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【番外編】
ソラルの里帰り 〜その2〜
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レオンは、俺の姉妹3人にぐるりと取り囲まれていた。
ちなみに、上からエレーヌ、リーズ、サラだ!
「はじめまして。レオン・ジラールです。お会いできてうれしいです」
女子に取り囲まれていることには慣れているのか、レオンは俺の姉妹たちの圧にも全く動じることなく、いつものあのよそゆきスマイルで対応している。
「レオン兄、この前贈ってもらった帽子、すごく可愛かった! ありがとう!」
「私も! しかも、あのデザイナーのウエディングドレスで式が挙げられるなんて夢みたい!!うれしい! 本当にありがとう!!」
「ねえ、レオン兄! 今日はゆっくりしていけるんでしょ? いっぱい話したいことがあるんだー!」
俺はめまいがした。ちなみに、エレーヌもリーズもサラも全員レオンより年上!
そして、お前らの血のつながった本当のソラル兄はここにいる!!!
「おいっ、お前らっ!」
レオンから3人を引きはがそうと近づいたところに、さらに家から残りの兄弟と両親が登場した。
「ジラール様っ!! 今日はようこそお越しくださいましたっ!」
「おいっ、お前たちっ、ジラール様が困っているだろう! 離れなさい!」
揉み手で近づいてくる父親と長男のジャン。
「その呼び方はやめてください。お義父様、お義母様、私のことはレオンと呼び捨ててください」
「そんな、恐れ多い!! 滅相もない!」
「まあ、お義母様だなんて、……そんな」
母親が乙女のようにポッと頬を赤らめる。……オイっ!
デュポン家の三姉妹は、レオンの周りから離れる気はないらしい。
「ほらー、レオン兄だって、いいっていってるじゃない」
「ねえ、レオン兄、私たちの焼いたクッキー食べてね!」
「ゆっくりしていってね、夜は村のみんなもお祝いにくるって!」
「今すぐお茶を入れますからね!」
「さあさあ、むさくるしいところですが、入ってください!」
俺の家族みんなに取り囲まれて、家に入っていくレオン。
そして、なぜか一人取り残される俺……。
「あ、ソラル。ソラルも来てたんだー」
次男のトマが、今気づいたというように俺を見た。
――一体どうなっているんだよぉおおおお!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺たちは、上からジャン(38歳)、トマ(36歳)、俺(34歳)、エレーヌ(32歳)、リーズ(28歳)、サラ(25歳)の6人兄弟だ。
母親譲りの茶色い髪と薄茶色の瞳を受け継いだのはただ一人俺だけで、あとの5人は全員父親ソックリの赤毛と青い瞳、そしてそばかすが特徴だ。
リーズが今回結婚するので、残る独身は末娘のサラと俺のみ!
すぐ上の兄のトマは近くの学校で教師をしているが、それ以外はみんな村の農業に携わっている……と、おもっていたのだが……。
「この村はジラール様のおかげでここまでよくなったんです! 今日は村を上げてみんなでお祝いする予定ですよ」
どうやら、俺の知らないうちに、この村は大きな変貌を遂げていたらしい。
「私のおかげなどではありません。もともとこの村の土壌が、葡萄の栽培に適していたのですよ。
ジラール家としても、契約できる大規模な葡萄園を探していたので、渡りに船でした」
紅茶を片手に微笑むレオン。
三姉妹がそれを見てほぉっとため息をつく。
そう。大根やかぼちゃくらいしか栽培できなかった俺の村一帯は、ジラール公爵家の所有する由緒正しいワイナリーの専属葡萄園と化していたのだ!
「ジラール公爵様が、高い値段で葡萄を引き取ってくださるから、うちの村もここまで潤って!
