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第三十章 ある一つの結末
紡がれた絆
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フォレの問いが草原に広がる。
しかし、笠鷺はまともな答えも返せず、自分を守ってくれた騎士の前で呆然とし続ける。
フォレは再び問う。
「……何故かはわかりませんが。あなたからは懐かしい人を感じてしまう。あなたは、あなたはっ、一体っ!?」
「そ、それは……」
彼の問いかけに答えようと、笠鷺は言葉を産もうとした。
そこに激昂が貫いた!
「フォレぇぇぇ!!」
ウードが大気を引き裂く絶叫を走らせる。
彼女は激情に呑まれ、巨大な魔力が宿る魔法弾をフォレに放とうとした。
しかしっ!
<だめぇぇぇぇ!!>
ウードの傍で少女のヤツハが叫び、彼女の腕を掴んだ。
それにより、巨大な魔法弾を大きくぶれて、空の彼方へと吸い込まれていった。
「この、下婢の分際でぇぇ!!」
ウードは少女を言葉で殴りつける。
少女の存在は無残にも切り裂かれ、霧散してしまった。
それは笠鷺以外、見ることのできない傷ましい光景。
しかし、皆は聞こえていた。
あの、懐かしい声を。
フォレは混乱の中で、一人疑問を呟く。
「今の声は……ヤツハさん? いや、それにしては幼いような……」
「ヤツハだよ」
「え?」
背後にいる笠鷺が声を上げた。
フォレは彼に疑問をぶつける。
「どういうことですか?」
「あれはヤツハだ。命懸けでヤツハが守ってくれたんだ!」
「何を言っているんですか、あなたは? そもそも、あなたは一体、何者なんですか!?」
「俺はヤツ……」
笠鷺は迷う。
自身をなんと表そうかと……そうして、迷い迷いて生まれた言葉はこうだった。
「俺は、ヤツハの兄だ」
「ヤツハさんの?」
「そして、目の前にいるのはヤツハの姉、ウード」
「ヤツハさんのお姉さん?」
彼は空に浮かぶウードを見上げる。
その姿はヤツハと瓜二つ。
そこに、何ら違いはない。
戸惑うフォレに対して、笠鷺は言葉を続ける。
「ヤツハの中にはウードという姉の魂が眠っていた。そのウードは時を掛け、ヤツハを乗っ取った。そして、ヤツハから全てを奪った」
「全てを……」
「最期のヤツハの声。あれは俺たちを……いや、お前を守るために自分の命を使った声だ。ヤツハはもう……」
「そ、そんな……」
「到底、信じてもらえないだろうけど、これは事実だ!!」
「そんな、そんなわけ……」
フォレはわなわなと全身を震わせる。
耳奥にはヤツハの言葉がずっと木霊している。
<だめぇぇぇぇ!!>
フォレの瞳から涙が溢れ出す。
その姿を目にしてウードが声を張り上げた。
「フォレ、しっかりしろ。そんな男の言葉を信じるのかっ!?」
「ヤ、ツハさん……」
「さっきは俺も悪かった。お前がいきなり敵の味方をするからつい……。本当に、ごめんな」
ウードはヤツハの皮を被り、謝罪を繰り返す。
それはフォレの知るヤツハの姿。
だけど、彼の心には幼いヤツハの悲鳴に混じり、か細い声が聞こえる。
<だめ>
それはウードから迫られ、口づけを交わそうとした時の言葉。
そう、フォレは聞いている。
ヤツハの声を……。
(そうか、あの時、ヤツハさんが止めてくれたんだ)
ヤツハの声が、フォレを確信へと至らせる。
彼は剣を…………ウードへと向けた。
「お前は……ヤツハさんではない!」
「な、何を言ってんだよっ、フォレ! なぁ、みんなもフォレを説得してくれ。きっと、変な術を掛けられてるんだ」
パティ、アマン、エクレル、クレマ、ティラは戸惑いを見せる。
今のヤツハには、たしかにおかしなところはある。
だからといって、刃を向けるほどの確証はなかった。
しかし、一人の少女は確信をもって、空に浮かぶヤツハを否定した。
