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第二十章 震天駭地
亜空間と狭間の世界
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一瞬、景色がぐにゃりとねじ曲がったが、すぐに戻った。
すかさず、辺りを見回す。
空は色を失い、周囲の風景もまた白黒の景色になっている。
傍にはエクレル先生とクレマ。
二人も同じく色を失い、大量の魔力を消費したせいか、地面に片膝をついている。
そして、俺の姿越しに王都を見つめているみたいだ。
彼女たちには俺の姿が見えていない。
俺は王都へ振り返る。
足元には王都まで続く、細い光の道……。
いま、俺の立つ場所は円の光があり余裕で立っていられるが、先に続く道幅は週刊誌より少し広い程度のもの。
「これを踏み外したら、亜空間か……子どものころ遊んでいた、道路の白線遊びみたいだな」
白線から踏み外したら死亡。そんな遊びをしていたことを思い出す。
だけど、これは遊びじゃない。
踏み外せば、死ぬ。
「でも、ま、そんなに狭い道じゃないし、大丈夫だろ……行くか」
慎重に光の道を踏み、歩いていく。
途中で先生たちのことが気になり、後ろを振り返った。
「えっ!? 道が……景色も……」
振り返った先には光の道はなく、景色もない。
あるのは闇。
あの狭間の世界のような闇が背後を埋め尽くしている。
俺は驚き、黄金の力を弱めてしまった。
そのためか、闇にいつか見た火の玉が浮かぶ。
俺は慌てて黄金の力を高めた。
すると、火の玉が消えて、再び闇に戻った。
「あっぶね。今のは狭間で最初にイメージした火の玉……闇を見て、真っ先にイメージしてしまったのか。もし、火の玉じゃなくて別のことを、っと、やめやめ。歩くことと魔力を纏うことに集中集中」
前へと続く光の道に視線を戻す。
てくてくと歩く。
東門が見えてきた。
門の前では色を失った人々が大勢いる。
不満を兵士にぶつけているようだけど、音はない。
皆のそばを歩くが、誰も俺の存在に気づいていないようだ。
兵士を隣に置き、門の前で立ち止まる。
目の前には閉ざされた通用門。
光の道は門の中へと続いている。
「ふむぅ~、本当に通り抜けられんの?」
そっと、門に手を伸ばす。
すると手は、幽霊が壁を通り抜けるようにすーっと入り込んだ。
「おおっ、すげっ。大丈夫っぽいね」
門をすり抜けて、誰の目にも触れられることなく、王都の内部に入る。
光の道は北地区へと続いている。
「よしよし、足を踏み外さす、歩いていくと」
光の道を歩く……何故か、歩いていくたびに景色が虚ろなものへと変わっていく。
「なに、どうしたの?」
周りを警戒しつつも、北地区を目指し歩く。
景色がどんどんと闇に溶け込み、人もまた、闇に消えていく。
やがては光の道だけを残して、周囲は狭間の世界のように真っ暗になってしまった。
「ええ~、超不安なんだけど、道を間違ったとかじゃないよね?」
<ふ~ん、興味深いわね>
頭の中でウードの声が響く。
相手している暇はないが、頭の中でずっと独り言を言われては面倒だ。
俺は一度足を止めて、目を閉じ、箪笥の世界へ訪れた。
「ウード、集中してんだから、喋りかけんなっ」
「え? ああ、ごめんなさい。話しかけたつもりはなかったけど、ちょっと油断したみたいね」
「油断? ケインの屋敷で、お前が俺の妄想を見たときみたいにか?」
「さ~ね」
とぼけた表情を見せるが、おそらく当たってる。
つまり、この亜空間は、ウードの心が油断を生むくらい気になる場所だってことだ。
「なにか、面白いものでも見つけたのか?」
「見つけた……そうね……」
彼女は瞳を左右に振り、目を閉じる。
その仕草は言おうか言うまいか、そしてどの言葉を選び、声に出そうかとしている感じだ。
俺は意識を彼女から外し、目を開けようとした。
(どうせ話す気はないだろうから、光の道に集中しよう)
そうしようとしたところで、思いもよらずウードが声を掛けてくる。
「おそらく、この亜空間は狭間と同じ世界。そして、アクタの外側に広がる無の世界という場所に繋がっているんだわ」
俺は意識を彼女に戻す。
「それじゃ、亜空間イコール無ってことか?」
「いえ、亜空間は私たちの世界でいう、狭間ような場所と私は見ている。狭間も亜空間も、有と無の境界線と仮定して、そこから無に繋がっている」
「なるほど、だから途中から周りの景色がぼやけてきたのか。それじゃ、いま俺は無の世界にいるわけだ」
「たぶんね。亜空間は狭間よりも境界が弱くて、今みたいに簡単に無の世界に迷い込んでしまうのかも」
「ふ~ん、だから何だって話だけどな」
「いえ、これはとても重要なことよ。少なくともアクタから見れば」
「というと?」
「亜空間転送魔法は世界に穴をあける魔法。情報の切れ端を積み重ねて出来たアクタにとって、危険極まりないもの」
「あっ、たしかに……」
アクタはツギハギの情報を繋ぎ合わせて創られている世界。
その情報が無に消えてしまわないように、コトアは世界を結界で覆っている。
だけど、亜空間転送魔法はその結界を突き破り、無に近づく魔法のようだ。
「なるほどねぇ、女神様が禁忌と定めるはずだ」
なかなか興味深い話。
だけど、今はやるべきことがある。
「とりあえずその話は置いといて、先に進もう。ま、なんであれ、光の道さえ歩いておけば、いまは大丈夫だろ」
「ええ、そうね。道を踏み外さないように歩きなさい」
「言われなくてもわかってるよ。もう、気が散るから話しかけんなよ」
「だから、話しかけたつもりは……とにかく、行きなさい」
ウードは犬でも追い払うかのように、手をしっしっと前に振る。
ムカつくあしらい方だが、相手にしていても仕方ない。
俺はウードから意識を外し、目を開ける。
(ん?)
