1 / 1
聖女VS悪役令嬢
しおりを挟む
「おらぁ! 悪辣聖職者ぁ! 【聖女】はどこだぁ!」
ドカン!と教会の扉を、壊さんばかりの勢いで蹴り開けてきたのはドレスを見に纏う女の子。
「聖女さんなら、今日はお休みですよ」
ちょうど教会に来ていた【剣聖】と謳われる剣の達人である女性が、並べられた長椅子の一つに座ったまま女の方を見ないまま、うるさく入ってきたそのドレスの女の子に伝える。
「なんだと! アイツぅ~! 今日は私んとこで茶会するって言っておいたのにー!」
「ところで、あなたはどちら様で?」
「悪役令嬢よ! 悪役令嬢!」
「悪役? はて、悪役とはどう言う意味」
「そう言う貴女はどちら様で? と言うかいい加減こちらを向きなさいな」
話しているのに顔を見ようとしない剣聖に文句を言う【悪役令嬢】。
剣聖は爪の手入れを中断して、初めて悪役令嬢と名乗る女の方を向いた。近づいて来てそばまで来られたから向くしかない、仕方がないというやれやれ感があったが。
「なんでしょう、女の化粧の時間を邪魔してまで」
「ああ、それはごめん。いや違う、なんで教会でやってんだ! そんなの家でやりなさいよ」
「ここがもう一つの家ですよ。剣聖とは剣を操る僧の意。遠い地方から来た私を同じ聖職者である聖女さんに受け入れられてここにいるのです」
「いや、にしても教会に来る人の前で爪研ぎしてんのは……じゃなくて! アンタ! アイツの知り合いなんだな! ならアイツがどこに行ったか知らないか!」
「んー……詳しい所在までは分かりませんが」
「そうなのか……あの野郎、約束破りやがって。今度顔見たらぶん殴ってやる」
「私、ここに来たの初めてなんで詳しい場所はわかりませんが、神敵の令嬢のお茶会に誘われたから行ってきますと仰ってましたね」
「私のトコじゃねーか!!! 話の流れから私のトコだって察して教えなさいよ! てか神敵ってなに⁉︎ そんなに言われるまでバチ当たりな事した覚えないんだけど⁉︎」
「———聖職者相手になりふり構わず、殴りかかってくるから神敵です」
後ろから話題の人物、【聖女】の声が聞こえてきた。
振り向けば入り口には、乱暴に開けられた扉の立て付けを心配する彼女の姿があった。いつものシスター服ではなく、よそ行きの帽子と紫の落ち着いたロングスカートを着こなして。
「貴様……よく私の前に顔を出せたもんだな!」
「ここが私の仕事場なんですけど。悪しき人間が踏み入っていい場所でもありません」
帽子を外して、爪研ぎを再開し始めた剣聖の頭にそれを被せると、聖女は冷ややかに悪役令嬢を睨む。
対する悪役令嬢も腰に手を当てて胸を張り、言い返す。
「ほお~、ならそんな相手と喧嘩するお前も同じ穴のムジナなんじゃないのかしら」
「貴女こそ、お茶会に誘っておきながら姿を見せず……わざわざ行ったのに。執事さんに尋ねてここにいると聞き、来てみれば本当にいるとは……約束していたのですから、私がそちらに出向いていると、なぜ考えられなかったのでしょう」
「ふん! それは貴様がお茶会に来なかったから」
「行ったと、今、言ったはずですが」
「ん?」
「はあ~、本当に頭が悪い」
聖女は剣聖の膝の上に乗っかった。剣聖も手を止めざるを得ない、文句言いたげな剣聖からの睨みを無視したまま、聖女は悪役令嬢への説教を開始する。
「良いですか、ノータリン。悪とは、他人の決めたルールから逃げたい臆病者が成るものです。即ち【悪役令嬢】である貴女は、令嬢というルールから逃れたい臆病者だと言う意味」
「はあ⁉︎ 違うし! 悪役令嬢は悪役令嬢で……」
「ああ、そうですね。すみません、私ともあろうものが間違えました」
「な、なんだよ、意外と負けるの早いな」
