単なるセフレのはずの王宮騎士団のイケメンエースがなぜか身分違いの俺に激しく執着してきます

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1巻

1-2

 そして間仕切りも何もないその部屋の一番奥にあるのが、これまた粗末な木のベッド。
 もちろんシーツは、寝乱れたまま。
 ああ、こんなみっともない状態の俺の部屋を、憧れのシヴァ様に見られてしまうとは、穴があったら入りたい。

「ここがお前の商売部屋、というわけだな」

 何かを勝手に納得したシヴァがつぶやく。

「あの、俺っ、決して商売をしているわけでは……」
「フン、表向きはそういうことにしているというわけか」

 これまた勝手に何かを誤解したシヴァは、そのまま部屋の奥に進むと、俺の身体をどさりとベッドに落とした。

「狭いな……」

 そして当然のように、俺の上に乗ってくる。

「本当にここでいつも男の相手をしているのか?」
「ちょっと待ってください!」

 マントを脱ぎ捨てるシヴァに、俺は待ったをかけた。
 翡翠ひすいの瞳が細められる。

「なんだ? あんな誘いをかけてきて、怖気づいたとは言わせない。たしか、お前が慰めてくれるんだったな?」

 シヴァは俺の肩をぐっと押した。

「俺は今、何もかも全部に猛烈に腹が立っているんだ、お前のご自慢の性技で、今夜は嫌なことをすべて忘れさせてくれるんだろう?」

 まさに王女に捨てられ、失意のどん底。やけくそになっているシヴァは、俺のシャツに手をかけた。
 俺はその手をむんずとつかむ。

「考え直してください。ほら、目をしっかり開けてよく見て。俺、男ですよ。しかも、別に可愛くもないフツーの見た目です。王女様とは似ても似つかない……」
「男だからいいと言ったのはお前だろうが。それに、殿下のことは口にするなっ」

 乱暴にシャツを引き寄せられ、ボタンがはじけ飛んだ。
 やばい、火に油を注いじゃった?
 俺は慌ててはだけたシャツをつかんだ。

「お、落ち着いてくださいっ。だから、俺はあなたが一夜の過ちを犯す相手としてだって、絶対にふさわしくないんですってば。あなたなら、どんな美女も、もちろん美少年だって思いのまま……」
「そうか、わかった。お前まで俺を拒絶する気だな。……そうだ、俺は殿下に捨てられた男だ。俺にはもう、価値など、ないんだ……」

 低い声に顔を上げると、これ以上なく悲しそうな顔のシヴァがそこにいた。
 その切なげな表情に、俺の胸はきゅうっと締め付けられる。
 傷ついた小さな子供みたいな顔ですら、壮絶に美しい……っていうか、好き。
 ――大好き!
 そして俺は、心に決めた。
 そう、これはこんなショボい俺に神様がくれた、最初で最後のとっておきのプレゼントなのだと。
 だから俺は、両手を広げてシヴァをぎゅっと抱きしめた。

「あなたは誰がなんと言おうと素晴らしい人です。価値がないなんて、ありえませんっ!」
「……っ」

 温かい身体。
 俺はしばらくシヴァをぎゅっと抱きしめていた。
 はあああああぁ、幸せ、すぎるぅ。
 思いっきり鼻から息を吸い込み、この匂いを堪能する。
 シヴァは俺からゆっくり身体を離すと、俺をじっと見つめた。

「お前は、俺を受け入れてくれるのか?」
「も、もちろんです。身に余る光栄です」

 もう心臓が訳がわからないほど高速ビートを打っていて、頭の中は大太鼓や小太鼓が鳴り響き、まさにしっちゃかめっちゃかといった状態だが、なんとか俺は答えた。

「ふっ……」

 俺の言葉に気をよくしたのか、シヴァはほんの少し笑った。

「ぐっ!」

 俺の脳では処理できないほどの事態に、自我は崩壊寸前だ。

「このひと時、すべてを忘れさせてくれ……」

 シヴァは俺の頬にその大きな手のひらを添えると、俺に顔を寄せてきた。

「……っ」

 その美しい顔がゆっくりと近づいてくるのを、俺は瞬きもせずじっと見つめていた。
 もしかして、これは……、これは……

「ああーっ! ちょ、ちょっと待ったあ」

 だが、あろうことか、俺はあのシヴァの美しいお顔を、手で押しのけてしまった。

「この期に及んでなんなんだ。やはり、お前は俺のことを……」

 みるみる不機嫌になっていくシヴァ。

「違うんです。お願いです。後生です。後生ですから、俺に準備を、準備をさせてください!」

 俺は、ベッドの上でひれ伏した。
 だって、だって、だって! 俺が最後に食べたものって、今日の晩餐会で余った芋を丸めて、衣をつけて揚げたやつだよ。もちろん、スパイシーな香辛料もたっぷりつけて。そんでもって、日中に大量の芋をあっちやこっちへ運んだせいで、汗だっていつも以上に、いっぱいかいている。
 ただでさえみすぼらしいのに、その上不潔だなんて。しかもそれが、一生に一度きりのシヴァとの夢の夜だっていうんだから!

「準備……?」

 シヴァが眉根を寄せる。

「そう、そう、そうなんです。ほらっ、男同士って、女性相手と違って準備が必要なんです。だから、ちょっと、ほんのちょっとだけ、待っててもらえますっ!?」

 友人のラムからもらった、男同士のハウツー本で仕入れたにわか知識を、さも何もかも知っているかのように披露した俺は、慌ててベッドから飛び降りると、一目散で入り口側の洗面所に駆け込んだ。
 もちろん湯を沸かしている暇なんてないので、冷水を頭からかぶって身を清め、口をゆすいでからハーブを一枚口に含み、ラムがくれたいい匂いのする練り香水を耳の後ろに擦り付ける。
 それから俺は、戸棚の奥にある秘密の小箱に手を伸ばした。
 まさか、これを使う日がくるとは。
 白い小箱にはこれまたラムからもらった、いわゆる滑りをよくする「潤滑油」が入っていた。そして隣には、男性器を模した妙にリアルな張り形。
 こんなことになるなら、怖がったりせずに先に自分でしっかり慣らしておけばよかった。
 俺は未使用のままの張り形に、そっと指で触れた。
 そう、俺は何を隠そう、まっさらな身体だ。誰とも付き合ったことはないし、性経験など皆無。
 なにしろ、俺が生涯愛を捧げると決めたのは、シヴァ・ミシュラのみ。
 妙に乙女チックなところのある俺は「アンタの初恋なんて、どうせ実るわけないんだから、さっさとその辺の男で、初体験済ませちゃえば?」なんていう悪友の囁きには決して首を縦に振らず、一途にシヴァに操を立て続けてきたのだ。
 しかし今の俺といえば、シヴァには、経験豊富な遊び慣れた男として認識されてしまっている。
 どうしよう!? そんな後腐れのないはずの一夜限りの相手の俺が、まさかの未経験だなんて。
 バレたら、確実にドン引きされてしまう。
 そんな面倒くさい相手はお断りだと、怒って出て行ってしまうかもしれない。それどころか、詐称の罪でその場でたたき斬られてしまったり……
 ガタン、と居間兼寝室から音がして、俺は我に返った。
 どうしたって、時間がない。
 もうこうなったら、やるしかない!
 俺は潤滑油の入ったガラス瓶を手に、扉を開けた。
 ――シヴァが、いる。俺の家に。
 もしかしたら精霊か何かに騙されていただけで、戻ったらそこには誰もいなかった……なんてオチになるのではないかと心配したが、シヴァは確かにそこにいた。
 ぼんやりとした表情のシヴァは、所在なげに俺のベッドに腰掛けていた。
 それだけでも手を合わせて拝みたいくらいだというのに、今から俺は恐れ多くも、その逞しい腕に抱かれようとしているのだ。
 脳内が沸騰しそうな興奮を抑えて、俺はベッドに近づいた。

「用意は済んだのか?」
「はい」

 俺がうなずくと、シヴァは俺に手を伸ばした。

「こちらへ」

 ああ、もう、どうしよう……
 顔が、顔がよすぎる。
 そして、シヴァはそのままベッドに俺を押し倒した。
 さすがは王女様の護衛騎士。
 腹が立っているという言葉とは裏腹に、俺に触れるシヴァの指はとても紳士的だった。

「あ……っ、ん……」

 ベッドの上で抱き寄せられ、首筋に優しくキスが落ちた。
 もう、この時点で死んでも何も悔いはない!
 シヴァの温かい手が、俺のシャツの中にもぐりこむ。

「は、あ、ああ……っ」

 背中をまさぐられてビクビクと身体が震える。俺は思わず、シヴァの騎士服の背中を握り締めた。

「ずいぶん、敏感だな。さすがに、慣れているだけのことはある」

 慣れているどころか、他人に触れられることも初めての俺。
 だが、シヴァがいい感じに誤解をしてくれているみたいだから、そのままこれ幸いと流れに任せる。
 ――ああ願わくは、このまま時が止まってほしい。
 俺の力が抜けたところで、シヴァがおもむろに身体を離した。

「口づけても、いいのか?」

 翡翠ひすいの瞳が、俺を窺う。

「は、い……」

 俺が見つめ返すと、シヴァは無言で俺に頬を寄せてきた。
 そういう商売をしている人たちは、唇だけは客に許さない。そんなことを思い出したときには、もうすでに唇は重なっていて……
 もちろん、これが俺のファーストキス。
 神様、ありがとうございますっ!
 最初は触れるだけだった口づけは、どんどん激しくなってきて、ぬるりとした舌が俺の舌に絡みつくと、もう何も考えられなくなっていた。

「ん、あ……」
「……ふっ……」

 俺は夢中でシヴァの口づけに応える。
 もう、何もかもが夢みたいで!
 唇が離れると、シヴァが熱っぽい目で俺の腰を引き寄せた。

「なかなか、悪くない……。だが悪いが、俺は男との情事について知識がないんだ。だから……」

 はだけられたシャツからのぞく俺の胸に、シヴァは手を這わす。

「大丈夫です。あなたは、何もしなくていいです。俺が、全部、しますから……」

 俺はシヴァの手を取って、その長い指に口づけた。
 だが、そういう俺の知識は、すべて友人のラムから借りた、男同士のロマンス小説から得たもののみ。
 俺は、この難局を乗り切れるのか!?  
 とにかく、心を落ち着けて……
 俺は深呼吸すると、目の前の首元までしっかり止めた騎士服の金のボタンに手を伸ばした。
 ――そうだ、思い出すんだ。たしか、ラムから借りた小説の中に『騎士と男娼の切ない恋物語』があったじゃないか。
 どう見ても俺は、はかなげな美貌で男たちを虜にする魔性の男娼ってタイプではないが、この際そんなことはどうでもいい。
 あの、思わず十回は読み返してしまった、騎士と男娼の初めてのベッドシーンを、思い出すんだ。
 そして、その通り手順を進めることができたら、きっと俺だって。

「あなたは、何もしなくていい……」

 気持ちだけは麗しの男娼『ファム』になりきった俺は、ひとつずつシヴァのボタンを外していく。
 騎士服は頑丈なつくりで、ボタンがかっちりと留められているため、俺の震える指では大変苦戦したが、なんとかすべて外すことができた。
 その中に着ている上等の絹のシャツに手を伸ばそうとしたところで、俺はシヴァに力強く引き寄せられた。

「あ、あのっ……」

 どうしよう、小説の中じゃ、こんな手順じゃなかったはず。
 たしか『ファム』は騎士の服を脱がせて、自分も素っ裸になると、その逞しい身体に覆いかぶさってご自慢のテクニックで……

「これ以上焦らすな、もう待てない」

 シヴァの言葉通り、固く立ち上がったものが俺の腹に当たる。
 あのシヴァが、俺で勃起しているなんて。
 妙な感動に打ち震えたのもつかの間、俺は半ば破かれるようにシャツをはぎ取られていた。
 ――こんな強引なシヴァ様、ますます惚れる!
 っていうか俺は、決してもったいぶって焦らしているわけじゃなく、単に手際が悪いだけなんですが……

「もう、いい。お前は、何もしなくていい」

 覆いかぶさってくるシヴァの潤んだ瞳に見下ろされる。

「俺に、すべて委ねろ」

 ――わーん、これじゃ、立場が逆になっちゃうんですけどっ!?
 シヴァは騎士という職業柄、どんなことでも受動的になるのは我慢できないのか(だとしたらあの小説はリアリティに欠けると言わざるを得ない)、はたまた俺の手際が悪すぎて、単にこいつには任せておけないと思ったのか、なぜかすっかりシヴァが主導権を握ることになってしまった。
 シヴァは目を細めると、俺の髪を優しく梳いた。

「怖いのか? 震えているぞ」

 シヴァの言葉に、俺ははっとして首を横に振った。

「違うんです、そういうんじゃなくて」

 なにしろこういうことが初めての俺。いくら今まで恋焦がれてきたシヴァがその相手だとしても、俺は少しばかり、いやかなり緊張していた。

「大丈夫だ。傷つけたりなど、しない。優しくする」

 シヴァは言葉通り、壊れ物を扱うみたいに丁寧に、俺の裸の上半身を、そっと指でたどっていく。

「んっ、あ……」
「感じるのか?」

 身体中を優しく愛撫しながら、耳元で囁く。
 その低い美声に、俺の身体はますます昂って……

「あっ……、んっ……、気持ちいい、です……」

 羞恥に顔を赤らめながら答えると、シヴァは俺の唇に軽いキスを落とした。

「とてもいい顔だ。もっと、感じさせてやる」

 シヴァは微笑むと、今度は俺の首筋に舌を這わせた。熱い舌が俺の全身を舐め取っていく。
 そして……、何がどうなっているのかはわからないが、とにかく俺は……

「あっ、んっ、はっ、あ、ああ……」
「いい声だな」

 ――気づくと俺は、シヴァの下でめちゃくちゃに喘いでいた。
 っていうか、男相手で勝手がわからないとか言っていたの、どこの誰? 
 それとも、ベッドの中じゃ女も男も大して差はないとか!?
 ってことは、シヴァはやっぱりベッドの中でも、百戦錬磨のつわものってこと……!?
 えっ、でもマヤ王女はシヴァにはそういう経験がないとか、言ってなかったっけ?
 ああ、もう、だめだ。気持ちよすぎて、訳がわからない!

「だめっ、あ、ソコ……っ」

 男同士の利点というべきなのか、それとも天性の勘のよさか、シヴァが与える刺激は的確で、俺はその指でたやすく追いつめられてしまった。

「つらそうだな、一度出すか?」

 耳たぶを甘噛みされると、俺の背はぐんと反ってしまう。

「やっ、あ、ああっ!」
「楽しませてくれるじゃないか。なるほど、よほど自信があるのだな、こういうことにかけては……」

 シヴァはしたり顔で、俺の裸の胸に手を這わせた。

「んっ……」
「貧弱なのかと思ったが、意外にいい筋肉のつき方をしている。客を喜ばせるために鍛えているのか?」

 観察するようにつぶやくと、俺の乳首をぺろりと舐めた。

「客、なんて……、ひゃ、あっ!」

 ――だから、俺は男娼なんかじゃないんだって……
 でもシヴァはそんな俺の反応に満足したのか、匂いを嗅ぐように俺の胸元に唇を寄せた。

「本当に感度がいい。こうやってたくさんの男を楽しませているんだな」
「ちが…‥うっ」
「あんなに大胆に俺を誘っておいて、今さら清純なふりが通用するとでも思うか? ほら、ここが赤く色づいているぞ」

