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※花言葉ー白鷺草ー(3/4)※
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枕を積んで少し高くしたところへ、彼女の身体を横たえる。
「紫苑様、失礼しますーー」
そう言ってから、彼女の両脚を大きく開かせた。
すると、そんなこと予測していなかったとでもいうように、紫苑様は目を見開いた。
「な、なにするの……喬。こんな格好、はしたないわ」
「はしたないことを、しているのです。嫌ですか? やめますか?」
俺は閉じようとする彼女の両膝を押さえて開かせたまま、今まで指でほぐしていたその場所に、口付けた。
ここもまさに、まだ開いたことのない、そしてこれから開かれようとしている、小さな蕾。
割れ目に沿ってそっと舌を差し込み、唾液を含ませて撫であげると、さっきよりももっと甘い声が、紫苑様の口から漏れた。
「ゃ、ぁ、あぁ」
こちらの舐める動きに合わせて、綺麗な鈴の音が響く。
「もう一度訊きます。やめますか?」
「……や、やだ。やめないで……でも、恥ずかしいよ、喬」
「紫苑様、こっち、見てください。見えるでしょう?」
彼女と視線を合わせながら、向こうから何をされているかがしっかりと見えるように舌を動かし、音を立てた。
ーーなんて顔をするんだ。
羞恥か、屈辱か。
眉間に皺を寄せながら、下がった眉。
瞳いっぱいに溜まった涙で、輝き歪む漆黒の目。
真っ赤な頬に、艶々してわずかに開いた小さな唇。
その唇から漏れ聞こえる、甘美な吐息。
初めて見せるその姿に、ぞくぞくと気持ちが粟立つ。
湧き上がる興奮と背徳感の狭間で、無我夢中でしゃぶりついた。
「喬……わたし、どうしたらいいの」
泣きそうな声で、紫苑様が問いかけた。その声の違和感と、彼女の身体に力が入ってきていたのを感じ、俺は動きを止めて顔を上げた。
「紫苑様、すみません……ちょっと、焦りすぎました」
無理やり開かせていた彼女の脚を閉じ、覆い被さるように抱き締めた。彼女の荒い呼吸が、自分の耳の側で聞こえる。
「喬、ごめんね」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません……今日はもう、終わりにしますか」
「……い、いや。そんなの嫌」
なんて可愛い台詞を繰り出すのか。
彼女も、混乱しているのかもしれない。知識も何もないまま俺にいいようにされて、そうならないはずもあるまい。
俺は自分自身を落ち着ける意味もあり、彼女の隣に横になった。優しくこちらを向かせ、その艶々で柔らかい髪を撫でた。
「……夢、みたいだわ」
自分の心の声が、表に出ていたのかとドキッとした。
その声は、紫苑様が発したものだった。
彼女の細い指が、俺の頬を辿る。
「貴方が、こうして私に触れてくれる時が来るなんて。ずっと、ずっとこうして欲しかったのよ。……なのに、全然何もできなくて、ごめんなさい」
俺は彼女の涙をそっと拭いて、その顔を引き寄せて口付けた。
「何を、おっしゃってるんですか。それは俺の台詞です。それに……無理に進めて、怖がらせてしまってすみません」
「ねぇ喬、もう一度、抱きしめて」
その陶器のような肌を引き寄せ、自分の中に納める。すっぽりと入るほど、紫苑様の肩は小さかった。
「喬の肩は、こんなに広くなってたんだね。出会った時は、女の子みたいだったのに。今は紛れもなく、男の人なんだね」
「怖いですか?」
「ううん。頼もしいなぁって。私一人だったら、何も出来ずに、ただただ家に従うしかできなかったと思うもの」
「これが正しいかどうか、わかりません。ただ、俺は貴女に生きていて欲しくて、ただそれだけで……。この先、辛いことも沢山あるかもしれません。貴族の貴女には耐えられないような苦労が、きっとあるでしょう」