目を開ける瞬間、ウードの口元が笑っているように見えた……。
――気を取り直して、光の道を歩く。
てくてく歩いているが、どれだけ歩いて、どれだけ時間が経ったのかいまいちわからない。
(先生は道は長くとも、一秒と掛かっていないって言ってたけど、ホントかなぁ?)
とにかく、今は歩くしかない。
さらに歩いて前へ進んでいると、闇が支配する景色に街の風景が靄のように現れてきた。
地下通路へと続く路地裏を意識しながら、さらにさらに歩く。
風景はだんだんとしっかりとした形になり、色のない王都の風景が広がり始める。
(無の世界から境界の亜空間に入り、普通の世界に近づいたってことかな? あっ!)
路地裏が見えてきた。
路地へ入ると真っ白な渦が見える。
俺はその渦に飛び込む。
景色は歪み、戻ると、色のある世界に立っていた。
周りには手入れされていない雑草の群れ。
それに覆い隠されたマンホール。
鳥の囀りに、僅かばかりの人の声。
「戻ったんだ。結界をすり抜けられるのはいいけど、面倒な転送魔法だなぁ」
俺はマンホールへ視線を下ろす。
「よし、ティラを助けに行かなくちゃ。頼むから、無事でいろよ!」
地下水路を通り、道順を思い出しながら隠し通路のスイッチのある場所へ到着した。
スイッチを押して、文字のホログラム浮かぶ階段を昇っていく。
昇り終えたところで、壁の一部が光っていることに気づいた。
「うん? 前はこんなのなかったよな? なんだろ?」
光に近づく。
光の下にはスイッチがある。見た目は日本ならどのご家庭にもある玄関の呼び鈴。
「そういや以前、女王が呼び出し用のパネルがあるって言ってたな。これのことかな?」
だけど、呼び出せる人はもういない。
しかし、呼び鈴は指先を誘うように光っている。
「押したら警報機が鳴って、兵士がわんさかやってくる。って、やつだったらどうしよう? でも、やっぱり気になるしなぁ……押してみるか。ていっ」
ボタンを押す。
すると、ボタンより少し上にあったスピーカーからプラリネ女王の声が聞こえてきた。
『この言葉を誰かに伝えることができたとき、私はこの世にいないでしょう。いえ、伝えることもできないかもしれません。ですが、一縷の望みをかけて、言付けを残しておきます』
「これは……女王は自分の死を予期して、メッセージを……」
『これは女王として、あるまじき行為でしょう。ですが、一人の母として、ブランを救いたいという思いに嘘はつけません」
「プラリネ女王……」
『城の地図を託します』
呼び出しパネルのそばに、タブレット端末らしきものがふわりと空中に現れる。
端末には城内の地図が浮かぶ。
俺はそれを手に取る。
「女王……いえ、プラリネさんがどういう経緯でこのメッセージを残したのかはわかりません。だけど、必ずティラを、あなたの娘を助け出して見せます!」
俺は端末をしっかりと握り締める。
「そうだ、念のため、ここに目印を置いておこう」
すっかり治った右手に魔力を宿し、魔力の目印を残しておく。
「転送魔法を経験した今の俺なら、いつでも転送魔法を使えるはず。ティラを見つけ次第、転送で脱出しよう。よし、行くか」
そうして、俺は隠し庭園へと飛び込んだ。
――隠し通路
ヤツハは庭園へと入る。
その背後では、女王の声が響く。
どうやら、メッセージにはまだ続きがあったようで、彼女の言葉は虚しく隠し通路の階段に広がる。
しかし、その言葉を拾い上げる人物が、隠し通路の階段に立っていたのであった……。
すかさず、辺りを見回す。
空は色を失い、周囲の風景もまた白黒の景色になっている。
傍にはエクレル先生とクレマ。
二人も同じく色を失い、大量の魔力を消費したせいか、地面に片膝をついている。
そして、俺の姿越しに王都を見つめているみたいだ。
彼女たちには俺の姿が見えていない。
俺は王都へ振り返る。
足元には王都まで続く、細い光の道……。
いま、俺の立つ場所は円の光があり余裕で立っていられるが、先に続く道幅は週刊誌より少し広い程度のもの。
「これを踏み外したら、亜空間か……子どものころ遊んでいた、道路の白線遊びみたいだな」
白線から踏み外したら死亡。そんな遊びをしていたことを思い出す。
だけど、これは遊びじゃない。
踏み外せば、死ぬ。
「でも、ま、そんなに狭い道じゃないし、大丈夫だろ……行くか」
慎重に光の道を踏み、歩いていく。
途中で先生たちのことが気になり、後ろを振り返った。
「えっ!? 道が……景色も……」