「あの女はヤツハじゃないっ!」
アプフェルは高らかに宣言し、全身に魔力を纏いながらフォレの傍に近づいていく。
そして彼へ、内に秘めた思いを解き放つように話しかけた。
「本当に、フォレ様がヤツハに剣を向ける日が来ると思いませんでした。でも、その時が来た。だから、もう、私は自分を誤魔化す必要がない!」
「アプフェル?」
「あの人は言っていた。ヤツハはおかしくなると。その時、フォレ様はヤツハに剣を向けると。その日まで仲間を助けてやってくれと。ようやく約定を果たす時がきた!」
アプフェルは笠鷺に顔を向ける。
「あいつの名はウードでいいのね?」
「え? うん、そうだけど……」
「そ。まったく、それくらいは教えて欲しかったよ。ま、色々と不都合があるんだろうけど」
彼女の言葉に、笠鷺は眉を顰めたが、アプフェルは答えることなくウードを睨みつける。
「ウード! よくも今まで大切な友達を苦しめてくれたね。きっちりお返しをしてあげるから!!」
「アプフェル、お前まで何をっ? なぁ、みんな、二人を説得してくれっ!」
ウードは残る仲間たちに視線を飛ばす。
だが――。
「ふぅ~、アプフェルさんがそう仰るならそうなんでしょうね」
パティは一歩前に出る。
「よくわかりませんが、フォレさんとアプフェルがヤツハさんではないと言うならば、ヤツハさんではないのでしょう」
アマンが続く。
「どうりで、可愛らしさが無くなっていたのね。もう、私としたことが愛弟子を見抜けないなんて」
「それはあたいも同じだぜ。大事な姉御だってのに、すっかり騙されちまった」
「うむ、わたしもまた、六龍として未熟であるな」
エクレル、クレマ、ノアゼットが続く。
そして――。
「王として友を見間違うとは、情けないことだ。しかし、これまでの非道。ヤツハではなかったことにホッとしておる」
ティラが続く。彼女の背後には大勢の騎士たち。
彼らはウードから笠鷺を守るように、壁を築いた。
それは――絶対に訪れるはずのない奇跡。
笠鷺は仲間たちの背中を目にして、涙が零れ落ちる。
それを悟られないように、彼は何度も涙を拭った。
ティラは背を向けたまま、笠鷺に問う。
「少年よ、ヤツハはどうなったのだ?」
「ウードからはヤツハの気配を感じない。残念だけど……」
「そうか……そうか……ピケが、悲しむのぉ……」
ティラは涙は決して流さず、言葉だけに悲しみを満たす。
そしてっ!
「皆の者、ヤツハの弔い合戦だ! 心してかかれぇ!」
「はっ!」
女王の騎士たちは一斉に剣を抜いた。
彼らの雄姿を、ウードは凍りついた瞳に映す。
「はぁ~、何を言っても無駄そうね。わかったわ。じゃあ、仕方ない……仲良しごっこもこれまでね」
ウードはゆっくりと魔力を高めていく。
赤と黒が混じり合う穢れが、彼女を包む。
穢れた色に、世界は怯え、地は震える。
その震える大地を二本の足でしっかりと踏みつけながら、フォレが声を出し、アプフェルが答えた。
「これがあの女の本気というわけか」
「なんて、恐ろしい力なの」
「アプフェル、私たちは勝てると思うかい?」
「勝ちます! そして、ヤツハを助けて見せる」
「え? ヤツハさんはもう……」
「私もどうなるかは知りません。でも、まだ希望が残っているはず」
「よくわからないけど、アプフェルには何かが見えているようだね。ならば、君を信じるよ」
「フォレ様……」
「ウードを倒し、ヤツハさんを救おう」
「ええ、もちろんです!」
フォレとアプフェルは剣と拳を合わせ、そして、ウードへ向けた。
ヤツハの仲間たちもまた、ウードへ刃を向ける。
それらを目にして、ウードは冷たく笑った。
「フフフ、相手が私だけだと思ってるの? マヨマヨっ!」
ウードはマヨマヨの名を呼んだ。
そう、彼女にはマヨマヨがいる。
自分の世界へ戻ることを渇望するマヨマヨたちが!
