カメラの外で抱きしめて

かれは

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1.配信者

2.バレる

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再会から数日後の夕方。
 そろそろ配信準備でもするかと、机に散らかったケーブルをまとめていたところで、スマホが震えた。

 表示された名前に、心臓が軽く跳ねる。

『颯真』

「……え?」

 通話を取ると、相変わらず低い声が耳に落ちてきた。
『今から家、行ってもいいか』

「は?」
 あまりにも唐突で、返事が遅れた。
『嫌ならいい』
「あっ……いや、いいけど」

 自分でもわかるくらい、声が少し上ずった。通話を切った瞬間、部屋を見回す。
 脱ぎっぱなしのパーカー、積まれたゲームソフト、机の上には配信機材。
「……いやいやいや、何で今なんだよ」

 とりあえずパーカーをベッドに放り込み、カメラのレンズカバーを慌てて閉じる。
 心の中では(別に見られて困るわけじゃ……いや、困るな)とぐるぐる考えているうちに、インターホンが鳴った。

 ドアを開けると、颯真が立っていた。
 黒のジャケットにTシャツというシンプルな格好なのに、背の高さと雰囲気でやたらと目を引く。
 彼は無言で靴を脱ぎ、部屋の中へ入ってくる。

「……狭いな」
「うるさい」

 返事をしながら、俺は机の上のマイクをそっと手で隠す。
 颯真の視線がそれを追い、ゆっくりと細められる。

「お前、今、何やってるの?」
「別に……普通に生活してるだけ」
「ふーん」

 その声が、わざとらしく間延びしている。
 次の瞬間、颯真の指先が机の上のマイクを軽く叩いた。カン、と乾いた音がする。

「へぇ。これ、生活必需品なんだ」

 言葉が出なかった。


「……見たのか」
 観念して口を開くと、颯真はあっさり頷いた。
「職場のやつが見せてきた。人気らしいな、“REN”」
「……そういうの言わなくていいから」

 マスクをしていないせいで、顔が妙に熱いのがわかる。
 颯真はそんな俺を見下ろして、口の端をわずかに上げた。

「配信、見せてよ」
「今じゃなくても……」
「今がいい」

 返事を待たずに、颯真は机の前に腰を下ろす。俺の椅子に。
「おい、それ俺の——」
「いいから。立ってやれ」

 仕方なくPCを起動し、配信ソフトを開く。
 画面にはカメラ映像のプレビュー。無機質なレンズが、真正面から俺を映し出している。

「……何、ジロジロ見てんだよ」
「別に。ただ——生でやれよ」

 不意打ちのように低い声が落ちる。
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「……は?」
「画面越しじゃなくて。俺の前で、いつもの“REN”やってみろ」

 ふっと笑ったその顔は、完全に“試してる”目だった。
 カメラに映る自分より、目の前の颯真の方がずっとやりづらい。
 息が浅くなるのを必死で悟られまいとしながら、俺は椅子を取り戻すように腰を下ろした。
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