振り返った先には光の道はなく、景色もない。
あるのは闇。
あの狭間の世界のような闇が背後を埋め尽くしている。
俺は驚き、黄金の力を弱めてしまった。
そのためか、闇にいつか見た火の玉が浮かぶ。
俺は慌てて黄金の力を高めた。
すると、火の玉が消えて、再び闇に戻った。
「あっぶね。今のは狭間で最初にイメージした火の玉……闇を見て、真っ先にイメージしてしまったのか。もし、火の玉じゃなくて別のことを、っと、やめやめ。歩くことと魔力を纏うことに集中集中」
前へと続く光の道に視線を戻す。
てくてくと歩く。
東門が見えてきた。
門の前では色を失った人々が大勢いる。
不満を兵士にぶつけているようだけど、音はない。
皆のそばを歩くが、誰も俺の存在に気づいていないようだ。
兵士を隣に置き、門の前で立ち止まる。
目の前には閉ざされた通用門。
光の道は門の中へと続いている。
「ふむぅ~、本当に通り抜けられんの?」
そっと、門に手を伸ばす。
すると手は、幽霊が壁を通り抜けるようにすーっと入り込んだ。
「おおっ、すげっ。大丈夫っぽいね」
門をすり抜けて、誰の目にも触れられることなく、王都の内部に入る。
光の道は北地区へと続いている。
「よしよし、足を踏み外さす、歩いていくと」
光の道を歩く……何故か、歩いていくたびに景色が虚ろなものへと変わっていく。
「なに、どうしたの?」
周りを警戒しつつも、北地区を目指し歩く。
景色がどんどんと闇に溶け込み、人もまた、闇に消えていく。
やがては光の道だけを残して、周囲は狭間の世界のように真っ暗になってしまった。
「ええ~、超不安なんだけど、道を間違ったとかじゃないよね?」
<ふ~ん、興味深いわね>
頭の中でウードの声が響く。
相手している暇はないが、頭の中でずっと独り言を言われては面倒だ。
俺は一度足を止めて、目を閉じ、箪笥の世界へ訪れた。
「ウード、集中してんだから、喋りかけんなっ」
「え? ああ、ごめんなさい。話しかけたつもりはなかったけど、ちょっと油断したみたいね」
「油断? ケインの屋敷で、お前が俺の妄想を見たときみたいにか?」
「さ~ね」
とぼけた表情を見せるが、おそらく当たってる。
つまり、この亜空間は、ウードの心が油断を生むくらい気になる場所だってことだ。
「なにか、面白いものでも見つけたのか?」
「見つけた……そうね……」
彼女は瞳を左右に振り、目を閉じる。
その仕草は言おうか言うまいか、そしてどの言葉を選び、声に出そうかとしている感じだ。
俺は意識を彼女から外し、目を開けようとした。
(どうせ話す気はないだろうから、光の道に集中しよう)
そうしようとしたところで、思いもよらずウードが声を掛けてくる。
「おそらく、この亜空間は狭間と同じ世界。そして、アクタの外側に広がる無の世界という場所に繋がっているんだわ」
俺は意識を彼女に戻す。
「それじゃ、亜空間イコール無ってことか?」
「いえ、亜空間は私たちの世界でいう、狭間ような場所と私は見ている。狭間も亜空間も、有と無の境界線と仮定して、そこから無に繋がっている」
「なるほど、だから途中から周りの景色がぼやけてきたのか。それじゃ、いま俺は無の世界にいるわけだ」
「たぶんね。亜空間は狭間よりも境界が弱くて、今みたいに簡単に無の世界に迷い込んでしまうのかも」
「ふ~ん、だから何だって話だけどな」
「いえ、これはとても重要なことよ。少なくともアクタから見れば」
「というと?」
「亜空間転送魔法は世界に穴をあける魔法。情報の切れ端を積み重ねて出来たアクタにとって、危険極まりないもの」
「あっ、たしかに……」
アクタはツギハギの情報を繋ぎ合わせて創られている世界。
その情報が無に消えてしまわないように、コトアは世界を結界で覆っている。
だけど、亜空間転送魔法はその結界を突き破り、無に近づく魔法のようだ。
「なるほどねぇ、女神様が禁忌と定めるはずだ」
なかなか興味深い話。
だけど、今はやるべきことがある。
「とりあえずその話は置いといて、先に進もう。ま、なんであれ、光の道さえ歩いておけば、いまは大丈夫だろ」
「ええ、そうね。道を踏み外さないように歩きなさい」
「言われなくてもわかってるよ。もう、気が散るから話しかけんなよ」
「だから、話しかけたつもりは……とにかく、行きなさい」
ウードは犬でも追い払うかのように、手をしっしっと前に振る。
ムカつくあしらい方だが、相手にしていても仕方ない。
俺はウードから意識を外し、目を開ける。
(ん?)
