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第二十三章 決戦前夜
そんな設定もありました
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ウードに顔を向けると、彼女は軽い笑みを落としながら話しかけてきた。
「ふふ、どうしたの?」
「いや、なんかいい兵法の知識がないかなっと思って。ウードは妲己なんだろ。何か知ってそうなんだけど?」
「最低限の知識は備えてる。でも、魔法の存在するアクタでは私の知る兵法は役に立たない」
「それなんだよ。魔法の存在が厄介でね」
引き出しを覗けば、歴史好きだった俺のこと。
何かしらの兵法は存在するはず。
しかし、それらの兵法には魔法に対する対応方法なんてない。
悩める俺に、ウードは尋ねてくる。
「近代戦術は? あなたの時代には重火器なんてものがあるでしょ。それを魔法に置きかけて考えてみるとか?」
「それは考えた。でも、魔法や弓から身を守れる結界の存在をどうすればいいのか。俺の世界にはまだ、シールドなんて兵器は存在しないからそれに対応した戦術がわからない」
「いま知っている戦術を応用すればいい」
「応用できるだけの才能がない。だから下手なことが言えない。生兵法は大怪我のもと。俺は馬謖になりたくない!」
「馬謖……たしか、三国時代の蜀の将ね。あれは諸葛孔明の人材運用が間違っていただけの気もするけど?」
「いやいや、そんなことはないだろっ」
思わず語気を強くしてしまった。
それに気づいたウードは含み笑いを見せる。
「くふっ、あなたもしかして、孔明のことが好きなの?」
「別にそうじゃないけど、ゲームでは頼りがいがあるからなんか悪く言われるのは、って、それは置いといてだなっ」
俺は何もない空間をさっと手で振り話題を消す動作を見せて話を戻した。
「とにかく、俺が軍の知識に精通しその才能があれば、馬謖にならずしっかりした応用できるかもな。それこそ俺にハンニバル=バルカみたいな才能があれば良かったんだろうけど」
「ハンニバル……カルタゴの天才戦術家ね」
「よく知ってんなって、あれ? そう言えば、馬謖もハンニバルもお前よりも遥かに後の存在のはずだけど?」
「あなたの記憶から」
「そうだった。俺の記憶の一部を覗いているんだったな。やだやだ」
「ふふ、できるものなら、ハンニバルを姜子牙にぶつけてやりたい」
「姜子牙《きょうしが》? さっき城壁で話したときも、その人の名前出たよな、誰だよ?」
「太公望のことよ」
「ああ、呂尚のことか、って、名前ありすぎじゃね?」
「私たちの時代、名前は、姓、氏、諱、字《あざな》の四つがあった。太公望の場合、姓は姜。氏は呂《りょ》。諱は尚。字は子牙。氏と諱で呼べば呂尚、姓と字で呼べば姜子牙」
「めんどくせ~」
「名字の数が字体違い読み違いに分けると、三十万種類ほどある日本人から言われたくはないわね。因みに、現在の中国は四千から四千百種類ほど」
「おお~、マジか。日本はそんなに……」
「最も名字が多いのはアメリカ。百五十万種類以上。これは移民が多いためでしょうけど」
「へぇ~……これ、全部、俺の記憶から得た知識なんだよね?」
「ええ、そうよ」
「俺は一体どこで、こんなどうでもいい知識を得たんだ?」
「クイズ番組。あなた、小学生のころまで、歴史もそうだったけどクイズ番組も好きだったみたいね。だから、私もクイズ方式で正体のヒントをあげたんだけど」
「そんな理由っ?」
俺は頭を押さえながら首を横に振る。
そして、ちらりとウードを見た。
(こいつ、俺以上に俺のことを知ってるんじゃ……気味悪いな)
俺を乗っ取るために心を侵食し、そこから得た情報は余さず自分のものにする。
貪欲であり、努力家。
隙の無い女、ウード。
(殷を好き勝手にするだけあって、それ相応の実力と才と努力する意志を持っているわけだ。俺と比べて、雲泥の差なんだけど。こいつ、本当に俺の前世か?)
じと~っと、ウードを見つめる。
すると、彼女は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、なんというか……やっぱ、いいや。比べても仕方がない」
「なにが?」
「何でもないって言ってるだろっ。そうだ、クイズ番組って言ってたけど、お前は俺の記憶から俺の時代の情報を得てるんだよな。面白かったか?」
「ああ、それ」
ウードは笑顔を零して、声を跳ねた。
「ええ、とってもわくわくしたわね。テレビ、車、ネット、飛行機、新幹線! 面白い時代になってて、あなたのことが羨ましいわっ」
「そ、そう」
初心な少女のように、ウードは胸の前で両手を組んでぴょんぴょん飛び跳ねる。
とても、大勢の人々を虐殺した人物には見えない。
こういう悪魔のような無邪気さが人を虜にするんだろうか?
実際、身体を乗っ取ろうとしている女に対して、俺もまた、かなり心を許している。
彼女の過去の経歴を考えると、絶対に油断してはならない相手なのに……。
(やっぱり、俺が直接危害を加えられたわけじゃないから、いまいちこいつのヤバさが伝わらないんだよなぁ。心のどっかで、わかり合えるんじゃ、って思ってるところがあるし)
そこまで悪い奴な気はしない。
これが正直なところ。
(でも、警戒はちゃんとしてないと……よしっ)
俺は大きく息を吸い、吐き出す。
そして、気持ちを軍議に切り替えた。
「さて、あんまり考え込むわけにはいかないな。子爵から何を言われるかわからん。とはいえ、何を言えばいいのか?」
「なら、当たり障りのないことを言いなさい」
「例えば?」
「相手は十三万。こちらは八万。基本となる戦術は?」
「う~ん、ゲームマンガレベルの知識になるけど……魔法うんぬんを無視して考えれば、相手は数に任せた陣形、包囲殲滅を目的とした形を取るはず。おそらく鶴翼の陣形って感じのだな」
「対するこちらは?」
「中央突破陣。魚鱗の陣とかかな? 突破した後、どうするのかはわからないけど」
「それで十分よ。子爵はきっと満足するわ」
「ん?」
「フフ」
ウードは軽い笑みを見せて黙り込んだ。
そんな態度に俺は首を振り、意識を子爵に向ける。
(ったく、何考えてんだか? さて、これ以上、子爵を待たせたら悪い、とにかく今は無難に答えとくか)
俺は目を開いて、地図を指さす。
「見通しが良く、高低差のない平原。大きな策を弄するのは難しい。ブラウニー軍は数に任せ、包囲殲滅の陣形で挑むでしょう。こちらはそれに対抗し、包囲を崩すための中央突破陣で挑む。申し訳ありません、このような当たり前のことしか言えず」
答え終えると、ポヴィドル子爵はモノクルの縁を撫でた。
「ほう、基本中の基本ですが、兵法を知っているようですね…………ヤツハさん、あなたはいったい何者なんですか? とても学のない庶民とは思えない!」
モノクルの奥からぎらりとした眼光が飛ぶ。
その鋭い光は子爵だけじゃない。
会議室にいる全員から飛んでくる。
俺はなるべく表情から色を消して、心の中で舌打ちをする。
(チッ! やられたっ。子爵は俺を馬鹿にするために質問したんじゃないっ。俺の背景を探ってたんだ!)
端的に言えば、俺は記憶喪失の女で、後ろには何もない。
そんな女が、黒騎士とやり合い、ここぞというところでティラを救い、妙な知識を持つ。
逆の立場なら胡散臭いことこの上ない。
(そんな奴と一緒に轡を並べて戦えないよな)
ちらりと隣にいるウードを覗く。
口元は緩み、にやついている。
(こいつ、こうなるとわかっててっ。やっぱ、悪い女だ! いや、今はそんなのどうでもいい。さぁ、どう切り返す?)
いっそ、異世界人と言ってしまうか?
いや、それだと不信感を買う。
マヨマヨが王都を襲撃して以降、彼らは異世界人であるマヨマヨを警戒している。
そんな状況で異世界人ですと告白したら、どんな反応を示すか?
