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第一幕
第十六話 今はまだ、闇に包まれた真実
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――自室・夜
ルーレンを伴い部屋へ戻り、扉を開き中へ入る。
そこで違和感を覚える。
(机の上のペン立てが少し動いている。机の表面も拭いた後が……)
「ルーレン、部屋の片付けでもしたのですか? 机が綺麗になっているように見えますが」
「はい、お嬢様がお食事をなされている間に。あ、しっかり不浄のものを扱った衣服は新しい衣服へ着替えてから行い、手もしっかり洗ってから行いましたから」
「ふふ、そうですの。ルーレンの気遣いには頭が下がりますわ」
「そ、そんな、メイドとして当然のことをしたまでですから」
そう言って、彼女は頬をほんのり紅潮させつつ両手を前に出してもじもじとしている。
照れる姿はとても愛らしいが、そんなことよりも俺は別のことへ意識が飛んでいた。
(メイドは掃除のために部屋の出入りが自由というわけか。ってことは、合鍵を持っているんだな)
使用人が合鍵を持つ。そこにあるのは信頼ではなく主と使用人という絶対的な支配関係があるため。
貴族にとって使用人は主に害を為すことがない、為せるわけがないという意識がそこに存在する。
貴族様はそこまで庶民を舐め腐っているわけだが、殺し屋稼業で裏切りが当たり前の世界に生きてきた俺としては超不安。
また、部屋内を確認しないと……。
そんな俺の不安をよそに、ルーレンはエプロンポッケに手を突っ込み、そこから鍵を取り出して渡してきた。
「あの、こちらを。引き出しの鍵ですが、お洗濯物のポケットの中にありました」
「そうですか、ありがとうですわ、ルーレン」
「あの、お嬢様。もしかしたら引き出しの中に……」
「ん?」
「い、いえ、なんでもありません。出過ぎた真似でした」
ルーレンは俺がこの鍵を使い、引き出し内に収まっているであろう日記を読んで、その中に記されているかもしれない腹違いの子の情報に触れる心配をしたようだ。
しかし、使用人という立場であるため、主の家庭事情を伝えることに躊躇いを覚えた。
その彼女の想いはわかっているが、俺は敢えて『?』マークを頭にいくつも浮かべて首を捻る。
ここで彼女の意図に気づくことは、日記の存在や腹違いであることを知らないはずの現状ではおかしいからだ。
訝しがる俺へ、ルーレンは誤魔化すように声を出した。
「あ、あのシオンお嬢様、お茶のご準備を致しましょうか?」
「その必要はありませんわ。今日はもう、特に用はありませんからルーレンも休みなさい」
「畏まりました。何か御用がありましたら、部屋にある伝声管の三番をお使いください。私の部屋につながっていますので」
「わかりましたわ。では、また明日」
「はい、今日は大変な一日でしたのでお嬢様もご自愛を」
ルーレンは部屋の外に出てからこちらへ一礼すると廊下の奥へと消えた。
扉越しに彼女の足音と気配が離れたことを感じ取り、先程受け取った引き出しの鍵へ瞳を落とす。
形は何の変哲もないどこにでもある鍵。
鍵穴はヘアピンを加工しただけで開けられる代物だったので、鍵もまた凝ったものではない。
その鍵を使い、早速引き出しを開ける。
開けた先にあるのは右隅にピタリとつけられた日記帳。
それを見つめ、薄く笑い、手に取り、ぱらぱらと捲る。
「フフ……ま、あれだ。これで俺は正式に日記が読める状況になり、実の母はすでに亡くなっていて、自分が腹違いの兄妹だということを知るわけだな」
最後のページを開き、それを読む。
『もう……いや……死にたい。そう、死ねば解放される。お父様、私はスティラお母様の元に行きます』
文字に内包された思いを指先で触れて、次に空っぽになった引き出しを見つめ、納得の声を出した。
「ふむ、なるほど。いや、それだと初めてシオンと出会ったときの様子に疑問は残るが……」
実の母親の死・家族不和・いじめ・虐待――死。
そこに秘められた隠された真実の一端を掴み、俺は心の底から笑う
「フフフフフ、こいつぁ、面白い。復讐の標的を探し、それを果たし、その後はシオンとしてのんびり暮らしていくつもりだったが、事はそう単純ではなさそうだ。どうやら、俺が考えていた以上に複雑な人間関係のようだな」