「喬と一緒なら耐えられる。って言ったら、怒る? 私一人じゃ、多分何もできないから」
そんな、こんなか弱い可憐な花に、一人で何かをさせるなんてありえないじゃないか。
「俺、頑張りますから。なるべく苦労かけないように努力しますから」
「ううん。一緒に、苦労しよう、喬。ま、私は役立たずかもしれないけど」
「そんなこと……」
「だからね、喬。私を、貴方と同じ立場にして。主人と下男じゃなくて、対等な男女になれるようにーー」
紫苑様が俺の胸に口付け、こちらを見上げる。その艶めいた瞳に、再び自分の熱が高まってくるのを感じた。
さっきのやり直しをするように、二人同時に、もう一度丁寧に唇を合わせた。動きを学習したらしい彼女の小さな唇は、今度は最初から少し開き、俺の舌を受け入れた。彼女の口内をじっくり巡りながら、両手で乳房をそれぞれ愛撫する。
相変わらず小さく控えめに尖った頂を、今度は少し爪を立ててつねってみた。
「ふ……ぁあっ」
口付けをしたまま、彼女の身体がピクンと跳ねた。
いい反応だ。
気持ちの面ではまだ追いついていないが、身体の方は徐々に準備ができてきているようだ。
とはいえ、なるべく痛くしないように胸への愛撫を続けながら、首筋や耳元を、吸いつき舐め上げ攻めていく。それらを続けてからもう一度ぎゅっと抱き締めると、彼女の背中がしっとり汗ばんで貼り付いてきた。
俺は背中に回した手を、彼女の身体をゆっくり巡りながら、もう一度その泉へ向かわせた。そしてその動きに気付いた彼女が、下半身にきゅっと力を入れたのが伝わってきた。
「紫苑様。力、抜いてください」
怖がらせないように、その柔らかい頬へちゅっと口付けた。そして、閉じた脚の間に、自分の脚を挟みこんでこじ開け、自分の手を忍ばせる。その割れ目に指を這わせると、先程よりも多くの蜜が、俺の指を迎え入れてくれた。その蜜を引きずって、例の一点へ送り込む。小さな悲鳴と共に身体がピクンと跳ねた。
「喬……」
甘く切ない声が、俺の名を呼ぶ。
彼女が付けてくれた、大事な大事な名前。
「紫苑様……もう、何も考えないで。ただ、楽にして、俺に身体を委ねてください」
そして、俺は指の一本を、その割れ目の間にゆっくり侵入させた。
(きっつ……)
そこはまだ奥への侵入を許してくれそうになかったので、入口付近で小さく小さく巡回する。蜜を得てはあの点に送り込んで、周囲の膨らみをゆっくり押し回る。その作業を繰り返してしばらくすると、ふと、ふわっと中が広がって、指が奥へ飲み込まれた。
「んっ」
紫苑様が何かに耐えるような声を上げる。
俺の指は、奥でたっぷりと溜め込まれていた蜜を発見し、それを味わうようにゆっくり中の壁を巡った。
彼女の胸の膨らみを、麓からしっかり持ち上げながら、頂上の周りを舌で這い回る。それをしながら、中へ入り込ませた指を折り曲げ、蜜の元を探った。
「ぁ、やっ……ふぁっ」
彼女の掠れた声が響く。蜜は順調に溢れ出し、少しずつ卑猥な音を立て始めた。
「喬、喬っ」
「はい、紫苑様」
「こっち、向いて。私の、顔を見て」
彼女の懇願に、俺は胸元から顔を上げ、視線を合わせた。
「喬。好きよ」
鈴の音が、いつもより少し低くて掠れた鈴の音が、俺の目の前で音を鳴らす。
「喬は、私のこと……どう思って、るのかしら。ねぇ、聞きたいわ」
その台詞に、俺は面食らってぽかんとしてしまった。
あれ? 言ってなかったっけ? 全部、俺の心の声だったか?
というか、ここまできて、俺がどう思ってるかなんて何よりも明らかで、わざわざ言う必要があるのか?
「紫苑様……。紫苑様は、花のように美しく、蝶のように可憐で」
俺が思うことを拙い言葉でなんとか伝えようとするも、紫苑様は頬を膨らませてしまった。
(え、なんか、だめだったのか?)
