暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一

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第二章 冒険者

第三十話 冒険者ギルド

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 意外にも何もなく、門を潜ることが出来た。門も大きく、長蛇の列ができ、街に入る手続きを待っていたので、多少気が沈んでいたのだ。

 だが、さすが王族。
 貴族専用の入り口から、軽い審査で通り抜けてしまった。怪しさ満点なはずなのに、鶴の一声とはこのことを言うようだ。

 そして、今ギルドの目の前にいる。
 ちなみに、扉から入れないような大きさの、従魔は外で待機だが、扉から入れれば、中に入れられる。何故なら、登録しなければならないからだ。そのため、床も石造りでボムも安心である。

 余計なちょっかいを、かけられたくなかったので、カルラもプモルンも従魔として、契約してしまうことにした。そして、まだ十歳になっていない俺は、どうするかと思っていたのだが、十歳になる年で、なおかつ試験を受ければ、大丈夫であったため、真面なメンバー全員で、ギルドの中へ入ったのだ。

 ここでもテンプレに遭うのだろうか。出来れば、面倒は避け、宿を見つけたい。それと、換金して時空属性の付与についての本を買いたいのだ。



 だが、悪い予感とは当たるものである。

「おい。ここは、子供が来るところじゃねえぞ。大人しく学校行ってな」

 と、阿呆が絡んできた。
 酔ってはいないようだが、酔っぱらい並みの、判断力のなさである。近くにいる、我らが真面メンバーは、顔面蒼白である。そして、肩を震わせるボム。どうやら暇つぶしに、観戦するようだ。

「冒険者の登録と従魔の登録に来たんですよ」

「おい。みんな聞いたか? 臆病者がお供連れて、登録しに来たぞ。弱いくせに冒険者になろうって、舐めてんのか? 自分の力で戦えないやつは、俺みたく、Aランク冒険者になれねえぞ。出直せ」

 と、教科書通りのいちゃもんである。以前も言ったが、テイムスキルも立派な本人の力だ。ここは、テイマーの地位向上のために、頑張ることにしよう。

「では、俺の試験の相手を、あなたにしてもらいましょう。本当の戦闘とは、どのようなものか、教えてもらいたいのです。さらに、そちらで安全圏から笑っていた方も、全員参加型のイベントを提案させて頂きます。
 ここにいる全員で、所持金オールベットで、どちらが勝つか、勝負しませんか? Aランク冒険者と、臆病者のテイマーです。賭けの成立が心配なら、こちら側の全員が、俺に賭けますから、安心してください。それとも、謝罪して引き下がりますか? その場合、テイマーより臆病者となりますが、よろしいですか?」

 と、満面の笑みで笑いかけた。
 それが気に触ったのだろう。
 阿呆共全員が、Aランク阿呆に賭けるようだ。こちらは、熊のボムさんも、賭けるようだ。ストレージから出していた。

 ちなみに、ボムはギルドの中では、話さないようにした。子機があるため、特に不便はない。真面系騎士や真面系冒険者、王女は臨時収入の予感からか、ほくそ笑んでいた。

「上等じゃねぇか。倍率が違いすぎて、俺達はあんまり儲けでないが、臆病者と言われるのは、我慢できねぇ。今更逃げるなよ」

 金の計算は出来るようだ。
 さて、相手に逃げられるのは嫌なので、逃げ道を塞ぐことにする。

「ここに、魔力紙で作った契約書があります。胴元は、ギルドにやって貰うこと。金の回収及び支払いを、ギルドにやって貰うこと。未払いや踏み倒しを、禁止すること。試験形式は、ギブアップの宣言か、戦闘不能になること。死ななければ、多少の怪我に関しては、異議を唱えないこと。怪我や装備の破損については、自己負担であること。
 これらに納得するならば、サインと魔力紋をお願いします。俺とAランクさんと、ギルドの計三枚での保管になります。いかがですか?」

 すると、ギルド職員が異議を唱えだした。

「私たちには、関係ないことです。利益にもならないことは、お止めください」

 そう言うのは分かっていたが、もう遅いのだ。

「そうですか。では、このギルドの今この時間で、働いているものは、全員処罰の対象になるのですが、よろしいですね? 確か、ギルドの規則に、ギルド員は一般人に、暴力行為や脅迫など、迷惑を掛ける行為を禁止し、ギルド職員は、それを監督しなければならない。というものがあったはずですが、今のこの現状はいかがですか? 俺はまだギルドに登録していない、一般人なのですが? このままギルドの、グランドマスターのところに行きますか?」

 そこまで言うと、ギルド職員は、全員顔面蒼白になったのである。ギルドは、基本的に一般人の依頼によって、仕事を斡旋している。つまり、お客さんに喧嘩を売っている状況だ。
 このまま試験を受けて、合格になれば有耶無耶に出来るし、試験のため試したと言い訳もたつ。断る理由は、ないのだ。

