【完結】オメガの半身 〜王太子と公爵家の双子〜

.mizutama.

文字の大きさ
8 / 29

第8話 正妃

しおりを挟む
~現在~



 目が覚めるとすでにアムルの寝所に王の姿はなかった。

 節々痛む身体で何とか起き上がる。身体のあちこちについた噛み痕と吸い痕に、アムルは嘆息する。


 ――マーリクに、愛されている。身分不相応なほどに……。


 もともと親友だったマーリク。マーリクのまっすぐな人柄は少年のころから何も変わっていない。だから、このように抱きつぶされるような間柄になっても、アムルは心の底からマーリクを憎むことができずにいる。

 そしてマーリクから向けられる強い愛情に、同じ熱量をもって返せない自分をふがいなくも思う。


 ――あんなことがあったというのに、今は王の側室として、申し分のない生活だ。王に寵愛され、子どもも二人いる。


 対応の難しい正妃はいるが、心から疎まれているわけでもない。ほかの側室たちは、王のアムルへの寵愛ぶりが王宮に広く知られてから輿入れしたものたちばかりなので、王とアムルとの関係にあきれこそすれ、今更嫉妬することもない。

 ――でも、それなのに、自分は、どうして、こんなに……。



 朝食を済ませると、アムルは約束通り子供たちの元へと向かった。すでに十分日が高くなっている。
 昨晩は途中から意識はなかったが、マーリクはいつも通り明け方近くまでアムルの身体を貪っていたに違いない。

「アムル様、カミーラ様がお呼びです。姫様たちもご一緒にとのことです」

 ルゥルゥにたっぷりと絵本を読んであげた後、マイイがおままごとをしたいというので3人で遊んでいたところに、侍女がやってきた。

「……わかりました」

 断れる立場にないアムルは、娘二人を連れて、カミーラが待つ王宮の中庭へと向かった。



 中庭では正妃・カミーラの一人息子、ターヒルが騎士を相手に剣術の稽古をしているところだった。

 アムルたちはその見物に誘われたのだ。


「ようやく目覚めたか。昨夜も大変だったそうじゃな」

 開口一番、カミーラはアムルを揶揄した。
 おそらく、昨日新しい側妃の寝所に行ったあとに、王がアムルの元を訪れたことを知ってのことだろう。

「遅くなり申し訳ありません」

 アムルが頭を下げる。

「なに、今しがたはじまったばかりじゃ。マイイとルゥルゥはそちらへ」

「はぁーい」

「カミーラ様、いつもありがとうございます」

 しぼりたての果実水と、きらびやかな茶菓子がたくさん用意された席に、子供たちは喜んで座った。

「好きなだけお食べ」


 アムルにお小言をいうのがなによりの楽しみだというカミーラだが、こうしてマイイとルゥルゥが懐いているところからも、本当は心根の優しい女性だということがわかる。

 カミーラは、隣国の元王女。マーリクとは政略結婚にあたる。
 二人の間には愛情はない、とカミーラもマーリクも言っているが、アムルの目から見ると二人はとてもお似合いの夫婦に見える。
 割り切った関係かもしれないが、二人の間には確かな信頼関係があるようだった。

 カミーラはまっすぐな銀髪が美しく、紫色の瞳の神秘的な容姿をしている。


「体調はどうじゃ?」

 毎夜マーリクにさいなまれていることを知っているカミーラは、一応アムルを気遣ってくれているらしい。

「はい、大丈夫です」

 アムルの前に置かれたカップに、香り高いお茶が注がれる。


「これでも、そなたには感謝しておるのじゃ。そなたがいるおかげで私もここで安穏としておられるからな」

 カミーラはアムルに茶菓子をすすめてくる。離れたテーブルにいる子供たち二人は、色とりどりの菓子にすっかり夢中の様子だ。


「私のおかげ、ですか?」

「そなたはほかの側室と違い、わきまえておるからな。私の地位をおびやかそうとか、大それたことを思ってもおらぬだろう」

「当り前です! 私がカミーラ様をおびやかすなど!」

「私を……恨んでいるか?」

 カミーラにまっすぐに見つめられる。


「そんな、恨む、など……」

「そなたが側室として王宮に入り、私と王との結婚が急に決まったころ、そなたはまるで抜け殻のようじゃった。陛下は毎夜抜け殻のそなたを抱き、私の元へ泣き言を言いに来た。
……おかげで、ターヒルが産まれたのじゃがな。
私はあまり他人の感情を気にかけることはないが、あの時の陛下は……、あまりにも憐れじゃった。
だから私が、陛下にあの薬を渡したのだ。私の国に伝わる、秘薬を……」

