暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一

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第二章 冒険者

第二十七話 断罪

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 混乱する阿呆にさっさとトドメをさしたい。他の阿呆の処理も残っているのだ。しかし、楽をさせてくれない阿呆である。

「そうか! 分かったぞ! マジックアイテムか魔道具だな? 卑怯だぞ! 貴様! 正々堂々と勝負をしろ」

 と、叫んできた。
 この男が言うマジックアイテムとは、ダンジョン産の魔道具のこと。マジックバッグも同じである。作れない魔道具のことを、分けてそう言うそうだ。

 それはさておき、頭のおかしなことを言っている。まあ、最初からだったわけだが、さすがにこれは、見過ごせない。

「マジックアイテムも魔道具も使っていない。それに、それを言うなら男色愛好家殿も使っているではないですか。しかも全身全て。
 最初は騎士の揃いの鎧かと思っていたが、どうやら自分だけ似せて作らせた鎧だったみたいだな。そのおかげで、殿下の護衛になられたとか、恥ずかしすぎて目も当てられないぞ。それに加え、貴方は卑怯なんでしょう?」

「貴様! 貴様ー!」

 と、叫びだした。
 どうやら図星をつかれて、怒り狂ったようだ。それにしても、語彙力ないな。コイツ。

 叫び剣を振り上げ、そして振り下ろす。しかし、振り下ろすときに、幻想魔術で強化した手刀で右肘を切り飛ばしてやった。空を舞う鮮血と剣付きの前腕から先。剣はもらっておこうか悩むが、粗悪品だったので廃棄することにした。

 部分欠損は、損傷してすぐなら綺麗に治る。だが、残念ながら、そんなことをさせるつもりは、そもそもない。コイツは、生かして屈辱を与えることが、決定しているのだ。しかし、復讐されるのも嫌なので、徹底的にやるつもりだ。

 カルラを傷つけた代償としては、優しいであろう。何故なら、プルーム様が来ないだけマシだからである。

 ――火炎魔術《業火》――

 罪人を罰するための地獄の炎である。コイツには、ピッタリであろう。ついでに、傷の止血にもなるし、腕の焼却にもなって、いいことしかない。

 そして、燃え盛る炎で混乱している阿呆の足に、ローキックを叩き込む。骨の砕けた音と、筋肉の切れる音が聞こえ、膝をついた。とりあえず、残った左手を見ると、既になかった。

 最後に、魔力供給路の断裂をすることにした。これは、今後魔法を使えなくなるだけでなく、マジックアイテムや魔道具も使えなくなるのだ。魔力供給源を壊さない理由としては、死ぬからだ。すぐに死んでは、罰にならないだろう?

 心臓の近くにある魔力供給源は、脳に向かってと、各四肢に向かっての、計五カ所が一番重要となる。その五カ所全てに、抜き手を打ち込んだ。

 ――魔闘術《武流ブル》――

 その抜き手は、牛の突進のように苛烈な威力である。それを五連続で喰らったのだ。無事では済まないだろう。と思ったのだが、元々無事ではなかった。焼けただれ肌に、両腕はない。足は砕かれ、起き上がることもできない。辛うじて生きているだけだ。ちなみに、叫び声をあげないのは、口内も焼かれて、話せないのだ。

 それで次に行こうと思ったのだが、ボムさんは足りないようだ。仕方なく、触りたくはなかったが、頭を掴み魔術を叩き込む。

 ――雷霆魔術《轟》――

 単発の雷を出すだけの魔術だが、今の奴には十分だろう。生活魔法で手を綺麗にして、次に行く。

 次は扇動していた、女騎士風阿呆だ。女に手を挙げないとか言うやつは、きっと今まで怖い目に遭ってきていないのだろう。実際女性は、欲望に忠実なのだ。勇者に褒められたい一心で、殺された俺は、そんな妄信的なことはしない。

 どうしようかな。
 と思っていると、隙が出来たと勘違いした阿呆が横槍を入れてきた。コイツも魔闘術を使うようだが、攻撃が届くことはなかった。忘れているかもしれないが、罠がまだ九つも残っているのだ。

 ――大地魔術《崩落》――

 足元が崩れ、穴の底に消えていった。一瞬でよく分からなかったが、メイドのようである。どうやら、暗殺スキルを持っていて、それを使った奇襲だったようだ。魔眼対策の魔道具を使うわけだ。ネタバレしていたら、奇襲にならないからだろう。

 男色愛好家殿は、燃やした。
 コイツは、押し潰してもいいが、露骨だった分、余計にムカついたから、すぐに死んだら罰にならない。


 うーん……。決めた!