「ねぇ喬。私が聞きたいのは、そんな言葉じゃないの。見た目のことじゃなくて、貴方が、私という存在を、どう見てるかなのよ。それとも、貴方にとっては、私はただの綺麗な置物なのかしら?」
またしても、怒られてしまった。
俺は指を彼女の中に忍ばせたままだったが、ぴくりとも動かすことができなかった。
彼女から視線を逸らさず、精一杯の言葉を紡ぐ。
「そんな、そんなこと……。紫苑様は、俺の全てです。あの日、泉のほとりで出会った時から、ずっとずっと、お慕い申しておりました」
考えてみれば、自分の気持ちを他人に伝えるなど、ほとんどしたことがなかった。逆にそうしないよう訓練されていたからだ。
「貴女がこの名を与えてくれた時、俺は生まれ変わりました。新しい人生を、手に入れました。俺の今の存在は、貴女がいなければありえなかった」
「私のこと、好き?」
ここでようやく、彼女の意図するところが見えてきたような気がした。彼女が何回も言ってくれていたように、「好き」という言葉を、求めているのだと。
「紫苑様……ごめんなさい」
「……え」
彼女の表情が消える。
違う、そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「貴女からそのお言葉をいただいておきながら、とても申し上げにくいのですが……俺の貴女への気持ちは、『好き』という言葉は、そぐわない。その次元ではもはや収まりません」
紫苑様の真っ直ぐな瞳が、俺を突き刺す。
また、叱られてしまうだろうか。『私の言葉が間違っているとでも言うのか』と。だが、紫苑様はそのまま黙って聞いてくれていた。
話し始めると、言葉がとめどなく湧いてきて、止まらなくなってしまう。
「貴女は、紫苑様は、俺を地獄釜の中から引き上げてくださいました。俺に暖かい陽の光を降らせ、花を美しいと思う心を持たせてくれた。俺を俺という存在として、その心で包んでくださった。貴女は俺の唯一の光。こんな言葉で足りるのかわかりませんが……貴女を、愛しています」
「喬……」
「愛しています、愛しています、愛しています。貴女を、紫苑様だけを、今までも、これからもずっとーー」
紫苑様の手がそっと俺の頬へ伸びてきて、何かを拭った。いつのまにか、俺が涙をこぼしていたらしかった。そしてゆっくりと彼女の顔が近づいてきて、俺の唇と重なった。
視線が、絡まる。
彼女の瞳の奥に、揺らめく何かが見える。
その揺らめきの中に身を委ねたいと、そう思った。
「紫苑様、失礼しますーー」
そう言ってから、彼女の両脚を大きく開かせた。
すると、そんなこと予測していなかったとでもいうように、紫苑様は目を見開いた。
「な、なにするの……喬。こんな格好、はしたないわ」
「はしたないことを、しているのです。嫌ですか? やめますか?」
俺は閉じようとする彼女の両膝を押さえて開かせたまま、今まで指でほぐしていたその場所に、口付けた。
ここもまさに、まだ開いたことのない、そしてこれから開かれようとしている、小さな蕾。
割れ目に沿ってそっと舌を差し込み、唾液を含ませて撫であげると、さっきよりももっと甘い声が、紫苑様の口から漏れた。
「ゃ、ぁ、あぁ」
こちらの舐める動きに合わせて、綺麗な鈴の音が響く。
「もう一度訊きます。やめますか?」
「……や、やだ。やめないで……でも、恥ずかしいよ、喬」
「紫苑様、こっち、見てください。見えるでしょう?」
彼女と視線を合わせながら、向こうから何をされているかがしっかりと見えるように舌を動かし、音を立てた。
ーーなんて顔をするんだ。
羞恥か、屈辱か。
眉間に皺を寄せながら、下がった眉。
瞳いっぱいに溜まった涙で、輝き歪む漆黒の目。
真っ赤な頬に、艶々してわずかに開いた小さな唇。
その唇から漏れ聞こえる、甘美な吐息。
初めて見せるその姿に、ぞくぞくと気持ちが粟立つ。
湧き上がる興奮と背徳感の狭間で、無我夢中でしゃぶりついた。
「喬……わたし、どうしたらいいの」
泣きそうな声で、紫苑様が問いかけた。その声の違和感と、彼女の身体に力が入ってきていたのを感じ、俺は動きを止めて顔を上げた。
「紫苑様、すみません……ちょっと、焦りすぎました」