日記帳を引き出しへ戻し、備え付けのシャワールームへ向かう。
因みに屋敷内には風呂もあるそうだが、シャワー派の俺には面倒なのであまり出向くことはないと思う。
シャワールームへ来ると、タオルや着替えなどが置いてあった。
最初にこの部屋に訪れた時にはなかったので、これらはルーレンが用意してくれたもの。
「お付きのメイドとは言え、出入りが自由ってのは怖いな。シャワーを浴びる前に周りを調べるか」
調べる――異常なし。
そういうわけで、服を脱ぐ。
ドレスなので脱ぎにくい。
「うぐぐ、服を緩める紐が背中側に……面倒なつくりだなぁ。とはいえ、手伝ってもらうためにルーレンを呼び戻すのもなぁ。はぁ、自分ちなんだからラフな格好でいいだろうに。俺なんか家ではパン一姿だぞ(※パンツ一枚だけを着用した残念な姿)」
何とか脱ぐことに成功して、青い色の下着姿のまま、全身が映せる鏡の前に立つ。
十四のガキにしては中々の大きさ。くびれもあり、尻もくいっと上がっていて、スタイルは悪くない。
後ろを向いて背中を見る。そこにあるのはミミズ腫れのような傷跡。
「クソッ、ダリアめ。傷跡が残りそうだな、これは。それはそうとして……」
瞳を鏡から、自分の腕や足に動かす。
「ほっそいなぁ……筋力ゼロ。元庶民とはいえ、今は令嬢やってんだからしゃーないか。よし、明日から体を鍛えないと」
現在の俺は貴族のご令嬢であるため、そうそう荒事に巻き込まれることはないだろうが、殺し屋の俺としてこんななよっちい状態で悪意のある者に襲われたらと思うと不安でたまらない。
「フフ、シオン喜べ。お前の身体をバッキバキの筋肉モリモリにしてやるからな」
本人は絶対感謝しないだろうが、親切心を押し付けてやるとしよう。
どのみちこの身体は俺の身体だし、文句を言う奴もいないから問題ない。
下着を脱ぎ捨て、シャワールームへ。
シャワーヘッドから零れ落ちる暖かなお湯を頭から浴びながら、どんな原理でお湯が出ているのだろうと頭を悩ます。
動物の皮っぽいのに入ったシャンプーを手に取り、この世界の文明レベルはどの程度なんだろうと頭を悩ます。
それらは明日、町を見て考えるとしよう。
そう、明日は町へ繰り出すつもりだ。
この世界の情報を集めると同時に、ザディラを陥れる方法を探るために……。
ルーレンを伴い部屋へ戻り、扉を開き中へ入る。
そこで違和感を覚える。
(机の上のペン立てが少し動いている。机の表面も拭いた後が……)
「ルーレン、部屋の片付けでもしたのですか? 机が綺麗になっているように見えますが」
「はい、お嬢様がお食事をなされている間に。あ、しっかり不浄のものを扱った衣服は新しい衣服へ着替えてから行い、手もしっかり洗ってから行いましたから」
「ふふ、そうですの。ルーレンの気遣いには頭が下がりますわ」
「そ、そんな、メイドとして当然のことをしたまでですから」
そう言って、彼女は頬をほんのり紅潮させつつ両手を前に出してもじもじとしている。
照れる姿はとても愛らしいが、そんなことよりも俺は別のことへ意識が飛んでいた。
(メイドは掃除のために部屋の出入りが自由というわけか。ってことは、合鍵を持っているんだな)
使用人が合鍵を持つ。そこにあるのは信頼ではなく主と使用人という絶対的な支配関係があるため。
貴族にとって使用人は主に害を為すことがない、為せるわけがないという意識がそこに存在する。
貴族様はそこまで庶民を舐め腐っているわけだが、殺し屋稼業で裏切りが当たり前の世界に生きてきた俺としては超不安。
また、部屋内を確認しないと……。
そんな俺の不安をよそに、ルーレンはエプロンポッケに手を突っ込み、そこから鍵を取り出して渡してきた。
「あの、こちらを。引き出しの鍵ですが、お洗濯物のポケットの中にありました」
「そうですか、ありがとうですわ、ルーレン」
「あの、お嬢様。もしかしたら引き出しの中に……」
「ん?」
「い、いえ、なんでもありません。出過ぎた真似でした」
ルーレンは俺がこの鍵を使い、引き出し内に収まっているであろう日記を読んで、その中に記されているかもしれない腹違いの子の情報に触れる心配をしたようだ。
しかし、使用人という立場であるため、主の家庭事情を伝えることに躊躇いを覚えた。
