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第三章 すれ違いと仲直り
変な貴族
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「あの~、エルマって、貴族のお嬢様なんですよね? 失礼かもしれませんが、お嬢様っぽくないというか、むしろ男勝りというか、一人称は俺ですし」
「あ、しまった。『私』だった。学園に入ったら言葉遣い改めようと思ってたのにっ」
「何か、ご事情でも?」
「いやさ、ご事情ってほどでもないけど。うちって男ばっかで、女って俺と母さんしかいないんだよ。おまけにその男たちが貴族らしからぬ野暮ったい感じで……で、その影響を受けてね」
「なるほど。それで学園への入学を転機に言葉遣いを改めようと」
「そゆこと」
「まぁ、無理はしなくてもいいと思いますよ。然るべき場ではきっちりする必要があるでしょうが、少なくとも私たちの前では肩の力を抜いても」
「馬鹿も休み休みに言いなさい」
口調はゆったりとしながらも、はっきりとした意思の宿る言葉が飛んできました。
私たちは揃って声の発生源に顔を向けます。
そこには、ネティアと三人の取り巻き。
ネティアは相変わらずの黒のドレス姿で、黄金の魔法石を冠した魔導の杖を右手に所持しています。
そして、金の髪を振るい、真っ赤な瞳をこちらへ向けていますが……私は思います。
「これからオリエンテーリングを始めようとしているのにドレス。山にドレス。知らない人が見たら危ない人にしか見えないコーディネート。学園には変人しかいないのかと思われるような姿。何を考えればそんな恰好ができるのか? まぁ、馬鹿なんでしょうね」
「そこぉっ! 毎回毎回、同じような憎たらしい真似をっ」
「隙がある方が悪いんですよ」
「それ、いじめの論理ですわよ」
「あなたがそれを言います?」
「ええ、言いますわよ。だって私は誰かをいじめるような真似は致しませんから」
「はぁ?」
「私は常に真実を口にしているだけ。真実を耳にして傷つくのならば、その方の心が弱いということでしょう」
そうネティアは言い、ラナちゃんへ視線を送ります。
ラナちゃんはその視線に身体を固めてしまいました。
なので、私が視線を遮るべく、間へ立とうとしたのですが……。
「真実を前にして傷つきたくないのならば、強くなることですわね、フン」
妙なことを口にして、鼻息を飛ばした。
「ネティア、もしかして今のってアドバ――」
「そうそう、服装の話に戻しますが……」
彼女は私の言葉を切って落とし、話題を変えます。
――ネティア=ミア=シャンプレイン
庶民への差別意識は本物。だけど、その庶民に対してプラスになることを行う貴族。
もっとも、その中身はあくまでも強者目線のアドバイスですが……中身が何にしろ、正直、彼女が何を考えているのか全くわかりません。
訝しがる私を置いて、彼女は話の歩を進めています。
「ドレスだけではなく、山の中で学生服も十分におかしいでしょう。これから山の中を歩くというのに」
「……たしかに。学園は頭おかしんですかね?」
この疑問にレンちゃんが答えてくれます。
「一応、この学生服は魔導の服。魔法に耐性があるし、普通の服よりも丈夫。戦闘にも耐えられる代物だからね」
「そうは言っても、男子はともかく、私たちはスカートですよ。野山を駆け回るにはちょっと……」
「そこは常在戦場ということで納得しようか」
「ナットクデキナイ。でもま……」
私は周囲の学生に視線を振ります。
制服姿の学生に混じり、運動時に使うトレーナー姿の学生もチラホラ。
しっかりとした装備をしている人も。
「たしか、行事のしおりには武器以外持ってくるな! と、書かれていただけで、服装の指定はありませんでしたね。それに気づかず、いつもの学生服姿で来てしまった私たちが悪いんでしょう。常在戦場。戦いはここへ来る前から始まっているということですか……うん、面白い」
「ふふ、そこで面白いと感じられるところがミコンの凄いところだと思うよ」
「そうですか?」
「普通は自分の落ち度に落ち込むか、騙されたと怒るところだろうし」
「そういうもんですかね。ま、目の前に落ち度に塗れた人がいるから、自分はマシかな~っと思っているのかもしれませんが」
そう言って、真っ黒なドレスに身を包むネティアをちらり。
しかし、彼女は全く動じず、こう言葉を返します。
「ふふ、その程度のこと、気づいていましたわよ。ですが、私はいつも通りの姿で十分です。そう、何かあるから準備をするのではなく、どんな状況下であっても、いつも通り力を発揮できることが大事というわけですわ」
「へ~、なかなか言いますね。でも、気づいてたのに、何の準備もしなかったのは油断じゃないですか?」
「ぐぬっ。何も気づかなかった人からは言われたくないですわね!」
「にゃははは~、照れますね」
「褒めてません! 褒める要素なかったでしょう、今の会話に! ともかく、今回のオリエンテーリング。順位付けがあるようですから、せいぜい最下位にならないように気をつけることですわね。ほ~ほっほっほ」
ネティアはテンプレお嬢様笑いを残して去っていきます。
そのあとに取り巻きたちも続きます。
「ふん、せいぜい足掻けば? 下品にさ」
「どうせ、私たちが一位だけどね。下から一位、頑張ってね」
「ごめんね~、先に馬鹿にしちゃって。終わった後でもするけど~」
三人は言い返すのも馬鹿らしくなるくらい下らない捨て台詞を吐いて立ち去りました。
「はぁ、小物ですね。とはいえ、あの小物たちに後れを取るのは悔しいです。皆さん、頑張りましょう!」
私たちはオリエンテーリングに望む気持ちに気合を入れます。
