カメラの外で抱きしめて

かれは

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1.配信者

3.配信の裏

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「はいどうもーRENです。今日も元気にやっていきます」
 カメラに向かって笑顔を作る。
 颯真が部屋の端、ベッドにもたれて無言で見ているのが視界の端に入る。
 無視、無視。こいつは映らない位置にいる。

 ゲーム画面を立ち上げ、軽口を叩きながら進めていく。
 コメント欄はいつも通り、温かくて賑やかだ。

《RENくん今日もイケメン!》
《笑顔やばい》
《髪型似合ってる~》

 その時——背後から、低い声が落ちた。
「……声、震えてるぞ」

 マイクには入らないくらいの小さな声。
 だが鼓膜をくすぐるような距離感に、思わず肩が跳ねる。

《今日RENくん、やけに可愛いw》
《なんか照れてない?》
《顔赤くね?》

(違う……違うから……!)
 心の中で否定しながらも、意識はゲームから離れ、カーソルが変な方向に動く。

 さらに机の下で、膝に軽い衝撃。颯真の足先が、わざとぶつかってくる。
「っ……!」
 声を噛み殺したが、視聴者には別の意味で受け取られたようだ。

《今の「っ…」って何!?》
《RENくんほんと可愛いww》
《守ってあげたい》

 さらに追い打ちのように、背中越しにマグカップが差し出される。
「飲む?」
 息が耳にかかる。反射的に振り返った拍子に、ゲームキャラが敵にやられる。

《あーーーーww》
《ドジっ子RENww》
《今の「あっ」可愛すぎw》

 顔が熱い。耳の先まで熱い。
「ちょっ……マジでやめろって……!」
 小声で吐き捨てたつもりが、マイクが少し拾ってしまう。

《え、誰かいる?》
《今の声なにw》
《彼女?彼氏?》
《いや、彼氏説w》

 笑顔を貼りつけながら、必死に誤魔化す。
 でも背後の颯真は、視界に入らない位置で腕を組み、明らかに愉快そうにしていた。

「……はぁー……終わった……」
 終了ボタンを押した瞬間、全身の力が抜けた。
 背もたれに体を預けると、後ろからくすくすと笑う声がする。

「何が可愛いだよ、俺のせいだってのに」
「……笑ってんじゃねぇよ」
 振り返ると、颯真は腕を組んだまま、口元だけで笑っていた。
「お前、バレるかと思って焦ってただろ」
「そりゃそうだろ……あんな……」

 言葉の続きを飲み込む。
 あんな至近距離で声をかけられて、耳まで赤くなった理由なんて、絶対に言えない。

 颯真はゆっくり近づき、俺の椅子の背に手を置いた。
「生でやれって言っただろ。……やればできんじゃん」
「は……?」
「いつものRENより、今日の方が“素”が出てた。ファンも喜んでたじゃん」

 真顔で言われると、何も言い返せなくなる。
 でも、その声の奥に、わずかな独占欲が混じっているのを俺は知っている。

「……お前、ほんと意地悪」
「お前限定な」

 耳のすぐそばで、低く囁かれた。
 その瞬間、配信中以上に心臓がうるさくなる。
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