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第35話 悪い友と辻風には出逢うな
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休日ということもあり、王都の劇場はすごく混雑していた。
アンドレのくれるチケットは、いつもかなりいい席だ。俺とテオドールは人をかき分けるように、ホールを進んでいった。
「テオ、芝居が終わったらいつもの店でケーキを食べてから帰ろうか?」
はぐれないようにと、俺はテオドールの手をしっかりと握る。
テオドールもその手をぎゅっと握り返してくれる。
「いいんですかっ!? すごく嬉しいです。俺、あの店の……」
ホールを抜け、少し人が引いたあたりで、テオドールの足が止まる。
「テオ……?」
そこにはテオドールと同い年くらいの少年が、二人立っていた。
「テオドールじゃないか、奇遇だね、こんなところで」
一人は、輝くような金色の巻毛に、エメラルドグリーンの瞳。背は少し低く華奢で、服装が違えば美少女に見間違うくらいの、美しい少年だった。
「後ろにいるのが、例の『叔父様』かよ。へえ、ふーん。まあ、可愛いんじゃねーの。……全然趣味じゃねーけど」
こちらの少年は、すでに大人の男の平均身長である俺よりもずっと背が高い。荒削りだが精悍な顔つきで、オレンジ色の短髪に同じ色の瞳。好戦的な表情をこちらに向けている。
どちらもそのきらびやかな服装からして、かなりの高位貴族の子弟だということが見て取れた。
「なにが、奇遇、だ。お前ら、何しに来た!」
テオドールのものとは思えない冷え冷えとした声。
「そんなに冷たくしないでよ、テオドール。僕達、君がよく叔父様とこの劇場に来るって噂を聞いてさ、もしかしたら今日、会えるんじゃないかって思ったんだ」
金髪巻毛の少年がテオドールの近くまでくると、その美しい顔をテオドールに近づけた。
「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……っ、寄るな、この……っ」
テオドールが、華奢な少年の肩を押す。ふらつく少年を、うしろから背の高いオレンジ色の髪の少年が支えた。
「らしくねーな、テオドール、ん? 叔父様のまえで、いい子ぶりっ子してんのかよ?」
オレンジの髪の少年は、にやりと白い歯を見せて、テオドールを挑発した。
「セルジュ、貴様っ……!」
「まあまあ、テオドール、そんなにカッカするなよ。僕達だってこの芝居を見に来ただけなんだからさ。……ねえ、ジュール叔父様」
エメラルドグリーンの瞳が、俺を見つめた。
その大きく美しい瞳に、俺は息を飲んだ。
「オーバンっ、貴様っ! 気安く叔父様の名を呼ぶなっ!」
テオドールが声を荒げる。
「テオ、この方たちは……?」
俺はテオドールの袖を引いた。
「これはこれは、ご挨拶が後回しになり申し訳ありません。私は、オーバン・ノアイユと申します。テオドール君とは同じ学年で親しくさせていただいています。どうぞお見知りおきを」
オーバンと名乗る美少年が俺に仰々しくお辞儀をして見せる。
「俺は、セルジュ・オスマン。テオドールとは、だいたい剣の稽古でやりあってる」
「ノアイユ……、オスマン……」
俺は青ざめる。
間違いない。この小さい方の少年は、ノアイユ公爵の息子、そして大きい方はオスマン騎士団長の息子だっ!
「挨拶したならもう用は済んだだろう、…‥消えろ!」
テオドールはぎりぎりと歯ぎしりする。こんな表情のテオドールは、初めて見る。
「はいはい、わかったよ。ああ、怖い怖い。元はと言えばテオドールが悪いんだろう? あんなに頼んだのに、ちっとも見せてくれないんだから」
「消、え、ろ、オーバン!」
「テオ、だってさ! ははっ、ウケるっ! 今度から俺もそう呼ぼうかな……っ」
次の瞬間、テオドールは、セルジュの胸ぐらを掴んで引き寄せていた。
「コ、ロ、ス、ぞ! セルジュ!」
「わ、わーったって、悪かったっ、離せよ、このくそ力っ!」
セルジュが両手を上げて降参のポーズをする。
ーーえっ!? 今、テオドールが殺すって言った? 学園のお友達のことを? まさか、空耳、……だよね!?
「じゃあ、行こう。セルジュ。じゃあね、テオドール、また学園で! このお芝居の感想を3人で語り合おうね! では、ごきげんよう、ジュール叔父様!」
オーバンのウィンクと意味ありげな視線に、俺はピンときた。
「貴様っ、またっ、俺の叔父様にっ!!」
ーーもしかして、テオドールは……っ!!
「叔父様、すみません、変な奴らに絡まれてしまって。もう大丈夫です。行きましょう」
テオドールが俺の背に手を置く。
「え、ああ、うん、じゃあ、行こう、か……」
しかし、その後、俺は芝居の内容も、その後ケーキ屋で食べたアップルパイの味も、まったく頭の中に入ってこなかった。
俺は、気づいてしまったのだ……。
ーーテオドールは、学園で深刻ないじめに遭っているのだ!!!!