 ――秘薬。


「……おかげで、マイイとルゥルゥが産まれました。カミーラ様には感謝しております」

「子どもが生まれてから、そなたは変わったな。そしてそなたが変わって、陛下も変わった。
でも、たまに思うことがある。本当にこれでよかったのか、と……。そなたは、もしかしたら誰か別の……」

 カミーラの視線に、アムルは目を伏せた。


「これでよかったのです。私は、マイイとルゥルゥがいて、幸せです」

「……そうか」

 カミーラは、騎士と剣を交えている自分の息子へと目を向ける。


「なかなか筋がいいらしい。将来が楽しみじゃ」

「相手の騎士が圧倒されています。ターヒル殿下の前途は洋々としていますね」

 次期国王をたたえたアムルに、カミーラは顔を曇らせる。


「一つ、気になることがあるのじゃ」

「気になること、ですか?」


「魔女・ワアドが王位を退いて、魔法国に新しい魔王が誕生したらしい」

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐
BL
 悪逆の限りを尽くした公爵令息を断罪しろ! そんな貴族たちの声が高まった頃、僕の元に、冷酷と恐れられる王子がやって来た。  その男は、かつて貴族たちに疎まれ、王城から遠ざけられた王子だ。昔はよく城の雑用を言いつけられては、魔法使いの僕の元を度々訪れていた。  ひどく無愛想な王子で、僕が挨拶した時も最初は睨むだけだったのに、今は優しく微笑んで、まるで別人だ。  出会ったばかりの頃は、僕の従者まで怯えるような残酷ぶりで、鞭を振り回したこともあったじゃないか。それでも度々僕のところを訪れるたびに、少しずつ、打ち解けたような気がしていた。彼が民を思い、この国を守ろうとしていることは分かっていたし、応援したいと思ったこともある。  しかし、あいつはすでに王位を継がないことが決まっていて、次第に僕の元に来るのはあいつの従者になった。  あいつが僕のもとを訪れなくなってから、貴族たちの噂で聞いた。殿下は、王城で兄たちと協力し、立派に治世に携わっていると。  嬉しかったが、王都の貴族は僕を遠ざけたクズばかり。無事にやっているのかと、少し心配だった。  そんなある日、知らせが来た。僕の屋敷はすでに取り壊されることが決まっていて、僕がしていた結界の魔法の管理は、他の貴族が受け継ぐのだと。  は? 一方的にも程がある。  その直後、あの王子は僕の前に現れた。何と思えば、僕を王城に連れて行くと言う。王族の会議で決まったらしい。  舐めるな。そんな話、勝手に進めるな。  貴族たちの間では、みくびられたら終わりだ。  腕を組んでその男を睨みつける僕は、近づいてくる王子のことが憎らしい反面、見違えるほど楽しそうで、従者からも敬われていて、こんな時だと言うのに、嬉しかった。  だが、それとこれとは話が別だ! 僕を甘く見るなよ。僕にはこれから、やりたいことがたくさんある。  僕は、屋敷で働いてくれていたみんなを知り合いの魔法使いに預け、王族と、それに纏わり付いて甘い汁を吸う貴族たちと戦うことを決意した。  手始めに……  王族など、僕が追い返してやろう!  そう思って対峙したはずなのに、僕を連れ出した王子は、なんだか様子がおかしい。「この馬車は気に入ってもらえなかったか?」だの、「酒は何が好きだ?」だの……それは今、関係ないだろう……それに、少し距離が近すぎるぞ。そうか、喧嘩がしたいのか。おい、待て。なぜ手を握るんだ? あまり近づくな!! 僕は距離を詰められるのがどうしようもなく嫌いなんだぞ!

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。 ◆ 2025.9.13 別のところでおまけとして書いていた掌編を追加しました。モーリスの兄視点の短い話です。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧
BL
「顔だけだ」と笑われても、俺は本気で騎士になりたかった。 傷だらけの努力の末にたどり着いた第三騎士団。 そこで出会った団長・ルークは、初めて“顔以外の俺”を見てくれた人だった。 不器用に愛を拒む騎士と、そんな彼を優しく包む団長。 甘くてまっすぐな、異世界騎士BLファンタジー。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

処理中です...