おかげ様で飢えるものもすっかりいなくなり、生活にゆとりもできました」
ジャンの満面の笑み。
「適正な価格ですよ。この村の農園で取れる葡萄はとても品質がいいので、こちらが申し訳ないくらいです」
「今夜はここで取れた葡萄でできた葡萄酒で乾杯といきましょう!」
「明日は私の結婚式なんだから、飲みすぎないでよね! 父さん!」
リーズは頬を膨らます。
「おいっ、リーズ、さっきレオンに言ってたウエディングドレスがどうとかって、なんの話だよ!?」
俺は姉妹が焼いたというクッキーを手に、リーズを問いただす。
「あっ、それね! ふふっ! なんとレオン兄が私のために、王都で一番有名なデザイナーのウエディングドレスを用意してくれたんだっ!
もう友達みんなにうらやましがられちゃった! ソラル兄も私の花嫁姿、楽しみにしててっ!」
「ちょ、ちょっと待て! この前、俺がウエディングドレス用意してやるっていったとき、いらないって手紙で断ってきたじゃねーか!
あれは遠慮してたわけじゃなく、レオンに用意してもらってたってことなのかっ!? どういうことだよッ!」
俺の詰問に、リーズは目を丸くする。
「だって、ソラル兄はあんまりドレスのこと、わかんないでしょ? その点、レオン兄はセンスもいいし。あっ、ソラル兄がセンスが悪いってわけじゃないのよ!
ただ、一生に一度の花嫁姿だもん!素敵なドレスを着たい乙女心、わかってくれるよね!」
はあっ!?
立ち上がりかけた俺を、隣のレオンが制した。
「ソラル、黙っててごめんね。でも、リーズは俺にとっても妹なんだ。俺とソラルは一心同体なんだから、構わないよね?」
耳に触れるくらいの距離で言われて、俺はかあーっと頬が熱くなった。
「やだー、ソラル兄、照れてる!」
「熱々じゃん!!」
「いいなーソラル兄、私も王都で就職したら、こんな素敵な騎士様と出会えるのかなぁ?」
――いや、俺も騎士だし! しかも、総帥だし! 俺の方が、役職(だけ)は上だし!!!!
のんきな末妹のサラを。俺は軽く睨む。
「おい、レオン、なんで初めて会うはずの俺の家族にこんなに打ち解けてるんだよっ!」
「俺の家族になる人たちだよ。もちろん、手紙や贈り物でずっと交流を深めていたんだ」
「贈り物……」
そう言って俺ははたと気が付いた。今俺が手にしているカップ、この独特の文様には見覚えがあった。
「あ、そのカップ、ジラール家からいただいたのよ。ジラール家お抱えの窯元の作品なんだって!本当に素敵よね」
母親がほほ笑む。
いままで食器は割れてさえいなきゃ、ヒビが入ってたってかまわないって公言していたあの母親はいったいどこへ……。
そういや、帽子がどうとかも言ってたよね!? もしかして、もしかしなくても俺の家族、レオンからの豪華な贈り物攻撃にすっかり篭絡されてる……!?
「初めて手紙が来た時は驚いたぞ! まさか、ソラルが公爵家のご令息とそんなことになってるなんて!」
ジャンが興奮したように言う。
「ソラルは昔から、運だけは良かったからなー」
トマが俺をみてにやりと笑う。
「ねえ、二人の出会いについて聞かせてよ」
「知りたい知りたーい!」
俺はぶほっと紅茶を噴いた。
いや、家族には聞かせられない。レオンと出会ったいきさつなど、絶対に……。
だが、レオンはおもむろに語りだした。
「私がまだ騎士団に所属しておらず、兄の第三王子についていたころ、騎士団の中庭で長剣の素振りをするソラルを見かけたんです。私はそのころ、自分の魔力と剣の腕を過信していて、基礎的な鍛錬をおろそかにしていた。
ですがソラルは、突出した剣の腕はありませんでしたが、地道な鍛錬をひたすら繰り返していた。そのひたむきさに、私は心を奪われて……、一目ぼれでした」
「きゃーっ!」
三姉妹が黄色い悲鳴を上げる、と同時に俺はもう一度勢いよく紅茶を噴いていた。
――ルイ王子と会ったあの時が、ファーストインパクトじゃなかったのかよ!?
ちなみに、上からエレーヌ、リーズ、サラだ!
「はじめまして。レオン・ジラールです。お会いできてうれしいです」
女子に取り囲まれていることには慣れているのか、レオンは俺の姉妹たちの圧にも全く動じることなく、いつものあのよそゆきスマイルで対応している。
「レオン兄、この前贈ってもらった帽子、すごく可愛かった! ありがとう!」
「私も! しかも、あのデザイナーのウエディングドレスで式が挙げられるなんて夢みたい!!うれしい! 本当にありがとう!!」
「ねえ、レオン兄! 今日はゆっくりしていけるんでしょ? いっぱい話したいことがあるんだー!」
俺はめまいがした。ちなみに、エレーヌもリーズもサラも全員レオンより年上!
そして、お前らの血のつながった本当のソラル兄はここにいる!!!
「おいっ、お前らっ!」
レオンから3人を引きはがそうと近づいたところに、さらに家から残りの兄弟と両親が登場した。
「ジラール様っ!! 今日はようこそお越しくださいましたっ!」
「おいっ、お前たちっ、ジラール様が困っているだろう! 離れなさい!」
揉み手で近づいてくる父親と長男のジャン。
「その呼び方はやめてください。お義父様、お義母様、私のことはレオンと呼び捨ててください」
「そんな、恐れ多い!! 滅相もない!」
「まあ、お義母様だなんて、……そんな」
母親が乙女のようにポッと頬を赤らめる。……オイっ!
デュポン家の三姉妹は、レオンの周りから離れる気はないらしい。
「ほらー、レオン兄だって、いいっていってるじゃない」
「ねえ、レオン兄、私たちの焼いたクッキー食べてね!」
「ゆっくりしていってね、夜は村のみんなもお祝いにくるって!」
「今すぐお茶を入れますからね!」
「さあさあ、むさくるしいところですが、入ってください!」
俺の家族みんなに取り囲まれて、家に入っていくレオン。
そして、なぜか一人取り残される俺……。
「あ、ソラル。ソラルも来てたんだー」
次男のトマが、今気づいたというように俺を見た。
――一体どうなっているんだよぉおおおお!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺たちは、上からジャン(38歳)、トマ(36歳)、俺(34歳)、エレーヌ(32歳)、リーズ(28歳)、サラ(25歳)の6人兄弟だ。
母親譲りの茶色い髪と薄茶色の瞳を受け継いだのはただ一人俺だけで、あとの5人は全員父親ソックリの赤毛と青い瞳、そしてそばかすが特徴だ。
リーズが今回結婚するので、残る独身は末娘のサラと俺のみ!
すぐ上の兄のトマは近くの学校で教師をしているが、それ以外はみんな村の農業に携わっている……と、おもっていたのだが……。
「この村はジラール様のおかげでここまでよくなったんです! 今日は村を上げてみんなでお祝いする予定ですよ」
どうやら、俺の知らないうちに、この村は大きな変貌を遂げていたらしい。
「私のおかげなどではありません。もともとこの村の土壌が、葡萄の栽培に適していたのですよ。
ジラール家としても、契約できる大規模な葡萄園を探していたので、渡りに船でした」
紅茶を片手に微笑むレオン。
三姉妹がそれを見てほぉっとため息をつく。
そう。大根やかぼちゃくらいしか栽培できなかった俺の村一帯は、ジラール公爵家の所有する由緒正しいワイナリーの専属葡萄園と化していたのだ!
「ジラール公爵様が、高い値段で葡萄を引き取ってくださるから、うちの村もここまで潤って!
おかげ様で飢えるものもすっかりいなくなり、生活にゆとりもできました」
ジャンの満面の笑み。
「適正な価格ですよ。この村の農園で取れる葡萄はとても品質がいいので、こちらが申し訳ないくらいです」
「今夜はここで取れた葡萄でできた葡萄酒で乾杯といきましょう!」
「明日は私の結婚式なんだから、飲みすぎないでよね! 父さん!」
リーズは頬を膨らます。
「おいっ、リーズ、さっきレオンに言ってたウエディングドレスがどうとかって、なんの話だよ!?」
俺は姉妹が焼いたというクッキーを手に、リーズを問いただす。
「あっ、それね! ふふっ! なんとレオン兄が私のために、王都で一番有名なデザイナーのウエディングドレスを用意してくれたんだっ!
もう友達みんなにうらやましがられちゃった! ソラル兄も私の花嫁姿、楽しみにしててっ!」
「ちょ、ちょっと待て! この前、俺がウエディングドレス用意してやるっていったとき、いらないって手紙で断ってきたじゃねーか!
あれは遠慮してたわけじゃなく、レオンに用意してもらってたってことなのかっ!? どういうことだよッ!」
俺の詰問に、リーズは目を丸くする。
「だって、ソラル兄はあんまりドレスのこと、わかんないでしょ? その点、レオン兄はセンスもいいし。あっ、ソラル兄がセンスが悪いってわけじゃないのよ!
ただ、一生に一度の花嫁姿だもん!素敵なドレスを着たい乙女心、わかってくれるよね!」
はあっ!?
立ち上がりかけた俺を、隣のレオンが制した。
「ソラル、黙っててごめんね。でも、リーズは俺にとっても妹なんだ。俺とソラルは一心同体なんだから、構わないよね?」
耳に触れるくらいの距離で言われて、俺はかあーっと頬が熱くなった。
「やだー、ソラル兄、照れてる!」
「熱々じゃん!!」
「いいなーソラル兄、私も王都で就職したら、こんな素敵な騎士様と出会えるのかなぁ?」
――いや、俺も騎士だし! しかも、総帥だし! 俺の方が、役職(だけ)は上だし!!!!
のんきな末妹のサラを。俺は軽く睨む。
「おい、レオン、なんで初めて会うはずの俺の家族にこんなに打ち解けてるんだよっ!」
「俺の家族になる人たちだよ。もちろん、手紙や贈り物でずっと交流を深めていたんだ」
「贈り物……」
そう言って俺ははたと気が付いた。今俺が手にしているカップ、この独特の文様には見覚えがあった。
「あ、そのカップ、ジラール家からいただいたのよ。ジラール家お抱えの窯元の作品なんだって!本当に素敵よね」
母親がほほ笑む。
いままで食器は割れてさえいなきゃ、ヒビが入ってたってかまわないって公言していたあの母親はいったいどこへ……。
そういや、帽子がどうとかも言ってたよね!? もしかして、もしかしなくても俺の家族、レオンからの豪華な贈り物攻撃にすっかり篭絡されてる……!?
「初めて手紙が来た時は驚いたぞ! まさか、ソラルが公爵家のご令息とそんなことになってるなんて!」
ジャンが興奮したように言う。
「ソラルは昔から、運だけは良かったからなー」
トマが俺をみてにやりと笑う。
「ねえ、二人の出会いについて聞かせてよ」
「知りたい知りたーい!」
俺はぶほっと紅茶を噴いた。
いや、家族には聞かせられない。レオンと出会ったいきさつなど、絶対に……。
だが、レオンはおもむろに語りだした。
「私がまだ騎士団に所属しておらず、兄の第三王子についていたころ、騎士団の中庭で長剣の素振りをするソラルを見かけたんです。私はそのころ、自分の魔力と剣の腕を過信していて、基礎的な鍛錬をおろそかにしていた。
ですがソラルは、突出した剣の腕はありませんでしたが、地道な鍛錬をひたすら繰り返していた。そのひたむきさに、私は心を奪われて……、一目ぼれでした」
「きゃーっ!」
三姉妹が黄色い悲鳴を上げる、と同時に俺はもう一度勢いよく紅茶を噴いていた。
――ルイ王子と会ったあの時が、ファーストインパクトじゃなかったのかよ!?
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