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第二十五章 歯車は回る。虚ろな道を歩むために
狂宴の開幕
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王都サンオンと要塞都市リーベンの間にある『シオンシャ大平原』。
この平原は俺が初めてアクタへ訪れた場所。
戦場となるのはあの場所よりも離れているが……奇妙な縁というものを感じる。
その思い出深い平原にて、クラプフェン率いるブラウニー軍は翼を広げる大鷲のように大きく広がっていた。
それはまるで、王の偉大なる御手を見せつけるかのように。
彼らが用いるは、戦力差を生かしてこちらを包囲し殲滅する陣形。
対する俺たちブラン軍は、小さなヒョウトウの林を背に陣を構える。
先軍に最も勇猛果敢なライカンスロープ軍と剛勇たるドワーフ軍を置き、中軍は厚く構え、後軍にてブランが指揮を執る。
さらに左軍、右軍を置き、敵の包囲策を妨害する。
互いに陣を構え、仲間のみんなは必要な配置につき、戦争の準備は万端。
俺もこれから行う作戦通り、一般の兵士に紛れて待機していた。
淡々と進んでいく、戦争へのプロセス。
俺はこれらに対して、ちょっとした不満を漏らす。
「なんだろうね、この味気無さは? 互いの代表が出てきて口上を述べたりしないの?」
すると、ウードがふわりと現れて、艶やかな笑みを落とす。
「フフ、やぁやぁ我こそは……なんて見たいの?」
「いや、そういうことじゃなくてさ。クラプフェンがブラウニーの正道を高らかに唱え、対するティラがブラウニーの愚行とプラリネ様の理想とティラ自身の正道を訴えるとかさ」
「そんなもの今さらでしょう。たとえ行ったとしても、戦場は広くてほとんどの兵に聞こえないわよ」
「そこは演説の時と同じように魔力で声を増幅させて、何とかみんなに伝えてさ。少なくとも、相手の将官クラスには訴えられるんじゃないのかな?」
「で、寝返ると?」
「それは……ないだろうけど。士気ぐらいは下がるかも」
「そのために互いの代表が顔と顔を突き合わす? 危険を冒して?」
「う……じゃ、じゃあさ、せめて陣立て合戦とかさ」
「陣立て合戦?」
「ちょっといいか」
俺は周りの兵士に気づかれないようにこっそりと離れて、ウードに説明をする。
説明は以下の通り……弁士風味で。
――――
両軍合わせ二十と七万の大軍が対峙する、ベンベン!
六龍筆頭クラプフェンは軍の先に立ち、全軍の指揮を執った。
密集していた軍は速やかに陣の形を取り、彼はブランに問う、ベベン。
「八門金鎖の陣。反逆の女王ブラン! これを破れますか?」
それを受けて、ブランもまた全軍に指揮を送る。
「当たり前であろう!」
戦場に太鼓の音が鳴り響く。
すると、音の動きに合わせ踊るようにブラン軍は瞬く間に陣を形成したのであった、ベベベン。
「長蛇捲地の陣 ! この天衣無縫の陣を以って相手しよう!!」
――――
「てな、感じでさ」
説明を終えて、ウードを見る。
すると、彼女は頭を抱えて、首を横に振っていた。
「あのね…………漫画の読みすぎよ」
「な、なんだよ? こんなのちょっとカッコいいじゃん」
俺はぷくっと頬を膨らませて抗議をする。
それに対しウードはというと、冷めた目を見せて小さな息をついた。
(なんだ、この感じ? 何か覚えがあるぞ……あっ、あれだ。はしゃいでる男子を見る女子の目だ)
こっちが楽しくやってるのに、女子どもはそれを呆れたように、いや、見下したように見やがるっ。これはその時に女子が見せる目だ。
「この~、お前の目を見てると小学生の時のことを思い出してムカつくわ~」
「何を思い出したか知らないけど……あなた、精神年齢下がってない?」
「そんなことは……」
俺は言い淀む。
それはなんとなく俺自身も感じていたことだからだ。
さらには心当たりまである。
(ヤツハの心が薄れていくたびに、少しガキっぽくなってる気がする。まさか、性別のせいか?)
男と女の心を比べた場合、女性の方が先に成熟するなんて話を聞いたことがある。
その話は定かではないけど、女性の脳を得て、それは多少なりとも笠鷺の心に影響があり、子どもっぽさが消えていたのかもしれない。
だけど今は、笠鷺の心からヤツハの心が離れてしまったために、精神年齢が中学生男子に戻ってきた?