そして、ネティアたちに負けないために、今回の授業内容をおさらいすることにしました。
ラナちゃんが河原の周辺地図と授業内容を記したプリントを広げます。
「あ、しまった。『私』だった。学園に入ったら言葉遣い改めようと思ってたのにっ」
「何か、ご事情でも?」
「いやさ、ご事情ってほどでもないけど。うちって男ばっかで、女って俺と母さんしかいないんだよ。おまけにその男たちが貴族らしからぬ野暮ったい感じで……で、その影響を受けてね」
「なるほど。それで学園への入学を転機に言葉遣いを改めようと」
「そゆこと」
「まぁ、無理はしなくてもいいと思いますよ。然るべき場ではきっちりする必要があるでしょうが、少なくとも私たちの前では肩の力を抜いても」
「馬鹿も休み休みに言いなさい」
口調はゆったりとしながらも、はっきりとした意思の宿る言葉が飛んできました。
私たちは揃って声の発生源に顔を向けます。
そこには、ネティアと三人の取り巻き。
ネティアは相変わらずの黒のドレス姿で、黄金の魔法石を冠した魔導の杖を右手に所持しています。
そして、金の髪を振るい、真っ赤な瞳をこちらへ向けていますが……私は思います。
「これからオリエンテーリングを始めようとしているのにドレス。山にドレス。知らない人が見たら危ない人にしか見えないコーディネート。学園には変人しかいないのかと思われるような姿。何を考えればそんな恰好ができるのか? まぁ、馬鹿なんでしょうね」
「そこぉっ! 毎回毎回、同じような憎たらしい真似をっ」
「隙がある方が悪いんですよ」
「それ、いじめの論理ですわよ」
「あなたがそれを言います?」
「ええ、言いますわよ。だって私は誰かをいじめるような真似は致しませんから」
「はぁ?」
「私は常に真実を口にしているだけ。真実を耳にして傷つくのならば、その方の心が弱いということでしょう」
そうネティアは言い、ラナちゃんへ視線を送ります。
ラナちゃんはその視線に身体を固めてしまいました。
なので、私が視線を遮るべく、間へ立とうとしたのですが……。
「真実を前にして傷つきたくないのならば、強くなることですわね、フン」
妙なことを口にして、鼻息を飛ばした。
「ネティア、もしかして今のってアドバ――」
「そうそう、服装の話に戻しますが……」
彼女は私の言葉を切って落とし、話題を変えます。
――ネティア=ミア=シャンプレイン
庶民への差別意識は本物。だけど、その庶民に対してプラスになることを行う貴族。
もっとも、その中身はあくまでも強者目線のアドバイスですが……中身が何にしろ、正直、彼女が何を考えているのか全くわかりません。
訝しがる私を置いて、彼女は話の歩を進めています。
「ドレスだけではなく、山の中で学生服も十分におかしいでしょう。これから山の中を歩くというのに」
「……たしかに。学園は頭おかしんですかね?」
この疑問にレンちゃんが答えてくれます。
「一応、この学生服は魔導の服。魔法に耐性があるし、普通の服よりも丈夫。戦闘にも耐えられる代物だからね」
「そうは言っても、男子はともかく、私たちはスカートですよ。野山を駆け回るにはちょっと……」
「そこは常在戦場ということで納得しようか」
「ナットクデキナイ。でもま……」
私は周囲の学生に視線を振ります。
制服姿の学生に混じり、運動時に使うトレーナー姿の学生もチラホラ。
しっかりとした装備をしている人も。
「たしか、行事のしおりには武器以外持ってくるな! と、書かれていただけで、服装の指定はありませんでしたね。それに気づかず、いつもの学生服姿で来てしまった私たちが悪いんでしょう。常在戦場。戦いはここへ来る前から始まっているということですか……うん、面白い」
「ふふ、そこで面白いと感じられるところがミコンの凄いところだと思うよ」
「そうですか?」
「普通は自分の落ち度に落ち込むか、騙されたと怒るところだろうし」
「そういうもんですかね。ま、目の前に落ち度に塗れた人がいるから、自分はマシかな~っと思っているのかもしれませんが」
そう言って、真っ黒なドレスに身を包むネティアをちらり。
しかし、彼女は全く動じず、こう言葉を返します。
「ふふ、その程度のこと、気づいていましたわよ。ですが、私はいつも通りの姿で十分です。そう、何かあるから準備をするのではなく、どんな状況下であっても、いつも通り力を発揮できることが大事というわけですわ」
「へ~、なかなか言いますね。でも、気づいてたのに、何の準備もしなかったのは油断じゃないですか?」
「ぐぬっ。何も気づかなかった人からは言われたくないですわね!」
「にゃははは~、照れますね」
「褒めてません! 褒める要素なかったでしょう、今の会話に! ともかく、今回のオリエンテーリング。順位付けがあるようですから、せいぜい最下位にならないように気をつけることですわね。ほ~ほっほっほ」
ネティアはテンプレお嬢様笑いを残して去っていきます。
そのあとに取り巻きたちも続きます。
「ふん、せいぜい足掻けば? 下品にさ」
「どうせ、私たちが一位だけどね。下から一位、頑張ってね」
「ごめんね~、先に馬鹿にしちゃって。終わった後でもするけど~」
三人は言い返すのも馬鹿らしくなるくらい下らない捨て台詞を吐いて立ち去りました。
「はぁ、小物ですね。とはいえ、あの小物たちに後れを取るのは悔しいです。皆さん、頑張りましょう!」
私たちはオリエンテーリングに望む気持ちに気合を入れます。
そして、ネティアたちに負けないために、今回の授業内容をおさらいすることにしました。
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