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第二十二章 歩む先は深い霧に包まれる
パラレルワールド
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王都の時計塔のことを尋ねると、柳さんは右眉毛を二本の指で伸ばしつつ、苦笑いを浮かべる。
「あの時計塔は私が地球にいた頃に、ある企画で立ち上げたものだ。だが、私の地球では私の性格が災いして、プレゼンは大失敗。時計塔建設の企画は露と消えたよ」
「会社のことってよくわかんないけど、性格が問題でプレゼンって失敗するんだ?」
「はは、あの頃の私は自信家で、周囲の人間に不快な思いを振りまいていたからな。その意趣返しにプレゼンを邪魔され、事前に悪い噂も流され、それで……」
「うわ、相当っすね」
「ああ、そうだな。だが、あの時計塔を生み出したもう一つの地球。もう一人の柳はうまくやったようだ。違う世界の柳は良い感じに心を折られたんだろうな」
「心を?」
この問いに、柳さんは苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。
「私は……プライドが高すぎるあまり、ただ一度の失敗で自分が許せなくなり、命を絶った」
「ええっ!?」
「それで、気がついたらアクタにいた。マヨマヨと出会う間、地べたを這いずり回り、プライドはズタズタどころじゃないっ。おかげさまで性格の険が取れてね。丸くなったというか。多少は謙虚になったつもりだ」
「ある意味、失敗から学んだ、ってことになるのかなぁ?」
「地球では学ぶ前に命を絶ってるけどな、あははは」
「いや、笑いにくいって、こっちは」
「そうか、すまない」
柳さんは笑いを収めて空を見上げると、王都がある方向へチラリと視線を向ける。
「できれば、あの時計塔を直してやりたかったんだが」
「直して? じゃあ、あの時、時計塔にいたのは?」
「そう、時計塔を直せないものかとね。そこに君が現れ、ダークエネルギーの欠片が反応したので慌てて君を調べた。そうしたら、君が近藤と同じ次元係数を持っていたため笠鷺燎の可能性が見えて報告を。そのおかげで、修理どころではなくなってしまった」
「え、ちょいお待ちを。何か色々、訳の分からん言葉が? ダークエネルギーとか次元係数とか?」
「ダークエネルギーは虚無の世界アクタにはない、我々、有の世界にある力。アクタ人以外に反応を示す。何故か、あの時計塔の動力源にダークエネルギーが使われていたからな。もしかしたら、私のように時計塔の関係者が修理を試みたのかもしれない」
「それって、工事関係者を含め、企画に関係した人たちってこと?」
「かもしれない。もしかしたら、他の世界の私かもな」
「え?」
「このアクタは多くの平行する宇宙、わかりやすく言えば平行世界から情報がやってくる。時期はわからないが、平行世界の私が訪れた可能性があるということだ」
「あ~、そんなことも……あれ?」
ふいに、先ほどの兄妹の姿が脳裏を過ぎる。
(まさか……いや、そんなわけがない。たまたま、俺や柚迩に雰囲気が似てたからって)
再び黙り込んでしまった俺を見ながら柳さんは首を傾げる。
「また、ぼーっとしているが、どうしたんだ?」
「え、いや、パラレルワールドなんてSFチックな単語が出るもんだからびっくりしただけ」
「そうか? 何にせよ、あのダークエネルギーはかなり古くから放置されていたらしい。だから、誰にもわからないそうだ。サシオンさんにもね……ふむ、案外、置いたのは人じゃないのかもな」
「え?」
「なんでもない。ま、よくわからんってことさ。それと次元係数というのは、世界の背番号みたいなものだ。君と近藤の番号は同じだった。同一世界からの来訪者は珍しいため、だから念のために報告した」
「はぁ~、なるほどって言えるほど理解できてないけど……あの時は修理中だったんだ。ごめん、邪魔しちゃって」
「いやいや、あそこにいたのは修理がメインではない。私は強硬派として王都の隙を探していた。ついでにそのことについて、サシオンさんに報告もね」
「え、じゃ、ある意味、襲撃の手引きをしたことにならない?」
「なるな。だが、私がやらなくても誰かがやること。それなら、サシオンさんと通じてる私がやる方が効率がいいだろう」
「こ、効率って……」
「それにどのみち、迷い人から見れば王都のシールドは古くて綻びだらけ。アクタ人を演じているサシオンさんは介入できないわけだし、襲撃は避けられない。なら、誰が偵察に来ても同じだろ」
あっけらかんとした口調で言葉を出す柳さんから、なんとなくこの人の元の性格が見えてくる。
おそらく、効率主義で人情味なく感情論を全部排し動き、常に正論を吐くタイプ。
「そりゃ、敵を作るわ」
「なんだ?」
「いえ、何でもないっす……情報はこれくらいですかね?」
「そうなるな」
「いまさらだけど、わざわざどうして強硬派の情報を俺に? 俺に義理はないでしょう」
「君になくとも、近藤にはある。だからだ」
柳さんの目元が優しく綻ぶ。
とても良い友だったようだ。
「そうですか……色々、話ができて良かったです」
「私もだ」
柳さんは後ろを振り向く。
すると、光のカーテンが降りる。
俺は彼の背中に声を掛ける。
「あの、どこへ?」
「私はもう、マヨマヨを辞める。アクタに生きて、アクタ人として死ぬ。運が良ければ、近藤に会えるだろうしな」
「えっ?」
