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第7話 魚と言えば七輪だよね
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――お祭り
賑やかな調べと華やかな舞に、空の星々を焦がす煌々とした巨大な焚火。
竜神の贄となるナツメと言う少女を中心に据えて、私たちはぐるり囲み、座る。
目の前には豪勢な食事。木の実・山菜・焼き魚……豪勢かどうか微妙だけど、集落キワノでは豪勢なんじゃないかと思う。
祭りとはいえ、突然訪れた客に対して分け隔てなく食事を振舞ってもらっていることには感謝。
ちょっぴり贅沢を言えば、手掴みじゃなくて箸やフォークなどの食器類があると良かったかな。
隣に座るエイは集落の人に酒を勧められて、それを口にしている。
彼は踊りに視線を傾けながらも、その先で大勢の人たちに声を掛けられている贄の少女ナツメに意識を集めつつ、酒をちびちび飲んでいた。
その彼にこそりと話しかける。
「ねぇ、エイ。お酒とか飲めるの?」
「生身だと無理だよ。でも今は、この特殊ボディだからね。普段の俺たちは栄養を食事で摂取しないから、現地調査を行うときはこのスーツが重宝するよ」
「普通の食事もダメなんだ。じゃあ、普段はどうやって栄養を取るの?」
「精神エネルギーを肉体の活動エネルギーに変換してる」
「え?」
「そうだなぁ、君にわかりやすく言えば、電気を充電でして動いてる感じかな?」
「なんか機械的……」
「あくまでも例えだから実体は別物だよ。それよりも、君の方はどう? 彼らの食事は口に合ってる? こちらの食べ物は地球人の君が摂取しても問題ないものだけど、味の方は?」
「うん、木の実はちょっと苦みがあってだけど、この白身のお魚はすっごく美味しい。近くに海なんてないから、このお魚は川魚なのかな?」
「集落の近くに渓流があるからそこに棲む魚だろうね」
「渓流があるなら、そこから水を引っ張ってくるなり持ち運ぶなりすればいいのに……」
「彼らの未熟な技術だと、川と畑の高低差がネックになって、引っ張って来れないよ。人力で持ち運ぶには量が多すぎるし」
「それじゃあ、畑を低い位置に移動させればいいのに」
「残念だけど、それも無理。集落一帯の標高の低い土地は畑に不向き。だからと言って、土壌を改善する知識も技術も彼らにはないからね、あはは」
と言って、エイは小さな笑い声を立てた。
姿はイケメンになっても中身は相変わらずで、遅れた技術を持つ人たちを見下す感じは変わらない。
私は鼻から軽く息を漏らし、エイから視線を外す。そして、瞳を料理に置き、親指と人差し指を使って魚の白い身をほじり摘まみ口に運ぶ。
「もぐもぐ、うまっ。塩味がついてるけど貴重品とかじゃないのかなぁ?」
「ふぉふぉふぉ、岩塩が取れる場所がありますからな。とはいえ、貴重ですが」
集落の長チェリモヤおじいさんが話しかけてきた。
彼は私とエイを交互に見てから、私に顔を戻して再度話しかけてくる。
「楽しんで頂けてますかな?」
「うん、踊りは綺麗だし、お魚は美味しいし!」
「それはそれは良かった。なにぶん、何もない集落。里からおいでのお二人。それも旅をされてるお方。そのような方々の舌を満足させられるか不安でしたので」
「いやいや、すっごく満足だよ! 本当にこのお魚美味しい。ねぇ、エイ。何匹が買って帰ろうよ」
私はエイをちらりと見る。
それに彼は眉を折って答えた。
「あのね~、俺たちはクニュクニュのために――」
「いいじゃんいいじゃん、これくらい。旅人は旅先でお金を落としてなんぼだよ。持ってんでしょ、エイならお金?」
「はぁ、調査のために必要になるからね。もっとも、ここだと物々交換だから、お金じゃなくて、村にとって価値のあるものと交換になるけど」
