【R18】奈落に咲いた花

夏ノ 六花

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第一章〜First end〜

黙って受け入れて下さい

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「───イーリス!?一体今までどこに…」
「………」
「父上、今は姉様を休ませてあげてください。色々報告はありますが、私も今日中に学校へ戻らなければならないので、一旦姉様を部屋で休ませてきます」
「…シリウスお前が見つけてくれたのか?ありがとう、よく見つけてくれた…イーリスを早く部屋へ連れて行ってあげなさい。私は書斎にいるから」
「分かりました…」

久しぶりに伯爵邸に帰ってくる。
二年経ったというのにあまり変わった様子がないのは、邸宅を管理する女主人が不在となったからだろう。
カーペットやカーテンなど大型家具の配置も変わりなかった。

道中、二人っきりの馬車の中にも関わらず、シリウスは私を責めることなくただ黙って私の肩を抱きしめてくれていた。
私が傍にいることを純粋に喜んでくれているように見えた。

それが嬉しくて…シリウスの元に戻ったのだと、改めて実感したのだった。
そして…



私の部屋に着いてすぐ…
それこそドアがパタンと締まり切る前にシリウスが唇を重ねてくる。

「───!」

言葉もなく突然始まってしまった貪るような激しいキスだった。
決して離さないというかのように苦しくなるくらい強く抱きしめられて、それでも物足りないのか閉じ込めるように何度も壁に押し付けられる。

ただシリウスに求められるまま、私は無我夢中でキスに応じることしか出来ない。

息苦しさと、シリウスの気持ちが込められた必死なキスに思わず涙が溢れてしまう。
ヘリオのことは悲しかったが…それでもこの二年は私達に必要な期間だったのだと気づく。
シリウスはこんなにも私を思ってくれているのだと、このキスでようやく実感することが出来た。

「ん……はぁっ…はぁっ…」
「………姉様…」

長かったようで短いキスが終わり、シリウスが離してくれたおかげでようやく新鮮な空気を取り込むことが出来る。
まぶたに唇が落とされ、頬を掴んだまま私を呼ぶシリウスを見上げると、熱の籠った瞳が見下ろしていた。

「…そんなに私が嫌ですか?」
「………え?」
「こんなに涙を流すほど…私が嫌いですか?二年前、姉様が居なくなってしまったと知って、私がどれほど辛かったか…それすらも、姉様にとっては重荷だと言うのですか?」
「…ち、違うのよ、これは…」
「構いません。姉様がどれほど嫌がろうとも…前にお伝えした通り、傍に置いて愛してあげてこそ…この想いは伝わると信じていますから。とりあえず、この部屋からは出ないと約束していただけますか?」
「……え?」
「父上に言って、部屋の前には警備の者を用意しておきます。今日は姉様の体調が良くないので様子を見てくると嘘の申請で外出しましたので、私は夜までには寮へ帰らないといけないんです。本音をいえば一晩中傍にいてあげたかったのですが…」

そう言ってシリウスは私をベッドに座らせると、ベッドの下に隠されていた足枷を引っ張り出す。
カチャン…という音と共に私の右足には足枷が付けられていた。

「シ…シリウス……?」
「またあの男が勝手に来て連れていかれては堪りませんから…私を安心させる為と思ってここは黙って受け入れて下さい。この部屋の中であれば十分に行き来できる長さにしていますので、不便はないでしょう。来週…休暇を申請して帰ってきますからその時にこの足枷は外してあげます。それまで待っていてください」
「………分かったわ…」
「来週お会いした時は笑顔で出迎えてくれると信じています…」

シリウスはにっこり微笑むと、私のおでこや頬に唇を落としていく。
そしてスカートをめくって太ももにキスの痕をたくさん残していく。

「っ───!」

シリウスと過ごした日々を思い出して、羞恥心と期待ですぐに身体が熱くなってくる。
抵抗もせずに身体を震わせていると、満足したのかシリウスが立ち上がってしまう。

「……シリウス…」

はしたないと思いつつもつい潤んだ瞳で見つめてしまっていた。
そんな私の様子を見てシリウスは優しく微笑みながらぎゅうと抱き締めてくれる。

「いい子ですね、姉様…では、行って参ります…」
「………行ってらっしゃい…」

最後に軽くキスをして本当に出ていってしまう。
完全に閉まったドアを見て、後ろ向きにベッドへ倒れ込んで身体に残った熱を必死に逃がす。

「…………はぁ…」

分かっていたことだったが…
最早、シリウスを弟として見ることは出来なくなっていた。



次の日、セドリックが部屋まで来てくれた。
私の足枷のことは聞いていたらしいが、実際に見てやはり驚いたのか目を泳がせながらかける言葉を選んでいるようだった。
セドリックがこの二年間のことを話してくれたが、内容としてはおおまかにはシリウスが言っていた通りだった。

