殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~

雪野湯

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第一幕

第二十五話 お金って、持っていたかしら?

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――帰り道


 会計監査院で兄ザディラを失脚させる情報を手に入れた。
 この場にコギリは居ないので、必要となる書類を黙って懐に収める。

 机の上に山積みとなった書類。そこから数枚書類が消えても、そう簡単にバレることはないだろう。
 たとえバレたとしても、ゼルフォビラ家の名で黙らしてしまえばいいわけだし、バレる頃には事は終えているだろうし。
 
 また、書類を勝手に持ち出したことはルーレンにも気づかれないようにしている。彼女に気づかれると咎めてくる可能性が高い上に、それについて言い訳をするのも面倒。

 
 あとは、抜き取った書類たちをどう扱うかになるが……ストレートに使うわけにはいかない。
 できれば、俺とは無関係な誰かがザディラを糾弾して欲しい。あとで利用することを考えると下手に恨みを買うわけにはいかないからな。
 問題はその誰かだが――丁度いい、身代わりがいる。

 ザディラの失脚はそいつに任せるとしよう。
 
 そのそいつとは、天才で数字にも強く高慢で兄のことを見下しているアズール。
 アズールならば今しがた抜き取った書類を見て、ザディラの尻尾を見抜くことができるはず。
 できなかったら過大評価のガキだったとして、恐れるに足りない。
 できたら都合の良い身代わりになってくれる。


 さて、ザディラ失脚の概要はできた。あとはそいつの土台を作って形を整えるだけ。

 そんなわけで今日はもう屋敷に帰るだけだが、その前に武装石――ルーレンが愛用する武器と同じものを売っている店を尋ねたい。
 
 これについては興味本位の部分が強い。
 子どもっぽい話だが、地球にはない不可思議な道具に興味がそそられて仕方がないというわけだ。
 それにもし、自分でも扱えるようであれば、今後有用な護身武器となる可能性が高い。


 そういうわけで早速ルーレンの案内で武装石を扱っていそうな店へ向かう。
 馬車を走らせ15分。

 人通りが多くも清潔感溢れる広い通りから、馬車が窮屈そうに身を細めてしまいそうな小道へ。
 舗装もないガタガタの小道を進み、そこから抜け出すと、メインストリートほどではないがそれなりに広い通りへ出た。
 身を細めていた馬車が背伸びできるくらいの広さはある。

 その道をしばらく進むと、商品が雑多に並ぶコンビニ程度の大きさの店の前で止まった。
「到着致しました、シオンお嬢様」


 ルーレンに促され、馬車を降りて店の前に立つ。そして、視線をあちらこちらに飛ばす。
「ふ~ん、なんだか商品にまとまりのないお店ですわね」

 万屋よろずやと言えど武装石を扱っているお店と聞いていたので、ゲームなんかに出てくる武器店のようなものだと思い込んでいた。
 だが実際は、武器だけではなく、土産物から日用品に食料までも扱うお店。
 よく見ると釣り竿やつるはしや家具まで置いてある。
 万屋にもほどがあるだろとツッコみたくなる多彩なラインナップ。


 俺の声にルーレンがこう答えてくる。
「ここは町一番の万屋よろずやなんですよ。ここならば武装石を扱っているかもしれませんから」
「なるほど、つまりは便利なお店。コンビニというわけですわね」
「こんびに?」
「ふふふ、気にしないでくださいませ。では――」


 俺は足を一歩踏み出して、あることに気づき、止まった。
 そして、ゆっくりとルーレンへ顔を振る。
「あの、わたくし、お金を持っていないのですけど……?」
「そのことでしたら問題ありません。シオンお嬢様がお出かけになる際に多少の銭財ぜんざいと、ゼルフォビラ家の小切手を預かっておりますから」

 ルーレンはエプロンのポケットから束になったおさつと小切手を取り出した。
 お札――この世界の雰囲気から、通貨は金貨や銅貨などの硬貨だと思っていたが、どうやら紙幣が流通しているようだ。
 
 視線を小切手へ振る。
 小切手は淡い緑色でゼルフォビラ家の紋章である海龍と騎士。そして、先端に小さな花が集まって咲くアキレアの花が印字されてある。
 名前の欄が空白なので、そこにシオンの名前を入れれば有効になるのだろう。
 その小切手を見つめながら尋ねる。


「いくらまで使えますの?」
「必要なものであれば、いくらでも構わないと思いますよ」

 まさかの青天井! さすがはお金持ち。
 だけど、そこには疑問が……。

「あの、わたくしは一族内ではあまり良い立場じゃないはずですわよね? それでも?」
「えっと……他のご家族の方はどのようなものを購入しようとダリア様から確認されることはありませんが、シオンお嬢様の場合は必要なものに限ります。必要なものではないと判断されますと、後日ダリア様から……」
「そういうことですか。わかりました」

 つまり、俺の購入する物はダリアに筒抜けというわけだ
 こいつは面倒な話だ。
 ドワーフの武器である武装石を購入しようものなら百パーセント尋ねられる。
 

「……まぁ、いくらでも誤魔化しようはあるか」
「え?」
「いえ、なんでもありませんわ。感謝しますわ、ルーレン。お金を持っていないことを忘れて戸惑ってしまいましたが、今の説明で助かりましたわ。ルーレンは頼もしいですわね」
「そんな、シオンお嬢様の役に立つことが私の役目ですから」

「クスッ、可愛いことを仰ってくれますわね。あ、そういえば、ルーレンはご自身のお財布はお持ちなの?」
「はい、所持しておりますが?」

「そう。でしたら、せっかくですのでこのお店でお菓子を購入しては? 見た様子、専門の菓子店ほどではありませんがそれなりの物を取り扱っているようですし」
「ですが、お仕事中ですし……」

「ふふふ、構いませんわよ。だから、気に入ったものがあれば購入しなさい。よろしければ、代金をゼルフォビラ家持ちにしても構いませんわよ」
「さ、さすがにそれは……ですが、気になるお菓子があるのでご厚意に甘えて購入させていただきます。シオンお嬢様、ありがとうございます」

「いえ、大したことではありませんわ。それでは、お店の方へ向かいましょうか」
「はい!」
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