俺は腕を組んで、昔の自分がどんなだったかを思い出そうとする。
しかし、それをウードの文句が邪魔をした。
「まったく、これから戦争だというのに、あまりバカをやらないで欲しいわ」
「なにぃ、これから戦争だからこそ、肩の力を抜いてんじゃないかっ」
「抜きすぎ。適度な緊張感は持ちなさい。それにさっきの陣形だって」
「なんだよ?」
「両方とも奇門遁甲を元にした陣形だけど、どちらかというと占いじみたものよ」
「え、そうなんだ……? てか、きもんとんこうって?」
「はぁ、あとで引き出しを覗きなさい」
ウードは俺の間の抜けた返しにため息をつく。
そこから、今までの話題を捨て去り、クラプフェンの陣へと目を向けた。
その目には緊張が走る。
「後方の補給は厚く、左軍と右軍の動きが中軍と比べ、僅かだけど緩慢。また、中軍は巧みな用兵で数を多く見せているけど、その実は必要最低限……来るわよ!」
「お前の予想通りってことか」
俺はブラウニー軍の左と右の軍を見つめた。
両軍ともにクラプフェンが大将を務めるだけあって整然としている。
だが、戦争に望む気迫が中軍と比べ欠けている。
さらには、ウードの指摘通り、前面に出ている中軍の数を多く見せているが、その背後に続く数は少ない。
次にブラン軍の後方へ視線を送る。
あそこにはこちらの大切な女王ブランがいる。
そして、傍には護衛としてセムラさんが。
視線を外し、軍全体を見回す。
戦争を前にして、皆は手に持つ槍、弓、杖を両手で握り締め、震えている。
それは武者震いか。あるいは怯えか……。
「何がどうあれ、多くが命を失うのか」
「そうね。そろそろ、始まるわよ。玉座を争う戦い。乾いた大地を血で潤わせ、厳冬を狂乱の熱で染める戦いが」
何を想像しているのか、ウードは腐臭の漂う笑顔を産む。
目に入れ難き姿から、視線を前へ向ける。
ブラン軍とブラウニー軍が対峙する平原の合間に、両軍の旗を持つ馬兵が左右に現れた。
ブラウニーを表す、双子の片翼の左翼を印す赤い旗を掲げる兵は右に。
ブランを表す、双子の片翼の右翼を印す青い旗を掲げる兵は左に。
両者は戦場の中央を駆けていく。
彼らが互いに横切り合い、右翼が右に納まり、左翼が左に納まると、大きな角笛が鳴り響く。
遥か後方にいるはずのティラの声が戦場を駆け巡る。
それは力強く、耳が遠くにあろうと心を震えさせるもの。
『全軍へ告ぐ! 女神の恩寵授かりし王都を凌辱する偽王ブラウニーに、真実の剣を突き立てよ! 先軍、突撃! 中軍、後軍も後に続けぇぇぇ!』
戦いの火蓋は切られた――。
ついに、戦争が始まる。
この平原は俺が初めてアクタへ訪れた場所。
戦場となるのはあの場所よりも離れているが……奇妙な縁というものを感じる。
その思い出深い平原にて、クラプフェン率いるブラウニー軍は翼を広げる大鷲のように大きく広がっていた。
それはまるで、王の偉大なる御手を見せつけるかのように。
彼らが用いるは、戦力差を生かしてこちらを包囲し殲滅する陣形。
対する俺たちブラン軍は、小さなヒョウトウの林を背に陣を構える。
先軍に最も勇猛果敢なライカンスロープ軍と剛勇たるドワーフ軍を置き、中軍は厚く構え、後軍にてブランが指揮を執る。
さらに左軍、右軍を置き、敵の包囲策を妨害する。
互いに陣を構え、仲間のみんなは必要な配置につき、戦争の準備は万端。
俺もこれから行う作戦通り、一般の兵士に紛れて待機していた。
淡々と進んでいく、戦争へのプロセス。
俺はこれらに対して、ちょっとした不満を漏らす。
「なんだろうね、この味気無さは? 互いの代表が出てきて口上を述べたりしないの?」
すると、ウードがふわりと現れて、艶やかな笑みを落とす。
「フフ、やぁやぁ我こそは……なんて見たいの?」
「いや、そういうことじゃなくてさ。クラプフェンがブラウニーの正道を高らかに唱え、対するティラがブラウニーの愚行とプラリネ様の理想とティラ自身の正道を訴えるとかさ」
「そんなもの今さらでしょう。たとえ行ったとしても、戦場は広くてほとんどの兵に聞こえないわよ」
「そこは演説の時と同じように魔力で声を増幅させて、何とかみんなに伝えてさ。少なくとも、相手の将官クラスには訴えられるんじゃないのかな?」
「で、寝返ると?」
「それは……ないだろうけど。士気ぐらいは下がるかも」
「そのために互いの代表が顔と顔を突き合わす? 危険を冒して?」
「う……じゃ、じゃあさ、せめて陣立て合戦とかさ」
「陣立て合戦?」
「ちょっといいか」
俺は周りの兵士に気づかれないようにこっそりと離れて、ウードに説明をする。
説明は以下の通り……弁士風味で。
――――
両軍合わせ二十と七万の大軍が対峙する、ベンベン!