「悪役なんですから、悪にも慣れてないただの道化……つまりは中途半端な生き方しかできない奴。貴女の末路をお教えしましょうか? 貴女は将来、召使いの世話なしでは生きられないロクデナシに———」
殴りかかってきた悪役令嬢の拳を、剣聖の腕を使ってガードする。聖女は流れるままに剣聖の膝の上から降りて、鎧を着た剣聖をお姫様抱っこで抱え上げ、悪役令嬢に投げつけた。
「こんの!」
悪役令嬢も負けじと、投げつけられた剣聖を受け止めて、教会の入り口の方に投げ飛ばす。喧嘩の邪魔にならないように。
そしてスカートの下に忍ばせておいたナイフを取り出して構える。と、同時に聖女もナイフを取り出していて、切り掛かる。
ギィン!と教会に刃物と刃物がぶつかり合う金属音が鳴り響く。
「この! このこのこの!」
「ふっ、ふぅ! しゅっ!」
五回、六回ナイフ同士を打ち合い、鍔迫り合いの態勢になった。ナイフだけでなく、腕から肩をぶつけ合い、押し合う。足の踏ん張りが重要。
「貴方、あの令嬢の執事さん?」
「ええ、まあ」
「いつもあんな感じなんですか?」
入り口の方では、投げ飛ばされて床に転がされた格好のまま爪研ぎをする剣聖と、様子を見にきた悪役令嬢の執事が会話をしていた。二人は鍔迫り合いして押し合う女の子二人の姿を見ていた。
「いやぁ、その、なんかウマが合うんだかなんだかわかりませんが、何かあるとすぐ喧嘩してしまうのですよ」
「ふーん」
「ところで貴女は?」
「剣聖」
と、そこまで話して、どうやら二人の戦いは場所を変えるようだった。二人は剣聖のそばまで行くと、彼女の身につけている鎧を剥がし始めた。そしてその鎧を投げ合う。
「うらぁ!」
「ちょっと! 私の友達の鎧を勝手に使わないで!」
「アンタだってその友達の鎧を勝手に使ってるじゃんか!」
すっかり鎧が脱がされた剣聖は、やっとそこで爪研ぎをやめ、胡座をかいて座ると大きな欠伸をした。
「巻き込まれるのはしんどいですね」
「気にしてない風に見えますが。貴女も案外図太いですね」
「僧が剣を持つんですからね、そりゃあ、ええ、図太くなくちゃやってられませんし」
それからさらに剣聖の服まで脱がし始めて、肌着姿にまでひん剥かれる剣聖。
執事はそんな剣聖の姿を見ないようにしつつ、そろそろ止めるべきかと動こうとした。しかしそれを剣聖が止める。
「待ってください、執事さん」
「はい?」
「殴る権利は私にあると思いません?」
「……顔はご容赦を」
「令嬢の方?」
「いいえ、どちらも」
「ふふっ、わかったわ」
剣聖は、自分の鎧や服を使って喧嘩する二人の元まで行くと、二人の頭をぶん殴って気絶させた。
「……頭も勘弁してほしいと頼むべきでしたか。これ以上、頭の中身が無くなると困りますし」
「貴方もたいがいね」
「では、これからお茶会があるので」
「はい、どうぞ」
そうして剣聖は二人を執事に投げ渡した。それを片手ずつキャッチすると、執事は教会から出て行った。
剣聖は落ちていた自分の服たちを拾って着ていく。そして聖女の帽子を拾い、ちょっと考えた。
「これ持って行ったら、お菓子とかにありつけるかしら」
帽子を頭に乗せ、剣聖も向かうことにした。
その後、ぜんぜん道が分からず迷子になる事を、彼女は知らない。
ドカン!と教会の扉を、壊さんばかりの勢いで蹴り開けてきたのはドレスを見に纏う女の子。
「聖女さんなら、今日はお休みですよ」
ちょうど教会に来ていた【剣聖】と謳われる剣の達人である女性が、並べられた長椅子の一つに座ったまま女の方を見ないまま、うるさく入ってきたそのドレスの女の子に伝える。
「なんだと! アイツぅ~! 今日は私んとこで茶会するって言っておいたのにー!」
「ところで、あなたはどちら様で?」