 しかも、一部始終を見ているのは、王女である。冒険者ギルドは、この国発祥であり、数多くの支援や政策を講じてきた。だが、ただの一般人に迷惑を掛ける組織だと、認識されるのは、マズいだろう。それも、国の中枢にいるものに。故に、もう遅いのだ。

「畏まりました。早速準備をさせていただきます」

「色よい返事をありがとうございます」

 満面の笑顔で言ったのだが、ギルド職員には、悪魔に見えたことだろう。だが、自業自得である。

 そして、ボムや全員が持ち金全部払い。ギルド職員が、確認をした。そして、訓練場へ移動したのである。Aランク阿呆は、ボムと戦うのが不安なのだろう。だが、安心して欲しい。彼は観戦モードだからだ。

「安心してしてください。あなたと戦うのは、俺だけで、あの熊さんは、高みの見物ですよ」

 不安を取り除いてあげることにした。

「はぁ? テイマーが一人で戦って、何が出来るんだよ! 本気で舐めてんのか?」

「何が出来るって? あなたをボコボコにですよ」

 俺の優しさが伝わらなかったようだ。そして、彼は怒り狂っていた。周りの阿呆共は、手加減してやれ。だとか、早く終わらせろだとか、騒いでいた。

「今謝れば、許してやらないこともないぞ。大人しくママのおっぱいでも吸ってな」

 と言ってきた。
 なかなか始まらない。審判を押しつけ合っているようだ。それなら、もう少し阿呆の相手をしてやろう。

「では、あなたはパパのを吸っていてください。おそらく、何か出るでしょう。それに、勝てないからと言って、一方的になしにするのは、臆病者がすることですよ」

 そう言うと、彼は何を想像したのか。

「俺は男色じゃねぇー! もう許さん! 殺す」

 と言ったのだが、彼は分かっているのだろうか。殺したら負けなのだ。そこで、最初に応対した、ギルド職員が来た。彼女が、行うようだ。まあ誰でも同じである。仕事をしない阿呆なのだ。

「お待たせしました。早速始めたいと思います。契約書に不備がなければ、サインをお願いします」

 そして俺が用意した、契約書にサインを書き、ついに始まるのだ。昨日は、魔術の大放出だったため、真面メンバーには、あんまり勉強にならなかっただろう。今日は、魔闘術も魔術も、あまり使用しないようにしようと、自分に縛りをつけたのだが、念話が届いたのである。

『なるべく派手にな。その方が、Sランクになりやすいだろ。Aランク冒険者を圧倒出来るのは、Sランクだけなのだから。ちゃんとやれよ』

 そう言い、注文は終了した。彼は本気で獅子王神様とお揃いがいいらしい。まぁ善処する。

「では、始め」

 審判がそう言うと、大剣を振り下ろしてきた。遅すぎるため、余裕で避ける。左に動くと、薙ぎ払おうと剣を横に振るったのだが、肘が伸びきるタイミングで、肘に掌底を放つ。すると、肘が折れた。すかさず、ローキックで膝を潰し、崩れ落ちたところで、首に手刀を喰らわせ、喉を潰す。

 これで、ギブアップは出来まい。
 職員が止めに入る前に、さっさと決めてしまうことにした。ただ注文は派手にである。ちなみに、以前体の何処からも、魔術を放てるように練習をしたと、言っただろう。今回はそれを使うことにしたのだ。胸の高さもちょうどいいので、決めやすいだろう。

 ――雷霆魔術《雷槍》――

 胸に向かって、跳び蹴りをかましながら、足の裏で魔術を発動したのだ。まだうまく出来ないが、将来は魔術と格闘技の組み合わせの、流派を創ってもいいかもしれない。そして、注文通り派手に、吹っ飛んで言ったのである。蹴りが胸に当たった瞬間、青白い雷光が胸を貫き、同時に蹴りの衝撃により吹っ飛んだのだ。

 一応は、生きている。
 右腕と右膝と喉を潰し、左腕と左足も骨折し、現在瀕死であるが、死んでいない。そして、審判を見やると、震えながら終了を宣言したのである。恐怖に震える阿呆共と、歓喜の声をあげる真面メンバーである。恐怖の種類としては、単純に実力のこともあるのだろうが、持ち金全部がなくなり、生活困難に陥ったことであろう。

 まぁまだ日が高いのだ。働きに行けば大丈夫である。そして、反対に臨時収入を得た、真面メンバーである。倍率が違いすぎるため、儲けも尋常ではない。さて、失敗ポーションを飲ませてやろう。これである程度は、大丈夫だろう。死ぬのは味覚だけだ。

