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19.大きな藤の木の下で
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「んっ、は、あ……!」
まるですべて奪いつくされるみたいな激しいキス。
思わず崩れ落ちそうになる腰を、シヴァがぐっと支えた。
「だ、め、こんな、とこ、で……、んっ」
「いいから集中しろ」
俺の抵抗などお構いなしに、シヴァは俺の後ろ首を掴んで引き寄せた。
「で、も……、っ!」
そう、シヴァはあれから俺をなんと、俺の職場の第三食堂まで送ってくれると言い出した。
だが、あのシヴァ・ミシュラが王宮内とはいえ、貴族や上級騎士たちのほとんどよりつかない北区画のはずれにある第三食堂に現れたりしたら、おそらく界隈は大パニックになってしまうにちがいない、と俺は考えた。
何しろあそこは、王宮に用事がある出入り業者や、王宮で下働きをしている人間たちの休憩スペース、いわゆる王宮内のバックヤードに当たる区画なのだ!
だから、俺はシヴァのありがたーいお申し出を固辞して「どうぞおかまいなく。一人で戻れますから俺はここで」と、シヴァにペコリを頭を下げたのだが……!
俺の返事のどこがそんなに気に入らなかったのか、シヴァは舌打ちするとまた俺を初めて会ったあの日みたいに、俺を肩にひょいと担ぐと、夜光性の珍しい藤と膝くらいまでに伸びた影草が生えている人気のない茂みに俺を連れ込んだのだ。
この夜行性の藤は、昼は暗い青緑の葉だけが茂っているだけで目立たないのだが、夜になると先端に咲く紫色の花がかすかに光を放つのだ。
それはとても美しい光景だが、その藤の幹に身体を押し付けられるようにして、シヴァの激しい口づけを受けている今の俺にとっては、そんなこと全く関係なかった!!
「あのロハンにどうやって取り入った?」
シヴァが怒りに満ちた目で俺を見る。
「ロハン様とはっ、偶然っ……!」
「ああ、そうか。俺にしたように、偶然を装って、誘いをかけたというわけだな。
それで、あの男も……」
強く肩を掴まれて、舌を吸われると、俺の身体がビクリと震えた。
「俺、誘いなんて……っ!」
俺はずっとシヴァのことしか好きじゃなくて、今まで生きてきてあんな風に誰かを誘ったことはシヴァが初めてで……。
でも、今更、そんなこと言ったって、きっとシヴァは信じてなんかくれない。
それもこれも、俺がシヴァの気を引きたいがために、あんなふうに軽薄にシヴァに声をかけたりなんかしたからで……!
だから、すべては俺が自分で蒔いた種。
涙目になってシヴァを見上げると、シヴァははっと息を呑んだ。
「……っ、そんな顔をしても俺は騙されない!」
「でも本当に、俺っ、ロハン様とは、なにも……」
「あれほど露骨な誘いを受けておいて、何も存ぜぬとはさすがの手練れだ。かわしかたも一流だな」
シヴァが冷たい視線を、俺に向ける。
いったい俺に取ってシヴァはどんな存在なのか。それにシヴァは、一体何をそんなに怒っているのか。
――俺には、何もわからない。
「んっ、あ……」
「いいか、今晩の約束を忘れるな!
一緒にいる間だけは、お前は俺だけのものになるんだろう!?」
最後にもう一度、まるで罰を与えるかのように俺を押さえつけるようにして口づけると、シヴァはマントを翻して去っていった。
結局、その日の午後は全然仕事に身が入らず、始終ぼーっとしていた俺は皿を割ったり、指を切ったりと、失敗続きでチャプラさんにどやされる始末だった。
まるですべて奪いつくされるみたいな激しいキス。
思わず崩れ落ちそうになる腰を、シヴァがぐっと支えた。
「だ、め、こんな、とこ、で……、んっ」
「いいから集中しろ」
俺の抵抗などお構いなしに、シヴァは俺の後ろ首を掴んで引き寄せた。
「で、も……、っ!」
そう、シヴァはあれから俺をなんと、俺の職場の第三食堂まで送ってくれると言い出した。
だが、あのシヴァ・ミシュラが王宮内とはいえ、貴族や上級騎士たちのほとんどよりつかない北区画のはずれにある第三食堂に現れたりしたら、おそらく界隈は大パニックになってしまうにちがいない、と俺は考えた。
何しろあそこは、王宮に用事がある出入り業者や、王宮で下働きをしている人間たちの休憩スペース、いわゆる王宮内のバックヤードに当たる区画なのだ!
だから、俺はシヴァのありがたーいお申し出を固辞して「どうぞおかまいなく。一人で戻れますから俺はここで」と、シヴァにペコリを頭を下げたのだが……!
俺の返事のどこがそんなに気に入らなかったのか、シヴァは舌打ちするとまた俺を初めて会ったあの日みたいに、俺を肩にひょいと担ぐと、夜光性の珍しい藤と膝くらいまでに伸びた影草が生えている人気のない茂みに俺を連れ込んだのだ。
この夜行性の藤は、昼は暗い青緑の葉だけが茂っているだけで目立たないのだが、夜になると先端に咲く紫色の花がかすかに光を放つのだ。
それはとても美しい光景だが、その藤の幹に身体を押し付けられるようにして、シヴァの激しい口づけを受けている今の俺にとっては、そんなこと全く関係なかった!!
「あのロハンにどうやって取り入った?」
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「ロハン様とはっ、偶然っ……!」
「ああ、そうか。俺にしたように、偶然を装って、誘いをかけたというわけだな。
それで、あの男も……」
強く肩を掴まれて、舌を吸われると、俺の身体がビクリと震えた。
「俺、誘いなんて……っ!」
俺はずっとシヴァのことしか好きじゃなくて、今まで生きてきてあんな風に誰かを誘ったことはシヴァが初めてで……。
でも、今更、そんなこと言ったって、きっとシヴァは信じてなんかくれない。
それもこれも、俺がシヴァの気を引きたいがために、あんなふうに軽薄にシヴァに声をかけたりなんかしたからで……!
だから、すべては俺が自分で蒔いた種。
涙目になってシヴァを見上げると、シヴァははっと息を呑んだ。
「……っ、そんな顔をしても俺は騙されない!」
「でも本当に、俺っ、ロハン様とは、なにも……」
「あれほど露骨な誘いを受けておいて、何も存ぜぬとはさすがの手練れだ。かわしかたも一流だな」
シヴァが冷たい視線を、俺に向ける。
いったい俺に取ってシヴァはどんな存在なのか。それにシヴァは、一体何をそんなに怒っているのか。
――俺には、何もわからない。
「んっ、あ……」
「いいか、今晩の約束を忘れるな!
一緒にいる間だけは、お前は俺だけのものになるんだろう!?」
最後にもう一度、まるで罰を与えるかのように俺を押さえつけるようにして口づけると、シヴァはマントを翻して去っていった。
結局、その日の午後は全然仕事に身が入らず、始終ぼーっとしていた俺は皿を割ったり、指を切ったりと、失敗続きでチャプラさんにどやされる始末だった。
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