灰色が幸せだった

ゆーり

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ハッピーエンド

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「失礼いたします。」


会議室の引き戸を開け、溢れたコーヒーがバレないようにカップを配って回った。


上座に座るお客様は比較的ラフな格好の人、その隣にスーツ姿の若い2人。


こんな年の瀬に来るぐらいだから大切な取引先なのか、部長もいつになく真剣に難しい顔で書類に目を通している。


私にはわからない話をしている人達の目の前にそれぞれコーヒーを置き、溢れたコーヒーは部長の前にそっと置いて会議室から逃げ出した。


どうせならお歳暮にもらったお茶菓子でも出せばよかったかなと思ったけど、再度会議室に入る勇気もなく、私はお盆を小脇に抱え会議室に背を向けた。




会議室から戻ってきた部長には溢れたコーヒーを配ったことがバレて、お客様にはやめてねとだけ言われた。

そんなことはさすがにわかっている。

忙しいのに出してあげただけいいと思え、なんてことは言えず、笑顔で頷いておいた。


午前中の慌ただしさは午後には落ち着き、また私は喫煙所に駆け込んだ。




元カレ達には何度も禁煙を勧められた。


自分でもやめた方がいいことぐらいはわかっている。

世の中も喫煙者には厳しいし、煙草を吸うメリットがない。

でも、それ以上にやめる理由が見つからないまま吸い続けている。

友人達は結婚や妊娠を機にやめた。

そういう理由がないとやめる踏ん切りがつかないだけなのだ。


この喫煙所には私以外はほとんど来ない。


社内でも喫煙者が少ないことと、この煙草臭い狭い空間を嫌がって喫煙者もわざわざビルの外の広い喫煙所まで行っているらしいというのを瑠璃子さんに聞いた。

瑠璃子さんも彼氏と同棲するタイミングで禁煙したらしい。




煙草を持つ右手側のポケットでスマートフォンが鳴った。

煙草を咥えポケットを探ると、振動の長さでメールではなく、電話だと気づいた。


普段は母親ぐらいからしか電話など来ないので、私は少し慌てて画面を覗き込んだ。




【着信中】
 結城陽




少し喉の奥が鳴ったのがわかった。




結城陽ゆうきよう

8年ぶりのメッセージの次は電話までかけてきて、何を考えているのだろうか。



おそらく何も考えてない。


そういう人だった。




しばらく鳴り続けた着信は手に振動だけ残して止まった。

もう一度掛けてきたら出てやってもいい。

なんて思うけど、私が掛け直さないともう掛かってはこないだろう。



別に始める必要もない。


終わりではない。

そもそも始まってすらいない。



でも、勘だけど、なにかが始まってしまう気がした。


あの人が始めたいのか、私が始めたいのか。




恋愛なのか、大人の都合いい関係なのか、それともまたただの友達か。




ただの思い上がりかもしれない。

なんとなく、思い出して連絡してきただけかもしれない。


何事も難しく考える必要もない。



『仕事中なので、退勤後に折り返します。』




それだけメッセージを送り、画面を閉じた。
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