4 / 32
第一章 賢者様を血の海に沈める
賢者様、血に沈む。
しおりを挟む
※ミュオン触媒核融合とは――
重水素もしくは三重水素にミュー粒子という粒子をぶつけて核融合を起こすもの。
これは水素に粒子をぶつけると核融合反応を起こせるという超お手軽なもの。
だけど、ミュー粒子を造るのにすっごいエネルギーが必要なので、核融合を起こしてエネルギーをゲットしても赤字。
だけど、今回はおばあちゃんの指輪の力を借りているので、エネルギー消費の問題は全く無視して行えました。
以上、説明終わり。
――――――――――
ミュー粒子を放った瞬間、水球が白光を帯びて激しい閃光を解き放ちました。
そこから感じ取られる力は私の想像を遥かに超えるもの――。
「あれ、これってやばい?」
「くっ! このままでは学園、いや、町そのものが!! 魔力を高めないと!!」
賢者様の怒声とも言える声が駆け抜けていきました。
同時に、私たちの周囲を覆っていた結界と賢者様を守っていた結界の力に急激な高まりを感じます。
私もおばあちゃんの五芒星の力を高めようとしたのですが……。
「うそ、出力が上がらない! ちょっと! あ!?」
水球は弾け飛び、そこから熱と光が交わり溶け込んだ暴虐な風が爆発的に広がりました。
「きゃぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
「ミコンさん!? 間に合え!!」
世界の全てを白に染めて溶かし尽くす嵐の前であっても、賢者様は自身と多くを守るための結界を確かなる力で守護していました。
さらには、私の結界を強化しようと魔力を注いでくれますが――間に合いません!
五芒星の結界にひびが入り、皮膚を炙り溶かす光が私の瞳に突き刺さろうとしています。
「このままじゃ死んじゃう! ごめんなさい、おばあちゃんにパパにママ――――ニャントワンキルの禁忌の力を使います!!」
おばあちゃんやパパやママから人前で使うなと言われていた、私の隠された力。
それはニャントワンキルの魔女王の力の一端。
今、この広場は光に満たされている――これならば、使っても誰の目にも止まらないはず!
私はありったけの魔女王の力を五芒星に注ぎ込みます。
その想いに応えてくれたのか、一度は光に屈しようとした五芒星が紫光を纏い、激しく明滅を始めました。
そして、ひび割れた結界に飛び込んできた光を掻き消し、結界の外側を紫の光で包み込みます。
「よし! これで何とかしのげそう!」
巨大なエネルギーの暴流。
時間にすれば、十数秒程度でしょうか。
それでも私にはとてもとても長い時間に感じました。
やがてはその時間も流れ行き、地上に表れた太陽は沈黙し、熱は霧散し、光は消え去りました。
「はぁはぁはぁ、いや、まさか、核融合がこんなにすごい魔法だったなんて……あ、そうだ!」
私は急ぎ、指輪で周囲の汚染を確かめます。
「中性子、問題なし。指輪の力でそれは制御できたから大丈夫みたい。核融合の瞬間に発生した中性子は分厚い水の結界が受け止めたからこちらも問題なし。光も黒の水が緩和しているはずだから失明の危険もなし――うん、おーるおっけー!」
と、指輪から視線を外して顔を正面に向けました。
そこには…………血反吐を吐き続ける賢者様の姿!?
「がはぁっ。ま、まさか、あれほどのエネルギーを。これが古代魔法……ミリ秒でも対応が遅れてたら、町が消滅、がはぁぁあ!」
そう、賢者様は遺言を残して、自分の吐いた血の海に沈みました。
「賢者様!?」
私はすぐにでも賢者様のもとへ駆け寄ろうとしたのですが、その時、右手に持っていたおばあちゃんの杖がボッキリ折れちゃいました。
「え? 何が?」
瞳を杖に寄せます。
杖は折れた場所からさらさらとした粒となり零れ落ちて、塵に帰っていきます。
「ちょ、なんでって? 指輪も!?」
装備していた指輪も首から掛けていた五芒星も塵になって消えていきます。
「どうして? 負荷を掛け過ぎたから? どうしよう……おばあちゃんに殺される……いや、今はそんなことより賢者様!」
意識を賢者様に戻します。
ですが、すでに先生方が賢者様の介抱を行っていました。
一度は地面に伏した賢者様ですが、片膝をつきつつも、はっきりした受け答えを行っています。
その様子からして、命に別状はなさそうです。
だけど、ホッとするのも束の間。
教会のシスターのような真っ黒なローブを纏った学園長のオウル先生が、僅かに白髪が混ざる黒髪を逆立てて、深緑の瞳で私を睨みつけながら近づいてきます。
「ミコンさん……学園長室まで、御同行願いますか? いえ、ただち来なさいっ」
「は、はい!」
こうして、私のやらかしで模擬戦はうやむやな感じで幕を閉じました。
私はオウル学園長と後見人である老魔導師ヴィエドマさん・学園のお偉方。そして、体力と魔力が回復した賢者セラウィク=セレトゥイテニス様に囲まれて、事情聴取とお説教を受けたのでした。
