この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年~

雪野湯

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第19話 大人と少年の悪巧み

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―――酒場ナイキスト(アルムスサイド)


 ガウスのおっさんが箱積みされた乾きものの土産について、俺に尋ねてきた。
「しかしよ、よくこれだけの土産を買ってこれたな。万年金欠のお前が?」
「万年金欠って言うなよ! 金欠だけど……。でも、クフフフ、今回はちょっとした臨時収入が転がり込んできましてね。なぁ、レックス!」

 
 名を呼ぶと、彼は最後の一切れとなったはサンドイッチを手荒に口へ放り込み、乱暴に咀嚼してからコーヒーを流し込んで飲み込んだ。
 そして、俺にぎりぎりと音を立てる歯ぎしりを見せる。

「黙ってろ、坊主!! 余計なこと言うんじゃねぇ!」
「いや~、ギャンブルで負けた犬の遠吠えは気持ちいいですなぁ~」
「ギャンブルでは負けてねぇだろうが!! てめぇが俺の懐から抜いただけで!!」
「そんな証拠ないし~、ひゅ~ひゅ~」

 俺はわざとらしく下手くそな口笛を吹いてやる。
 すると、この話に興味の湧いたらしいガウスのおっさんが体を前のめりにしてきた。
「ギャンブルって何の話だ、アルムス?」
「くふふ、ちょいとしたカードゲームで、レックスの尻のお毛毛を毟り取ってあげたのです」

「マジか? おいおい、レックス。こんなガキんちょにしてやられるとはぁ、腕が落ちたんじゃねぇのか?」
「ガウス、そいつは違う! この坊主は俺たちの隙を突いてだな――」
「なんだか知らねぇが、してやられたのは事実なんだろ?」


「うぐっ! ま、まぁな。だ、だがだ! 中身は全然違う。そうだ、中身といやぁ、竜退治の話もテキトーじゃねぇか、アルムス!!」
「なにが?」
「なにが、じゃねぇよ! 何が竜殺しだ! 竜を追い払っただけだろうが! それに最後の一撃は俺だぞ!! お! れ!」

「なに言ってんだよ? あれはおまけみたいなもんだろ。実際、俺の活躍がなかったら手の打ちようもなかったんだし」
「それは……そうかもしれん、が……」
「フフ~ン!」


 俺は両腕を組んで鼻を高らかに掲げる。
 それにますますの歯ぎしりを見せるレックス。
 すると、ガウスのおっちゃんらがなんでか目を見開いてこちらを見てきた。

「あれ、どったの、ガウスのおっちゃん?」
「いや、正直、お前の武勇伝の半分くらいは盛ってる思ってたんだが、レックスの様子からして本当みてぇだな」
「あ、ひっで! 俺、そんなことしないぞ!」
「いや、悪い悪い。お前が努力家だってのは知ってたが、ギルドランク10のセドナのお前が活躍したってのは、ちょっと信じがたいところがあってな」


「ホントひでぇな。だけど、そんなセドナの称号も明後日まで!」
「うん?」
「本当はその日が来るまで黙ってようと思ったけど、もう、今日言っちゃう。このアルムス、実は今回の活躍で、明後日には次のランク――――エリスに昇格するので~~~~す!!」


「おおお、マジか!? そいつは良い話だ」
 ガウスのおっちゃんの声に続き、その大工仲間たちも祝福してくれる。

「やったじゃねえか、アルムス!!」
「めでてぇな! 仕事がはけたら、今夜はお祝いの酒盛りだな!!」
「そうだな、酒のあてはアルムスが土産として持ってきてるしよ」
「そいつを使って、いくつかルドルフさんに一品料理を作ってもらおうぜ」
「あははは、お前ら酒を飲む口実が欲しいだけだろ。だが、まぁ、アルムス」


「「「良かったな! おめでとう!」」」


 みんなはそう口々に祝いの言葉を述べて、俺の頭をもみくちゃにしてくる。
「いててて、でも、ありがとう。正式に受理したら、また武勇伝を聞かせてやるからな」
 と声に出すと、大工仲間たちの雰囲気は一変。

「おい、建築資材が足らなかったよな。アルムス代わりに埋め込んどくか?」
「騒がれるとまずい、二度としゃべれないように縫い付けおかないと」
「それじゃあ、たりねぇ。口にセメントを流し込んどけ」

「あんたらなぁ! ちゃんと祝えよ!! ついでに儲け話もしてやろうと思ったのに!!」


 と声に出すと、またもや雰囲気は一変。

「アルムス坊や。話を聞こうじゃないか?」
「さすがは未来のギルドランク・エリス」
「出来が違うな~」

「調子のいい連中め。ま、どのみち俺一人じゃどうこうできない話だし。なぁ、ガウスのおっさん。おっさんは商工会の人に知り合いがいるよな?」
「ああ、いるぜ。それがどうした?」

 俺はおもむろに箱から土産の乾きものを取り出す。
「この特産品、美味かったよな。王都でもウケると思わね?」
「ああ、その可能性は十分に――って、こいつを王都で売りさばこうって話か?」
「そゆこと。あっちの地方で目につけて、王都ではどうかなぁと思ったけど、おっさんらの反応から見ていけそうだと感じたし」
「土産にかこつけて商品リサーチをかけてやがったのか、こいつ」

「フフフ、俺にはお金が必要なんで。どう、これは誰も目につけてない商品だから、今なら独占できるし、いけるんじゃない?」
「まぁ、うまくいくかもしれんが、現地の生産力と現地の売人とのすり合わせもあるから、王都側の商工会だけじゃ……」


「それなら、俺に地方商人の知り合いがいるぞ」

 声を上げたのはレックス。さらにこう続ける。
「なんだかうまそうな話だ。一枚噛ませてもらうぜ」
「え~、あんまり人が増えるとうまみが減るからなぁ」

「そう言うなよ、アルムス。こういうのは人脈がモノを言うんだぜ。それによ、どうせなら今回の土産物だけじゃなくて、各地域の特産品が王都で流通できるように、今のうちから俺たちで整えた方が利益が伸びると思うぜ」

「流通の独占でもするの?」
「そういうこった。へへ、美味しいところは最初にシステムを作り上げたものになるもんだからな。だから、小さな利でうだうだ言わねぇことだな」

「それって、中間業者を隠れ蓑にしたピンハネってやつっすか?」
「いやいや、必要経費だよ、アルムス君」
「くひひひ、言いよるわ、レックス殿。おぬしも悪よのう」
「いえいえ、お領主様ほどでは……」

 この悪巧みに、ガウスのおっちゃんも参戦してくる。
「まったく、ろくでもない二人だぜ。だが、美味しい話。俺も乗らせてもらうからな。商工会の上役へ橋渡しをする見返りに、場を整えるのに必要な設計・施工なんかを優先的に回す方向で頼むわ」

 俺たち三人は互いににんまりと笑い、次には口をそろえてこう言葉に出す。
「「「いや~、既得権益を羨む側になるよりも、儲ける側に立たないとなぁ、ククククク」」」



――――ノヴァ・ルドルフ

 離れて様子を見ていたノヴァとルドルフは呆れ声を漏らす。
「お兄ちゃんが悪い大人の影響を受けていく……」
「受けると言うか、半分は自分から持ちかけていたような。ともかく、やりすぎないように監視しておくか」
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