元勇者、魔王の娘を育てる~父と娘が紡ぐ、ふたつの物語~

雪野湯

文字の大きさ
55 / 100
第二章 子どもたちの目指す道

第12話 旅路の再開

しおりを挟む
 俺は、頬に涙の痕を残すカシアに声をかけた。

「大丈夫か?」
「ええ、もう切り替えたから。それで……リリスがなんだって?」


 俺は二人へこう伝える。

・宰相アルダダスが、異界の侵略者の存在を把握していること。
・彼を中心に、リリスを含む少数の人々が対抗策を模索していること。
・勇者クルスと国王陛下、さらにおもだった支配階級の心が侵略されつつあること。これは魔族側にも、同様の現象が見られるであろうということ。


 これらに加え、黒い煤についても話す。
「憑りつかれた奴は、体から黒い煤が漏れ出る。ただし、それを目視できる者は限られていて、目視できた場合、憑りつかれやすいそうだ」

「煤か……それについては初耳だな。俺たちが知る侵略者は、人の姿をしていて魔法が通じない存在。それだけだ」
「戦いの準備をしていたはずなのに、ここにきて新情報……どうやら後手に回っているようだね。おまけに、煤を確認できる人間が限られているなんて。いても、憑りつかれやすいってのは厄介な話だよ」


 二人は息を合わせるように俺を見つめる。
「お前は大丈夫なんだろうな?」
「憑りつかれたりしないでよ。あんたが憑りつかれたら……」

「そうならないように気をつけるよ。気をつけ方はわからんがね。そう言ったことも含め、一度アルダダスに会い、詳しい情報を得ようと思っている。その内容いかんによっては、手を組めるかもしれないしな」

「宰相アルダダスが味方か……それは心強いな」
「だけど、今の彼は名ばかり宰相で、大きな力を持っていないと聞くよ」


 カシアの言葉に、俺は思わず目を見開いた。
「そうなのか?」

「ええ。ただ、これは外の情報……しかも、王国中央に関する情報だから、裏は取れてないけどね」
「力を失った理由はわかるか?」

「さぁね。でも、もしかすると、宰相アルダダスはわざと宰相の席だけを残して、陛下やクルスから距離を置いているのかも。つまり、異界の侵略者と繋がる者から、意図的に身を引いている……そういうことも考えられる」
「なるほど」

「ま、たとえ名ばかり宰相でも、その肩書きには重みがある。味方になってくれるなら、ありがたいけどね」

 そう語ったカシアは、目だけで笑うような仕草を見せ、ちらりとジャレッドを見やった。
 その目で見られた彼は、大きな手のひらを頭に当てて、少々疲れた表情を見せる。

 この、二人のどこか奇妙なやり取りが気になり、俺は尋ねた。


「どうしたんだ、二人とも?」
「いや、実はな……村長が倒れたんだ」
「なっ!? 昨日まで元気そうだっただろう?」
「ああ、そうなんだが、急に体調を崩したようで……」
「そうか。それで容態は?」

「芳しくない。ヒースの話だと、そう長くないそうだ」
「そんなに悪いのか?」
「もう、年も年だからな。そろそろ九十にも届こうって歳だ。元気そうに見えてたが、急に来たのかもな」
「そうか……しかし、そうなると、アルダダスの件はどうする?」


 アルダダスとの会談は重要だ。
 その内容次第では、手を組む必要も出てくるだろう。

――では、誰がその判断を行うことになるのか?

 通常ならば、他の村の村長たちと協議して決めるところだ。しかし、レナンセラ村の村長は不在。
 それついて、ジャレッドに問いかける。

「村長が倒れた今、レナンセラの代表は誰になるんだ?」
「…………俺だよ」

 ジャレッドは顔を捻じ曲げて心底嫌そうな素振りを見せた。
 そして、こう続ける。
「俺としちゃあ、頭の回るヒースにお願いしたいんだが、あいつは医者という立場があるから、代表という立場まで兼任させられねぇ――で、俺だ」
「あはは、そうか。でも、それなら安心だ」

「本人は不安でいっぱいだぜ。ったく、柄じゃねぇ」
「そう言うな。お前なら安心して村を任せられる。俺も村のみんなも、そう思っているだろうよ」
「はん、どうだかな」

 不貞腐れるジャレッドの姿を見た俺は笑いを隠せない。彼の隣にいるカシアもくすくすと笑っている。
 そんな俺たちにますます不貞腐れた姿を見せるジャレッド。
 さらに、笑いは重なっていく。


