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第15話 赤い魔眼
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~現在~
王宮は今までになく、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
「陛下、早くお出ましに! 準備が間に合いません」
部屋の外から、しびれを切らした女官の声がする。
「しばし待て、今すぐに出る!」
返事をしたマーリクは、しかしもう一度アムルの裸の肩を抱き寄せ、口づけた。
「陛下っ、ん、むぅ……っ、駄目ですっ」
舌を絡ませてくるマーリクの胸を、アムルは押し返す。
「アムル……、もう一度……、はさすがに無理だな」
マーリクが、アムルの首筋に顔をうずめる。
「昨晩の分でまだ足りませんか?」
「全然足りない、もっと、ずっとこうしていたい……」
マーリクはアムルの胸に甘えるように額をこすりつけた。
「まったく、あなたという人は……」
あきれ気味に言うと、アムルはマーリクの赤毛を梳いてやる。
「ああ、新しい魔王をもてなすなど、考えただけでゾッとする」
マーリクの手が、アムルの裸の背中をゆっくりと撫でていく。
「カミーラ様も心配されていました。もしや、ターヒル様が魔王に拐かされたりしないかと」
「まさか! カミーラは心配しすぎだ。すでに訪問を終えた近隣諸国によると、珍しく要求の少ない魔王らしいぞ。
高価な貢物も拒否して、不可侵条約を結ぶだけでいいらしい。
40年前にあの魔女が即位したときは、各国の貴重な宝石を根こそぎもっていったらしいから、それに比べたらずいぶん欲の少ない魔王だ」
「それならきっと安心ですね。今宵も、何事もなく過ぎると良いですね」
「アムル、お前は部屋にいろ。宴に出る必要はない」
マーリクは名残惜し気にアムルの首筋にキスをすると、ようやくアムルから離れた。
「……承知いたしました」
手早く服を着たマーリクは、夜着を肩からひっかけただけのアムルに微笑みかけると、そのつむじに口づけた。
「アムル、宴が終わったらまた来る」
「はい……」
マーリクはアムルの頭に手を置いた。
「お前は何も心配するな……」
マーリクはいつくしむようにアムルの髪を何度も撫でた。
「伸ばしましょうか……?」
マーリクがアムルの水色の髪をことのほか好んでいることは、アムルもよく知っていた。
だが、あの事件依頼、アムルはずっと髪を伸ばすことなく、短髪を通している。
服装も、以前のように一見してオメガとわかるような服装は意識的に避けていた。
アムルの言葉に、マーリクは破顔した。
「言わなかったか? 私は短い髪のお前が好きだ。ずっと前から」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
魔法国ーー。
それは大陸の中央に位置する特殊な国であった。
一定以上の魔力を持つ魔女や魔法使いだけが、そこに入国することを許される。その内情は多くを語られることはなく、厚いベールに覆われている。
世襲制ではなく、先代の魔王に指名されたおびただしい魔力を持ったもののみが、次代の魔王として魔法国を治めることができる。
魔王となったものは、その強大な魔力をもって近隣国を支配しないことを約束するかわりに、即位時に魔法国をとりまくそれぞれ7つの国になんでも望みのものを所望することができる……。
新しく魔王となったものは、先代と同じ赤い魔眼を持つ、まだ年若い男だという。先代の魔女ワアドは、40年の長きにわたって魔法国を治めていたが、このたび新しい魔王にその王位を譲った。
魔王が誕生した後の慣習として、7つの国の王は、新しい魔王の戴冠を祝い、もてなし、魔法国との友好を約束させるため、それぞれ順番に魔王を自分たちの国に招いていた。
そして今日、マーリクが治めるこの国に、新しい魔王がやってくるのだ。
もう100年以上昔の話になるが、先代の魔女のもう二つ前の代の魔王は、大変傲慢な性格で知られていた。
その魔王は、即位時のもてなしで訪れたある国で、王の娘を見初め、恥ずかしげもなく祝いの品として王女を所望したという。
もちろん激怒した王は、きっぱりとその要求を断った。
しかし、魔王はその報復として、王女と王をその場で呪い殺してしまったという……。
こんな話が伝わっているせいか、各国の王族たちは、魔法国とその魔王をことのほか恐れていた。だが一方で、魔法国という存在があることで、この大陸がほかの強大な力を持つ大陸からの侵略から守護されていることもよくわかっていた。
魔王の即位時のこの習わしは、各国の王たちが魔法国とある一定の関係を築くためには避けては通れない儀式だった。
――新しい、魔王。
衣服を整え、鏡にうつった自分をアムルは見つめる。
水色の髪、水色の瞳……。
――まさかそんなはずはない。だって、彼の瞳は金色だ。
赤い魔眼を持つという、年若き魔王。
――なぜ急に彼のことを思いだしたりしたのだろう。
