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第54話 想い人
しおりを挟む「エリオット先輩、ちょっと、確認させてもらってもいいですか?」
俺は深呼吸して動揺を抑え込むと、エリオットに向き直った。
「何だ」
「これは、エリオット先輩の研究の一環、なのですよね?」
「無論だ」
「なぜ、ここまで部屋を飾り立てる必要があるんですか? これじゃあ、まるで俺達が……」
「ジュール、相変わらず、お前は何もわかっていないな」
小さく息を吐くと、エリオットは俺に向き直る。
「ジュール、今から俺達がすることは何だ!?」
「えっ……、呪いの研究……」
「違う!!」
ーーえ、違うのっ!?
エリオットは俺の顎をその長い指で持ち上げた。
「……先輩っ……!?」
エリオットの藍色の瞳……。そうだ、こんなふうに近くで見るのは初めてだが、すごく……、綺麗だ。
「ジュール、難しいことは考えるな」
「む、うっ……」
抗うタイミングもなく、重なる唇。
すぐにぬるりと熱い舌が入ってきて、俺の口内を舐め回した。
ーー嘘っ、俺とエリオットとキス、してる!?
エリオットの唇は思っていたよりもずっと温かくて、その口づけは官能的でありながらも、どこか優しく、俺は……。
「あっ、エリオット先輩……っ」
「ジュール……、可愛いな……」
「あっ、んっ……、はあ……」
俺は、すっかりエリオットのキスに感じてしまっていた!
エリオットは、俺を抱きしめたままキスを続けると、赤い花びらの散ったベッドに俺をそっと横たえた。
「ジュール、ずっと、こうしてお前に触れたかった……」
エリオットが熱っぽく俺を見つめている。
俺は混乱していた。学園に通っていた頃は、エリオットの冷たい表情しか見たことがなかった。挨拶代わりにお小言をいってくる面倒くさい先輩だったエリオット。
……だから、エリオットがこんなふうに俺を見ることなんて、想像すらできなかった。
でも俺はそんなエリオットに、なぜか鼓動が早くなっていた。
「怖がるな。大丈夫だ、すべて俺に任せろ」
気づくと、俺のシャツの前ボタンはすべて開けられており、目の前には紅潮した頬のエリオットがあった。
ーー嘘っ!? コイツ、男抱くの初めてとか言ってた割に、手際が良すぎるんですけど!?
「エリオット先輩、ちょっと、待って、俺っ、心の準備が……、あっ!」
「待たない」
エリオットが俺の上に乗り上げる。
そのとき、エリオットが脱がせた俺の水色の上着のポケットから、白いカードが一枚落ちた。
「あっ!」
声を上げた俺だったが、エリオットの反応のほうが一瞬早かった。
「『また私が必要になったら、いつでも呼んでください』」
先程とは打って変わった冷淡な声で、カードを読み上げるエリオット。
「それはッ……!」
カードを取り返そうとしたが、エリオットの手によって届かない場所にあげられてしまう。
「ジュール、アンドレ、とは誰だ」
責めるような口調に、思わず俺は押し黙ってしまう。
「お前が、男の精を受けていたといういかがわしい組織の人間か……」
皮肉げに歪んだエリオットの唇に、思わず俺はカッとなってしまった。
「違いますっ! ……いや、厳密に言うと違わないけど、アンドレと俺はそんなんじゃありません! 俺は、そういうことを抜きにして、アンドレのことがっ!」
「ことが?」
藍色の冷徹な眼差しで問い返され、言わなくてもいいことを言ってしまったことを知る。
「……なんでも、ありません……」
「ジュール、お前は本当に愚かだな……。こんなに大事そうに、想い人のカードを上着のポケットにしまい込んで……。今日、俺に抱かれるのがそんなに辛かったか?」
エリオットが俺の瞳を覗き込む。
「そんなんじゃ、ありません、から……」
寝台に横たわったまま、俺は顔をそらす。
「そういう類の男なのだろう? お前に想われる価値などあるのか?」
「アンドレのことを悪く言うなっ!」
またエリオットの言葉に反応してしまった俺。エリオットの瞳にひどく残忍な光が浮かんだ。
「ジュール、可哀想に。すまなかったな。俺のせいで、お前と……アンドレの仲を引き裂いてしまった」
「そんな、こと……」
エリオットの指が俺の首筋から、鎖骨に降りてくる。
「だが、残念だったな。俺はこのお前の淫紋の研究を、最後までやり遂げるつもりだ……」
「あっ!」
エリオットの手が、俺の裸の胸を滑っていく。
「ジュール、あきらめろ……。お前がどんなに嫌がろうと、俺は今日、ここでお前を抱く」
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