【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

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【番外編】

聖騎士テオドールの華麗なる一日 その5

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「初めまして、デマル男爵」

「これはこれは、聖騎士様、お目にかかれて光栄です」

 差し出した手は、しっかりと握り返された。

 テオドールはその如才ない男の瞳が、一瞬で値踏みするようにテオドールを観察し、左手の薬指にはまった金の指輪でとまったのを見逃さなかった。


「あっ、テオ……、あのね、今日は……」

 ジュ―ルの青灰色の瞳が、気まずげに揺れる。

 ――やはり、伴侶に隠れて悪いことをしている自覚はあるのか!?


「いや、本当に偶然、だったんですよ!
こちらに向かうダンデス伯爵の馬車を、偶然お見掛けして!
偶然、ちょうどお話しなければいけないことがあって、つい押しかけてしまった次第です。
ダンデス伯爵、突然申し訳ありません」

 そこまで偶然を連呼されると、逆に疑ってしまう。

 ――クリストフ・デマル。

 シャンタルの言う通り、100人いれば、100人が好印象を抱くであろう爽やかないでたち。
 決してきらびやかではないが、よく見ればとても質の良い服装に身を包んでいるのがわかる。
 はつらつとした笑顔は、30代前半にしか見えないが、実際はもっと上であろう。
 栗色の髪に、深い青の瞳がとてもやさし気な印象だ。

 だが、その瞳の奥に潜む、絶対に油断できない何かを、テオドールはすでに見抜いていた。

「あのね、テオドール! デマル男爵は、貿易業をされていて、最近国交が回復されたエディマとも良く行き来をしているんだって!」

 興奮した面持ちのジュール。

 ――エディマ。今最も聞きたくない国の名前だ!



「そうなのですね。国内だけでなく、国外にまで……、手広くされていてなによりです」

 テオドールは貼り付けたような笑顔をデマル男爵に向ける。

「ははっ、それほどではないのですよ! 私の悪い癖でなんにでも手を出してしまうきらいがありまして!」

(その悪癖でジュールにまで手をかけようと!? この男、ただではおかぬ!)


 だが、デマル男爵は単なるの一般人だ。気に入らないからと言って、長剣で切りかかることも、闇魔法を発動させることもできない。

 テオドールはぐっと拳を握り締め、耐えた。


「それでね、テオドール。俺がエディマでよく着ていた涼しい生地のシャツがあっただろう? 俺、その生地をこの国でも販売できないだろうかって、デマル男爵と今考えてて……」

「ダンデス伯爵は商才がおありのようだ! この国の夏も最近はもっぱら暑くなりましたからね!
目の付け所が素晴らしい!」

 ジュールを絶賛するデマル男爵。

(この男、己の商売にかこつけてジュールに接近していたのか。しかし、……もはや下心しか感じない!)

 思わず身体の奥底から闇のオーラが湧き上がってくるのをすんでのところで止めた。


「だから、一度、生地の素材になる植物の畑を見に、エディマに行きたいと思ってるんだけど……、
その……、やっぱり、そんなの無理、だよね?」

 上目遣いのジュールは信じられないほど可愛らしいが、こんな時には見たくはなかった。

 だが……、テオドールはあえて優しい笑みをジュールに向けた。


「知らなかったよ。貴方がそんなにすごいことを考えていたなんて。
お義父様もお喜びだろう。貴方が爵位を継いで、ダンデス家は今後も安泰だね」

 隣に座るジュールの手を、そっと握る。

「テオ……?」

「私が貴方の活躍を邪魔することなんて、できるはずがない。で、エディマにはいつ頃?」

「え? ……じゃあ、いいの? テオ、俺が、エディマに行っても……」

 ジュールが信じられないといった表情でテオドールを見る。

「いいに決まってる!」

「さすがは聖騎士様、懐が大変深くていらっしゃる!」

 デマル男爵は満面の笑顔で、しらじらしい拍手を送ってきた。


「テオドール、本当に?」

「もちろんだよ!」

 テオドールはジュールの腰をこれ見よがしに抱き寄せた。



「では、さっそく来月あたりに視察の手配をしましょう!
ご心配なさらずとも私がついていますから万事問題ありませんよ。私も楽しみに……」

 懐から革の手帳を取り出すデマル男爵。

「来月、ですね。わかりました。私も日程が調整できるよう、あらかじめ司教に話しておきます」


「「え!?」」

 ジュールとデマル男爵の声がそろう。

「聖騎士様……、どうかご無理なさらずに、聖騎士様は大変お忙しいでしょうから……」

 目論見が外れたデマル男爵は、急に焦り始めた。手に持ったペンがわずかに震えている。


「嘘っ……、テオ、一緒に来て、くれるの?」

 ぽかんと口を開けたままのジュールに、テオドールは唇が触れそうなくらいに顔を寄せた。

「もちろん貴方の伴侶として同行するよ。貴方の仕事をサポートするのも、夫としての大切な役目だからね」



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