血濡れ皇帝と最強の女王

桜野 華

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第四章

結末はHappy Endで

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 ガダル・ガジャの一行が立ち去っていくのを見送った後、「おい!」と言うヴォルフの声で、アリシアはセフィロスを振り返った。
 するとセフィロスは、ヴォルフに支えられて立っている。

「セフィロス!」

 アリシアは二人の方に駆け寄りながら、セフィロスが腰掛けられるように、椅子のように地面を変形させた。
 そこに、ヴォルフに助けられ腰を下ろしたセフィロスが、顔を上げる。

「助かった。さすがにずいぶん持っていかれたが、大丈夫だ。ちょっと、ふらついただけだ」

 疲れたように笑うセフィロスだが、顔色は悪くない。
 アリシアはホッと息を吐く。
 そして、セフィロスの顔をじっと見つめた。

「目が、両方とも金色だね」

「ああ、そうだろうな。聖石の力を相殺させる結界を、あれだけ広範囲に張ったんだ。向こうの神の力を全部注いで、やっと釣り合いが取れるんだろうよ」

 小さく笑ってそう言ったセフィロスは、確かに元の彼と比べて、魔力の印象も大きさもだいぶ変わってしまっている。

「それじゃ……」

 アリシアは、その続きを言葉にするのを戸惑った。これまで彼自身の一部だった神の祝福である力が、失われてしまったのだ。セフィロスの喪失感は、アリシアにこそ理解できるものだ。
 だがセフィロスは、そんなアリシアを安心させるように笑っている。

「ああ。ガイヤーンの力は、俺にはもうどこにも無い。気にするな。これで只人として好きに生きていける。
 俺は多分、神から解放されたかったんだ。あっちの大陸は既に人の手に委ねられた。
 この大陸は、神の恩恵を受けるのか、人の手だけで生きるのか、選択肢が持てるようになったってことなんだろう」

「セフィロスは、向こうの大陸に戻るつもりはなかったってこと?」

「まあ、そうだな。それに、ガイヤーンはこの大陸でレーヴェルディーヤの役に立てて、喜んでいると思うぜ?」

「え?」

 いきなり飛んだ神の話に、アリシアは思わず尋ね返す。

「ガイヤーンは、レーヴェルディーヤに惚れていたんだよ。肝心の女神は全く知らなかったみたいだが、お前に憑依したレーヴェルディーヤに礼を言われて、微笑んでもらって、ガイヤーンはこの大陸に自分の力が残せる事に歓喜していた。
 女神の微笑み一つで、自分の力を全て差し出したんだ。すごいよな。
 お陰で俺は、随分スッキリした。お前を見ても恋しいと思う気持ちが綺麗さっぱり無くなって、なんとも思わなくなった」

 そう言って、セフィロスは本当にスッキリと吹っ切れたような表情を浮かべている。

「それって」

 アリシアはこれまでのセフィロスの言動を思い出す。確かに、彼は時々どこか焦がれるようにアリシアを見ていたり、冗談めいた口説き文句を告げてきたりと、思い当たることはある。
 でも、アリシアは本気にはしてはいなかった。
 だって、そこにはヴォルフのような熱も執着も感じなかったから。

「どうやら、お前の聖石が持つレーヴェルディーヤの意識に、俺の中のガイヤーンが惹かれていたってことなんだろ。無くなってみて、ハッキリした」

「それは良かったな」

 これまで黙って二人のやり取りを聞いていたヴォルフが、同情のこもる声で言った。

「ああ。自分でも10も歳下の女をなんであんな風に好きなのか……良く分からなかった。
 俺は本来、歳上のこう……ボンキュッボンの色っぽい女が好みなんだ」

 セフィロスの台詞にアリシアは呆れて、でも、あえてむくれて見せる。

「悪かったね、色気が無くて」

「ハハハ……そうは言ってないだろ? まあ、俺の好みとは違ったってことだ。その男ともな」

「ああ、めでたい事だ」

 ヴォルフも肩を竦めて、苦笑している。

 そしてセフィロスは、自身が張った魔法結界を見上げる。

「女神は、この大陸に生きる人間たちを愛していたんだろうな。だからレーヴェルランドを聖地にして、制約を課し、大陸の平和を願う女王を立て、その民達もうまくやってきた」

「人間が、レーヴェルランドを迫害しない限りはね」

「ああ、女神だって自分の意志や力を継ぐ人間は、可愛いだろうからな。
 その祝福が不当に振るわれないために女神が作ったこの大陸のシステムは、女王の聖石があったから上手く回ってきたんだろう」

「セフィロスはこれで良かったの? 後悔はない?」

「言ったろ? 神から解放されたかったって。幸い魔力はそこそこ残ってるし、努力で身につけた技術は裏切らないからな。S級としてはキツイがA級位ならなんとかなるんじゃないか?」

