光の方を向いて

白石 幸知

文字の大きさ
16 / 52

第14話 芽生え始めてしまった友情

しおりを挟む
 思い立ったらすぐ行動、それが私の意識していること。
 放課後、帰ろうとする及川さんを捕まえて声をかける。

「ねえ、及川さんって勉強得意だったりする?」
「え……? えっと……その、人並みでしたら……」
「国語とか英語、世界史ってできる?」
「ま、まあ……はい……」
「あ、あのさ、私に……勉強教えてくれない?」

 少しの間、目の前に立つ及川さんはポカンと立っていたけど、やがてゆっくりと首を縦に振って「い、いいですよ」と言ってくれた。
「よかった……及川さん、いつなら都合いい?」
「わ、私はいつでも大丈夫です……別に用事はないので」
「ならさ……これから、いい?」
 思い立ったら、即行動。
「こ、これから、ですか……?」

「──で、じゃあ次は助動詞の説明に入りますね」
 じゃあ今日から、って言っても及川さんは嫌な顔一つせず、放課後の教室で私に古文についてゆっくり教えてくれた。絵見や恵一、陽平はもう先に帰った。おかげでこれまでチンプンカンプンだった古文も少しは頭に入るようになるかもしれない。

「まず助動詞を覚えるときはどの形とくっつくかを区別して覚えちゃいます、後から全く同じ音なのに意味が違うっていう助詞も出てくるので、そういうときに区別できるようにするために」
「ふむふむ」
 広げたルーズリーフにメモを残していく。

「で、まず最初に未然形に接続する助動詞なんですが、語感で覚えちゃいます、『む・ず・むず・じ・しむ・まし・まほし・る・らる・す・さす・りはサ変』ってもしもし亀よみたいなリズムで歌うと覚えやすいと思いますよ」
「え、えっと……むずむずじしむましまほしるらるすさすりはさへん……ほんとだ、なんか響きが覚えやすそう」
「ですよねっ」

 ……あれ、なんか、今の表情、いつもの及川さんとは雰囲気違うような……どこか大人しめの印象がついて離れない感じが、今は純粋に明るい子って感じが……。
 そのタイミングで、一般生徒完全下校のチャイムが鳴り響く。
「あ、も、もう時間なんで、帰らなきゃですね……続きは、また今度、にしましょうか」
 そんな印象は、たった一瞬のことだった。でも。そのわずかな間見せた及川さんの別の表情が少し、気になった。

 それから一週間、私は及川さんに放課後勉強を教えてもらった。効果はテキメンで、これまで全くもってわからなかったアルファベットの羅列が意味を持つ英文に変化していき、ただの事象の並びでしかなかった世界史もひとつの物語として理解できるようになった。古文もなんとか意味を捉えられるようになり、文系科目での赤点は心配しなくてもよくなった。

「ありがとうね、遥香、おかげで助かったよ」
「ううん、全然気にしないでください……茜」
「とりあえず、もう大丈夫だと思うから、一旦放課後のこれはしばらく中断かな」
「うん、わかった」

 そして、この頃にはお互いのことを名前で呼び合うくらいには関係が進展していた。
 帰り道、私は勉強を教えてくれたお礼に何か奢ってあげようと思い、学校近くにある喫茶店に遥香と一緒に寄り道をすることにした。

「べ、べつにそんな気遣わなくても……」
 遠慮する遥香を半分引っ張り店内に入る。
「いいからいいからっ」
 入ったのは全国的に展開されているチェーンの喫茶店。平日の夕方近くということもあり、店内はお母さん世代の女性の集まりがチラホラと見受けられる。

 窓際の空いているテーブル席に向かい合わせに座り、メニューを開く。
「千円くらいまでなら大丈夫だからっ」
 財布の中身を見て、彼女にそう告げる。

「え、で、でもそんな悪いです……」
「まあまあそう気にせずに……」
 やはり根がいい子だから、奢ると言ってもなかなか遠慮してしまうもので、結構な時間メニューとにらめっこを続けていた。店内に流れている穏やかなBGMが一曲終わったあたりで、

「……だ、だったら……これ……一緒に食べませんか?」
 遥香は、デニッシュの上にアイスクリームとさくらんぼが乗っているこのチェーン店で有名なスイーツを指さした。

「……一人でひとつはちょっと……なので、一緒に……どうですか?」
「それで、いいの?」
「は、はい……それで、いいです。コーヒーは、自分で出すんでっ」
「そ、そう?」
 まあ、きっとこれ以上は本当に遠慮しそうだから、それに甘えるか。
「すいませーん」
 どこかふんわりとした気持ちになりつつ、私は店員さんを呼んで注文を済ませた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...