(あ、マヨマヨ……)
マヨマヨの単語で思い出した。
強硬派のマヨマヨたちに怪しい動きがあることを。
でも、
(今ここでそれを言うと、ますます怪しまれる……やっばいなぁ、重要な情報なのにっ)
あんまり悩んでいる時間はない。
急ぎ頭をこねくり回して出た結論は……困った時のサシオン頼りだった。
「私は……サシオン様の下で様々な教育を受けていましたので」
「なるほど。サシオン殿の下で。たしかに、あなたはサシオン殿に重宝されていたと聞き及んでいますが……便利屋でしたか? ともかく、民間の部隊のようなものだったはず。その民間人がサシオン様から何を?」
「表向きは便利屋です」
「表向きとは?」
「はい。もはや隠す必要はないでしょう。私はサシオン様の下で隠密として働いていました」
「なっ!?」
会議室にでっかいビックリマークが浮かぶ。
ティラも驚きに目を見開いている。
俺は彼らの驚きをよそに言葉を続ける。
「サシオン様はご自身が動きづらい事件などを私に任されていました。最後に受けたのは密命……ブラン様の救出です。あの方は万が一の場合に備えて、このような命を下していました。『私が不甲斐なく女王を守りきれぬときは、ブラン殿下を頼んだ』と」
言葉が終えると同時に、ざわめきが会議室を覆いつくす。
彼らは口々にサシオンを褒め称える。
「まさに忠孝の士。ブラウニーと六龍が支配する王都で、彼は孤軍奮闘とされていたのであろうな」
「死して尚も、忠義を通すか。正に騎士の鑑である」
「実力は六龍に勝るともいうサシオン殿。王都にサシオンありと知らしめるだけのことはありますな」
彼らは皆、サシオンの実力を知る者たち。
そこから俺の嘘話を、真実の話と捉えているようだ。
もっとも、実際のところ一部は本当だし、町の声を拾う軽めの隠密っぽい扱いだったし……他にも、俺自身の黒騎士を撃退した功績と、ティラ救出の功労が後押ししているんだと思う。
皆の様子を見て、俺はホッとする。
(まさか、ここで隠密設定が生きるとは思わなかった)
すると、ポヴィドル子爵もまた皆と同じように感じたのか、席を立ち、俺に頭を下げてきた。
「申し訳ない。そのような任を負っておられたあなたを疑ってしまい」
「いえ、元は子爵のような高貴な出ではなく、何も知らない庶民であることはたしかですから」
畏まりつつ、嫌みを言葉に乗せておく。
その嫌味にさぞ気まずそうな態度を取るだろうなぁ、と思いきや、子爵は奇妙な言葉を漏らす。
「庶民であれ、教育を受けていれば、変わる……厳しい現実ですね。立場もありません」
彼は再度こちらに頭を下げ、席に着いた。
俺は彼の態度を妙に感じて頭を悩ますが、その悩みを消し去る、か細い声が届く。
「ヤツハ」
目の前に座るティラがこちらを向いて、寂しげな瞳で見つめてくる。
それはおそらく、友ではなく、命令で救いに来たことを寂しく思っているんだろう。
俺は一歩、ティラに近づき、他の誰にも気づかれぬように彼女の背中に文字を書いた。
――うそ――
俺はしれっとした態度で後ろに下がる。
ティラはそんな俺の姿に対して、眉を折り曲げつつ、じっと睨みつけていた。
「ふふ、どうしたの?」
「いや、なんかいい兵法の知識がないかなっと思って。ウードは妲己なんだろ。何か知ってそうなんだけど?」
「最低限の知識は備えてる。でも、魔法の存在するアクタでは私の知る兵法は役に立たない」
「それなんだよ。魔法の存在が厄介でね」
引き出しを覗けば、歴史好きだった俺のこと。
何かしらの兵法は存在するはず。
しかし、それらの兵法には魔法に対する対応方法なんてない。
悩める俺に、ウードは尋ねてくる。
「近代戦術は? あなたの時代には重火器なんてものがあるでしょ。それを魔法に置きかけて考えてみるとか?」
「それは考えた。でも、魔法や弓から身を守れる結界の存在をどうすればいいのか。俺の世界にはまだ、シールドなんて兵器は存在しないからそれに対応した戦術がわからない」
「いま知っている戦術を応用すればいい」
「応用できるだけの才能がない。だから下手なことが言えない。生兵法は大怪我のもと。俺は馬謖になりたくない!」
「馬謖……たしか、三国時代の蜀の将ね。あれは諸葛孔明の人材運用が間違っていただけの気もするけど?」
「いやいや、そんなことはないだろっ」
思わず語気を強くしてしまった。
それに気づいたウードは含み笑いを見せる。
「くふっ、あなたもしかして、孔明のことが好きなの?」
「別にそうじゃないけど、ゲームでは頼りがいがあるからなんか悪く言われるのは、って、それは置いといてだなっ」
俺は何もない空間をさっと手で振り話題を消す動作を見せて話を戻した。
「とにかく、俺が軍の知識に精通しその才能があれば、馬謖にならずしっかりした応用できるかもな。それこそ俺にハンニバル=バルカみたいな才能があれば良かったんだろうけど」
「ハンニバル……カルタゴの天才戦術家ね」
