますか」
「ふふ、そうね」
「で、具体的に何をすればいいんでしょう?」

「まったく、それは自分で考えることでしょう」
「そうなんですけどね、相手は警備隊。他にもそんな兵士や貴族がいるとしたら、庶民の俺はどうすればいいのかと思うと……俺は意識の構造改革や法の整備なんてできる立場じゃないし」
「ふぅ~、ヤツハちゃん」


 先生は息を落としながら首を横に振る。

「どうしてそんな大きなことを? 身の周りで困っている人を助けて、少しでも優しさを広めていく、でいいじゃない。いきなり、法の整備なんて……どうしたらそんな発想になるのか?」
「あ……そっか、そうですね。うん、自分でできる範囲で善意の輪の広げればいいだけか」

 先生に諭されて、うんうんと頷く。
 そこへサダさんが大きな笑いを挟んできた。


「わははは、ヤツハちゃんはスケールがでかいねぇ」
「うっさいよ、サダさん」
「いやいやいやいや、バカにしてるわけじゃないよ。ヤツハちゃんなら可能かもね」
「また、テキトーなことを」

「そうでもないだろ。ヤツハちゃんの名は王都だけじゃなくて、周辺国にまで広がってるし、人気だって高い。うまく転がれば、良い地位を狙えるんじゃ。法の整備とやらに関われるくらいの」

「無理だって、そんなの。第一、興味ないし。街の便利屋として、みんなの手助けしてる方がずっといいよ」
「そうかい、もったいないな~。おじさん、お零れ貰いそこなっちゃったよ」
「あんたな~」

 俺とサダさんのやり取りに、みんなは呆れながらも笑顔を見せる。
 その中で、一人の女が冷たく瞳を輝かせた。


(本当にもったいない。あの酔っ払いの言うとおり、あなたは大きな機会を得ている)

 俺はみんなに笑顔を向けながら、目の前に立つウードへ意識を向ける。
 そして、頭の中だけで彼女と会話する。

(うるせい、引っ込んでろっ)
(青く、欲もない。そこは私とは対照的ね)
(するとなにか、お前は老獪で欲に塗れてるわけだ。薄汚そうな女だな)
(フフフ、純白なドレスでしか着飾ることのできない女には、真の魅力なんてないのよ。子どものあなたに何を言っても理解できないでしょうけど……)

 ウードは心を凍りつかせる冷笑を見せて、姿を薄靄のように揺らめかせ消えていった。
 俺は氷の微笑に交じる余裕にほぞを噛む。

(欲塗れの女か。そんな奴に体を奪われたら……)
「クソッ」


 小さく反吐が漏れた。
 それはこの場にいたみんなの耳に届く。
 みんなは目を丸くして俺を見ている。
 俺は慌ててその場を誤魔化した。

「あ、ごめん。さっきの兵士のことを思い出して。あはは、ダメだねぇ。つい、感情が表に出ちゃった」

 トルテさんは声のを落として、言葉をかけてくる。

「本当に大丈夫かい?」
「大丈夫です。兵士に食って掛かるようなことはしませんから」
「それを心配してるわけじゃないんだけど……まぁ、あんたが大丈夫っていうなら、いいけど」

 トルテさんは前を向いて、荷馬車を走らせる。
 他のみんなはというと、じっと俺を見ている。
 俺はこれ以上心配かけまいと精一杯の元気を見せた。

「だから、大丈夫だって。ほら、出口が見えてきたぁぁぁ~…………ん~、んん~? なに、あれ?」
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