アンドレのくれるチケットは、いつもかなりいい席だ。俺とテオドールは人をかき分けるように、ホールを進んでいった。
「テオ、芝居が終わったらいつもの店でケーキを食べてから帰ろうか?」
はぐれないようにと、俺はテオドールの手をしっかりと握る。
テオドールもその手をぎゅっと握り返してくれる。
「いいんですかっ!? すごく嬉しいです。俺、あの店の……」
ホールを抜け、少し人が引いたあたりで、テオドールの足が止まる。
「テオ……?」
そこにはテオドールと同い年くらいの少年が、二人立っていた。
「テオドールじゃないか、奇遇だね、こんなところで」
一人は、輝くような金色の巻毛に、エメラルドグリーンの瞳。背は少し低く華奢で、服装が違えば美少女に見間違うくらいの、美しい少年だった。
「後ろにいるのが、例の『叔父様』かよ。へえ、ふーん。まあ、可愛いんじゃねーの。……全然趣味じゃねーけど」
こちらの少年は、すでに大人の男の平均身長である俺よりもずっと背が高い。荒削りだが精悍な顔つきで、オレンジ色の短髪に同じ色の瞳。好戦的な表情をこちらに向けている。
どちらもそのきらびやかな服装からして、かなりの高位貴族の子弟だということが見て取れた。
「なにが、奇遇、だ。お前ら、何しに来た!」
テオドールのものとは思えない冷え冷えとした声。
「そんなに冷たくしないでよ、テオドール。僕達、君がよく叔父様とこの劇場に来るって噂を聞いてさ、もしかしたら今日、会えるんじゃないかって思ったんだ」
金髪巻毛の少年がテオドールの近くまでくると、その美しい顔をテオドールに近づけた。
「よくもまあ、いけしゃあしゃあと……っ、寄るな、この……っ」
テオドールが、華奢な少年の肩を押す。ふらつく少年を、うしろから背の高いオレンジ色の髪の少年が支えた。
「らしくねーな、テオドール、ん? 叔父様のまえで、いい子ぶりっ子してんのかよ?」
オレンジの髪の少年は、にやりと白い歯を見せて、テオドールを挑発した。
「セルジュ、貴様っ……!」
「まあまあ、テオドール、そんなにカッカするなよ。僕達だってこの芝居を見に来ただけなんだからさ。……ねえ、ジュール叔父様」
エメラルドグリーンの瞳が、俺を見つめた。
その大きく美しい瞳に、俺は息を飲んだ。
「オーバンっ、貴様っ! 気安く叔父様の名を呼ぶなっ!」
テオドールが声を荒げる。
「テオ、この方たちは……?」
俺はテオドールの袖を引いた。
「これはこれは、ご挨拶が後回しになり申し訳ありません。私は、オーバン・ノアイユと申します。テオドール君とは同じ学年で親しくさせていただいています。どうぞお見知りおきを」
オーバンと名乗る美少年が俺に仰々しくお辞儀をして見せる。
「俺は、セルジュ・オスマン。テオドールとは、だいたい剣の稽古でやりあってる」
「ノアイユ……、オスマン……」
俺は青ざめる。
間違いない。この小さい方の少年は、ノアイユ公爵の息子、そして大きい方はオスマン騎士団長の息子だっ!
「挨拶したならもう用は済んだだろう、…‥消えろ!」
テオドールはぎりぎりと歯ぎしりする。こんな表情のテオドールは、初めて見る。
「はいはい、わかったよ。ああ、怖い怖い。元はと言えばテオドールが悪いんだろう? あんなに頼んだのに、ちっとも見せてくれないんだから」
「消、え、ろ、オーバン!」
「テオ、だってさ! ははっ、ウケるっ! 今度から俺もそう呼ぼうかな……っ」
次の瞬間、テオドールは、セルジュの胸ぐらを掴んで引き寄せていた。
「コ、ロ、ス、ぞ! セルジュ!」
「わ、わーったって、悪かったっ、離せよ、このくそ力っ!」
セルジュが両手を上げて降参のポーズをする。
ーーえっ!? 今、テオドールが殺すって言った? 学園のお友達のことを? まさか、空耳、……だよね!?
「じゃあ、行こう。セルジュ。じゃあね、テオドール、また学園で! このお芝居の感想を3人で語り合おうね! では、ごきげんよう、ジュール叔父様!」
オーバンのウィンクと意味ありげな視線に、俺はピンときた。
「貴様っ、またっ、俺の叔父様にっ!!」
ーーもしかして、テオドールは……っ!!
「叔父様、すみません、変な奴らに絡まれてしまって。もう大丈夫です。行きましょう」
テオドールが俺の背に手を置く。
「え、ああ、うん、じゃあ、行こう、か……」
しかし、その後、俺は芝居の内容も、その後ケーキ屋で食べたアップルパイの味も、まったく頭の中に入ってこなかった。
俺は、気づいてしまったのだ……。
ーーテオドールは、学園で深刻ないじめに遭っているのだ!!!!
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