「よく知ってんなって、あれ? そう言えば、馬謖もハンニバルもお前よりも遥かに後の存在のはずだけど?」
「あなたの記憶から」
「そうだった。俺の記憶の一部を覗いているんだったな。やだやだ」
「ふふ、できるものなら、ハンニバルを姜子牙にぶつけてやりたい」
「姜子牙《きょうしが》? さっき城壁で話したときも、その人の名前出たよな、誰だよ?」
「太公望のことよ」
「ああ、呂尚のことか、って、名前ありすぎじゃね?」
「私たちの時代、名前は、姓、氏、諱、字《あざな》の四つがあった。太公望の場合、姓は姜。氏は呂《りょ》。諱は尚。字は子牙。氏と諱で呼べば呂尚、姓と字で呼べば姜子牙」
「めんどくせ~」
「名字の数が字体違い読み違いに分けると、三十万種類ほどある日本人から言われたくはないわね。因みに、現在の中国は四千から四千百種類ほど」
「おお~、マジか。日本はそんなに……」
「最も名字が多いのはアメリカ。百五十万種類以上。これは移民が多いためでしょうけど」
「へぇ~……これ、全部、俺の記憶から得た知識なんだよね?」
「ええ、そうよ」
「俺は一体どこで、こんなどうでもいい知識を得たんだ?」
「クイズ番組。あなた、小学生のころまで、歴史もそうだったけどクイズ番組も好きだったみたいね。だから、私もクイズ方式で正体のヒントをあげたんだけど」
「そんな理由っ?」
俺は頭を押さえながら首を横に振る。
そして、ちらりとウードを見た。
(こいつ、俺以上に俺のことを知ってるんじゃ……気味悪いな)
俺を乗っ取るために心を侵食し、そこから得た情報は余さず自分のものにする。
貪欲であり、努力家。
隙の無い女、ウード。
(殷を好き勝手にするだけあって、それ相応の実力と才と努力する意志を持っているわけだ。俺と比べて、雲泥の差なんだけど。こいつ、本当に俺の前世か?)
じと~っと、ウードを見つめる。
すると、彼女は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや、なんというか……やっぱ、いいや。比べても仕方がない」
「なにが?」
「何でもないって言ってるだろっ。そうだ、クイズ番組って言ってたけど、お前は俺の記憶から俺の時代の情報を得てるんだよな。面白かったか?」
「ああ、それ」
ウードは笑顔を零して、声を跳ねた。
「ええ、とってもわくわくしたわね。テレビ、車、ネット、飛行機、新幹線! 面白い時代になってて、あなたのことが羨ましいわっ」
「そ、そう」
初心な少女のように、ウードは胸の前で両手を組んでぴょんぴょん飛び跳ねる。
とても、大勢の人々を虐殺した人物には見えない。
こういう悪魔のような無邪気さが人を虜にするんだろうか?
実際、身体を乗っ取ろうとしている女に対して、俺もまた、かなり心を許している。
彼女の過去の経歴を考えると、絶対に油断してはならない相手なのに……。
(やっぱり、俺が直接危害を加えられたわけじゃないから、いまいちこいつのヤバさが伝わらないんだよなぁ。心のどっかで、わかり合えるんじゃ、って思ってるところがあるし)
そこまで悪い奴な気はしない。
これが正直なところ。
(でも、警戒はちゃんとしてないと……よしっ)
俺は大きく息を吸い、吐き出す。
そして、気持ちを軍議に切り替えた。
「さて、あんまり考え込むわけにはいかないな。子爵から何を言われるかわからん。とはいえ、何を言えばいいのか?」
「なら、当たり障りのないことを言いなさい」
「例えば?」
「相手は十三万。こちらは八万。基本となる戦術は?」
「う~ん、ゲームマンガレベルの知識になるけど……魔法うんぬんを無視して考えれば、相手は数に任せた陣形、包囲殲滅を目的とした形を取るはず。おそらく鶴翼の陣形って感じのだな」
「対するこちらは?」
「中央突破陣。魚鱗の陣とかかな? 突破した後、どうするのかはわからないけど」
「それで十分よ。子爵はきっと満足するわ」
「ん?」
「フフ」
ウードは軽い笑みを見せて黙り込んだ。
そんな態度に俺は首を振り、意識を子爵に向ける。
(ったく、何考えてんだか? さて、これ以上、子爵を待たせたら悪い、とにかく今は無難に答えとくか)
俺は目を開いて、地図を指さす。
「見通しが良く、高低差のない平原。大きな策を弄するのは難しい。ブラウニー軍は数に任せ、包囲殲滅の陣形で挑むでしょう。こちらはそれに対抗し、包囲を崩すための中央突破陣で挑む。申し訳ありません、このような当たり前のことしか言えず」
答え終えると、ポヴィドル子爵はモノクルの縁を撫でた。
「ほう、基本中の基本ですが、兵法を知っているようですね…………ヤツハさん、あなたはいったい何者なんですか? とても学のない庶民とは思えない!」
モノクルの奥からぎらりとした眼光が飛ぶ。
その鋭い光は子爵だけじゃない。
会議室にいる全員から飛んでくる。
俺はなるべく表情から色を消して、心の中で舌打ちをする。
(チッ! やられたっ。子爵は俺を馬鹿にするために質問したんじゃないっ。俺の背景を探ってたんだ!)