光が一度瞬くと、柳さんの姿は消え去った。
俺は誰もいなくなった路地裏で、ウードに知られないように心の鍵をかけて呟く。
(あの人、近藤が女神コトアに仕えてることを知っているのかも……柳さん。旅路の末、あなたが無上世界と呼ばれるコトアの部屋に招かれることを祈っています)
「あの時計塔は私が地球にいた頃に、ある企画で立ち上げたものだ。だが、私の地球では私の性格が災いして、プレゼンは大失敗。時計塔建設の企画は露と消えたよ」
「会社のことってよくわかんないけど、性格が問題でプレゼンって失敗するんだ?」
「はは、あの頃の私は自信家で、周囲の人間に不快な思いを振りまいていたからな。その意趣返しにプレゼンを邪魔され、事前に悪い噂も流され、それで……」
「うわ、相当っすね」
「ああ、そうだな。だが、あの時計塔を生み出したもう一つの地球。もう一人の柳はうまくやったようだ。違う世界の柳は良い感じに心を折られたんだろうな」
「心を?」
この問いに、柳さんは苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。
「私は……プライドが高すぎるあまり、ただ一度の失敗で自分が許せなくなり、命を絶った」
「ええっ!?」
「それで、気がついたらアクタにいた。マヨマヨと出会う間、地べたを這いずり回り、プライドはズタズタどころじゃないっ。おかげさまで性格の険が取れてね。丸くなったというか。多少は謙虚になったつもりだ」
「ある意味、失敗から学んだ、ってことになるのかなぁ?」
「地球では学ぶ前に命を絶ってるけどな、あははは」
「いや、笑いにくいって、こっちは」
「そうか、すまない」
柳さんは笑いを収めて空を見上げると、王都がある方向へチラリと視線を向ける。
「できれば、あの時計塔を直してやりたかったんだが」
「直して? じゃあ、あの時、時計塔にいたのは?」
「そう、時計塔を直せないものかとね。そこに君が現れ、ダークエネルギーの欠片が反応したので慌てて君を調べた。そうしたら、君が近藤と同じ次元係数を持っていたため笠鷺燎の可能性が見えて報告を。そのおかげで、修理どころではなくなってしまった」
「え、ちょいお待ちを。何か色々、訳の分からん言葉が? ダークエネルギーとか次元係数とか?」
「ダークエネルギーは虚無の世界アクタにはない、我々、有の世界にある力。アクタ人以外に反応を示す。何故か、あの時計塔の動力源にダークエネルギーが使われていたからな。もしかしたら、私のように時計塔の関係者が修理を試みたのかもしれない」
「それって、工事関係者を含め、企画に関係した人たちってこと?」
「かもしれない。もしかしたら、他の世界の私かもな」
「え?」
「このアクタは多くの平行する宇宙、わかりやすく言えば平行世界から情報がやってくる。時期はわからないが、平行世界の私が訪れた可能性があるということだ」
「あ~、そんなことも……あれ?」
ふいに、先ほどの兄妹の姿が脳裏を過ぎる。
(まさか……いや、そんなわけがない。たまたま、俺や柚迩に雰囲気が似てたからって)
再び黙り込んでしまった俺を見ながら柳さんは首を傾げる。
「また、ぼーっとしているが、どうしたんだ?」
「え、いや、パラレルワールドなんてSFチックな単語が出るもんだからびっくりしただけ」
「そうか? 何にせよ、あのダークエネルギーはかなり古くから放置されていたらしい。だから、誰にもわからないそうだ。サシオンさんにもね……ふむ、案外、置いたのは人じゃないのかもな」
「え?」
「なんでもない。ま、よくわからんってことさ。それと次元係数というのは、世界の背番号みたいなものだ。君と近藤の番号は同じだった。同一世界からの来訪者は珍しいため、だから念のために報告した」
「はぁ~、なるほどって言えるほど理解できてないけど……あの時は修理中だったんだ。ごめん、邪魔しちゃって」
「いやいや、あそこにいたのは修理がメインではない。私は強硬派として王都の隙を探していた。ついでにそのことについて、サシオンさんに報告もね」
「え、じゃ、ある意味、襲撃の手引きをしたことにならない?」
「なるな。だが、私がやらなくても誰かがやること。それなら、サシオンさんと通じてる私がやる方が効率がいいだろう」
「こ、効率って……」
「それにどのみち、迷い人から見れば王都のシールドは古くて綻びだらけ。アクタ人を演じているサシオンさんは介入できないわけだし、襲撃は避けられない。なら、誰が偵察に来ても同じだろ」
あっけらかんとした口調で言葉を出す柳さんから、なんとなくこの人の元の性格が見えてくる。
おそらく、効率主義で人情味なく感情論を全部排し動き、常に正論を吐くタイプ。
「そりゃ、敵を作るわ」
「なんだ?」
「いえ、何でもないっす……情報はこれくらいですかね?」
「そうなるな」
「いまさらだけど、わざわざどうして強硬派の情報を俺に? 俺に義理はないでしょう」
「君になくとも、近藤にはある。だからだ」
柳さんの目元が優しく綻ぶ。
とても良い友だったようだ。
「そうですか……色々、話ができて良かったです」
「私もだ」
柳さんは後ろを振り向く。
すると、光のカーテンが降りる。
俺は彼の背中に声を掛ける。
「あの、どこへ?」
「私はもう、マヨマヨを辞める。アクタに生きて、アクタ人として死ぬ。運が良ければ、近藤に会えるだろうしな」
「えっ?」
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