この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年~

雪野湯

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第18話 語るぜ

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――――竜退治から五日後


 俺は『王都ニースモデル』へ戻り、宿を借りている酒場で武勇伝をみんなに語る。
 語る、とにかく語る。語りまくる。そして、早朝。


「こうして俺は見事、竜を倒したのであったぁぁあぁ!!」
「やかましい! いい加減にしろ、クソガキが!!」

 酒場の中心に立ち、黒のスラックスに白のカッターシャツにリボン帯という給仕の姿で気持ちよく武勇伝を語っていた俺に向かって、何本ものフォークやナイフが飛んでくる。

「あぶなあぶな! あぶねぇだろ!! ガウスのおっさんに他の連中も!!」
「うるせいよ、何回語ってんだよ! 耳に巨大なタコができて穴が塞がるわ!!」
「いいじゃんいいじゃん、語らせてくれよ。こんな快挙そうないんだし!!」


 俺は近くのあった丸いテーブル席に上半身をぐてりと預けて、顔を両手で覆い泣く。
 それを見たガウスのおっさんは、筋肉の盛り盛りの腕に握られたちっちゃなコーヒーカップをそっとテーブルに置き、顎下のもっさもっさ髭を撫でて、こう尋ねてきた。

「まぁ、大金星だっただろうから気持ちはわかるが……はあ、あと何回、話したいんだ?」
「え? ガ、ガウスのおっさん……いいの?」
「あとちょっとだけなら聞いてやるよ。お前には借りがあるしな」


 そう言って、頭の両サイドに残る髪の部分をぼりぼり掻いて、頬を少しだけ赤らめている……照れ隠しみたいだけど、まったく似合わない。
 でも、俺の武勇伝を聞いてくれるならおっさんでもいい。
 だから俺は、語りたい回数を正直に伝えた。

「あと、四十三回」
「死ね!」
「死ね? 死ねとはなんだ、死ねとは!? ガウスのおっさんよ!?」
「気を使って話を聞いてやろうとした俺がバカだった! 調子に乗りすぎだろ。大体、四十三回ってなんだ!? その中途半端な数字は?」

「ホントは五十回聞かせたいところを遠慮して、四十三にしたんだよ。ほら、俺って、謙虚だから」
「死ね!」

「また死ねって言った! 人向かって簡単に死ねとか言っちゃダメなんだぞ!!」
「ああ、そうだな。まったくもってその通りだが、俺は心に嘘をつけねぇんだよ。心が叫ばずにいられなかったんだよ!!」

「なんて下品な心なんだ! そんなんだから嫁っ子さぁ、こねぇんだよ!!」
「この~、くそガキめぇ、言っちゃならんことを~。根性叩き直してやる!!」
「来るなら来やがれ! 竜殺しのアルムス様に本気で勝てると思ってんのか! おらぁ!!」


 と、こんな感じで、俺とガウスのおっさんがほっぺの引っ張り合いを行っているさなか、カウンター席ではノヴァとルドルフのおっちゃんが何やら会話を行っていた。



――カウンター席の内側でグラスを磨く、白のカッターシャツに黒のジレに紅色のネクタイ姿のルドルフに、カウンター席の丸椅子に腰を掛けて小さなため息を漏らしているノヴァ。

「はぁ、気楽なものね。お兄ちゃんは……」
 胸元の青いリボンと白と黒のフリルが特徴的なワンピースに、青色のエプロンを着用したノヴァは、肩口にかかっていた淡い紫色の長い髪をさらりと払い、黒の瞳を深紅の虹彩で封じたブラッドストーン色の瞳をアルムスへ向ける。


 ルドルフもまた薄紅色の瞳をアルムスへ向ける。その視線は丸椅子に座る彼女よりも遥かに高い。
「初の大仕事で大手柄だからな」
 
 低音で柔らかくも、力強い声を小さな耳で受け取ったノヴァは、さらにため息を重ねた。
「はぁ……その大手柄、ギルドマスターケフェウスが仕組んだものだし」
「本人がそう言っていたのか?」