私はこの邸が居なくなったことに気づいた後、アネスティラに捕縛の知らせが届いたこと。
憤慨したダリアはアネスティラを連れ、邸宅を出ていってしまったこと。
その行先はセドリックでも知らないらしい。

しかしシリウスは国外へ逃げたと言っていたので、もしかしたら行先も知っているのかもしれない。

そして私の両親の出身について…

ヘリオには父親はマクレーガン家の傍系で、十年前他界した一人の男性の名前を伝えていたそうで、私の母親の出身までは知らないと答えたそうだ。
セドリック自身、まさか私の母が王族だとは思ってもいなかったらしく、コンラッド王子やヘリオが何故そんなことを聞くのかと調べてみた結果、モートン王国の王族だった可能性が高いと判断したらしい。

この話を聞く限り、シリウスが言っていた計画はほぼ間違いではなかったようだ。
悲しさよりもどこか寂しさを覚えてしまう。

私を床に押さえつけるノワの剣幕が恐ろしいと思えた。
言葉を選んで詰まるヘリオが知らない人のように思えた。

「………そうなのですね」
「仮にシリウスの言う通り、王家の狙いが停戦の話し合いの場に君を連れて行くことだとしても、その時には王子妃という公的な立場が必要になってくる。一貴族の夫人という肩書きでは、君の存在を知ったモートン王国が取り戻そうとするかもしれないからな。対等な王族として正式に取り込んでおく方が王家としても無難だろう」
「………」
「これは…もちろん君の気持ちも重要ではあるが、国の命運をかけた話でもある…済まない。たとえ、君の気が乗らなくても、王家が本格的に動き出せば…私では君を守ることは難しいだろう…」
「大丈夫です…士官学校にいるシリウスが戦争に参戦して危険な目に遭うよりは、王族との婚姻くらいなんてことありません…以前は、望んでいたことでもありますし…」

コンラッド王子は、確かに名分を得ていた。
私の出身が明かされれば、貴族達の中で私とコンラッド王子の婚姻を反対する者はいないだろう。
もしかしたら積極的に進めようと動いてくれるかもしれない。
そう考えると、むしろこの二年…
よく私をあんなにも自由にさせてくれたものだと思う。

「…シリウスが戻ってきたら、一度話し合ってみます。私をあんなにも心配してくれていましたから、私の一存では決めかねます…」
「そうか…そうだな、そうしなさい…」



              *



一週間後…
シリウスを乗せた馬車が邸宅の門をくぐる。

それに合わせて、セドリックが玄関から外へ出ていくのが見えた。
降りてきたシリウスと軽く話をした後、用意されていた馬車に乗って入れ替わりで出ていってしまう。
領地へ向かうためだった。

昨夜、領地内でダリアに似た人を見たという報告があったらしい。
王家から出頭命令が正式に下されている為、セドリックはこういった報告があった場合、必ず事実確認と報告をしなければならないそうだ。
昨夜、改めて私の部屋に来たセドリックからは、私を一人置いて行くことは出来ないのでシリウスの帰りを待って発つと聞いていた。

セドリックを乗せた馬車が見えなくなった頃、私の部屋をノックする音が聞こえてきた。
私は慌ててバルコニーから部屋へ戻ると自らドアを開けて出迎える。

「───…シリウス!お帰りなさい!!」
「ただいま戻りました、姉様。約束を覚えていてくれて嬉しいです」

私を抱き上げてベッドへ運んでくれると、シリウスは約束通り私の足枷を外してくれる。
お願いする前に外してくれたことが、シリウスの怒りが収まった証のようで嬉しくなる。

「少し早いですが、夕食の準備が出来ているそうなので食堂へ参りましょうか」
「ええ、分かったわ」
「今日からしばらくは私が食事を共にしますから、しっかり食べてくださいね」
「ふふっ、わかってます」

シリウスは私をペットか何かと思っているのだろうか?
会えば食べろ食べろと食事を勧められてしまう。

これでもこの一年、平民と同じように暮らしたおかげで体力も人並みに付いたし、食事もノワから出されるまましっかり摂るようしてきたのだ。
それでもシリウスから見るとまだまだ足りないらしい。
シリウスのエスコートで食堂へ向かうと、久しぶりに楽しい食事の時間を過ごすのだった。
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