目を開ける瞬間、ウードの口元が笑っているように見えた……。
――気を取り直して、光の道を歩く。
てくてく歩いているが、どれだけ歩いて、どれだけ時間が経ったのかいまいちわからない。
(先生は道は長くとも、一秒と掛かっていないって言ってたけど、ホントかなぁ?)
とにかく、今は歩くしかない。
さらに歩いて前へ進んでいると、闇が支配する景色に街の風景が靄のように現れてきた。
地下通路へと続く路地裏を意識しながら、さらにさらに歩く。
風景はだんだんとしっかりとした形になり、色のない王都の風景が広がり始める。
(無の世界から境界の亜空間に入り、普通の世界に近づいたってことかな? あっ!)
路地裏が見えてきた。
路地へ入ると真っ白な渦が見える。
俺はその渦に飛び込む。
景色は歪み、戻ると、色のある世界に立っていた。
周りには手入れされていない雑草の群れ。
それに覆い隠されたマンホール。
鳥の囀りに、僅かばかりの人の声。
「戻ったんだ。結界をすり抜けられるのはいいけど、面倒な転送魔法だなぁ」
俺はマンホールへ視線を下ろす。
「よし、ティラを助けに行かなくちゃ。頼むから、無事でいろよ!」
地下水路を通り、道順を思い出しながら隠し通路のスイッチのある場所へ到着した。
スイッチを押して、文字のホログラム浮かぶ階段を昇っていく。
昇り終えたところで、壁の一部が光っていることに気づいた。
「うん? 前はこんなのなかったよな? なんだろ?」
光に近づく。
光の下にはスイッチがある。見た目は日本ならどのご家庭にもある玄関の呼び鈴。
「そういや以前、女王が呼び出し用のパネルがあるって言ってたな。これのことかな?」
だけど、呼び出せる人はもういない。
しかし、呼び鈴は指先を誘うように光っている。
「押したら警報機が鳴って、兵士がわんさかやってくる。って、やつだったらどうしよう? でも、やっぱり気になるしなぁ……押してみるか。ていっ」
ボタンを押す。
すると、ボタンより少し上にあったスピーカーからプラリネ女王の声が聞こえてきた。
『この言葉を誰かに伝えることができたとき、私はこの世にいないでしょう。いえ、伝えることもできないかもしれません。ですが、一縷の望みをかけて、言付けを残しておきます』
「これは……女王は自分の死を予期して、メッセージを……」
『これは女王として、あるまじき行為でしょう。ですが、一人の母として、ブランを救いたいという思いに嘘はつけません」
「プラリネ女王……」
『城の地図を託します』
呼び出しパネルのそばに、タブレット端末らしきものがふわりと空中に現れる。
端末には城内の地図が浮かぶ。
俺はそれを手に取る。
「女王……いえ、プラリネさんがどういう経緯でこのメッセージを残したのかはわかりません。だけど、必ずティラを、あなたの娘を助け出して見せます!」
俺は端末をしっかりと握り締める。
「そうだ、念のため、ここに目印を置いておこう」
すっかり治った右手に魔力を宿し、魔力の目印を残しておく。
「転送魔法を経験した今の俺なら、いつでも転送魔法を使えるはず。ティラを見つけ次第、転送で脱出しよう。よし、行くか」
そうして、俺は隠し庭園へと飛び込んだ。
――隠し通路
ヤツハは庭園へと入る。
その背後では、女王の声が響く。
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