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第三章
第170話 うちのこ?
しおりを挟む衝撃の事実を知って言葉を失くした私の耳に、ルイスさんの声が聞こえて我に返る。
「父上、ヘンリー兄様。ユーリ嬢が固まっていますよ。それよりも父上。ユーリ嬢にここに私たちが集まっている理由を説明したのですか?」
「あ、そう言えばまだだったな」
ルイスさんに言われた領主様は私に体を向けて座り直すと、咳払いをしたあと口を開いた。
「ユーリ。家の子にならないか?」
うちのこ?
意味が分からずに首を傾げると、ルイスさんが苦笑を漏らしながら説明をする。
「……父上。色々と端折りすぎです。ユーリ嬢。実は昨夜、父からユーリ嬢が叔母の娘かもしれないと聞かされていました。もし、それが事実なら家族として迎えたいと。私に異論はありませんが、ユーリ嬢の意思を尊重すべきだとも考えています。……ユーリ嬢はどうしたいですか?」
ルイスさんは十五歳とは思えないほどしっかりとした口調で、簡潔に且つ私の意思を尊重すると言ってくれた。
私は、一人一人と視線を合わせて考える。
皆、穏やかに微笑んでいる。
その態度や眼差しに悪意は感じない。
寧ろ、好意が駄々洩れているように見受けられる。
正直な気持ち、嬉しいというのが大部分を占めていた。
だけど、私には大事な仲間、ううん、家族と言っても良い仲間が居る。
それに、貴族として生きるより、メイスたちと自由に楽しく生きることの方が自分には向いていると思う。
ルイスさんの申し出はありがたいが、ここは正直な気持ちを伝えておくべきだろう。
私は小さく深呼吸をしたあと口を開いた。
「お気持ちは大変ありがたいのですが、私は貴族としての教養は何一つ身につけていません。それに、母は私に自由に生きてほしいと言ってくれました。その気持ちは私も一緒です。ですから、出来れば今までのような関係を続けていけたらと考えています」
私の発言を聞いた途端、皆の表情があからさまに曇る。
領主様は困ったように眉尻を下げて思案した後、口を開いた。
「それがミシェルの願いなら聞かないわけにはいくまい。ユーリが幸せなら私は受け入れよう。……娘として迎え入れられないのは実に残念だが」
領主様に続いてヘレナさんが口を開く。
「ええ、実に残念ですわ……。ですが、わたくしたちはユーリちゃんを家族だと思っています。形に縛られない家族があっても良いと思いますの。ねぇ、あなたたちもそう思うでしょう?」
ヘレナさんは私を家族だと思ってくれていたのか。
何だか嬉しい。
それに、無理に養子に迎えずに私の気持ちを優先してくれるなんて、彼女は本当に温かくて懐が広いのね。
ヘレナさんの言葉に感動していると、ヘンリーさんが頷いた。
「そうですね。ユーリ嬢は今の生活が気に入っているようですし、無理に養子縁組をする必要はないでしょう。貴族は何かとしがらみがついてまわります。自由な暮らしを望むユーリ嬢には些か不便を感じさせてしまうことでしょう。これまでのように我々が守れば済む話です。リューク、ルイス、それでいいね?」
さすが次期伯爵家当主となるヘンリーさんは理解しているようだ。
イケメンな上に頭の回転も早いヘンリーさんは、リュークさんとルイスさんが理解し易いように簡潔に話をまとめて説明してくれた。
ヘンリーさんの言葉は私の気持ちを代弁するかのように的確だった。
私は、うんうんと頷いて二人を見る。
二人は私の視線に気がつくと、不承不承ながらも頷いた。
「……はい」
リュークさんが返事をしてだいぶ経ったあとで、ルイスさんがようやく口を開く。
「…………はい」
納得していないけど無理矢理自分を納得させたといった返事に、私は苦笑を零すしかなかった。
ごめんね。ルイスさん。
今更私が貴族の令嬢として生きるのは無理があるんだよね。
もし、幼い頃から貴族としての教養を叩き込まれていたのならそんな生き方もあったのだろうけど、誰かの駒にされて生きるなんて今更考えられない。
でも、カミール家ならそんなことをしないだろうことも分かっている。
だから私は、笑顔で言った。
「私は今のままで十分幸せです。いつまでもこの領地に居たいですし、皆さんのお役に立てるのが嬉しいのです。ですから、どうか笑顔を見せてください。ね?」
「……ユーリ嬢」
「あ、それと、ユーリ嬢と呼ぶのはやめてください。呼ばれ慣れていないので背中がむず痒いです。どうかユーリと呼んでください。あと、敬語も要りません」
私がそう告げると、ルイスさんは苦笑を浮かべながら私の名前を呼んだ。
「わかったよ。ユーリ」
はにかんだ顔で私の名前を呼んだルイスさんが眩し過ぎて目を逸らしてしまったが、堅苦しい言葉遣いよりも親しみやすそうで良かったと安堵した。
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