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【番外編】
聖騎士テオドールの華麗なる一日 その4
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テオドールはわが目を疑った。
ダンデス家・本宅の応接室のソファに腰掛けているのは、まちがいなく自分の伴侶であるジュール・ダンデス。
そしてその向かいには、見たこともない男が座っていた。
ジュールはいったい何がそんなにおかしいのか、身振り手振りがやたらと大げさな男の話に、頬を染めてくすくすと笑っている。
――許せぬ!!!!
「お待ちなさい、テオドール!」
憤怒の表情で扉に手をかけたテオドールだったが、すんでのところでシャンタルに引き留められた。
「……シャンタル、様……」
「ああ、私は心配していたのよ。あなたたちったら最近、ちっとも本宅にも顔をださないで!
そうしたら今日、急に思いつめた顔のジュールがやってくるでしょ。こんなことになるんじゃないかって、思ってたわ!」
シャンタルはなぜか憐れむような視線をテオドールに向けた。
「シャンタル様……、あの男は、いったい……」
テオドールは憎々し気に、ドアの隙間からみえる身なりのいい男を睨みつける。
「テオドール、大変なことになったわよ。あの人は、デマル男爵よ!」
「デマル、男爵……?」
聞き覚えがある名前だ。少しして、目の前のシャンタルのかつての婚約者であったことを思い出す。
「ああ、よりによってどうしてあの人がジュールに目をつけたのかしら? これは由々しき事態よ。
もうっ、ジュールったらすっかりあの男の術中に嵌ってる! テオドールっ、どうするの!?
あなた、このままうかうかしてたら、あっさりとジュールを取られちゃうわよ!」
焦るシャンタルを前に、テオドールはどう反応していいものか困っていた。
「でも…‥、デマル男爵はシャンタル様の昔の婚約者なのですよね?
では、心配など……」
「テオドールっ! よくそんなにのんきな顔をしていられるわね!
そうね、あなたは社交界には顔を出したことがないから知らないのよ。
あの男の異名は『ハイエナのデマル』よっ!」
シャンタルはテオドールの鼻先に人差し指を突きつけてくる。
「いいこと? あの男をよーく御覧なさい。
見たところ、ものすごい美形だとか取り立てて際立った容姿だというわけではないでしょ? でも、そこがまた曲者なの!
あのいかにも人のよさそうな好青年といった爽やかな見た目で、相手を油断させるのよ!
私も巨万の富を築いた富豪だというからどんな脂ぎった男が出てくるかと思ったら、あんなこざっぱりした感じのルックスにすっかり騙されて、気づいたらあの人の手中に落ちていて……、ってそんなことはどうでもいいの!
とにかく、あの男はものすごく危険よ! なにしろ昔から、狙った獲物は絶対に逃がさない。そして気は長いから長期戦も辞さずに虎視眈々と狙って、獲物が弱った瞬間を見計らって一気に狩りにかかるのよ!」
「弱った、瞬間……、一気に、狩りに……」
ということは、ジュールは今、ーー狩られているのか!?
「放ってはおけません、今すぐ止めに入りますっ!」
「駄目よ、今のあなたじゃ勝ち目はないわ!」
シャンタルはテオドールの腕を引いた。
「でも、このままではッ……」
デマル男爵が冗談でも言ったのだろうか、ジュールは腹を抱えてコロコロと笑っている。
――そういえば最近、テオドールはこんなジュールの心からの笑顔を見たことがない……。
シャンタルはテオドールの両腕をつかむと、何度も揺さぶった。
「テオドール、しっかりするのよ。思い出して!
ジュールと結婚して、あなたはすっかり腑抜けになって、今じゃジュールに構うことしか頭にないみたいだけど、本来のあなたはもっと抜け目ない男のはずよ!
そう、あなたと初めて会ったとき、私はあなたのその子供らしからぬ狡猾さや、小賢しさが気に入って、あなたをジュールに育てされることにしたのよ!
あなたがただのいい子のお人形さんだったら、私はあなたをきっと助けはしたでしょうけど、ジュールの側に置いたりしなかった!」
「シャンタル、様……」
「目を覚ますのよ、テオドール!
あなたは本来、とても狡く賢い男よ! 本当のあなたは、絶対にデマルなんかに負けたりしない!