フォレたちはマヨマヨたちへ一斉に目を向けた。
彼らもまた、フォレたちに目を向ける。
だが――
「私は、迷い迷いて迷いざるを得ない旅人に道の幸福を与えんと旅をしてきた。その道中に、お前と与する道はない」
マヨマヨの一団から機械のような抑揚のない声が響く。
そこから白い襤褸を纏ったマヨマヨが現れた。
離れて様子を見ていた黒いマヨマヨのキタフが呟く。
「穏健派の……」
「久しぶりだな、キタフ。挨拶が遅れてすまない」
「そんなことはどうでもいいが、よいのか?」
「たしかに、我らが世界へ帰還するためには、自在に操れる亜空間魔法の力は必要だ。だが、その魔法、そこな少年にも使用できるのではないか、キタフ?」
「ああ、できるが……なるほど、そういうことか」
白いマヨマヨは笠鷺に顔を向ける。
「少年よ、この戦いの後に、我々の帰還のための力添えを願いたい」
「それはもちろんです」
「契約は結ばれた。もはや、迷いなどはない。よって、ヤツハ。いや、ウードよ。我々はお前と敵対する」
「なんですってぇぇぇ!?」
マヨマヨたちは一斉に浮かび上がり、ウードを取り囲んんだ。
地上にはフォレたち。空にはマヨマヨ。
ウードはただ一人……。
笠鷺は目の前に広がる光景を夢のように感じ、奇妙な笑いを産む。
「ふは、ふへ、ははは」
「何、笑ってんだよ、あんちゃん?」
「え?」
いつの間にか背後にバーグがいた。
「ほれ、肩を貸してやるからここから離れるぞ」
「だけど……」
「だけどじゃねぇよ。あんちゃんは戦える状態じゃねぇだろ」
「それは……」
「そういうことだ。フォレ殿。俺たちは後方に下がっていいよな?」
「ええ。しかし、あなたとは奇妙な縁ですね」
「だなっ」
シュラク村を焼いたバーグ。黒騎士との戦いに傷ついたフォレ。
そして、大きな傷を負ったヤツハ。
許すことのできない敵。
だけど今は……。
「彼のことをお願いします」
「ああ、任せとけ!」
バーグは笠鷺を支え、戦いの場から離れていく。
「大丈夫か、あんちゃん?」
「なんとかね……」
「落ち着いたら、俺の魔力を分けてやる。それで回復魔法でも唱えな」
「いや、このままの状態でいい」
「何を言ってんだ?」
「これからの戦いは激しいもの。おっさんは全力を注いで凌いでくれ」
「そりゃそうするけど、あんちゃんの回復くらいは」
「大丈夫だって。致命傷はないから。それに、この姿の方が油断を誘える」
「……そっか、まだ切り札を使っていなかったな」
「フォレたちがウードを倒せるならそれでいい。だけど、できなかった時のためのことは考えておかないと。そのためにはあまりここから離れるわけにはいかない」
「じゃ、どうする?」
「おっさんがギリギリ凌げる程度の距離で、機会を窺う。そして……」
笠鷺は草原のある一点を見つめた。
「絶望の中にある希望を手にするさ……」
しかし、笠鷺はまともな答えも返せず、自分を守ってくれた騎士の前で呆然とし続ける。
フォレは再び問う。
「……何故かはわかりませんが。あなたからは懐かしい人を感じてしまう。あなたは、あなたはっ、一体っ!?」
「そ、それは……」
彼の問いかけに答えようと、笠鷺は言葉を産もうとした。
そこに激昂が貫いた!
「フォレぇぇぇ!!」
ウードが大気を引き裂く絶叫を走らせる。
彼女は激情に呑まれ、巨大な魔力が宿る魔法弾をフォレに放とうとした。
しかしっ!
<だめぇぇぇぇ!!>
ウードの傍で少女のヤツハが叫び、彼女の腕を掴んだ。
それにより、巨大な魔法弾を大きくぶれて、空の彼方へと吸い込まれていった。
「この、下婢の分際でぇぇ!!」
ウードは少女を言葉で殴りつける。
少女の存在は無残にも切り裂かれ、霧散してしまった。
それは笠鷺以外、見ることのできない傷ましい光景。
しかし、皆は聞こえていた。
あの、懐かしい声を。
フォレは混乱の中で、一人疑問を呟く。
「今の声は……ヤツハさん? いや、それにしては幼いような……」
「ヤツハだよ」
「え?」
背後にいる笠鷺が声を上げた。
フォレは彼に疑問をぶつける。
「どういうことですか?」
「あれはヤツハだ。命懸けでヤツハが守ってくれたんだ!」
「何を言っているんですか、あなたは? そもそも、あなたは一体、何者なんですか!?」
「俺はヤツ……」
笠鷺は迷う。
自身をなんと表そうかと……そうして、迷い迷いて生まれた言葉はこうだった。
「俺は、ヤツハの兄だ」