六龍筆頭クラプフェンは軍の先に立ち、全軍の指揮を執った。
密集していた軍は速やかに陣の形を取り、彼はブランに問う、ベベン。
「八門金鎖の陣。反逆の女王ブラン! これを破れますか?」
それを受けて、ブランもまた全軍に指揮を送る。
「当たり前であろう!」
戦場に太鼓の音が鳴り響く。
すると、音の動きに合わせ踊るようにブラン軍は瞬く間に陣を形成したのであった、ベベベン。
「長蛇捲地の陣 ! この天衣無縫の陣を以って相手しよう!!」
――――
「てな、感じでさ」
説明を終えて、ウードを見る。
すると、彼女は頭を抱えて、首を横に振っていた。
「あのね…………漫画の読みすぎよ」
「な、なんだよ? こんなのちょっとカッコいいじゃん」
俺はぷくっと頬を膨らませて抗議をする。
それに対しウードはというと、冷めた目を見せて小さな息をついた。
(なんだ、この感じ? 何か覚えがあるぞ……あっ、あれだ。はしゃいでる男子を見る女子の目だ)
こっちが楽しくやってるのに、女子どもはそれを呆れたように、いや、見下したように見やがるっ。これはその時に女子が見せる目だ。
「この~、お前の目を見てると小学生の時のことを思い出してムカつくわ~」
「何を思い出したか知らないけど……あなた、精神年齢下がってない?」
「そんなことは……」
俺は言い淀む。
それはなんとなく俺自身も感じていたことだからだ。
さらには心当たりまである。
(ヤツハの心が薄れていくたびに、少しガキっぽくなってる気がする。まさか、性別のせいか?)
男と女の心を比べた場合、女性の方が先に成熟するなんて話を聞いたことがある。
その話は定かではないけど、女性の脳を得て、それは多少なりとも笠鷺の心に影響があり、子どもっぽさが消えていたのかもしれない。
だけど今は、笠鷺の心からヤツハの心が離れてしまったために、精神年齢が中学生男子に戻ってきた?
俺は腕を組んで、昔の自分がどんなだったかを思い出そうとする。
しかし、それをウードの文句が邪魔をした。
「まったく、これから戦争だというのに、あまりバカをやらないで欲しいわ」
「なにぃ、これから戦争だからこそ、肩の力を抜いてんじゃないかっ」
「抜きすぎ。適度な緊張感は持ちなさい。それにさっきの陣形だって」
「なんだよ?」
「両方とも奇門遁甲を元にした陣形だけど、どちらかというと占いじみたものよ」
「え、そうなんだ……? てか、きもんとんこうって?」
「はぁ、あとで引き出しを覗きなさい」
ウードは俺の間の抜けた返しにため息をつく。
そこから、今までの話題を捨て去り、クラプフェンの陣へと目を向けた。
その目には緊張が走る。
「後方の補給は厚く、左軍と右軍の動きが中軍と比べ、僅かだけど緩慢。また、中軍は巧みな用兵で数を多く見せているけど、その実は必要最低限……来るわよ!」
「お前の予想通りってことか」
俺はブラウニー軍の左と右の軍を見つめた。
両軍ともにクラプフェンが大将を務めるだけあって整然としている。
だが、戦争に望む気迫が中軍と比べ欠けている。
さらには、ウードの指摘通り、前面に出ている中軍の数を多く見せているが、その背後に続く数は少ない。
次にブラン軍の後方へ視線を送る。
あそこにはこちらの大切な女王ブランがいる。
そして、傍には護衛としてセムラさんが。
視線を外し、軍全体を見回す。
戦争を前にして、皆は手に持つ槍、弓、杖を両手で握り締め、震えている。
それは武者震いか。あるいは怯えか……。
「何がどうあれ、多くが命を失うのか」
「そうね。そろそろ、始まるわよ。玉座を争う戦い。乾いた大地を血で潤わせ、厳冬を狂乱の熱で染める戦いが」
何を想像しているのか、ウードは腐臭の漂う笑顔を産む。
目に入れ難き姿から、視線を前へ向ける。
ブラン軍とブラウニー軍が対峙する平原の合間に、両軍の旗を持つ馬兵が左右に現れた。
ブラウニーを表す、双子の片翼の左翼を印す赤い旗を掲げる兵は右に。
ブランを表す、双子の片翼の右翼を印す青い旗を掲げる兵は左に。
両者は戦場の中央を駆けていく。
彼らが互いに横切り合い、右翼が右に納まり、左翼が左に納まると、大きな角笛が鳴り響く。
遥か後方にいるはずのティラの声が戦場を駆け巡る。
それは力強く、耳が遠くにあろうと心を震えさせるもの。
『全軍へ告ぐ! 女神の恩寵授かりし王都を凌辱する偽王ブラウニーに、真実の剣を突き立てよ! 先軍、突撃! 中軍、後軍も後に続けぇぇぇ!』
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