シャンタルの言葉に、テオドールの瞳に光が戻った。
ダンデス家・本宅の応接室のソファに腰掛けているのは、まちがいなく自分の伴侶であるジュール・ダンデス。
そしてその向かいには、見たこともない男が座っていた。
ジュールはいったい何がそんなにおかしいのか、身振り手振りがやたらと大げさな男の話に、頬を染めてくすくすと笑っている。
――許せぬ!!!!
「お待ちなさい、テオドール!」
憤怒の表情で扉に手をかけたテオドールだったが、すんでのところでシャンタルに引き留められた。
「……シャンタル、様……」
「ああ、私は心配していたのよ。あなたたちったら最近、ちっとも本宅にも顔をださないで!
そうしたら今日、急に思いつめた顔のジュールがやってくるでしょ。こんなことになるんじゃないかって、思ってたわ!」
シャンタルはなぜか憐れむような視線をテオドールに向けた。
「シャンタル様……、あの男は、いったい……」
テオドールは憎々し気に、ドアの隙間からみえる身なりのいい男を睨みつける。
「テオドール、大変なことになったわよ。あの人は、デマル男爵よ!」
「デマル、男爵……?」
聞き覚えがある名前だ。少しして、目の前のシャンタルのかつての婚約者であったことを思い出す。
「ああ、よりによってどうしてあの人がジュールに目をつけたのかしら? これは由々しき事態よ。
もうっ、ジュールったらすっかりあの男の術中に嵌ってる! テオドールっ、どうするの!?
あなた、このままうかうかしてたら、あっさりとジュールを取られちゃうわよ!」
焦るシャンタルを前に、テオドールはどう反応していいものか困っていた。
「でも…‥、デマル男爵はシャンタル様の昔の婚約者なのですよね?
では、心配など……」
「テオドールっ! よくそんなにのんきな顔をしていられるわね!
そうね、あなたは社交界には顔を出したことがないから知らないのよ。
あの男の異名は『ハイエナのデマル』よっ!」
シャンタルはテオドールの鼻先に人差し指を突きつけてくる。
「いいこと? あの男をよーく御覧なさい。
見たところ、ものすごい美形だとか取り立てて際立った容姿だというわけではないでしょ? でも、そこがまた曲者なの!
あのいかにも人のよさそうな好青年といった爽やかな見た目で、相手を油断させるのよ!
私も巨万の富を築いた富豪だというからどんな脂ぎった男が出てくるかと思ったら、あんなこざっぱりした感じのルックスにすっかり騙されて、気づいたらあの人の手中に落ちていて……、ってそんなことはどうでもいいの!
とにかく、あの男はものすごく危険よ! なにしろ昔から、狙った獲物は絶対に逃がさない。そして気は長いから長期戦も辞さずに虎視眈々と狙って、獲物が弱った瞬間を見計らって一気に狩りにかかるのよ!」
「弱った、瞬間……、一気に、狩りに……」
ということは、ジュールは今、ーー狩られているのか!?
「放ってはおけません、今すぐ止めに入りますっ!」
「駄目よ、今のあなたじゃ勝ち目はないわ!」
シャンタルはテオドールの腕を引いた。
「でも、このままではッ……」
デマル男爵が冗談でも言ったのだろうか、ジュールは腹を抱えてコロコロと笑っている。
――そういえば最近、テオドールはこんなジュールの心からの笑顔を見たことがない……。
シャンタルはテオドールの両腕をつかむと、何度も揺さぶった。
「テオドール、しっかりするのよ。思い出して!
ジュールと結婚して、あなたはすっかり腑抜けになって、今じゃジュールに構うことしか頭にないみたいだけど、本来のあなたはもっと抜け目ない男のはずよ!
そう、あなたと初めて会ったとき、私はあなたのその子供らしからぬ狡猾さや、小賢しさが気に入って、あなたをジュールに育てされることにしたのよ!
あなたがただのいい子のお人形さんだったら、私はあなたをきっと助けはしたでしょうけど、ジュールの側に置いたりしなかった!」
「シャンタル、様……」
「目を覚ますのよ、テオドール!
あなたは本来、とても狡く賢い男よ! 本当のあなたは、絶対にデマルなんかに負けたりしない!
シャンタルの言葉に、テオドールの瞳に光が戻った。
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