「いいえ、詰め寄ったけど惚けてた。まったく、お兄ちゃんのことは私に預けてるとか言ってるくせに! 無断に介入して! しかも、あんな危険な任務。金竜を相手になんて! 下手したらお兄ちゃん……それなのにルドルフさん、あいつなんて言っていたと思う!?」

「結果的に、死なずに証明できた。良かったじゃないか。ぬるい君ではいつまでたっても、彼の真価が分からなかったからね。と言ったところか」

「まさにそれ! 一言一句同じ。加えるなら、今回の作戦は運悪く・・・情報分析のミスがあり、ギルドメンバーに犠牲者が出た可能性もあった。でも、仮に犠牲が出たとしても、得られた情報が勝るから問題ない、だって!」
「合理性と無駄という名の趣味を併せ持つあいつらしい」

「ほんと、性格が死ぬほど悪い。よく、あんなのとルドルフさんが友人をやってるよ」
「友人か……古い知人ではあるな。それよりも、ノヴァの方は大丈夫だったのか、神竜討伐は?」
「うん、炎竜と銀龍がサポートしてくれたから。それに相当衰えてて、全盛期の半分も力が残ってなかったみたいだし」
「そうか……」


 ルドルフは五つ目のグラスを拭き終えたところで、そのグラスに映る自分の瞳に向かって、無言を纏い睨みつけた。その瞳の奥に映るのは自分ではなく、未来。

(世代交代が終わり、新たな神竜が生まれ、場は整いつつある。さて、私は私でどう動くべきか……)

 言葉を消したルドルフに、ノヴァは頭の上にはてなマークを浮かべて首を傾げる。
「どうしたの、ルドルフさん?」
「いや、ふと、アルムスからもらった土産をどうしようかと思ってな」

「あ~、お兄ちゃんのお土産かぁ。チョイスがおかしいよねぇ。ルドルフさんが貰ったのは葉巻セットだっけ? 喫煙の趣味ないのに」
「ああ。だが、なかなかの品のようだからインテリアとして飾っておくことにしたよ。そう言えば、ノヴァは何を貰ったんだ?」

「……人形」
「ふむ、それほど悪いものではないと思うが」
「河童の」
「うん?」
「リアルタイプの河童の人形。それがお兄ちゃんのお土産だった……」
「あ、ああ、そうなのか?」

 ノヴァは両手で自分の顔を覆う。
「ねっとりした皮膚感にガラスの目玉にぬめりを感じさせる指先と……とにかくリアルで気持ち悪いったらないの。でも、せっかくのお土産だし突き返すわけにもいかないし。かと言って、物置に放り込むのも悪いから、一応飾ってるんだけど、すっごい気持ち悪いし怖い」

「それは扱いに困るな」
「仕方なく、後ろ向きで飾ったんだけど。夜中に急に振り返りそうで……」
「アルムスはあの地域の特産品を購入したようだからな。あの辺りは葉巻と謎の妖怪伝説と……」

 ルドルフはアルムスたちへ瞳を振る。
 そのアルムスたちは喧嘩をやめて、ちょうどその土産に盛り上がっているところだった。
 

「俺の土産は最高だっただろうが、ガウスのおっさんらよ!!」
「ああ、そいつぁ認める。いや~、魚を叩きのばして、みりんで味付けして干した乾きもの。王都では見かけない味付けだが、かなりいけるな!」
「だろう!! だから、土産話もありがたく受け取れ!!」

「「「それは返品で」」」」
「あんたらな、口をそろえて言うなよ!!」


 彼らのじゃれ合い見ていたノヴァはまたもやため息を吐き出す。
「はぁ、私のお土産も食べ物でよかったのに……」
「私たちの土産は何か形あるものにしたかったのだろう」
「その気持ちはうれしいけど、もう少しマシなものにしてほしかった……」
「形あるものを贈るときは、その内容が難しいものだからな。しかし、よくこれだけの手持ちが彼にあったな。報酬は王都で受け取ったはずだろうが?」
「ああ、それなら、あそこから巻き上げったって」


 そう言って、ノヴァが指さした先にあったのは、店内の中心から離れた隅のテーブル席で不機嫌そうにサンドイッチを咀嚼しているレックスの姿。
 その頃、アルムスたちもまた土産の資金源の話に移っていた。
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