【完結】突然変異の訳アリ子持ちベータは、竜人の血を継ぐ執着系最強アルファ王太子に溺愛される

.mizutama.

文字の大きさ
45 / 110

44.あの夜の月

しおりを挟む
――深夜。

『陽光の宮』と呼ばれるこの美しい宮殿も、今はすっかり静まり返っていた。
あたりには、しんとした空気が張り詰めている。

俺は部屋を抜け出し、人気のない廊下をひとり歩いていた。
この宮の中を、少しでも多く自分の目で見ておきたかった。

――いかなる時も、自分の置かれた場所の状況を、すみずみまで探知し、把握しておけ。

幼い頃から何度も叩き込まれたその教えが、今でも無意識に俺の行動を支配している。

この宮は、王宮の南東に位置しているという。
もともとは王族の静養用に使われていたらしく、厨房から使用人たちの部屋、浴場、書庫、薬草庫にいたるまで、ここだけで生活が完結できるよう造られている。
広大な庭園には池があり、小さな森のような区域まである。まさに『王宮内の離宮』と呼ぶにふさわしい場所だ。

現在、この『陽光の宮』で生活しているオメガは、おそらく数十人はいる。
それだけの人員を抱えたまま、宮全体を結界で覆っているアレクシの魔力――そのスケールは、改めて尋常なものではないと感じさせられた。

俺は、結界の境界と思しき場所まで歩を進め、そっと手を伸ばしてみる。

そこは一見、何の変哲もない空間に見えた。
だが、一定の距離を越えようとすると、見えない膜のような粘性のある抵抗が全身を包み込み、内側に押し返されてしまう。

――やはり、この結界を俺一人で突破するのは無理だ。

ため息をついたそのとき、かすかな音が聞こえ、俺は思わず身をかがめて物陰に身をひそめた。

――誰かいる……。

息を潜めて耳を澄ますと、やがて静寂の中に、小さな声が届いた。

「……父上、母上……」

か細く消え入りそうな声だった。

俺はそっと顔を上げ、音のした方を探る。
月明かりが差し込む中庭の向こう――回廊の端に、小さな人影が立っていた。

それは、白い夜着をまとったヴェリオスだった。

ヴェリオスは背を伸ばし、窓辺に寄り添うように立ち、静かに夜空を見上げていた。
銀の髪が月光に照らされ、淡く光っている。

その姿に、俺は思わず立ち上がり、ヴェリオスに駆け寄っていた。

「殿下、こんな夜更けにどうされたのですか?」

 俺に気づいたヴェリオスは、袖でぐいと頬をぬぐう。

 ――泣いていたのか。
 涙には気づかないふりをして、俺はヴェリオスの手を取った。

「夜は冷えます。お部屋にお戻りに」

「月を、見ていただけだ」

 見上げると、夜空にはぽっかりと満月が浮かんでいた。
 青白い、その月。

 ――あの夜のような、月だった。



 俺はヴェリオスを私室まで送り届けた。
 
 おとなしくベッドに入ったヴェリオスに、掛布をかけてやった俺は、あたりを見回した。
 豪華な部屋。そして、子どもにはあまりに広すぎる部屋……。

「ソル、行かないで」

 下がろうとした俺の手を、ヴェリオスが掴む。

「殿下……」

「一人にしないで。お願い……」

 そのあどけないまなざしに、俺の心は締め付けられる。

 俺はヴェリオスの、小さな手のひらを両手で包み込んだ。


「わかりました。殿下がお休みになるまで、おそばにいます」


 
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)  社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが…… *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

生贄傷物令息は竜人の寵愛で甘く蕩ける

てんつぶ
BL
「僕を食べてもらっても構わない。だからどうか――」 庶子として育ったカラヒは母の死後、引き取られた伯爵家でメイドにすら嗤われる下働き以下の生活を強いられていた。その上義兄からは火傷を負わされるほどの異常な執着を示される。 そんなある日、義母である伯爵夫人はカラヒを神竜の生贄に捧げると言いだして――? 「カラヒ。おれの番いは嫌か」 助けてくれた神竜・エヴィルはカラヒを愛を囁くものの、カラヒは彼の秘密を知ってしまった。 どうして初対面のカラヒを愛する「フリ」をするのか。 どうして竜が言葉を話せるのか。 所詮偽りの番いだとカラヒは分かってしまった。それでも――。

処理中です...