「悪役令嬢よ! 悪役令嬢!」
「悪役? はて、悪役とはどう言う意味」
「そう言う貴女はどちら様で? と言うかいい加減こちらを向きなさいな」
話しているのに顔を見ようとしない剣聖に文句を言う【悪役令嬢】。
剣聖は爪の手入れを中断して、初めて悪役令嬢と名乗る女の方を向いた。近づいて来てそばまで来られたから向くしかない、仕方がないというやれやれ感があったが。
「なんでしょう、女の化粧の時間を邪魔してまで」
「ああ、それはごめん。いや違う、なんで教会でやってんだ! そんなの家でやりなさいよ」
「ここがもう一つの家ですよ。剣聖とは剣を操る僧の意。遠い地方から来た私を同じ聖職者である聖女さんに受け入れられてここにいるのです」
「いや、にしても教会に来る人の前で爪研ぎしてんのは……じゃなくて! アンタ! アイツの知り合いなんだな! ならアイツがどこに行ったか知らないか!」
「んー……詳しい所在までは分かりませんが」
「そうなのか……あの野郎、約束破りやがって。今度顔見たらぶん殴ってやる」
「私、ここに来たの初めてなんで詳しい場所はわかりませんが、神敵の令嬢のお茶会に誘われたから行ってきますと仰ってましたね」
「私のトコじゃねーか!!! 話の流れから私のトコだって察して教えなさいよ! てか神敵ってなに⁉︎ そんなに言われるまでバチ当たりな事した覚えないんだけど⁉︎」
「———聖職者相手になりふり構わず、殴りかかってくるから神敵です」
後ろから話題の人物、【聖女】の声が聞こえてきた。
振り向けば入り口には、乱暴に開けられた扉の立て付けを心配する彼女の姿があった。いつものシスター服ではなく、よそ行きの帽子と紫の落ち着いたロングスカートを着こなして。
「貴様……よく私の前に顔を出せたもんだな!」
「ここが私の仕事場なんですけど。悪しき人間が踏み入っていい場所でもありません」
帽子を外して、爪研ぎを再開し始めた剣聖の頭にそれを被せると、聖女は冷ややかに悪役令嬢を睨む。
対する悪役令嬢も腰に手を当てて胸を張り、言い返す。
「ほお~、ならそんな相手と喧嘩するお前も同じ穴のムジナなんじゃないのかしら」
「貴女こそ、お茶会に誘っておきながら姿を見せず……わざわざ行ったのに。執事さんに尋ねてここにいると聞き、来てみれば本当にいるとは……約束していたのですから、私がそちらに出向いていると、なぜ考えられなかったのでしょう」
「ふん! それは貴様がお茶会に来なかったから」
「行ったと、今、言ったはずですが」
「ん?」
「はあ~、本当に頭が悪い」
聖女は剣聖の膝の上に乗っかった。剣聖も手を止めざるを得ない、文句言いたげな剣聖からの睨みを無視したまま、聖女は悪役令嬢への説教を開始する。
「良いですか、ノータリン。悪とは、他人の決めたルールから逃げたい臆病者が成るものです。即ち【悪役令嬢】である貴女は、令嬢というルールから逃れたい臆病者だと言う意味」
「はあ⁉︎ 違うし! 悪役令嬢は悪役令嬢で……」
「ああ、そうですね。すみません、私ともあろうものが間違えました」
「な、なんだよ、意外と負けるの早いな」
「悪役なんですから、悪にも慣れてないただの道化……つまりは中途半端な生き方しかできない奴。貴女の末路をお教えしましょうか? 貴女は将来、召使いの世話なしでは生きられないロクデナシに———」
殴りかかってきた悪役令嬢の拳を、剣聖の腕を使ってガードする。聖女は流れるままに剣聖の膝の上から降りて、鎧を着た剣聖をお姫様抱っこで抱え上げ、悪役令嬢に投げつけた。
「こんの!」
悪役令嬢も負けじと、投げつけられた剣聖を受け止めて、教会の入り口の方に投げ飛ばす。喧嘩の邪魔にならないように。