無理やり開かせていた彼女の脚を閉じ、覆い被さるように抱き締めた。彼女の荒い呼吸が、自分の耳の側で聞こえる。
「喬、ごめんね」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません……今日はもう、終わりにしますか」
「……い、いや。そんなの嫌」
なんて可愛い台詞を繰り出すのか。
彼女も、混乱しているのかもしれない。知識も何もないまま俺にいいようにされて、そうならないはずもあるまい。
俺は自分自身を落ち着ける意味もあり、彼女の隣に横になった。優しくこちらを向かせ、その艶々で柔らかい髪を撫でた。
「……夢、みたいだわ」
自分の心の声が、表に出ていたのかとドキッとした。
その声は、紫苑様が発したものだった。
彼女の細い指が、俺の頬を辿る。
「貴方が、こうして私に触れてくれる時が来るなんて。ずっと、ずっとこうして欲しかったのよ。……なのに、全然何もできなくて、ごめんなさい」
俺は彼女の涙をそっと拭いて、その顔を引き寄せて口付けた。
「何を、おっしゃってるんですか。それは俺の台詞です。それに……無理に進めて、怖がらせてしまってすみません」
「ねぇ喬、もう一度、抱きしめて」
その陶器のような肌を引き寄せ、自分の中に納める。すっぽりと入るほど、紫苑様の肩は小さかった。
「喬の肩は、こんなに広くなってたんだね。出会った時は、女の子みたいだったのに。今は紛れもなく、男の人なんだね」
「怖いですか?」
「ううん。頼もしいなぁって。私一人だったら、何も出来ずに、ただただ家に従うしかできなかったと思うもの」
「これが正しいかどうか、わかりません。ただ、俺は貴女に生きていて欲しくて、ただそれだけで……。この先、辛いことも沢山あるかもしれません。貴族の貴女には耐えられないような苦労が、きっとあるでしょう」
「喬と一緒なら耐えられる。って言ったら、怒る? 私一人じゃ、多分何もできないから」
そんな、こんなか弱い可憐な花に、一人で何かをさせるなんてありえないじゃないか。
「俺、頑張りますから。なるべく苦労かけないように努力しますから」
「ううん。一緒に、苦労しよう、喬。ま、私は役立たずかもしれないけど」
「そんなこと……」
「だからね、喬。私を、貴方と同じ立場にして。主人と下男じゃなくて、対等な男女になれるようにーー」
紫苑様が俺の胸に口付け、こちらを見上げる。その艶めいた瞳に、再び自分の熱が高まってくるのを感じた。
さっきのやり直しをするように、二人同時に、もう一度丁寧に唇を合わせた。動きを学習したらしい彼女の小さな唇は、今度は最初から少し開き、俺の舌を受け入れた。彼女の口内をじっくり巡りながら、両手で乳房をそれぞれ愛撫する。
相変わらず小さく控えめに尖った頂を、今度は少し爪を立ててつねってみた。
「ふ……ぁあっ」
口付けをしたまま、彼女の身体がピクンと跳ねた。
いい反応だ。
気持ちの面ではまだ追いついていないが、身体の方は徐々に準備ができてきているようだ。
とはいえ、なるべく痛くしないように胸への愛撫を続けながら、首筋や耳元を、吸いつき舐め上げ攻めていく。それらを続けてからもう一度ぎゅっと抱き締めると、彼女の背中がしっとり汗ばんで貼り付いてきた。
俺は背中に回した手を、彼女の身体をゆっくり巡りながら、もう一度その泉へ向かわせた。そしてその動きに気付いた彼女が、下半身にきゅっと力を入れたのが伝わってきた。
「紫苑様。力、抜いてください」
怖がらせないように、その柔らかい頬へちゅっと口付けた。そして、閉じた脚の間に、自分の脚を挟みこんでこじ開け、自分の手を忍ばせる。その割れ目に指を這わせると、先程よりも多くの蜜が、俺の指を迎え入れてくれた。その蜜を引きずって、例の一点へ送り込む。小さな悲鳴と共に身体がピクンと跳ねた。
「喬……」
甘く切ない声が、俺の名を呼ぶ。
彼女が付けてくれた、大事な大事な名前。
「紫苑様……もう、何も考えないで。ただ、楽にして、俺に身体を委ねてください」
そして、俺は指の一本を、その割れ目の間にゆっくり侵入させた。
(きっつ……)