――彼は、今も国外のとある場所に軟禁され、囚人のような日々を送っているというのに……。
王宮は今までになく、慌ただしい雰囲気に包まれていた。
「陛下、早くお出ましに! 準備が間に合いません」
部屋の外から、しびれを切らした女官の声がする。
「しばし待て、今すぐに出る!」
返事をしたマーリクは、しかしもう一度アムルの裸の肩を抱き寄せ、口づけた。
「陛下っ、ん、むぅ……っ、駄目ですっ」
舌を絡ませてくるマーリクの胸を、アムルは押し返す。
「アムル……、もう一度……、はさすがに無理だな」
マーリクが、アムルの首筋に顔をうずめる。
「昨晩の分でまだ足りませんか?」
「全然足りない、もっと、ずっとこうしていたい……」
マーリクはアムルの胸に甘えるように額をこすりつけた。
「まったく、あなたという人は……」
あきれ気味に言うと、アムルはマーリクの赤毛を梳いてやる。
「ああ、新しい魔王をもてなすなど、考えただけでゾッとする」
マーリクの手が、アムルの裸の背中をゆっくりと撫でていく。
「カミーラ様も心配されていました。もしや、ターヒル様が魔王に拐かされたりしないかと」
「まさか! カミーラは心配しすぎだ。すでに訪問を終えた近隣諸国によると、珍しく要求の少ない魔王らしいぞ。
高価な貢物も拒否して、不可侵条約を結ぶだけでいいらしい。
40年前にあの魔女が即位したときは、各国の貴重な宝石を根こそぎもっていったらしいから、それに比べたらずいぶん欲の少ない魔王だ」
「それならきっと安心ですね。今宵も、何事もなく過ぎると良いですね」
「アムル、お前は部屋にいろ。宴に出る必要はない」
マーリクは名残惜し気にアムルの首筋にキスをすると、ようやくアムルから離れた。
「……承知いたしました」
手早く服を着たマーリクは、夜着を肩からひっかけただけのアムルに微笑みかけると、そのつむじに口づけた。
「アムル、宴が終わったらまた来る」
「はい……」
マーリクはアムルの頭に手を置いた。
「お前は何も心配するな……」
マーリクはいつくしむようにアムルの髪を何度も撫でた。
「伸ばしましょうか……?」
マーリクがアムルの水色の髪をことのほか好んでいることは、アムルもよく知っていた。
だが、あの事件依頼、アムルはずっと髪を伸ばすことなく、短髪を通している。
服装も、以前のように一見してオメガとわかるような服装は意識的に避けていた。
アムルの言葉に、マーリクは破顔した。
「言わなかったか? 私は短い髪のお前が好きだ。ずっと前から」
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魔法国ーー。
それは大陸の中央に位置する特殊な国であった。
一定以上の魔力を持つ魔女や魔法使いだけが、そこに入国することを許される。その内情は多くを語られることはなく、厚いベールに覆われている。
世襲制ではなく、先代の魔王に指名されたおびただしい魔力を持ったもののみが、次代の魔王として魔法国を治めることができる。
魔王となったものは、その強大な魔力をもって近隣国を支配しないことを約束するかわりに、即位時に魔法国をとりまくそれぞれ7つの国になんでも望みのものを所望することができる……。
新しく魔王となったものは、先代と同じ赤い魔眼を持つ、まだ年若い男だという。先代の魔女ワアドは、40年の長きにわたって魔法国を治めていたが、このたび新しい魔王にその王位を譲った。
魔王が誕生した後の慣習として、7つの国の王は、新しい魔王の戴冠を祝い、もてなし、魔法国との友好を約束させるため、それぞれ順番に魔王を自分たちの国に招いていた。
そして今日、マーリクが治めるこの国に、新しい魔王がやってくるのだ。
もう100年以上昔の話になるが、先代の魔女のもう二つ前の代の魔王は、大変傲慢な性格で知られていた。
その魔王は、即位時のもてなしで訪れたある国で、王の娘を見初め、恥ずかしげもなく祝いの品として王女を所望したという。
もちろん激怒した王は、きっぱりとその要求を断った。
しかし、魔王はその報復として、王女と王をその場で呪い殺してしまったという……。
こんな話が伝わっているせいか、各国の王族たちは、魔法国とその魔王をことのほか恐れていた。だが一方で、魔法国という存在があることで、この大陸がほかの強大な力を持つ大陸からの侵略から守護されていることもよくわかっていた。
魔王の即位時のこの習わしは、各国の王たちが魔法国とある一定の関係を築くためには避けては通れない儀式だった。
――新しい、魔王。
衣服を整え、鏡にうつった自分をアムルは見つめる。
水色の髪、水色の瞳……。
――まさかそんなはずはない。だって、彼の瞳は金色だ。
赤い魔眼を持つという、年若き魔王。
――なぜ急に彼のことを思いだしたりしたのだろう。
――彼は、今も国外のとある場所に軟禁され、囚人のような日々を送っているというのに……。
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