「ヤツハさんの?」
「そして、目の前にいるのはヤツハの姉、ウード」
「ヤツハさんのお姉さん?」
彼は空に浮かぶウードを見上げる。
その姿はヤツハと瓜二つ。
そこに、何ら違いはない。
戸惑うフォレに対して、笠鷺は言葉を続ける。
「ヤツハの中にはウードという姉の魂が眠っていた。そのウードは時を掛け、ヤツハを乗っ取った。そして、ヤツハから全てを奪った」
「全てを……」
「最期のヤツハの声。あれは俺たちを……いや、お前を守るために自分の命を使った声だ。ヤツハはもう……」
「そ、そんな……」
「到底、信じてもらえないだろうけど、これは事実だ!!」
「そんな、そんなわけ……」
フォレはわなわなと全身を震わせる。
耳奥にはヤツハの言葉がずっと木霊している。
<だめぇぇぇぇ!!>
フォレの瞳から涙が溢れ出す。
その姿を目にしてウードが声を張り上げた。
「フォレ、しっかりしろ。そんな男の言葉を信じるのかっ!?」
「ヤ、ツハさん……」
「さっきは俺も悪かった。お前がいきなり敵の味方をするからつい……。本当に、ごめんな」
ウードはヤツハの皮を被り、謝罪を繰り返す。
それはフォレの知るヤツハの姿。
だけど、彼の心には幼いヤツハの悲鳴に混じり、か細い声が聞こえる。
<だめ>
それはウードから迫られ、口づけを交わそうとした時の言葉。
そう、フォレは聞いている。
ヤツハの声を……。
(そうか、あの時、ヤツハさんが止めてくれたんだ)
ヤツハの声が、フォレを確信へと至らせる。
彼は剣を…………ウードへと向けた。
「お前は……ヤツハさんではない!」
「な、何を言ってんだよっ、フォレ! なぁ、みんなもフォレを説得してくれ。きっと、変な術を掛けられてるんだ」
パティ、アマン、エクレル、クレマ、ティラは戸惑いを見せる。
今のヤツハには、たしかにおかしなところはある。
だからといって、刃を向けるほどの確証はなかった。
しかし、一人の少女は確信をもって、空に浮かぶヤツハを否定した。
「あの女はヤツハじゃないっ!」
アプフェルは高らかに宣言し、全身に魔力を纏いながらフォレの傍に近づいていく。
そして彼へ、内に秘めた思いを解き放つように話しかけた。
「本当に、フォレ様がヤツハに剣を向ける日が来ると思いませんでした。でも、その時が来た。だから、もう、私は自分を誤魔化す必要がない!」
「アプフェル?」
「あの人は言っていた。ヤツハはおかしくなると。その時、フォレ様はヤツハに剣を向けると。その日まで仲間を助けてやってくれと。ようやく約定を果たす時がきた!」
アプフェルは笠鷺に顔を向ける。
「あいつの名はウードでいいのね?」
「え? うん、そうだけど……」
「そ。まったく、それくらいは教えて欲しかったよ。ま、色々と不都合があるんだろうけど」
彼女の言葉に、笠鷺は眉を顰めたが、アプフェルは答えることなくウードを睨みつける。
「ウード! よくも今まで大切な友達を苦しめてくれたね。きっちりお返しをしてあげるから!!」
「アプフェル、お前まで何をっ? なぁ、みんな、二人を説得してくれっ!」
ウードは残る仲間たちに視線を飛ばす。
だが――。
「ふぅ~、アプフェルさんがそう仰るならそうなんでしょうね」
パティは一歩前に出る。
「よくわかりませんが、フォレさんとアプフェルがヤツハさんではないと言うならば、ヤツハさんではないのでしょう」
アマンが続く。
「どうりで、可愛らしさが無くなっていたのね。もう、私としたことが愛弟子を見抜けないなんて」
「それはあたいも同じだぜ。大事な姉御だってのに、すっかり騙されちまった」
「うむ、わたしもまた、六龍として未熟であるな」
エクレル、クレマ、ノアゼットが続く。
そして――。
「王として友を見間違うとは、情けないことだ。しかし、これまでの非道。ヤツハではなかったことにホッとしておる」
ティラが続く。彼女の背後には大勢の騎士たち。
彼らはウードから笠鷺を守るように、壁を築いた。
それは――絶対に訪れるはずのない奇跡。
笠鷺は仲間たちの背中を目にして、涙が零れ落ちる。
それを悟られないように、彼は何度も涙を拭った。
ティラは背を向けたまま、笠鷺に問う。
「少年よ、ヤツハはどうなったのだ?」
「ウードからはヤツハの気配を感じない。残念だけど……」
「そうか……そうか……ピケが、悲しむのぉ……」
ティラは涙は決して流さず、言葉だけに悲しみを満たす。
そしてっ!