端的に言えば、俺は記憶喪失の女で、後ろには何もない。
そんな女が、黒騎士とやり合い、ここぞというところでティラを救い、妙な知識を持つ。
逆の立場なら胡散臭いことこの上ない。
(そんな奴と一緒に轡を並べて戦えないよな)
ちらりと隣にいるウードを覗く。
口元は緩み、にやついている。
(こいつ、こうなるとわかっててっ。やっぱ、悪い女だ! いや、今はそんなのどうでもいい。さぁ、どう切り返す?)
いっそ、異世界人と言ってしまうか?
いや、それだと不信感を買う。
マヨマヨが王都を襲撃して以降、彼らは異世界人であるマヨマヨを警戒している。
そんな状況で異世界人ですと告白したら、どんな反応を示すか?
(あ、マヨマヨ……)
マヨマヨの単語で思い出した。
強硬派のマヨマヨたちに怪しい動きがあることを。
でも、
(今ここでそれを言うと、ますます怪しまれる……やっばいなぁ、重要な情報なのにっ)
あんまり悩んでいる時間はない。
急ぎ頭をこねくり回して出た結論は……困った時のサシオン頼りだった。
「私は……サシオン様の下で様々な教育を受けていましたので」
「なるほど。サシオン殿の下で。たしかに、あなたはサシオン殿に重宝されていたと聞き及んでいますが……便利屋でしたか? ともかく、民間の部隊のようなものだったはず。その民間人がサシオン様から何を?」
「表向きは便利屋です」
「表向きとは?」
「はい。もはや隠す必要はないでしょう。私はサシオン様の下で隠密として働いていました」
「なっ!?」
会議室にでっかいビックリマークが浮かぶ。
ティラも驚きに目を見開いている。
俺は彼らの驚きをよそに言葉を続ける。
「サシオン様はご自身が動きづらい事件などを私に任されていました。最後に受けたのは密命……ブラン様の救出です。あの方は万が一の場合に備えて、このような命を下していました。『私が不甲斐なく女王を守りきれぬときは、ブラン殿下を頼んだ』と」
言葉が終えると同時に、ざわめきが会議室を覆いつくす。
彼らは口々にサシオンを褒め称える。
「まさに忠孝の士。ブラウニーと六龍が支配する王都で、彼は孤軍奮闘とされていたのであろうな」
「死して尚も、忠義を通すか。正に騎士の鑑である」
「実力は六龍に勝るともいうサシオン殿。王都にサシオンありと知らしめるだけのことはありますな」
彼らは皆、サシオンの実力を知る者たち。
そこから俺の嘘話を、真実の話と捉えているようだ。
もっとも、実際のところ一部は本当だし、町の声を拾う軽めの隠密っぽい扱いだったし……他にも、俺自身の黒騎士を撃退した功績と、ティラ救出の功労が後押ししているんだと思う。
皆の様子を見て、俺はホッとする。
(まさか、ここで隠密設定が生きるとは思わなかった)
すると、ポヴィドル子爵もまた皆と同じように感じたのか、席を立ち、俺に頭を下げてきた。
「申し訳ない。そのような任を負っておられたあなたを疑ってしまい」
「いえ、元は子爵のような高貴な出ではなく、何も知らない庶民であることはたしかですから」
畏まりつつ、嫌みを言葉に乗せておく。
その嫌味にさぞ気まずそうな態度を取るだろうなぁ、と思いきや、子爵は奇妙な言葉を漏らす。
「庶民であれ、教育を受けていれば、変わる……厳しい現実ですね。立場もありません」
彼は再度こちらに頭を下げ、席に着いた。
俺は彼の態度を妙に感じて頭を悩ますが、その悩みを消し去る、か細い声が届く。
「ヤツハ」
目の前に座るティラがこちらを向いて、寂しげな瞳で見つめてくる。
それはおそらく、友ではなく、命令で救いに来たことを寂しく思っているんだろう。
俺は一歩、ティラに近づき、他の誰にも気づかれぬように彼女の背中に文字を書いた。
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