そしてスカートの下に忍ばせておいたナイフを取り出して構える。と、同時に聖女もナイフを取り出していて、切り掛かる。
ギィン!と教会に刃物と刃物がぶつかり合う金属音が鳴り響く。
「この! このこのこの!」
「ふっ、ふぅ! しゅっ!」
五回、六回ナイフ同士を打ち合い、鍔迫り合いの態勢になった。ナイフだけでなく、腕から肩をぶつけ合い、押し合う。足の踏ん張りが重要。
「貴方、あの令嬢の執事さん?」
「ええ、まあ」
「いつもあんな感じなんですか?」
入り口の方では、投げ飛ばされて床に転がされた格好のまま爪研ぎをする剣聖と、様子を見にきた悪役令嬢の執事が会話をしていた。二人は鍔迫り合いして押し合う女の子二人の姿を見ていた。
「いやぁ、その、なんかウマが合うんだかなんだかわかりませんが、何かあるとすぐ喧嘩してしまうのですよ」
「ふーん」
「ところで貴女は?」
「剣聖」
と、そこまで話して、どうやら二人の戦いは場所を変えるようだった。二人は剣聖のそばまで行くと、彼女の身につけている鎧を剥がし始めた。そしてその鎧を投げ合う。
「うらぁ!」
「ちょっと! 私の友達の鎧を勝手に使わないで!」
「アンタだってその友達の鎧を勝手に使ってるじゃんか!」
すっかり鎧が脱がされた剣聖は、やっとそこで爪研ぎをやめ、胡座をかいて座ると大きな欠伸をした。
「巻き込まれるのはしんどいですね」
「気にしてない風に見えますが。貴女も案外図太いですね」
「僧が剣を持つんですからね、そりゃあ、ええ、図太くなくちゃやってられませんし」
それからさらに剣聖の服まで脱がし始めて、肌着姿にまでひん剥かれる剣聖。
執事はそんな剣聖の姿を見ないようにしつつ、そろそろ止めるべきかと動こうとした。しかしそれを剣聖が止める。
「待ってください、執事さん」
「はい?」
「殴る権利は私にあると思いません?」
「……顔はご容赦を」
「令嬢の方?」
「いいえ、どちらも」
「ふふっ、わかったわ」
剣聖は、自分の鎧や服を使って喧嘩する二人の元まで行くと、二人の頭をぶん殴って気絶させた。
「……頭も勘弁してほしいと頼むべきでしたか。これ以上、頭の中身が無くなると困りますし」
「貴方もたいがいね」
「では、これからお茶会があるので」
「はい、どうぞ」
そうして剣聖は二人を執事に投げ渡した。それを片手ずつキャッチすると、執事は教会から出て行った。
剣聖は落ちていた自分の服たちを拾って着ていく。そして聖女の帽子を拾い、ちょっと考えた。
「これ持って行ったら、お菓子とかにありつけるかしら」
帽子を頭に乗せ、剣聖も向かうことにした。
その後、ぜんぜん道が分からず迷子になる事を、彼女は知らない。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」
「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」
私は思わずそう言った。
だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。
***
私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。
お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。
だから父からも煙たがられているのは自覚があった。
しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。
「必ず仕返ししてやろう」って。
そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる