僕の周りの人達には秘密がある

最終章 雨流射 霊也の秘密

過去の自分

霊也君は病院に搬送された。駆けつけた救急隊も、明らかに様子がおかしいのがわかったようだ。でも最初は訝しむ目で見られた。何故なら霊也君は怪我をしてる訳でもなく、ただ俯いていただけだからだ。…傍から見れば、俯いていただけだ。でも近付けば分かる。霊也君の異常さを知ってもらうために私は彼を救急隊に近づけた。訝しげに彼らは霊也君の顔を覗き込んだ。すると隊員達は一変。置かれた状況を理解し、急いで救急車に霊也を乗せた。
｢私も連れて行ってください！彼と親しいんです！｣
｢了解しました。乗ってください。どちらにせよ話を聞かなければいけないので。｣








私は霊也君がおかしくなった経緯を全て話した。救急隊員、病院の先生、そしてあとから来た愛澄花達。みんなに同じ内容を説明した。
｢…また病院で全員集合か…。｣
悲しげに夢叶はそう呟いた。病院で集合するのはあれっきりと思いたかった。
｢…お兄ちゃん…どうしたゃったのでしょう…。｣
目に涙を溜めてボソリと呟く霊夏ちゃん。そんな幼い彼女に、私達は声をかけられなかった。







やっと入室許可がおりた私達はベットで横たわる少年を囲んでいた。その少年はどこかやつれているようにも見える。一番最初に霊也君に飛びついたのは霊夏ちゃんだった。
｢おにいちゃあーん！うわぁーん。｣
死んでないよ大丈夫。大丈夫だから落ち着いて。私達4人は霊夏ちゃんを落ち着かせた。
｢ふぅー。…今は霊也君は寝ているわね。｣
霊也君が打たれている点滴には安と書かれていた。多分安定とかいそういう意味だろう。
｢…霊也。｣
｢雨流射君…。｣
｢霊也君｣
｢霊也…君。｣
みんながみんな霊也君が目を覚ますのを待っていた。そしてその願いが叶ったのか霊也君は目を覚ます。でもその目はやはり虚ろで、焦点が合わない目で私達を見たあと、ふっと笑って呟いた。
｢お前達は弱いものいじめが好きだなぁ。大勢で1人をいじめるなんて醜いとか思わないのか？｣
煽るようにケラケラと彼は笑った。
｢霊也君？私達は弱いものいじめなんか｢そう言って！｣
｢ひっ。｣
突然大声で叫んだ霊也君に驚いて私は変な声が出てしまった。
｢そう言ってまた殴るんだろ？もうその手には乗らねーよ。絶対に通さない。｣
彼は後ろを守るように手を広げた。無論、後ろにあるのは枕だけだ。
｢約束したんだ。絶対に守ってあげてよって言われたんだ。約束は守らないと行けないだろ？｣
彼の目はどんどんと光が宿ってきた。しかし、〝彼〟には戻らない。
｢殴るんだったら来いよ悠斗(ゆうと)！ほら、気が済むまで殴れよ。でもこいつだけは殴らせねー。あまとだけは絶対に触れさせねー。｣
その後彼は私達を1人ずつ見て言っていった。
悠斗(ゆうと)、有咲(ありさ)、夕美(ゆみ)、研太(けんた)、真紗美(まさみ)…。私たち一人一人をその名前で呼んでいった。
｢違う！私はそんな名前じゃない！私には未咲紀っていう名前があるの！霊也！思い出せ！私があなたの主よ！思い出せ！｣
未咲紀は霊也君の肩を持ち、ぐっと顔を霊也君に近付けた。
｢主…？なんじゃそりゃ。…頭が痛、い。お前ら…やっぱり…あいつらじゃないのか？なんで殴らないんだ？それに…妙に大人っぽいし…。｣
！霊也君が記憶を取り戻しつつある…そう確信した私達は、更に畳み掛けるのだった。