 そして、手続きを終わらせるのだったが、ランクを決めかねているようだ。ボムは気に入らないのか、王女に何やら言っている。

「娘。Aランクを倒したのだから、Sではないのか? Aとかあの阿呆と同じだろ? 本来は俺の力も加味した、ランクであるはずだ。あいつはテイマーなのだからな。なんなら俺が試験を受けるぞ。そうだな、なんとかしてくれたら、モフモフ権をやってもいいぞ」

 その言葉に、エルザさんが物申す。

「私にも手伝わせていただきたい。そして、私にも権利を」

「いいだろう。なんとかしてみろ」

 と、こそこそ打ち合わせをしていた。周囲に真面系冒険者を並べ、壁にしてまでもSランクがいいらしい。

「ちょっと待ってください。そちらの方は、テイマーなのでしょう? 個人でAランクを圧倒した上、明らかに格上の魔獣をテイムしているのですよ。魔物ではなく、魔獣をですよ。でしたら、Aランクにしておくのは、おかしな話ではありませんか? 是非判断基準を教えて頂きたい」

 そうエルザさんが力説した。
 これが打ち合わせの理由である。昨日の夜の真面メンバーは、全員ボムが聖獣であることを、知っている。それぐらいではなければ、話していることが、出来ないのである。だが、ここで言うと、面倒になりそうだったため、ランクS以上の魔獣にした。これだけでも、十分に規格外だ。

 ちなみに、既に面倒事になっているが、何故早く終わらせたいのかと言うと、もちろん宿もあるが、王女の問題もある。更に言えば、王女たちはまだ、カルラと遊んでいたいのだ。故に、急いでいるのである。現在人目が多いので、ボムのマントの中で寝ているのだが、カルラは我慢が出来る子なので、素直に大人しくしていられるのである。

「えっと、実績がないからです。まだ仕事をしていないため、勤務態度とかも分かりませんし、それ相応の、品位というものも必要なのです。王族や貴族との謁見も、多くなりますので」

 どうやら、コイツの中では、俺は品位に欠けるようだ。それに、お前に勤務態度のことを言われたくないと、思ってしまったのは、俺だけではないだろう。実際に、言ってしまった人がいた。

「ギルド職員の勤務態度は、怠慢な上、品位にも欠けるのに、他の者に強要するのは、いかがなものじゃ? 自分が出来ないことを、相手にのみ行えというのは、いささか我が儘がすぎるとは思わないか?」

 そう言ったのは、王女だった。相当モフモフ権が欲しいのだろう。

「お嬢ちゃん。言っていいことと悪いことがあるのよ。両親から教わらなかった? 王族や貴族に怒られるのは、私たちなの。少しは分かって下さらない? 暇じゃないのよ」

 阿呆確定である。
 完全なる不敬罪である。
 周りの騎士を見れば分かりそうなものなのに、何故気付かないのだろうか。不思議だ。それに、暇そうにしてたくせによく言う。

「そうか。では、実績があればいいのじゃな? ならば、妾の命の恩人ということでいいであろう?」

「お嬢ちゃんのこと助けてくれたの。よかったわね。素晴らしいわ」

 受付嬢風阿呆は、俺が一般人じゃなくなったをいいことに、態度を変えてきたのだ。ちなみに、シュバルツ達はキレる手前である。どうしてくれよう。まずは、彼女の身分を教えてやろう。

「そこの阿呆。彼女はこの国の第三王女だぞ。いいのか? そんな態度で。確実に不敬罪だぞ」

「そんな冗談は、いらないわ」

 阿呆には、期待するだけ無駄のようだ。ちなみに、二階からこちらを覗っている、阿呆の親玉は、無視を決め込むみたいだ。確かまだ、ギルドカードを作っていないし、サインもしていない。そして、王女の護衛の最中である。言い訳はなんとかなりそうだ。ボムをチラッと見ると、すぐに察して、全員を近くに集めた。

 ――結界魔術《絶界》――

 ――暴嵐魔術《旋風》――

 ――雷霆魔術《轟雷》――

 ――火炎魔術《炎岩》――


 ついに、限界が来てしまったのだ。結界魔術を発動後、攻撃術の多重展開である。小規模の竜巻に、小規模の落雷、そして、小規模の隕石落下である。

 王都は大きく、三層に分かれている。その一番外側にあったギルド支部は、今日を以て閉鎖されることになるだろう。何故なら、建物がないのだ。人は、竜巻の時点で外に投げ飛ばされ、ほぼ被害なし。賭け金は回収済み。もう、用はない。ただ用があるのは、ギルドマスターだけである。王女襲撃は、コイツ直々の依頼であったからだ。


 さて、どこにいるのだろう。

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