この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年~

雪野湯

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第32話 無謀な行動に移動

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――小部屋・台座前


 台座の上には、先史文明の文字が刻まれたガラス片と腕輪。
 腕輪は装飾のない、ただの金属のわっか。
 それが無造作に置かれてある。

 俺が腕輪を手に取ると、レックスが甲高い声を上げた。
「地味な腕だなぁ」
「ひゃっ!? おま、不用意に触るんじゃねぇよ!!」

「なんで?」
「なんでってなぁ、トラップでもあったらどうすんだ!?」
「ああ、ダンジョン探索だとよくあるやつだね。お宝を手に入れると天井が降りてきたり、壁から水が出てきてたり」

「わかってんなら元に戻せ!」
「いや、大丈夫だろ。なんか起きるなら今ので起きてるだろうし。それにしてもこの腕輪、なんだろ? おんや、動く箇所がある?」

 
 継ぎ目もない腕輪だったが、一部捻ると動く箇所があった。
 そこを動かしてみると留め金みたいなものが外れて、わっかの一部に空白の部分が生まれた。

「ふ~ん、この状態で手首に嵌めるのかな? カチッとな」
「だ~か~ら~、不用意に扱うんじゃねえって言ってるだろうが!!」
「うっさいな、大丈夫だって! 見ての通り――――いつっ!?」
「おい、アルムス?」
「腕輪の内側、嵌めた部分から針みたいのが飛び出して。がぁっ!?」

「お兄ちゃん!?」
「見て、アルムスの手首を!?」


 腕輪の部分から血が滴り落ちて、その血がまるで蛇のように手首にまとわりつく。
「なん、だ、これ?」
「だから言わんこっちゃねぇ! 今、こじ開けて外してやるからな!!」

 レックスが腰元につけていたナイフを取り出す姿が見える。
「レ、クス――」
 ここで、俺の意識は完全に消え失せた……。


――――台座前

 アルムスは気を失い、台座の上に前のめりに倒れ込んだ。
 それをオリカとノヴァが支えて、上体を起こし、レックスがナイフを使い腕輪を外そうと試みた――その時、小部屋内に奇妙な声が走る。


――キリヤヴァリヤ、アシツヴァナ、ラディ、アヴァタ、ウトサハ、カランナ――


 ノヴァが周囲を警戒しつつ疑問を口にし、その答えをレックスが示す。
「なに、この声? いったいどこから?」
「小部屋の天井からだ。この言葉は先史文明で使われていた言語。中身はよくわからんが、『半端に終えたなんかをもう一回やる』みたいを言ってやがる! にしても、この腕輪、全然外れる気配がないぞ!!」


――アヴァカサヤ、ヴァサ、ダマンナ。カラナヤ、キリマタ、スダナム、ヴィマ――

 新たな声を聞いて、オリカがレックスに尋ねる。
「今のは?」
「空間がどうとか移動がどうとか。くっそ、面倒くせーな。なにがしゃべってるのか知らねぇが、俺たちの言葉を使いやがれ!!」


『了解です』

 天井からレックスたちが使っている言語が響く。
 三人は驚きのあまり、一瞬思考を止めたが、すぐにレックスが言葉を返した。

「よくわからんが言葉が通じるなら話が早い。いったい何をしようとしていやがる? この腕輪はどうやったら外れる?」
「中断されていたプロセスを再起動しています。腕輪はプロセス完了まで外せません。エネルギーチャージ率75%」
「そのプロセスってのはなんだ!?」
「かつて、目的達成のために情報交換および助言を行った世界への転移です。79%」
「は?」

 ノヴァが激情を込めて天井に向かって叫ぶ。
「そんな話はどうでもいい!! お兄ちゃんは無事なの。元に戻せないの!?」
「生体の維持に支障はありません。ですが、個としての意識回復はプロセス終了まで不可能です。85%」
「どうして!?」
「一致率63%のため、最低限の権限しか付与されていないからです。87%」
「一致? 何と一致しているの?」


「アルムス」


「え?」

キーとなっている素体はアルムスとの一致率が63%のため、情報の開示及び権限が最低限なのです。93%」

「アルムス……お兄ちゃんの名前? いったいどういうこと!? そのアルムスと言うのは、お兄ちゃんの名前と何か関係あるの?」
「質問の意味が理解できません」

「意味ができないってなによ! ふざけたことを――」
「落ち着いてノヴァちゃん! ねぇ、あなた、私たちの知るアルムスとあなたの言うアルムスに一体どのような関係があるの?」

「同一素体です」
「もう、それじゃ意味が全然……わかった、こう尋ねるわ。アルムスとは、何?」

「それは――デヴィヤネ・ソルダドゥヴァです」

「デヴィヤネ……?」
「エネルギーチャージ率100%。空間の閉鎖を開始。移動に備えてください」
「移動って! 待って、え~と、デヴィヤネ・ソルダドゥヴァとは何?」


「神兵です。移動開始」


 小部屋に響いていた声が閉じると、レックス・ノヴァ・オリカは体に浮遊感を覚える。次に視界が揺らぎ、それが落ち着くと、彼らは皆、寒風吹きすさぶ、真っ白な世界に立っていた。
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