マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第三十章 ある一つの結末

絶大なる者

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 空には、友なく仲間なくウード一人。
 それを囲む、マヨマヨたち。
 地上にはヤツハの友と仲間たち。


 彼らはウードへ一斉に攻撃を仕掛けた。
 マヨマヨたちは遥か先の世に在る兵器を振るい、ウードの魔力を阻害するフィールドを形成して、彼女を弱体化しようと試みる。
 しかし、ウードが左手に魔力を籠めて大きく横に薙ぎ払っただけで、空に漂っていたマヨマヨたちは吹き飛ばされ、多くは地面に叩きつけられた。

 アプフェルが巨雷を放ち、パティが深淵でウードを包む。
 ウードは右手を振るい、それらを弾き飛ばす。

 クラプフェンが飛び上がり、切りつける。
 ウードは亜空間から槍を産み、剣撃を受け止め、返しに突きを見舞う。
 クラプフェンの肩は穿たれ、地上に落ちていくが、他の六龍が彼を支える。
 ノアゼットはガントレットを砲台に変え、光でウードを飲み込む。だが、彼女に傷が刻まれることはない。


 セムラ、ケイン、パラティーゾが飛び上がりウードを囲んだ。そして、一斉に拳をぶつけるが、ウードは三つの拳の力を受け流し、返し手に掌底で彼らの内部に衝撃を走らせる。
 
 アレッテは光を産み、アマンは氷でレンズを形取った。
 光はレンズによって収束され、流れなき光でウードを焼き尽くす。しかし、彼女は空間を振動させて光を歪め、線の流れを乱しマフープへと還す。

 白と黒の相剋のマヨマヨは空間軸をずらし、ウードの周囲にあるマフープを消失させようと試みる。
 だが、ウードは空間魔法を用い、ズレる軸を乗っ取り、白と黒の位相をずらして彼らの存在を分子レベルに分解しようとした。
 
 そうはさせまいと、エクレルとクレマは亜空間魔法を産み、闇の中にウードを閉じ込めようとする。
 ウードもまた亜空間魔法を使い、その力を結界に溶け込ませる。
 エクレル、クレマの亜空間の力はウードの結界によってかき消され、結界の中には悠然と腕を組み、微笑みを見せているウードがいる。


 その微笑みを切り捨てるため、フォレは日本刀『ヤツハ』を使い、正面から切りかかった。
 ウードは槍を使い彼の剣を受けると、少し後ろへ飛び退き、突きを放つ。
 鋭き切っ先はフォレの頬をかすめる。

 フォレは槍が引き戻る瞬間を狙い、風の魔法に乗って一気に間合いを詰める。
 だが、ウードはその動きを読み、空間の壁をフォレの前に作りだした。
 その壁にフォレがぶつかると同時に彼女は空間の壁を右横に創り出し、その壁を蹴って飛び掛かり、槍で彼の心臓を捉える。

 フォレはその突きを辛うじて身をじり躱すが、ウードの猛追は留まることを知らず、振るった槍よりも早く、彼の傍に近づき、耳元で囁く。


「愛してるわよ、フォレ。あんな小娘よりも私との方が、体の相性いいかもよ、フフ」


 卑陋ひろうな愛の語らい。
 中に宿るは、ヤツハへの嘲罵ちょうば

 この言葉に、フォレの心から怒りが溢れ出す。
 彼は全身から魔力を放出し、その衝撃波でウードを突き放そうとした。
 しかし、彼の衝撃波をもろともせず、ウードは剣を持つ彼の手を強き力で握り締めて束縛する。

 そして、ねっとりとフォレの肉体に絡みつき、唇を重ねようとした。

「フォレ様から離れろっ!」

 アプフェルの声が空を裂き現れた。
 両拳にいかづちを纏い、ウードへ強襲を掛ける。

「無粋ね」
 ウードは小虫を払うかの如く、さっと片手を前に払った。
 払われた手からは空間の衝撃が生まれ、アプフェルへ襲いかかる。

 その衝撃がアプフェルに重なる瞬間、彼女は転送の流れに乗り、ウードの目の前に現れた。
 術を行使したのはエクレル。

 
 アプフェルの拳はウードの顔を捉える。
「くらえぇぇ!」
「馬鹿ね」

 顔に拳が当たる直前で、ウードは転送によって姿を消しつつ、アプフェルとフォレへ空間の衝撃をぶつけた。
 二人は地上へと追いやられ、地面に叩きつけられる直前でパティ、アマンに救われる。

 空にはウードを残し、全ては大地に張りつけられた。
 ウードは羽を持たず這いずり回るしか能のない地虫を見下すが如く、地上にいる者たちを天上の瞳で卑しめ続ける。

 
 クラプフェンは穿たれた肩を押さえ、声を震わせた。
「あの者の槍術は、達人と言っても差し支えないものです。さらに、我々の知る武術よりも洗練されている」
 
 武を知るセムラはウードの掌底によって衝撃が貫かれた腹を押さえる。
「その通りですな、クラプフェン殿。武道もまた、達人。この腹に残る衝撃、痺れ……これは発勁はっけい。並々ならぬ修練では身につかぬもの」

 魔導を知るエクレルと、頂に立つエルフのクレマは悲哀と悔しさを露わとする。
「魔導の変換効率。制御。次へ繋がる魔法への連携効果。才はもちろんのこと、よく学んでいるわね。これは私の責任……」
「一部はエルフのあたいでも知らない魔導体系を組み込んでやがる。くそっ、魔導の頂に立つと言われるエルフがこの様とは、情けなすぎるぜ」

 

 ウードは笠鷺と分離した後も、慢心することなく歩み続けた。
 彼女は自分の持つ力に、新たに得た知識を重ねていく。

 槍術、発勁。
 これらはウードが妲己だっきとして学んだこと。知っていたこと。
 槍術は戯れ程度ではあるが、殷の王・紂王から手ほどきを受けていた。
 発勁は概念を知っていた。
 それらに笠鷺の時代の知識を重ねる。

 長い時を得て、地球の槍術の歴史は磨かれ、それはアクタの武術を超えている。
 彼女はそれらの知識を笠鷺の記憶から学んだ。
 
 発勁もまた、そう……これは現在の地球にも存在する。
 それは気を放つなどという、空言ではない。
 力学として、あらゆるスポーツで利用されている。
 一例に野球やボクシング。

 足の踏み込み、筋肉の流れ、力の原理。
 そこから生まれる力を一点に集中することにより、常人では生み出せない球の速さ、拳の強さを生み出している。

 ウードは自身が知っていた発勁の概念に笠鷺の時代の知識を重ね、さらにそこに魔力を組み込むことで、セムラたちの肉体を突き通す、発勁として昇華したのだ。

 そして、魔導……ウードはヤツハであった笠鷺と違い、彼と別れた後も、エクレルからその知識を貪欲に吸収していた。
 マヨマヨの科学知識も同じ。


 ウードは自身が手に入れられるものは全て余すことなく取り込み、自分の血肉として蓄えていったのだ。


 ウードとは才と努力を知る存在。


 この場にいる者の、全てのを知り、力を上回る。
 ウードは色欲に満たされた唇に柔らかな笑みを乗せた。

「ふふ、どうやら、私は少し強くなりすぎたようね」

 彼女はパチリと指を跳ねた。
 同時に衝撃が空と大地を駆け巡る。

 衝撃は全ての存在は吹き飛ばし、彼らは草原を転がり続ける。
 その中には笠鷺も混じっていた。

 力をほとんど失った彼は衝撃に翻弄され、地面に身体を何度も打ちつけていく。
 だが、彼は草原に広がる名もなき雑草をしっかりと握り、衝撃に抗う。
 そして、這いずりながらも、ゆっくりと草原を移動していく。


 空から地上を見下していたウードが笠鷺の存在に気づいた。
「あら、笠鷺。まだ、生きてたのね。まるでゴキブリのよう」

 嘲笑し、笠鷺へ魔法弾を放った。
 彼はそれを制御し、自分の魔力へ変換しようと試みたが、傷の痛みと朦朧とする意識ではそれは叶わず、僅かに方向をずらすのがやっと。
 
 自分の傍に魔法弾が落ち、その衝撃で彼は吹き飛ばされる。
 身体は地面に叩きつけられ、痛みが全身を襲う。
 
 そこに再び、魔法弾が落ちてくる。
 その魔法弾もどうにか彼はずらす。

 しかし、地面を抉り取る衝撃と石礫は避けられない。

 笠鷺を救おうと、バーグが駆け寄ろうとした。
 フォレたちも支えようとした。
 
 だが、ウードはそれを許さず、彼らが近づけないように空間を遮断する。


「まったく、邪魔しないでよ。人の楽しみを」

 ウードはまたもや魔法弾を放つ。
 その魔法弾の力をわざと弱め、辛うじて笠鷺が方向を操作できる程度の威力と流れを持つものに――そう、この魔法弾は笠鷺を嬲るため。
 
 笠鷺の身体に石礫が食い込み、肉体は草と土と血に塗れた化粧に彩られていく。
 それでも、彼はここから逃れようと、草原を這いずる。

 その憐れで醜い姿に、ウードは恍惚を覚える。
 彼女は何度も、何度も、何度も、決して命を奪うことのない無慈悲な魔法弾を放つ。

 笠鷺は魔法弾をずらし、失いかけている体力を使って地面を蹴り、転がった。
 そして、そのままうつぶせの状態になり、動かなくなってしまった。

 彼は両手を地面の上でバタ狂わす。
 指先にこつりと、何かが当たった。
 彼はそれを両手で握り締め、仰向けになり、何とか半身を起こす。

 そして、両手に握りしめたモノを、ウードへ差し向けた。
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