その彼女の想いはわかっているが、俺は敢えて『?』マークを頭にいくつも浮かべて首を捻る。
ここで彼女の意図に気づくことは、日記の存在や腹違いであることを知らないはずの現状ではおかしいからだ。
訝しがる俺へ、ルーレンは誤魔化すように声を出した。
「あ、あのシオンお嬢様、お茶のご準備を致しましょうか?」
「その必要はありませんわ。今日はもう、特に用はありませんからルーレンも休みなさい」
「畏まりました。何か御用がありましたら、部屋にある伝声管の三番をお使いください。私の部屋につながっていますので」
「わかりましたわ。では、また明日」
「はい、今日は大変な一日でしたのでお嬢様もご自愛を」
ルーレンは部屋の外に出てからこちらへ一礼すると廊下の奥へと消えた。
扉越しに彼女の足音と気配が離れたことを感じ取り、先程受け取った引き出しの鍵へ瞳を落とす。
形は何の変哲もないどこにでもある鍵。
鍵穴はヘアピンを加工しただけで開けられる代物だったので、鍵もまた凝ったものではない。
その鍵を使い、早速引き出しを開ける。
開けた先にあるのは右隅にピタリとつけられた日記帳。
それを見つめ、薄く笑い、手に取り、ぱらぱらと捲る。
「フフ……ま、あれだ。これで俺は正式に日記が読める状況になり、実の母はすでに亡くなっていて、自分が腹違いの兄妹だということを知るわけだな」
最後のページを開き、それを読む。
『もう……いや……死にたい。そう、死ねば解放される。お父様、私はスティラお母様の元に行きます』
文字に内包された思いを指先で触れて、次に空っぽになった引き出しを見つめ、納得の声を出した。
「ふむ、なるほど。いや、それだと初めてシオンと出会ったときの様子に疑問は残るが……」
実の母親の死・家族不和・いじめ・虐待――死。
そこに秘められた隠された真実の一端を掴み、俺は心の底から笑う
「フフフフフ、こいつぁ、面白い。復讐の標的を探し、それを果たし、その後はシオンとしてのんびり暮らしていくつもりだったが、事はそう単純ではなさそうだ。どうやら、俺が考えていた以上に複雑な人間関係のようだな」
日記帳を引き出しへ戻し、備え付けのシャワールームへ向かう。
因みに屋敷内には風呂もあるそうだが、シャワー派の俺には面倒なのであまり出向くことはないと思う。
シャワールームへ来ると、タオルや着替えなどが置いてあった。
最初にこの部屋に訪れた時にはなかったので、これらはルーレンが用意してくれたもの。
「お付きのメイドとは言え、出入りが自由ってのは怖いな。シャワーを浴びる前に周りを調べるか」
調べる――異常なし。
そういうわけで、服を脱ぐ。
ドレスなので脱ぎにくい。
「うぐぐ、服を緩める紐が背中側に……面倒なつくりだなぁ。とはいえ、手伝ってもらうためにルーレンを呼び戻すのもなぁ。はぁ、自分ちなんだからラフな格好でいいだろうに。俺なんか家ではパン一姿だぞ(※パンツ一枚だけを着用した残念な姿)」
何とか脱ぐことに成功して、青い色の下着姿のまま、全身が映せる鏡の前に立つ。
十四のガキにしては中々の大きさ。くびれもあり、尻もくいっと上がっていて、スタイルは悪くない。
後ろを向いて背中を見る。そこにあるのはミミズ腫れのような傷跡。
「クソッ、ダリアめ。傷跡が残りそうだな、これは。それはそうとして……」
瞳を鏡から、自分の腕や足に動かす。
「ほっそいなぁ……筋力ゼロ。元庶民とはいえ、今は令嬢やってんだからしゃーないか。よし、明日から体を鍛えないと」
現在の俺は貴族のご令嬢であるため、そうそう荒事に巻き込まれることはないだろうが、殺し屋の俺としてこんななよっちい状態で悪意のある者に襲われたらと思うと不安でたまらない。
「フフ、シオン喜べ。お前の身体をバッキバキの筋肉モリモリにしてやるからな」
本人は絶対感謝しないだろうが、親切心を押し付けてやるとしよう。
どのみちこの身体は俺の身体だし、文句を言う奴もいないから問題ない。
下着を脱ぎ捨て、シャワールームへ。
シャワーヘッドから零れ落ちる暖かなお湯を頭から浴びながら、どんな原理でお湯が出ているのだろうと頭を悩ます。
動物の皮っぽいのに入ったシャンプーを手に取り、この世界の文明レベルはどの程度なんだろうと頭を悩ます。
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