 ――闇黒魔術《蠱毒》――

 様々な毒虫が穴の中で湧いていく。まあすぐに死なないように、調整しているが、廃人にはなりそうだ。だが殺人は犯していない。落ちたら、危ないから大地魔術で蓋をしておく。

「さて、お前は何がいい?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。もう寄越せなんて言わないから。辞めてちょうだい。ねっ? 体だって許すわよ。 どう?悪くないでしょ?」

 命乞いを始めたが、もう遅い。チャンス全員にあったのだ。友好的に接するか、敵対するか。カルラを虐めるなと、言ったのだ。それに、欲に塗れた体はいらない。

 それよりもどうしてくれる。
 カルラが、ボムに体を許すとはどういうことなのかを聞いてるではないか。そんなことは、まだ知らなくていいのだ。

「それが遺言でいいのか? それならば結構。さらばだ」

 ――森羅魔術《萌芽》――

 口に植物の種を入れて、森羅魔術を発動した。この魔術は、植物の芽吹きを助けるだけの魔術なのだが、口に入れた種は無人島に生えていた魔草の種だ。この植物は、動物の神経に入り込んで幻覚を見せる。そして、生かさず殺さずのちょうどいいところで飼い殺しにし、栄養を吸い取るのだ。

 治す方法もあるにはある。
 あるポーションを飲むのだが、飲んでしばらくは体が焼ける痛みに襲われるらしい。植物の根を殺すのは、燃やすのが一番だから仕方がないわけだ。
 幻覚を見てるときは、痛覚はほとんどないが、ポーションが効いたあとは、元に戻る。

 ちなみに、攻撃を受けたら植物が治してくれるとか言う能力はない。傷を負えば負うほど蓄積されて、元に戻ったときに、治っていなければ激痛である。というか、それで済めばいいだろう。

 さらに、根を張られた状態では、傷は治らない。支配しているのは、草だからだ。つまり、痛みから逃れる術は、コイツらにはないのだ。もちろん俺は治せる。生命魔術があるからだ。 

 さて、そろそろ幻覚を見始めた頃だろう。試してみよう。ライトニングドラゴンの牙で作ったサバイバルナイフを抜く。ライトニングドラゴンの牙だけあって、雷霆魔術との相性は抜群なのだ。

 ――雷霆魔術《雷刃》――

 サバイバルナイフに雷か纏わり付いて、時折放電しながら、片刃の長剣のような山刀のような刃を形成していった。そしてそれを、女騎士風阿呆の体に突き入れた。自慢げにしていた胸にだ。

 ちなみに、魔術を使用したのは、ナイフをこんなことで汚したくなかったからだ。もちろん両方とも突き入れたが、何も言わなかった。ヨシッ。コイツは終わりだ。

 あとは、モブ中のモブだ。
 ゴブリンと同じでいいかな。
 と思ったが、コイツらにはドラゴンの素晴らしさを教えてあげようと思う。ちょうど、鉄製の物を身につけているし、面白い魔術もある。ボムに試そうかと思ったが、可哀想だと思いやめたのだが、是非使ってみたい。まあ攻撃魔法ではないし、大丈夫だろう。だが、その前にやることがある。巻き込まれた被害者のもう一人の女騎士である。