 セフィロスが、首や肩を軽く回し、手を握ったりしながら、何かを確かめるようにして言った。

「そう」

 その様子を眺めながら、アリシアは決める。
 きっと今の彼なら、大丈夫だ、とそう思う。そして、故郷には帰らないと言う彼の、縁になればいい。

「S級が2人も減っちまったな。まあでも、ソイツがS級に上がれんだろ?」

 セフィロスがヴォルフに視線を向け、片側の口角を上げる。
 アリシアはそれに頷くと、手を上げてセシルを呼んだ。

「そうだね。わかった。レベルの書き換えは、ダーゼルのギルドでしよう。
 セシル、しばらくセフィロスについて。あとリーズを一度彼に会わせて」

 セシルはそれに頷いて、セフィロスに向かい合った。

「わかりました。セフィロスさん、テイラーと同年のセシルです。しばらくは冒険者として一緒に行動させて下さい」

 そう言ってセシルは、艶やかに笑って手を差し出した。
 彼女は優しげで可愛らしい美人で、セフィロス好みのボンキュッボンという素晴しいプロポーションだ。
 ちなみにセフィロスの2歳歳上である。

「助かる。慣れるまで、よろしく頼む」

 そこにアリシアの気遣いを感じ、セフィロスも笑って、差し出された手を握った。




 会談に参加していた各国の使者や関係者がそれぞれ帰国し、アリシアとヴォルフもベルハルトの宿に戻ってきた。

「なんとか無事に片付いたな」

 ドサリと部屋のソファーに腰掛けて、背凭れに背を預けたヴォルフの隣に、アリシアも腰を下ろす。

「そうだね。ねえヴォルフ、エデンに来ない?」

 相槌を打って、アリシアはそのままいつもの調子でヴォルフにそう告げた。
 ヴォルフは聞き覚えのある単語に身を起こし、アリシアを振り返る。

「エデン? そう言えばこの間チラッと話に出ていたな」

 アリシアも隣を向いて、ヴォルフと目を合わせる。
 紅い瞳に、アリシアの顔が映っている。その事に細やかな幸せを感じて、アリシアは微笑んだ。
 きっとヴォルフなら、受け入れてくれる。レーヴェルランドの制約を知っても尚、アリシアと共に在ることを選んでくれる。
 だから、アリシアはヴォルフの頬に手を伸ばした。

「レーヴェルランドの女と伴侶の男、そしてその家族が住む地域。レーヴェルランドの女が一生を共にしたいと思う男と、全てを捨てても女と添い遂げたいと思う男が、結婚契約を結んで、聖石を持ったまま一緒に暮らせる唯一の場所」

 それを聞いたヴォルフの瞳が、幸せそうに緩んだ。
 ヴォルフに伸ばされたアリシアの手を取り、そのまま彼の口元へと引き寄せ、指先に優しく唇を落とす。

「俺達の為の楽園だな」

 そう言って、今度はアリシアを抱き上げ、自身の膝の上に乗せた。
 アリシアは笑いながら、ヴォルフに告げる。

「私を育ててくれた家族もそこにいる」

 ヴォルフはアリシアを腕の中に抱き込んで、彼女の柔らかな唇に軽い口吻を落とすと、コツンと額を合わせて、囁くように問う。

「俺達もそこで家族を増やせるのか?」

 今度はアリシアがヴォルフに軽くキスすると、首の後ろに腕を回して、ギュッと抱き着いた。
 そして、ヴォルフの耳元で小さな声で答える。

「大陸の南部に女王の巡礼に行く必要はなくなったから、そろそろ一旦レーヴェルランドに戻ろうかと思って。時々は外に出ることもあると思うけど。ヴォルフが望むなら、家族も増やせるね……うわっ!」

 急にアリシアを抱いて立ち上がったヴォルフに、アリシアは驚いて声を上げた。
 ヴォルフはアリシアを抱いて、ベッドへと歩いていく。

「お前と共に戦うのも悪くはなかった。だが、お前と共に笑いあって暮らしていけるのは、望外の幸せだ」

 ヴォルフは、優しくアリシアをベッドに横たえながら、本当に幸せそうに笑った。

「うん。愛してるよ、ヴォルフ。私の半身」

 そして、アリシアも花開くように微笑む。

「ああ。俺もお前だけを愛してる」

(俺だけの女王をやっと全部手に入れた)

 ヴォルフにとって、最初で最後の恋。最愛で最上の女。かけがえのない半身。
 アリシアと出会って、3年とちょっと。決して短くはない期間を共に過ごして、ヴォルフもまた彼女の唯一になったのだ。
 皇帝であったからこそ女王であるアリシアを理解できた、だが皇帝であり続けていたら決して手に入らなかった女。
 ヴォルフはこの奇跡のような運命の出会いと巡り合わせに感謝して、アリシアに再び口吻を落とした。
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