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第一章
第39話 メイスは特別な猫
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カントーリの街を発って、遅れを取り戻すように黙々と歩みを進める。
もう一泊しても良いかな、なんて考えたりもしたが、ロージスから少しでも距離をとっておきたくて勢いのまま発ってしまった。
それにしても、あのお店の料理は本当に美味しかった。
店内は温かな雰囲気を醸し出しており、居心地の良い空間だった。
また、カントーリの街に立ち寄ることがあったら必ず寄りたい。
お店の料理を思い出しながら街道を歩いていると、ご機嫌な様子のメイスが語り始めた。
『昨今の人間の食事は、昔と比べて随分と美味くなったのだな。以前は単調な味付けばかりで、臭いし硬いしでとてもじゃないが食せる気がしなかった。あの村で食した魔獣の肉もそうだが、煮込みもあの店の料理も素晴らしく美味かった。また食したいものだ』
以前も食べたことがある話しぶりに違和感を覚えた私は、好奇心に任せて疑問を投げかけた。
「ふふ。以前に食べたことがありそうな話しぶりだけど、昔ってどれくらい昔のことなの?メイスは生まれて数年くらいでしょう?」
メイスが魔法を巧みに使いこなせることと会話を交わせることをすっかり失念していた私は、前世と同じ感覚で物事を考えていた。
だから、生まれて数年くらいだろうと勝手に解釈して、人間と猫では時間の捉え方が違うのだと理解したつもりでいた。
――だが、メイスからの予想外の答えに私は言葉を失った。
『俺はそんなひよっこではない。昔は昔だ。そうだなぁ……かれこれ二百年、いや三百年くらい前に人間の食事を口にしたのが初めてだったが、アレは不味かった。アレこそ家畜の餌と言っても良いだろう』
肩に乗ったままなので表情は読めないが、その声色は明らかに不機嫌そうだ。
いや、そんなことよりも、今何て言った?
三百年!?
この世界の猫はそんなに長生きするものなの?
私は聞き間違えたのだろうと思い、確認のために問いかけた。
「ねぇ、メイス。あなた三百年くらい前って言った?三年の言い間違いじゃないの?」
すると、メイスは心外だとばかりに不満気に尻尾を揺らして答えた。
『三百年だ。俺はもの凄く長命だ。そこいらの猫と一緒にされたくはない』
何が気に入らなかったのか、メイスは不愉快だと言わんばかりに尻尾を左右に揺らし始めた。
どうやら、メイスが特別に長命なだけで、他の猫はそうでもないようだ。
きっと、他の猫と同じ扱いをされたのが気に入らなかったのだろう。
機嫌を損ねたメイスを宥めるように、腕に抱きかかえて背中を優しく撫でる。
「ごめんね、メイス。ずっと離れから出たことがなかったから世間に疎いの。不快な思いをさせて本当にごめんなさい。もっと精進するから許して?」
抱えられて背中を撫でられていたメイスの艶のある尻尾が、不意に腕に巻き付いてきた。
『……俺の方こそお前の置かれた状況を理解していたのに大人げなかった。だが、俺は決してそこいらの猫とは違う。今はまだ詳しいことは言えないが、いずれ折を見て話すつもりだ。だから早く大人になれ』
メイスがデレた!
なに、この可愛い生き物。
出会った頃の愛らしいメイスを思い出して頬が緩む。
大人げないだなんて、そんなこと言わないで。
体は子供だけど、私だって中身は成人した大人だ。
まだまだこの世界の常識を知らないけれど、今後も良好な関係を築いていきたいと思っている。
そのためにも相互の理解を深めるのは大切なことだ。
そこでふと、私はメイスに前世の記憶を持っていることを話そうと覚悟を決めた。
理由は分からないが、メイスになら打ち明けても大丈夫だと妙な確信があった。
腕の中でされるがままに背中を撫でられているメイスを見下ろして、小さく深呼吸をする。
口にするのは勇気が要るけれど、メイスは私にとって大切な家族となっていた。
前世の記憶があるなんて打ち明けたら、気が触れたと思われるかもしれない。
もしかしたら、気味悪がられるかもしれない。
それでも、メイスにだけは打ち明けようと慎重に言葉を選んで口を開いた。
「あのね、メイス。メイスにだけは話しておきたいことがあるの。……聞いてくれる?」
そう口火を切った私の視線と綺麗な琥珀色の瞳が重なった。
もう一泊しても良いかな、なんて考えたりもしたが、ロージスから少しでも距離をとっておきたくて勢いのまま発ってしまった。
それにしても、あのお店の料理は本当に美味しかった。
店内は温かな雰囲気を醸し出しており、居心地の良い空間だった。
また、カントーリの街に立ち寄ることがあったら必ず寄りたい。
お店の料理を思い出しながら街道を歩いていると、ご機嫌な様子のメイスが語り始めた。
『昨今の人間の食事は、昔と比べて随分と美味くなったのだな。以前は単調な味付けばかりで、臭いし硬いしでとてもじゃないが食せる気がしなかった。あの村で食した魔獣の肉もそうだが、煮込みもあの店の料理も素晴らしく美味かった。また食したいものだ』
以前も食べたことがある話しぶりに違和感を覚えた私は、好奇心に任せて疑問を投げかけた。
「ふふ。以前に食べたことがありそうな話しぶりだけど、昔ってどれくらい昔のことなの?メイスは生まれて数年くらいでしょう?」
メイスが魔法を巧みに使いこなせることと会話を交わせることをすっかり失念していた私は、前世と同じ感覚で物事を考えていた。
だから、生まれて数年くらいだろうと勝手に解釈して、人間と猫では時間の捉え方が違うのだと理解したつもりでいた。
――だが、メイスからの予想外の答えに私は言葉を失った。
『俺はそんなひよっこではない。昔は昔だ。そうだなぁ……かれこれ二百年、いや三百年くらい前に人間の食事を口にしたのが初めてだったが、アレは不味かった。アレこそ家畜の餌と言っても良いだろう』
肩に乗ったままなので表情は読めないが、その声色は明らかに不機嫌そうだ。
いや、そんなことよりも、今何て言った?
三百年!?
この世界の猫はそんなに長生きするものなの?
私は聞き間違えたのだろうと思い、確認のために問いかけた。
「ねぇ、メイス。あなた三百年くらい前って言った?三年の言い間違いじゃないの?」
すると、メイスは心外だとばかりに不満気に尻尾を揺らして答えた。
『三百年だ。俺はもの凄く長命だ。そこいらの猫と一緒にされたくはない』
何が気に入らなかったのか、メイスは不愉快だと言わんばかりに尻尾を左右に揺らし始めた。
どうやら、メイスが特別に長命なだけで、他の猫はそうでもないようだ。
きっと、他の猫と同じ扱いをされたのが気に入らなかったのだろう。
機嫌を損ねたメイスを宥めるように、腕に抱きかかえて背中を優しく撫でる。
「ごめんね、メイス。ずっと離れから出たことがなかったから世間に疎いの。不快な思いをさせて本当にごめんなさい。もっと精進するから許して?」
抱えられて背中を撫でられていたメイスの艶のある尻尾が、不意に腕に巻き付いてきた。
『……俺の方こそお前の置かれた状況を理解していたのに大人げなかった。だが、俺は決してそこいらの猫とは違う。今はまだ詳しいことは言えないが、いずれ折を見て話すつもりだ。だから早く大人になれ』
メイスがデレた!
なに、この可愛い生き物。
出会った頃の愛らしいメイスを思い出して頬が緩む。
大人げないだなんて、そんなこと言わないで。
体は子供だけど、私だって中身は成人した大人だ。
まだまだこの世界の常識を知らないけれど、今後も良好な関係を築いていきたいと思っている。
そのためにも相互の理解を深めるのは大切なことだ。
そこでふと、私はメイスに前世の記憶を持っていることを話そうと覚悟を決めた。
理由は分からないが、メイスになら打ち明けても大丈夫だと妙な確信があった。
腕の中でされるがままに背中を撫でられているメイスを見下ろして、小さく深呼吸をする。
口にするのは勇気が要るけれど、メイスは私にとって大切な家族となっていた。
前世の記憶があるなんて打ち明けたら、気が触れたと思われるかもしれない。
もしかしたら、気味悪がられるかもしれない。
それでも、メイスにだけは打ち明けようと慎重に言葉を選んで口を開いた。
「あのね、メイス。メイスにだけは話しておきたいことがあるの。……聞いてくれる?」
そう口火を切った私の視線と綺麗な琥珀色の瞳が重なった。
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