そこはまだ奥への侵入を許してくれそうになかったので、入口付近で小さく小さく巡回する。蜜を得てはあの点に送り込んで、周囲の膨らみをゆっくり押し回る。その作業を繰り返してしばらくすると、ふと、ふわっと中が広がって、指が奥へ飲み込まれた。
「んっ」
紫苑様が何かに耐えるような声を上げる。
俺の指は、奥でたっぷりと溜め込まれていた蜜を発見し、それを味わうようにゆっくり中の壁を巡った。
彼女の胸の膨らみを、麓からしっかり持ち上げながら、頂上の周りを舌で這い回る。それをしながら、中へ入り込ませた指を折り曲げ、蜜の元を探った。
「ぁ、やっ……ふぁっ」
彼女の掠れた声が響く。蜜は順調に溢れ出し、少しずつ卑猥な音を立て始めた。
「喬、喬っ」
「はい、紫苑様」
「こっち、向いて。私の、顔を見て」
彼女の懇願に、俺は胸元から顔を上げ、視線を合わせた。
「喬。好きよ」
鈴の音が、いつもより少し低くて掠れた鈴の音が、俺の目の前で音を鳴らす。
「喬は、私のこと……どう思って、るのかしら。ねぇ、聞きたいわ」
その台詞に、俺は面食らってぽかんとしてしまった。
あれ? 言ってなかったっけ? 全部、俺の心の声だったか?
というか、ここまできて、俺がどう思ってるかなんて何よりも明らかで、わざわざ言う必要があるのか?
「紫苑様……。紫苑様は、花のように美しく、蝶のように可憐で」
俺が思うことを拙い言葉でなんとか伝えようとするも、紫苑様は頬を膨らませてしまった。
(え、なんか、だめだったのか?)
「ねぇ喬。私が聞きたいのは、そんな言葉じゃないの。見た目のことじゃなくて、貴方が、私という存在を、どう見てるかなのよ。それとも、貴方にとっては、私はただの綺麗な置物なのかしら?」
またしても、怒られてしまった。
俺は指を彼女の中に忍ばせたままだったが、ぴくりとも動かすことができなかった。
彼女から視線を逸らさず、精一杯の言葉を紡ぐ。
「そんな、そんなこと……。紫苑様は、俺の全てです。あの日、泉のほとりで出会った時から、ずっとずっと、お慕い申しておりました」
考えてみれば、自分の気持ちを他人に伝えるなど、ほとんどしたことがなかった。逆にそうしないよう訓練されていたからだ。
「貴女がこの名を与えてくれた時、俺は生まれ変わりました。新しい人生を、手に入れました。俺の今の存在は、貴女がいなければありえなかった」
「私のこと、好き?」
ここでようやく、彼女の意図するところが見えてきたような気がした。彼女が何回も言ってくれていたように、「好き」という言葉を、求めているのだと。
「紫苑様……ごめんなさい」
「……え」
彼女の表情が消える。
違う、そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
「貴女からそのお言葉をいただいておきながら、とても申し上げにくいのですが……俺の貴女への気持ちは、『好き』という言葉は、そぐわない。その次元ではもはや収まりません」
紫苑様の真っ直ぐな瞳が、俺を突き刺す。
また、叱られてしまうだろうか。『私の言葉が間違っているとでも言うのか』と。だが、紫苑様はそのまま黙って聞いてくれていた。
話し始めると、言葉がとめどなく湧いてきて、止まらなくなってしまう。
「貴女は、紫苑様は、俺を地獄釜の中から引き上げてくださいました。俺に暖かい陽の光を降らせ、花を美しいと思う心を持たせてくれた。俺を俺という存在として、その心で包んでくださった。貴女は俺の唯一の光。こんな言葉で足りるのかわかりませんが……貴女を、愛しています」
「喬……」
「愛しています、愛しています、愛しています。貴女を、紫苑様だけを、今までも、これからもずっとーー」
紫苑様の手がそっと俺の頬へ伸びてきて、何かを拭った。いつのまにか、俺が涙をこぼしていたらしかった。そしてゆっくりと彼女の顔が近づいてきて、俺の唇と重なった。
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彼女の瞳の奥に、揺らめく何かが見える。
その揺らめきの中に身を委ねたいと、そう思った。
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