血濡れ皇帝と最強の女王

桜野 華

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第四章

カルディス帝国女皇と王配の幸せ

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 前章から3年後のお話。
アリシア21歳、ヴォルフ28歳、セフィロス31歳になりました。レオンハルトは25歳、アマリアは23歳です。


 その日、カルディス帝国皇城はどことなくざわついていた。アマリア女皇が産気づき、侍女やメイドや宮廷医が、慌しく彼女の寝室へ出入りする。
 ここしばらく、執務の一切を引き受けていた王配レオンハルトも、落ち着かない気持ちで執務室の中をウロウロと無駄に彷徨く始末だ。
 補佐をしていたクラウスが、呆れたようにため息をついた。

「レオンハルト王配殿下。今日はもう結構です。アマリア陛下のお側には付き添えないでしょうが、どうぞお近くの部屋でお控えください」

「いや、すまない。どうも落ち着かなくて。でも、一人になっても余計に心配になってしまいそうだ。ダッカード、クラウス、ここで茶にでも付き合ってくれないかい?」

 初めての妻の出産だ。落ち着いてどっしりと構えてなんていられない。ましてや今1人にされたら、アマリアの部屋の前に押しかけウロウロとして、邪魔にしかならない気がする。
 レオンハルトは肩を竦めて執務を放り出し、応接スペースにあるソファーにドサリと腰掛け、二人を見上げて言った。

「……そうですな。確かに我々も平常心じゃいられないようだ」

 ダッカードが苦笑して、メイドを呼び茶の用意をさせる。彼にとってアマリアは、娘のようなものだ。

「出産時には、男は何も出来ないからな。ここで情けなく茶でも飲みながら、知らせを待つか」

 クラウスもレオンハルトの向かいにドサリと腰掛けた。彼の横にダッカードも静かに腰を下ろす。

「二人共、ありがとう」

 レオンハルトが礼を言ったところで、メイドが入室して来て三人の前に茶と菓子を並べた。
 それに手を付けたクラウスが、ふと懐かしそうに目を細めた。

「ヴォルフがいたら、なんて言っただろうな」

 皆でこの部屋で、執務の合間を縫ってくだらない話をしたことを思い出したのだ。
 ダッカードも当時を思い出し、穏やかに微笑んだ。

「陛下なら、情けない顔をしてないで仕事しろ!と喝を入れられたかもしれませんな」

 二人の思い出の中にいるヴォルフガインを想像して、レオンハルトも笑う。

「ははは……確かに。少なくとも表向きには平然としてそうです」

「でも、その実、身内にはお優しい方ですから」

 ダッカードはまるで自身の子を語るようだった。

「ああ。もう3年か……元気にしてるかな」

「アリシアと上手くやっているといいけど」

 クラウスが窓の方に視線を移し、空を見上げながら言った言葉に、レオンハルトはヴォルフガインと共に旅をしているアリシアを想う。

「ここにいたときは、女王に全く相手にもされてなかったもんなあ」

「でも、以前アマリアへと送られてきたフェルナン卿からの手紙には、二人仲良く北部に向かっていったと」

 クラウスは当時の二人の様子を思い出して笑うが、その後は無事にアリシアの心を得られたのだろうと、レオンハルトは思う。
 クラウスもきっとわかっているんだろう。

「ヴォルフにとっては、最初で最後の恋なんだろうよ。びっくりするくらい執着してたし、必死に口説き落としたんだろうなあ」

「あっさり皇位を捨ててみせましたからな」

 ダッカードもウンウンと頷いている。

「あの帝国皇帝陛下がね。意外だったよ。でも、アリシアも陛下には遠慮ない物言いだったような」

「お互い気安い感じでしたね。きっと最初から気が合ったんでしょうな」

 本当に、あの二人は遠慮なくいろいろ言い合って、じゃれ合っているみたいだった。ヴォルフガインの前では、あのアリシアが表情豊かに過ごしていた。
 相性が良かったのだと思う。

 と、そこへ慌しく扉が叩かれる。レオンハルトが許可を出すと、バタンとすごい勢いで扉が開かれた。

「失礼します!殿下、お産まれになりました!おめでとうございます。皇子殿下です!」

 レオンハルトはソファーが動く勢いで立ち上がり、慌てて部屋を飛び出す。アマリアの寝室へと、気づけば走り出していた。

「アマリア!」

 ノックする余裕もなく扉を開けたレオンハルトに、疲れた様子ながらも赤子を抱いてベッドで身体を起こしたアマリアが、穏やかに微笑んだ。

「レオン。そんなに慌てて……」

 アマリアの言葉と笑顔に、レオンハルトの胸には言葉にできない感情が湧き上がる。安堵、歓喜、愛情、感謝……いろんなモノがごちゃ混ぜになって、息苦しいくらいだった。

「ありがとう。本当にありがとう」

 ベッドに走り寄り、その横で屈んだレオンハルトは、アマリアの背にそっと手を伸ばし、赤子ごと抱き込んだ。
 その瞳は薄っすらと潤んでいる。

「ふふふ……嬉しいわ。ねえ、抱いてあげて」

 アマリアはレオンハルトを見上げて、腕の中の赤子を差し出した。
 ここで初めて、レオンハルトは自分の息子を目に映した。淡い栗色の髪だった。目は開けていないからその色までわからないけれど、レオンハルトと同じ琥珀色だと言う。
 彼は恐る恐るその赤子に手を伸ばした。

「ああ。かわいいな。こんなに小さい。僕と同じ髪色だ」

 声を震わすレオンハルトに、アマリアの紅玉の瞳からも涙が溢れた。

「そうね。あなたに似ているみたい。楽しみだわ。ねえ、レオン。幸せね」

「ああ。本当に……」

 きっとこの幸せは、アリシアが連れてきてくれたんだろうと思う。彼女が下したベルンハルト王国からの依頼を受けるという選択が、アマリアとレオンハルトの今に繋がっている。

 アリシア、君は今幸せかい?
 帝国は今豊かに発展して、平和な国になった。そして、僕達はこんなにも幸せだ。
 君とヴォルフガイン殿の幸せも、アマリアやクラウス達と共に祈っているよ。
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