 吸い付かれると、腰がずんと重くなる。

「も、う、や……、だ」

 俺はシヴァの頭を両腕で抱きしめると、その黒髪を引っ張った。

「もう降参か?」

 くぐもった笑い声には愉悦の色がにじんでいる。

「お願いっ、も、出ちゃうから、俺にもっ……」

 このままじゃ、癒してあげるどころか、ただ、俺がシヴァに一方的に気持ちよくされているだけじゃないか!
 涙目で懇願すると、シヴァはあっさり俺から離れた。

「そうだな、まだまだじっくり楽しませてもらおう」

 シヴァは荒々しく、纏っていた絹のシャツを脱ぎ捨てた。あらわになったのは素晴らしく鍛え上げた上半身。
 本当に、見事すぎる……
 シヴァは息を呑んだ俺の顎をつかみ、上向かせた。

「まさか、俺が男に欲情する日が来るとはな」
「あの、触っても、いいですか?」

 おずおずと切り出した俺。了承の返事の代わりに、引き寄せられた。
 裸の肌が触れ合い、思わず吐息が漏れた。
 もう、これだけでイっちゃいそう。
 俺はシヴァの首すじにキスを落とすと、下穿きの前を緩め、そっとその中心部の屹立に手を伸ばした。
 すごく、大きくて、硬くて、とにかくすごい……
 握り込むと、ビクリとそれが震えた。

「はっ……」

 耳元で、シヴァが熱い息を吐く。
 感じてくれているんだ……
 感動やら、興奮やら、トキメキやら、いろいろな感情がごちゃ混ぜになる。
 少しでも気持ちよくなってもらおうと、手に力を込めて、緩急つけてさばいていく。

「気持ちいい、ですか?」
「すごく、いい……」

 耳元で低い声で囁かれると、それだけで俺は精神的に昇天してしまいそうになった。

「もっと、感じてください、俺が……っ」

 上目遣いでシヴァの様子を確認して、さらに手を早めようとしたところを、なぜかやんわりと止められた。

「あの……?」
「……ほかに、誰がいる?」
「え?」

 シヴァが俺の瞳をのぞき込む。

「王宮の貴族か? それとも王都の商人を相手にしているのか? もしかして、俺の知っている人間もいるのか……?」
「なんの、こと……?」
「お前は、こうやって、いつも男を誘っているんだろう? 今、お前が関係している人間は誰だ? 何人いる?」
「……!」

 そうだ。俺って、そういう設定だった。
 初めてのこの状況に舞い上がっちゃっていて、すっかり忘れてたけど。
 はっとする俺に、シヴァが怪訝な眼差しを向ける。

「あの、その……」

 どうしよう。詳細までちゃんと考えてなかった。
 でもここで、「実は俺はなんの経験もなくて、こういうことするのはあなたが初めてです!」なんて言ったら……
 確実に、捨てられる。っていうか、この場で斬り殺される!
 今、シヴァが相手にしているのは、あくまで遊び慣れて後腐れのない、一夜限りの相手なのだから。
 本当はあなたのことが大好きで、初めての相手があなたです、なんて重すぎる真実、この状況じゃ、どんな男だって尻尾を巻いて逃げ出したくなるに決まっている。

「どうした? もしや言えないような相手なのか?」

 俺はかぶりを振った。
 どうする? こんなとき、遊び上手な軽薄な男だったらどんなふうに答える?
 そのとき俺の頭の中に、友人のラムから借りた、別のロマンス小説のあらすじが不意に浮かんだ。
 そこに出てきた当て馬役の美少年は、まさに今俺がなりたいと思っている小悪魔的な男たらしで、たくさんの男を遊び半分に手玉に取っては、その心を踏みにじっていた。

「……あのさ、そういうのは言いっこなしにしようよ」

 美少年のセリフそのままに、俺は言った。

「は?」

 シヴァの眉間にしわが寄る。

「お互い、ストレス発散の気持ちいいコトするだけの関係だろ? 今日限りのあなたが、俺のほかの相手のことなんか知ってどうすんの?」
「お前……っ」
「そんな興ざめなこと、聞かないでよ。今この瞬間は、俺はあなただけのものだよ。それで、いいでしょ?」

 チュ、といかにもスレた感じで、唇に軽くキスをしてやる。
 シヴァは一瞬目を丸くしたが、次の瞬間、なぜかすごく怖い顔になった。

「……そうだな。深入りは禁物だ。お前は、ただのストレス発散の相手にすぎないのだから」
「……」

 自分で言ったセリフだというのに、シヴァに反芻されるとズシリと心に重く響いた。
 俺はいったい何を期待しているんだ!?
 憧れのシヴァに、一夜限りだとしても、情けをかけてもらえるんだ。
 これ以上の何を望む?
 俺はわざとらしくにっこりと微笑んで見せた。

「さあ、続きをしようよ。口でしてあげようか? 俺の舌使い、皆に好評だよ?」

 これまた小説の中から、そのままパクったセリフを吐くと、シヴァはにやりと笑った。

「それは、次の機会に取っておこう。今日は……、お前をとことん苛めてやりたい気分だ」
「え……!?」

 横たわっている俺に、また覆いかぶさってくる。
 え、ちょっと待って!? 次の機会って……、ナニ!?
「とことん苛めてやる」と言ったくせに、俺に触れるシヴァの指はあくまで丁寧で、どこまでも紳士的だった。

「あっ、やっ、だ、めっ……」

 シヴァの指が、からかうように俺の肌をなぞっていく。

「何がだめなんだ? 腰が揺れているぞ」

 全裸に剥かれ、両手を一掴みに頭の上でまとめられる。
 シヴァにリードされるがまま、与えられる刺激に、俺はただただあられもない声を上げるのみ。

「目を閉じて」

 これ以上なく美しい顔が近づいてくる。

「ん……」

 ぎゅっと目を閉じると、しっとりと唇が重なった。
 優美で甘い口づけ。思わず吐息をもらすと、ぬるりと熱い舌が咥内に入ってくる。

「んっ、あ……」
「そう、もっと吸って。俺に応えて」

 思わず目を開けた俺。じっと見つめる翡翠ひすいの瞳が、俺を絡め取る。

「ああ、もう……」
「とても、いい……」

 シヴァの手のひらが、俺の頬を包み込む。その仕草は、まるで本当の恋人にするみたいに甘美で溺れそうになる。
 本当にシヴァは素晴らしく意地悪で、優しく触れる指にイキそうになる俺を、何度も寸止めにしては楽しんでいる。やがて裸の身体を絡ませるようにして、俺はシヴァに懇願した。

「あ、お願いっ……、もう……、許して……」
「どうしてほしいのか、言ってみろ」

 俺は息も絶え絶えで、シヴァの耳元でうめいた。

「もう、イキたい……、お願い、イカせて……」

 涙目で見上げると、シヴァは満足そうに喉を鳴らす。

「その顔、たまらない。お前のこと、もっと知りたくなる。お前の全部を、見たくなる……っ」

 ぐっと力強く握りこまれ、素早く手を動かされた。

「はっ、あっ、あああああああんっ!」

 次の瞬間、まるで自分のものとは思えないほど高く甘えた声を出して、俺は果てた。
 そしてこの一連の出来事に、もうすっかり許容適応範囲を超えていた俺は……、そのままシヴァの腕の中で気を失ってしまった。

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