「皆の者、ヤツハの弔い合戦だ! 心してかかれぇ!」
「はっ!」
女王の騎士たちは一斉に剣を抜いた。
彼らの雄姿を、ウードは凍りついた瞳に映す。
「はぁ~、何を言っても無駄そうね。わかったわ。じゃあ、仕方ない……仲良しごっこもこれまでね」
ウードはゆっくりと魔力を高めていく。
赤と黒が混じり合う穢れが、彼女を包む。
穢れた色に、世界は怯え、地は震える。
その震える大地を二本の足でしっかりと踏みつけながら、フォレが声を出し、アプフェルが答えた。
「これがあの女の本気というわけか」
「なんて、恐ろしい力なの」
「アプフェル、私たちは勝てると思うかい?」
「勝ちます! そして、ヤツハを助けて見せる」
「え? ヤツハさんはもう……」
「私もどうなるかは知りません。でも、まだ希望が残っているはず」
「よくわからないけど、アプフェルには何かが見えているようだね。ならば、君を信じるよ」
「フォレ様……」
「ウードを倒し、ヤツハさんを救おう」
「ええ、もちろんです!」
フォレとアプフェルは剣と拳を合わせ、そして、ウードへ向けた。
ヤツハの仲間たちもまた、ウードへ刃を向ける。
それらを目にして、ウードは冷たく笑った。
「フフフ、相手が私だけだと思ってるの? マヨマヨっ!」
ウードはマヨマヨの名を呼んだ。
そう、彼女にはマヨマヨがいる。
自分の世界へ戻ることを渇望するマヨマヨたちが!
フォレたちはマヨマヨたちへ一斉に目を向けた。
彼らもまた、フォレたちに目を向ける。
だが――
「私は、迷い迷いて迷いざるを得ない旅人に道の幸福を与えんと旅をしてきた。その道中に、お前と与する道はない」
マヨマヨの一団から機械のような抑揚のない声が響く。
そこから白い襤褸を纏ったマヨマヨが現れた。
離れて様子を見ていた黒いマヨマヨのキタフが呟く。
「穏健派の……」
「久しぶりだな、キタフ。挨拶が遅れてすまない」
「そんなことはどうでもいいが、よいのか?」
「たしかに、我らが世界へ帰還するためには、自在に操れる亜空間魔法の力は必要だ。だが、その魔法、そこな少年にも使用できるのではないか、キタフ?」
「ああ、できるが……なるほど、そういうことか」
白いマヨマヨは笠鷺に顔を向ける。
「少年よ、この戦いの後に、我々の帰還のための力添えを願いたい」
「それはもちろんです」
「契約は結ばれた。もはや、迷いなどはない。よって、ヤツハ。いや、ウードよ。我々はお前と敵対する」
「なんですってぇぇぇ!?」
マヨマヨたちは一斉に浮かび上がり、ウードを取り囲んんだ。
地上にはフォレたち。空にはマヨマヨ。
ウードはただ一人……。
笠鷺は目の前に広がる光景を夢のように感じ、奇妙な笑いを産む。
「ふは、ふへ、ははは」
「何、笑ってんだよ、あんちゃん?」
「え?」
いつの間にか背後にバーグがいた。
「ほれ、肩を貸してやるからここから離れるぞ」
「だけど……」
「だけどじゃねぇよ。あんちゃんは戦える状態じゃねぇだろ」
「それは……」
「そういうことだ。フォレ殿。俺たちは後方に下がっていいよな?」
「ええ。しかし、あなたとは奇妙な縁ですね」
「だなっ」
シュラク村を焼いたバーグ。黒騎士との戦いに傷ついたフォレ。
そして、大きな傷を負ったヤツハ。
許すことのできない敵。
だけど今は……。
「彼のことをお願いします」
「ああ、任せとけ!」
バーグは笠鷺を支え、戦いの場から離れていく。
「大丈夫か、あんちゃん?」
「なんとかね……」
「落ち着いたら、俺の魔力を分けてやる。それで回復魔法でも唱えな」
「いや、このままの状態でいい」
「何を言ってんだ?」
「これからの戦いは激しいもの。おっさんは全力を注いで凌いでくれ」
「そりゃそうするけど、あんちゃんの回復くらいは」
「大丈夫だって。致命傷はないから。それに、この姿の方が油断を誘える」
「……そっか、まだ切り札を使っていなかったな」
「フォレたちがウードを倒せるならそれでいい。だけど、できなかった時のためのことは考えておかないと。そのためにはあまりここから離れるわけにはいかない」
「じゃ、どうする?」
「おっさんがギリギリ凌げる程度の距離で、機会を窺う。そして……」
笠鷺は草原のある一点を見つめた。
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