27 / 32
第四章 山に木霊する叫び声
ゴール!
しおりを挟む
山の頂上である台地を横切り、駆け下りて、崖に囲まれる小さな盆地へ訪れました。
出入り口となる場所は崖に挟まれた隙間だけ。
ここが目的地です。
盆地の中心には先生方と、何故かゴーレムと合成獣の集団がいます。
ゴーレムと合成獣は試験のラスボスみたいなものでしょうか?
私とエルマは崖の適当な場所を足場にして、軽やかに崖を降ります。
レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこして、柔らに崖を降りていきました。
「せんせ~い!」
「え? なんで崖から?」
返事をしてくれたのは私のクラスの担当教官、口癖が「え~っと」のレリー=アーティ先生。
赤味がかった茶色の長い髪をオールバックに流して、その長い髪を真ん丸団子にして後ろにまとめています。
彼女は清楚な緑の服に身を包み、白縁の横長眼鏡をくいっと上げて驚いた様子を見せます。
「え~っと、あなたたち、どうして崖から?」
「山の本道を歩くと時間が掛かるので、ショートカットしてきました」
「え……道を外れた場所には罠がいっぱいあったでしょう?」
「全部、無効化しました」
「は? え~っと……」
レリー先生は軽く頭を押さえて、少し左右に振ります。
「えっと、そうね。ショートカットした理由は?」
「今回の授業の本質は情報を素早く確実に届けることです。私たち四人は自身の力量を見極め、より早く目的地を目指す方法を取りました!」
元気よくビシビシと今回の授業の本質はわかってるぞ! と伝えました。
すると、レリー先生は他の先生方と霞のような声で言葉を交わし合います……。
「どうしましょう、予想外ですよ」
「まぁ、授業の内容は理解しておるようだし、構わないのでは?」
「私はあまり良しとしないけど……そうだね、今回は彼女たちの才が私たちを上回ったってことで」
「えと、ゴーレムと合成獣はどうします?」
「もう、それは良いだろ」
「あの数のトラップを打ち破り、あっさり山を越えてくるような子たちには必要ないだろうね」
レリー先生は幾度か他の先生方とやり取りを行い、私たちに近づいてきました。
「え~っと、それでは……授業、クリアおめでとう。ミコン、ラナ、レン、エルマ」
「アリガシャス、押忍!」
と、体育会系の人が言いそうなお礼をお渡ししました。
先生は頭を抱えるような仕草を取りましたが、そこから気を取り直して懐から懐中時計を取り出し言葉を続けます。
「え~っとですね、点数になりますけど――三時間もかかってない!? となると、基準点とサービス点を入れて~、390点です」
「やった~! って、それ高得点なんですか?」
「そうですねぇ、これから到着する人たち次第ですが、それでもトップ5には確実に入るでしょう」
「トップ5か~。せっかくショートカットしたんだから確実にトップ3は目指したかったですね」
そう、声を出すと、レンちゃんたちが言葉を返してきます。
「となると、私たちは今から他の生徒が早く到着しないようにやきもきすることになるね。あはは」
「スタンプもあんも。いっぱい集められてたらぶけうん」
「うわ~、こういう待つのって苦手だぜ。なんだか、そわそわしちまう。早く時間、すぎねぇかなぁ。それに、あと二時間以上も暇だし」
そんなエルマの声にレリー先生が答えます。
「暇なら、ゴーレムと戦いますか?」
「え、先生、それはちょっと……山越えで疲れてるし」
「そうですか。でしたら、残りの時間は……」
「休憩っすね」
「授業をしましょう!」
「は?」
エルマは素っ頓狂な声を生みました。
私もまた声には出ていませんが、脳内は素っ頓狂です。
私は先生の暴挙を諫めようとします。
「レ、レリー先生。それはいくらなんでも……」
「何を言っているんですか、ミコンさん。時間は有限。有効に使わないといけません。特にミコンさん。あなたは魔導学においては芳しくないんですから」
「うにゃっ!」
「プププ、ミコン。言われてやんの~」
「何を言っているんだ。お前もだぞ、エルマ」
エルマの担当教官と思われる筋肉ムキムキな男性の先生がエルマに声を掛けてきます。
そして、こう言葉を続けます。
「お前は座学の方はさっぱりだろ。せっかくだ、特別授業でみんなに追いつけるよう頑張ろう」
「えええ!?」
レリー先生と男性の先生は交互に声を出します。
「フフフ、特別授業ですよ」
「よかったな、お前たち。早く到着したおかげで、みんなよりも勉強できるんだぞ」
「よくないですよ!」
「よくないよ!」
と唾を飛ばしますが、先生方は容赦がありません。
そんな中でレンちゃんとラナちゃんは――
「あの、私たちは?」
「わんずの授業は?」
「いえ、お二人は成績優秀ですからね。レンさんは自習。ラナさんはあちらにいる先生から癒しの術について意見交換を行ってください。彼女は癒しの術のスペシャリストですから、きっと為になりますよ」
「「はい」」
二人は返事をすると、私たちに手を振って、ここから離れていきました。
「く~、なんで私たちだけ、こんな山の中で普通に授業を!」
「ちきしょう~、こんなことならゴーレム相手に戦ってればよかった!」
――崖上
ミコンたちを取り囲む崖の上に影が揺らめく。
影は白い歯を薄く見せて笑う。
「フフ、さ~って、アトリア学園の実力を拝見しようかな。特にミコン。ニャントワンキル族の直系にして、魔女王の贄である君の力をね……」
出入り口となる場所は崖に挟まれた隙間だけ。
ここが目的地です。
盆地の中心には先生方と、何故かゴーレムと合成獣の集団がいます。
ゴーレムと合成獣は試験のラスボスみたいなものでしょうか?