「よし、それで魚を購入しよう!」
「まったく……ここで強く否定しても面倒だな。わかった」
「ありがとう、エイパパ!」
「とんでもなく現金な娘だな」
と、ここで、私とエイのやり取りを見ていたチェリモヤおじいさんが頭を捻り、疑問を漏らす。
それにエイが返す。声音に不満を乗せて……。
「お二人は親子で?」
「いや、違う。ま、学術仲間だね。こう見えて、ユニは類いまれな才の持ち主で……うん、学者としての才能が……あるんだよ……そういう感じで」
「何やら、無理やり納得されているようなご様子が?」
「え? いやいや、そんなことは。まぁ、ユニは若いから、俺と一緒にいるとそう見られることも――」
「ねぇねぇ、エイ! あれ見て! 七輪じゃない! 形はちょっと違うけど七輪だよね!? あれも買わないと! 魚! 七輪! 最強!!」
この元気一杯な声にエイは乾いた笑いを見せつつ、瞳だけをおじいさんに振り、何やらぼそぼそと話してる。
「それに、俺は七輪をおねだりする娘を持ちたいとは思わないしね……」
「ははは、さすがは学者様。変わった娘さんで」
「ねぇ、ちょっと、二人とも何を話してるの?」
「ああ、ただの世間話だよ」
「ええ、ええ、そうです」
「……そう? それよりも七輪と魚は?」
「わかった、交換するよ」
「まな板と包丁も」
「……わかった、交換する」
「食器類に調味料」
「わかったわかった、交換するから!」
「やったね、ありがとうパパ」
「頼むからそれだけは勘弁してくれ。それよりも……」
エイは私に小さく瞳を振ってから、茂みの方をちらりと見て、すぐに戻す。
彼の視線に促されるように、私も茂みへこっそり瞳を動かす。
茂みの奥に人影。たぶん、訪れた時に家の物陰に隠れていた人。
同じ集落の人なんだろうけど、祭りに参加しなくて何をしてるんだろう?
もしかして、余所者の私たちを警戒してこっそり見張ってるとか?
でも、それだとちょっと変かな?
警戒する存在を歓迎する必要性もないだろうし……ま、いいや。あとで考えよっと。
賑やかな調べと華やかな舞に、空の星々を焦がす煌々とした巨大な焚火。
竜神の贄となるナツメと言う少女を中心に据えて、私たちはぐるり囲み、座る。
目の前には豪勢な食事。木の実・山菜・焼き魚……豪勢かどうか微妙だけど、集落キワノでは豪勢なんじゃないかと思う。
祭りとはいえ、突然訪れた客に対して分け隔てなく食事を振舞ってもらっていることには感謝。
ちょっぴり贅沢を言えば、手掴みじゃなくて箸やフォークなどの食器類があると良かったかな。
隣に座るエイは集落の人に酒を勧められて、それを口にしている。
彼は踊りに視線を傾けながらも、その先で大勢の人たちに声を掛けられている贄の少女ナツメに意識を集めつつ、酒をちびちび飲んでいた。
その彼にこそりと話しかける。
「ねぇ、エイ。お酒とか飲めるの?」
「生身だと無理だよ。でも今は、この特殊ボディだからね。普段の俺たちは栄養を食事で摂取しないから、現地調査を行うときはこのスーツが重宝するよ」
「普通の食事もダメなんだ。じゃあ、普段はどうやって栄養を取るの?」
「精神エネルギーを肉体の活動エネルギーに変換してる」
「え?」
「そうだなぁ、君にわかりやすく言えば、電気を充電でして動いてる感じかな?」
「なんか機械的……」
「あくまでも例えだから実体は別物だよ。それよりも、君の方はどう? 彼らの食事は口に合ってる? こちらの食べ物は地球人の君が摂取しても問題ないものだけど、味の方は?」
「うん、木の実はちょっと苦みがあってだけど、この白身のお魚はすっごく美味しい。近くに海なんてないから、このお魚は川魚なのかな?」
「集落の近くに渓流があるからそこに棲む魚だろうね」
「渓流があるなら、そこから水を引っ張ってくるなり持ち運ぶなりすればいいのに……」
「彼らの未熟な技術だと、川と畑の高低差がネックになって、引っ張って来れないよ。人力で持ち運ぶには量が多すぎるし」
「それじゃあ、畑を低い位置に移動させればいいのに」
「残念だけど、それも無理。集落一帯の標高の低い土地は畑に不向き。だからと言って、土壌を改善する知識も技術も彼らにはないからね、あはは」
と言って、エイは小さな笑い声を立てた。
姿はイケメンになっても中身は相変わらずで、遅れた技術を持つ人たちを見下す感じは変わらない。
私は鼻から軽く息を漏らし、エイから視線を外す。そして、瞳を料理に置き、親指と人差し指を使って魚の白い身をほじり摘まみ口に運ぶ。
「もぐもぐ、うまっ。塩味がついてるけど貴重品とかじゃないのかなぁ?」
「ふぉふぉふぉ、岩塩が取れる場所がありますからな。とはいえ、貴重ですが」
集落の長チェリモヤおじいさんが話しかけてきた。
彼は私とエイを交互に見てから、私に顔を戻して再度話しかけてくる。
「楽しんで頂けてますかな?」
「うん、踊りは綺麗だし、お魚は美味しいし!」
「それはそれは良かった。なにぶん、何もない集落。里からおいでのお二人。それも旅をされてるお方。そのような方々の舌を満足させられるか不安でしたので」
「いやいや、すっごく満足だよ! 本当にこのお魚美味しい。ねぇ、エイ。何匹が買って帰ろうよ」
私はエイをちらりと見る。
それに彼は眉を折って答えた。
「あのね~、俺たちはクニュクニュのために――」
「いいじゃんいいじゃん、これくらい。旅人は旅先でお金を落としてなんぼだよ。持ってんでしょ、エイならお金?」
「はぁ、調査のために必要になるからね。もっとも、ここだと物々交換だから、お金じゃなくて、村にとって価値のあるものと交換になるけど」
「よし、それで魚を購入しよう!」
「まったく……ここで強く否定しても面倒だな。わかった」
「ありがとう、エイパパ!」
「とんでもなく現金な娘だな」
と、ここで、私とエイのやり取りを見ていたチェリモヤおじいさんが頭を捻り、疑問を漏らす。
それにエイが返す。声音に不満を乗せて……。
「お二人は親子で?」
「いや、違う。ま、学術仲間だね。こう見えて、ユニは類いまれな才の持ち主で……うん、学者としての才能が……あるんだよ……そういう感じで」
「何やら、無理やり納得されているようなご様子が?」
「え? いやいや、そんなことは。まぁ、ユニは若いから、俺と一緒にいるとそう見られることも――」
「ねぇねぇ、エイ! あれ見て! 七輪じゃない! 形はちょっと違うけど七輪だよね!? あれも買わないと! 魚! 七輪! 最強!!」
この元気一杯な声にエイは乾いた笑いを見せつつ、瞳だけをおじいさんに振り、何やらぼそぼそと話してる。
「それに、俺は七輪をおねだりする娘を持ちたいとは思わないしね……」
「ははは、さすがは学者様。変わった娘さんで」
「ねぇ、ちょっと、二人とも何を話してるの?」
「ああ、ただの世間話だよ」
「ええ、ええ、そうです」
「……そう? それよりも七輪と魚は?」
「わかった、交換するよ」
「まな板と包丁も」
「……わかった、交換する」
「食器類に調味料」
「わかったわかった、交換するから!」
「やったね、ありがとうパパ」
「頼むからそれだけは勘弁してくれ。それよりも……」
エイは私に小さく瞳を振ってから、茂みの方をちらりと見て、すぐに戻す。
彼の視線に促されるように、私も茂みへこっそり瞳を動かす。
茂みの奥に人影。たぶん、訪れた時に家の物陰に隠れていた人。
同じ集落の人なんだろうけど、祭りに参加しなくて何をしてるんだろう?
もしかして、余所者の私たちを警戒してこっそり見張ってるとか?
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