――――子どもたち
  
 アデルは疲れ切った様子でアスティとフローラに話しかけるが、答えを返したのはフローラだけ。
「はぁ……泣いてるかーちゃん相手に口喧嘩なんて、もう二度としたくねぇよ」
「クスッ、お疲れ様。でも、カシアさんの気持ちもわかるな」
「俺だってわかってる。それでも……旅を、したいから」
「うん、それもわかる。あーちゃんもそうでしょ?」

「…………」

 
 話しかけられたアスティは、またもやぼんやりと父親を見ていた。
 いや、今回は大人たちすべてを、だろうか?
 そして、か細い声を漏らす。

「う…………つ……み」

「あーちゃん?」
「え、なになに? どうしたの、フーちゃん?」

「……ねぇ、あーちゃん、本当に大丈夫? さっきもそうだけど、なんだがぼーっとしてるし」
「う~ん、別に体調が悪いとかないけど。寝不足かなぁ?」

「いやいや、お前、俺たちと違ってぐっすり寝てたじゃん!」


 そう派手にツッコむアデルのそばで、フローラはアスティの心の内を案じる。
「あの、あーちゃん。初めて誰かを斬ったことで……そのせいで?」
「え? いや、そうだね。嫌な感じだったけど、必死だったから。それは今のところ平気だよ」
「そう? でも、辛かったらすぐに相談してね。力になるから」
「うん、ありがとう。フーちゃん」


――――ヤーロゥ

 子どもたちは何やら談笑しているようだが、俺は意識を現在の課題へと集まていた。

 ひとまず、俺がアルダダスと会ってから方針を考えるということで話はまとまり、俺たちは旅を続けるということになった。

 その前に、二つ、ジャレッドたちに尋ねておく。

「そう言えば、村長の容態について、子どもたちには?」

「話してない。お前さんがクルスとやり合っている最中に話すようなことでもないと思ってな」
「それに村長は、あの子たちにとっておじいちゃんみたいなもんだからねぇ。どう切り出したものかというものあったしね」

「わかった、その件は俺から話しておく。それと、異界の侵略者の存在と、村の存在理由についても子どもたちに伝えておく。その方が良いだろう」

「ああ、憑りつくなんていう力まで持っているなら、予めそのことを知っておいた方がいいだろうな」
「ヤーロゥ、アデルのことを――いえ、子どもたちのことを頼んだよ」

「もちろんだ」


 俺は静かに首を縦に振り、子どもたちへ声をかける。
「よ~し、お前ら、ケチはついたが旅を再開するぞ!」
「うん、わかった!」
「よっしゃ! 行こう!」
「はい! あ、ジャレッドさん、カシアさん。パパとママ――っと、父と母によろしく伝えておいてください! わたしは大丈夫だからって!!」

「おう、しっかり伝えておくぜ」
「あはは、フローラはよくできた子だね。ああ、ちゃんと伝えておくよ」



 俺たちはジャレッドとカシアに手を振って、旅を再開した。
 アデルが次の目的地について尋ねてくる。

「ねぇ、ヤーロゥおじさん。ノーレインの村があんなになっちゃったけど、どうするの? 村も放置でいいの?」
「村の後始末についてはレナンセラ村の者たちが責任をもって行い、遺体も手厚く弔われることだろう。あと、今後の予定だが、当初はあの村を足掛かりにして魔族領域へ入り、アスティの母親を探す予定だったが、その予定が大幅に変更となった」

「どんな風に?」

「宰相アルダダスが俺と会いたがっている。あいつに会うために、合流地点に近い場所にある町『デルビヨ』へ向かうつもりだ」

「宰相アルダダスが? え、なんでそんなことに!?」
 不意に飛び出たアルダダスの名に、アデルの声は裏返り、アスティとフローラもまた驚きを隠せずに目を丸くして言葉を失っている。

「ちょっとややこしいことになっていてな。お前たちには全部話す。あと、この件とは別に……良いタイミングがなくて、アスティに伝えそびれていたこともある。それも含めて」
「私に?」

「ああ、俺も旅を出る直前、村長のところに別れの挨拶へ行ったとき、偶然知ったんだが…………」
「何を知ったの、お父さん?」」

「それは――お前の兄弟姉妹についてのことだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...