「そちらの方は、本当に阿呆の仲間でいいんですか?」

 首を激しく振り、否定する。
 この人自己紹介も自分でしなかったのだ。そして、今までの行動を考えると、話せないのか?
 まあ今はいいか。

「それならこちらへ来てください。巻き込んでしまうので」

 同僚に睨まれながらも、急いで駆けてくる。では、空の旅へ御招待。

 ――磁力魔術《斥力》――

 球状の物体が奴らの足元に生まれた。そして、反発する力により、上空へと舞い上がった。そこそこ上空まで行けるようだ。最初は磁力魔術を使って、リニアみたいな速度で移動する、ボムが見たかったのだが、安全を確保出来ないため、やめた。一応相棒なのだ。大事にしなければならない。

 さて、浮くだけだと面白くないし、竜のすごさも分からないだろう。既に恐怖で叫んでいるが、知ったことではない。

 ――磁力魔術《引力》――

 球状の物体に向かって、多重魔術を展開することにした。これで、フリーフォールが楽しめるだろう。多重魔術を長時間稼動させるためには、魔法陣が効果的なのだが、間もなくシュバルツが到着するため、後片付けをしている間だけ持てばいい。

「そこの冒険者諸君。この阿呆共の仲間でないなら、こちらに来てはくれないか? ちなみに、罠はもうないから」

 もちろん、罠はある。
 だが、発動しなければいいのだ。これであぶり出しもできるだろう。そして、俺にぶっ飛ばされた冒険者と数人が、よりにもよって、カルラが遊んでいる方へ向かう。

 剣を振り下ろす阿呆と、それを見つめる熊さん。剣は弾かれるという次元ではなく、消えた。両腕とともに。カルラがいる場所に、何もしていないわけないのだ。

 ――結界魔術《絶界》――

 この魔術は、阿呆共を捕縛するときにも使ったが、結界の中と外は別次元になっているのだ。お互いに干渉することは出来ない。完全固定型の魔術で、更に魔法陣によって初めて安定した使用ができる、難度の高い魔術だ。
 しかし、その難度の高さが効果の高さを証明している魔術の一つだった。そして、結界の周囲には、ボムさんお手製の罠がある。

「カルラ。父ちゃんがかっこいいところを見せるぞ」

 そう言い、魔術を発動した。
 大地が割れ、そこから灼熱の炎が噴き出した。焼けるとか、溶けるではなく、あまりの高熱に蒸発していった。どれほど魔力を込めたのだろうかと、ボムの怒りの深さを知った。そして、怒りの深さは愛情の深さでもある。カルラに対する愛情の深さも同時に知ったのだった。それを分かったのだろう。

『父ちゃんかっこいいー!』

 と、ボムに抱きついていた。
 しかも、お礼のキスを頬にしていた。もちろん、ご機嫌になったのは、言うまでもないだろう。

 さて、炎も地面も元通りになったが、現状はさらに悪化していた。全員が、顔面を真っ白にして、立ち尽くしていた。後始末を手伝って貰いたかったのだが、無理そうである。

 馬は、ここにいないバトルホース以外は、全て気絶していた。不憫な馬たちである。仕方がないので、なんちゃってアイテムバッグから、失敗ポーションを出す。これは、止血やある程度の状態回復はするが、経口摂取での使用後は味覚が崩壊する。一生。

 試したわけではない。
 ただ、プモルンが解析したのだから、多分そうなのであろう。その前に、未だ燃え盛る阿呆を鎮火しなければならない。

 ――流水魔術《玉水》――

 清らかな水で、地獄の炎を消すことにした。なんとなく効果がありそうな気がしたからだ。ちなみに、この水は旨い。酒造りに向いていそうだ。まあ、今はどうでもいいだろう。

 鎮火したあと、触りたくなかったので、女騎士風阿呆の剣を使って、ひっくり返した。そして、失敗ポーションを口に入れてやった。端から見れば、慈悲深い行動だろう。強盗に襲われたのに、助けているのだから、本来ならあり得ないだろう。

 だが、見て欲しい。
 あのボムが文句を言わないことを。彼はこれが何かを知っている。故に、ざまぁとは思うだろうが、慈悲深いとは思わないのだった。それを見れば、何をしているのか分かりそうだが、現在混乱中の彼らには無理な話だろう。

 さて、いよいよ時間がなくなってきたため、急がなければと思い、行動するのだった。

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