私とエルマは崖の適当な場所を足場にして、軽やかに崖を降ります。
レンちゃんはラナちゃんをお姫様抱っこして、柔らに崖を降りていきました。
「せんせ~い!」
「え? なんで崖から?」
返事をしてくれたのは私のクラスの担当教官、口癖が「え~っと」のレリー=アーティ先生。
赤味がかった茶色の長い髪をオールバックに流して、その長い髪を真ん丸団子にして後ろにまとめています。
彼女は清楚な緑の服に身を包み、白縁の横長眼鏡をくいっと上げて驚いた様子を見せます。
「え~っと、あなたたち、どうして崖から?」
「山の本道を歩くと時間が掛かるので、ショートカットしてきました」
「え……道を外れた場所には罠がいっぱいあったでしょう?」
「全部、無効化しました」
「は? え~っと……」
レリー先生は軽く頭を押さえて、少し左右に振ります。
「えっと、そうね。ショートカットした理由は?」
「今回の授業の本質は情報を素早く確実に届けることです。私たち四人は自身の力量を見極め、より早く目的地を目指す方法を取りました!」
元気よくビシビシと今回の授業の本質はわかってるぞ! と伝えました。
すると、レリー先生は他の先生方と霞のような声で言葉を交わし合います……。
「どうしましょう、予想外ですよ」
「まぁ、授業の内容は理解しておるようだし、構わないのでは?」
「私はあまり良しとしないけど……そうだね、今回は彼女たちの才が私たちを上回ったってことで」
「えと、ゴーレムと合成獣はどうします?」
「もう、それは良いだろ」
「あの数のトラップを打ち破り、あっさり山を越えてくるような子たちには必要ないだろうね」
レリー先生は幾度か他の先生方とやり取りを行い、私たちに近づいてきました。
「え~っと、それでは……授業、クリアおめでとう。ミコン、ラナ、レン、エルマ」
「アリガシャス、押忍!」
と、体育会系の人が言いそうなお礼をお渡ししました。
先生は頭を抱えるような仕草を取りましたが、そこから気を取り直して懐から懐中時計を取り出し言葉を続けます。
「え~っとですね、点数になりますけど――三時間もかかってない!? となると、基準点とサービス点を入れて~、390点です」
「やった~! って、それ高得点なんですか?」
「そうですねぇ、これから到着する人たち次第ですが、それでもトップ5には確実に入るでしょう」
「トップ5か~。せっかくショートカットしたんだから確実にトップ3は目指したかったですね」
そう、声を出すと、レンちゃんたちが言葉を返してきます。
「となると、私たちは今から他の生徒が早く到着しないようにやきもきすることになるね。あはは」
「スタンプもあんも。いっぱい集められてたらぶけうん」
「うわ~、こういう待つのって苦手だぜ。なんだか、そわそわしちまう。早く時間、すぎねぇかなぁ。それに、あと二時間以上も暇だし」
そんなエルマの声にレリー先生が答えます。
「暇なら、ゴーレムと戦いますか?」
「え、先生、それはちょっと……山越えで疲れてるし」
「そうですか。でしたら、残りの時間は……」
「休憩っすね」
「授業をしましょう!」
「は?」
エルマは素っ頓狂な声を生みました。
私もまた声には出ていませんが、脳内は素っ頓狂です。
私は先生の暴挙を諫めようとします。
「レ、レリー先生。それはいくらなんでも……」
「何を言っているんですか、ミコンさん。時間は有限。有効に使わないといけません。特にミコンさん。あなたは魔導学においては芳しくないんですから」
「うにゃっ!」
「プププ、ミコン。言われてやんの~」
「何を言っているんだ。お前もだぞ、エルマ」
エルマの担当教官と思われる筋肉ムキムキな男性の先生がエルマに声を掛けてきます。
そして、こう言葉を続けます。
「お前は座学の方はさっぱりだろ。せっかくだ、特別授業でみんなに追いつけるよう頑張ろう」
「えええ!?」
レリー先生と男性の先生は交互に声を出します。
「フフフ、特別授業ですよ」
「よかったな、お前たち。早く到着したおかげで、みんなよりも勉強できるんだぞ」
「よくないですよ!」
「よくないよ!」
と唾を飛ばしますが、先生方は容赦がありません。
そんな中でレンちゃんとラナちゃんは――
「あの、私たちは?」
「わんずの授業は?」
「いえ、お二人は成績優秀ですからね。レンさんは自習。ラナさんはあちらにいる先生から癒しの術について意見交換を行ってください。彼女は癒しの術のスペシャリストですから、きっと為になりますよ」
「「はい」」
二人は返事をすると、私たちに手を振って、ここから離れていきました。
「く~、なんで私たちだけ、こんな山の中で普通に授業を!」
「ちきしょう~、こんなことならゴーレム相手に戦ってればよかった!」
――崖上
ミコンたちを取り囲む崖の上に影が揺らめく。
影は白い歯を薄く見せて笑う。
「フフ、さ~って、アトリア学園の実力を拝見しようかな。特にミコン。ニャントワンキル族の直系にして、魔女王の贄である君の力をね……」
0
あなたにおすすめの小説
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる