殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~

雪野湯

文字の大きさ
1 / 100
第一幕

第一話 令嬢からの復讐依頼

しおりを挟む
 灰色の高い壁に挟まれた隙間に浮かぶ、灰色の空を見上げる。
 乾いた瞳にふわりふわりと揺らめき映る綿雪わたゆき
 真っ白な雪は地面に触れると深紅を吸い上げて溶け消えていく。
 
 体に残るかすかな熱を無慈悲に奪う、冷たく薄汚れた路地の壁に背を預け、俺は右腹部へ瞳を寄せた。
 止め処なく流れる血はほのかに湯気を纏い、降り積もる雪に染みる。

「あ……こりゃ、駄目だな。まったく、素人がでたらめに撃った銃弾に当たるなんて。やはり、二年前に引退しておくべきだったか」


 二年前、四十になる手前で俺は殺し屋として急激な衰えを感じていた。
 そうだというのに、世話になった組織の幹部の頼みを断れず、ここまでずるずると。
「はぁ、裏の世界に生きる人間が義理立てなんかするもんじゃねぇな」

 虚ろな瞳で血の装飾に濡れた手を見つめる。
「ま、殺し屋稼業なんて終わりはこんなもんか。いや、二流の殺し屋にしては長生きできた方か」

 十三のガキの頃に義理の親父をぶっ殺してから、気が付けばこんな世界に……。
 血と悲鳴と硝煙に彩られた世界――それでも、意外と悪くない人生だったと言える。

「美味い飯は食えてた。上等な女も飽くほど抱いた。後悔があるとしたら、最後が素人の手ってのがなぁ。はは、二流らしい死に様か…………」

 視界が霞み始めた。
 そろそろ死ぬらしい。
(さて、地獄ってのはどんな場所かね? フフ、案外この世ここと似たようなもんかもな)



 視界が黒に染まり、耳から音が消える――いや、誰かの声が聞こえる。
 こいつは、女の声!?

「あなたに、託したい……」
「誰だ?」

 一度は閉じられたまぶたを再び開き、黒に染まったはずの世界を見つめる。
 世界はやはり黒。
 その黒の中に白いもやが浮かんでいる。
 そいつを乾き切った瞳で凝視する。

 もやは少女の形をしていた。
 見目は十五前後。絢爛なドレスを纏い、髪は長い。
 目鼻立ちは整っており、なかなかの美人だが……死の匂いがする。
 あの世からのお迎えか? それとも死の間際の幻か?
 しかし、少女からは死の匂いと絡み合うように命の匂いもまた漂う。匂いの種類は負け犬と絶望と……狂気。
 なんとも気の滅入る匂いだ。


 もう一度、俺は幻に問い掛ける。
「誰だ?」
「うん、道具の効果はばっちり。あの、依頼をしたい。心の強いあなたに私の願いを託したい」
「依頼?」
「私の、私の……私の復讐をあなたに託したい!」
「復讐? なんだかよくわからねぇが、見ての通り、バーゲンもねぇクソッたれな閉店間際なんだ。出血だけは大サービス中だがな」
「え……あ、今のは冗談だったんですね!? 気が付きませんでした」
「こ、こいつ。幻の分際で!」


 黒の世界でもはらわたからは絶えず温もりが抜け落ち続ける。
 痛みだって感じている。
 さっさとこの痛みから解放されたいってのに、下らねぇ幻を見る始末。
(やはり、引退するべきだったな。はは、無様すぎる)

 腹の中で自分をせせら笑い、これ以上靄の少女を相手にすることをやめようとした。しかし、少女は幻の分際でなかなか魅力的な提案をしてくる。

「依頼を受けてくだされば、あなたの命を救えます。私の全てを託すことで」
「命を? は、面白いこと言ってくれるねぇ。ほんとに命が助かるんなら、てめえの依頼ってやつを受けてもいいぜ」
「本当ですか!? ありがとうございます!! では、契約成立ですね!!」


 靄の少女が手を伸ばし、俺の頬に触れた。
 その途端、黒の視界が白に染まり、激しいめまいが襲う。

「うっ、なんだ!?」
「依頼を受けてくれて、ありがとう。私の復讐をあなたに託します。私には、あなたのような心の強い方の力が必要。弱い私では、届かないから……」
「おい、俺に何をした? 何が起こっている? 復讐と言ったが、その内容は? 相手は誰――ぐわっ!?」



 白い光が全身を貫き、内臓の底が抜け落ちたかのような異様な浮遊感を覚える。
 だが、次には急激な重さを感じ、何か柔らかな場所で仰向けに横たわっている感覚が背中に伝わった。
(グッ、一体何が?)

 指先をピクリと動かす。
 伝わる感触は、雪の降り積もった冷たいコンクリートではなく、土と草と暖かな日差し。
 鼻腔に纏わりつく匂いもまた土と草。そして、冷めきった体を優しくくるむ太陽の温もり。
 
 その土と草をそろりそろりと踏みしめて、誰かが近づいてくる。
 敵か――?

 俺は痛みにまみれる体に鞭を打ち、無理やりまぶたを開けて、両手で地面を押し、なんとか上半身を起こすことに成功した。
 痛みが背中に走る。
(なんだ? 撃たれたのは腹部なのに背中が?)


「う、嘘、シオン様……?」
「だ、誰だ!?」

 声が聞こえてきた方へ顔を向ける。
 視界はまだはっきりとせずぼやけていたが、俺の前に立つ少女の姿だけは何となく捉えることができた。
 少女は黒のワンピース姿に白のエプロンを着用をしているクラシカルなメイド服の姿。
 身長は低く、140cmもないだろう。褐色の肌と癖っ毛のある長めの黒髪と黄金の瞳。
 幼い顔立ちからは怯えが見えて……耳はとんがっている?

 
 妙な格好と妙な耳を持つ少女。
 そいつが覗き見るように横たわる俺を見つめていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ
ファンタジー
「わたしはもうまもなく死ぬ」 静まり返った老人ホームの一室で、老人は青年にそう告げた。励まそうとする青年に老人はさらに告げる。「いや正確に言い直そう。わたしは転生するのだ」 異世界に突如として転生したその男は、海洋国家ヴァレンティン共和国の超名門、シュナイダー家に生を受け、ガイウス・シュナイダーとして転生を果たす。だがそんなガイウスには前世の知識はあるものの、記憶がなかった。混乱するガイウス。だが月日が経つにつれ、次第にそんな環境にも慣れ、すくすくと成長する。そんな時、ガイウスは魔法と出会う。見よう見まねで魔法を繰り出すガイウス。すると、あろうことかとんでもない威力の魔法が―― 数えきれないほど転生をし続けた伝説の大魔導師の最後の転生物語をどうぞお楽しみください! こちらは『小説家になろう』で千五百万PⅤを獲得した作品を各所変更し、再構成して投稿しております。 また『1×∞(ワンバイエイト)経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!』という作品が、アルファポリス社より刊行されています。既刊第四巻まで発売中です。またコミカライズもされており、こちらは第二巻まで発売しています。あわせてよろしくお願いいたします!

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

処理中です...