重水素もしくは三重水素にミュー粒子という粒子をぶつけて核融合を起こすもの。
これは水素に粒子をぶつけると核融合反応を起こせるという超お手軽なもの。
だけど、ミュー粒子を造るのにすっごいエネルギーが必要なので、核融合を起こしてエネルギーをゲットしても赤字。
だけど、今回はおばあちゃんの指輪の力を借りているので、エネルギー消費の問題は全く無視して行えました。
以上、説明終わり。
――――――――――
ミュー粒子を放った瞬間、水球が白光を帯びて激しい閃光を解き放ちました。
そこから感じ取られる力は私の想像を遥かに超えるもの――。
「あれ、これってやばい?」
「くっ! このままでは学園、いや、町そのものが!! 魔力を高めないと!!」
賢者様の怒声とも言える声が駆け抜けていきました。
同時に、私たちの周囲を覆っていた結界と賢者様を守っていた結界の力に急激な高まりを感じます。
私もおばあちゃんの五芒星の力を高めようとしたのですが……。
「うそ、出力が上がらない! ちょっと! あ!?」
水球は弾け飛び、そこから熱と光が交わり溶け込んだ暴虐な風が爆発的に広がりました。
「きゃぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
「ミコンさん!? 間に合え!!」
世界の全てを白に染めて溶かし尽くす嵐の前であっても、賢者様は自身と多くを守るための結界を確かなる力で守護していました。
さらには、私の結界を強化しようと魔力を注いでくれますが――間に合いません!
五芒星の結界にひびが入り、皮膚を炙り溶かす光が私の瞳に突き刺さろうとしています。
「このままじゃ死んじゃう! ごめんなさい、おばあちゃんにパパにママ――――ニャントワンキルの禁忌の力を使います!!」
おばあちゃんやパパやママから人前で使うなと言われていた、私の隠された力。
それはニャントワンキルの魔女王の力の一端。
今、この広場は光に満たされている――これならば、使っても誰の目にも止まらないはず!
私はありったけの魔女王の力を五芒星に注ぎ込みます。
その想いに応えてくれたのか、一度は光に屈しようとした五芒星が紫光を纏い、激しく明滅を始めました。
そして、ひび割れた結界に飛び込んできた光を掻き消し、結界の外側を紫の光で包み込みます。
「よし! これで何とかしのげそう!」
巨大なエネルギーの暴流。
時間にすれば、十数秒程度でしょうか。
それでも私にはとてもとても長い時間に感じました。
やがてはその時間も流れ行き、地上に表れた太陽は沈黙し、熱は霧散し、光は消え去りました。
「はぁはぁはぁ、いや、まさか、核融合がこんなにすごい魔法だったなんて……あ、そうだ!」
私は急ぎ、指輪で周囲の汚染を確かめます。
「中性子、問題なし。指輪の力でそれは制御できたから大丈夫みたい。核融合の瞬間に発生した中性子は分厚い水の結界が受け止めたからこちらも問題なし。光も黒の水が緩和しているはずだから失明の危険もなし――うん、おーるおっけー!」
と、指輪から視線を外して顔を正面に向けました。
そこには…………血反吐を吐き続ける賢者様の姿!?
「がはぁっ。ま、まさか、あれほどのエネルギーを。これが古代魔法……ミリ秒でも対応が遅れてたら、町が消滅、がはぁぁあ!」
そう、賢者様は遺言を残して、自分の吐いた血の海に沈みました。
「賢者様!?」
私はすぐにでも賢者様のもとへ駆け寄ろうとしたのですが、その時、右手に持っていたおばあちゃんの杖がボッキリ折れちゃいました。
「え? 何が?」
瞳を杖に寄せます。
杖は折れた場所からさらさらとした粒となり零れ落ちて、塵に帰っていきます。
「ちょ、なんでって? 指輪も!?」
装備していた指輪も首から掛けていた五芒星も塵になって消えていきます。
「どうして? 負荷を掛け過ぎたから? どうしよう……おばあちゃんに殺される……いや、今はそんなことより賢者様!」
意識を賢者様に戻します。
ですが、すでに先生方が賢者様の介抱を行っていました。
一度は地面に伏した賢者様ですが、片膝をつきつつも、はっきりした受け答えを行っています。
その様子からして、命に別状はなさそうです。
だけど、ホッとするのも束の間。
教会のシスターのような真っ黒なローブを纏った学園長のオウル先生が、僅かに白髪が混ざる黒髪を逆立てて、深緑の瞳で私を睨みつけながら近づいてきます。
「ミコンさん……学園長室まで、御同行願いますか? いえ、ただち来なさいっ」
「は、はい!」
こうして、私のやらかしで模擬戦はうやむやな感じで幕を閉じました。
私はオウル学園長と後見人である老魔導師ヴィエドマさん・学園のお偉方。そして、体力と魔力が回復した賢者セラウィク=セレトゥイテニス様に囲まれて、事情聴取とお説教を受けたのでした。
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる