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第二章 冒険者
第三十話 冒険者ギルド
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意外にも何もなく、門を潜ることが出来た。門も大きく、長蛇の列ができ、街に入る手続きを待っていたので、多少気が沈んでいたのだ。
だが、さすが王族。
貴族専用の入り口から、軽い審査で通り抜けてしまった。怪しさ満点なはずなのに、鶴の一声とはこのことを言うようだ。
そして、今ギルドの目の前にいる。
ちなみに、扉から入れないような大きさの、従魔は外で待機だが、扉から入れれば、中に入れられる。何故なら、登録しなければならないからだ。そのため、床も石造りでボムも安心である。
余計なちょっかいを、かけられたくなかったので、カルラもプモルンも従魔として、契約してしまうことにした。そして、まだ十歳になっていない俺は、どうするかと思っていたのだが、十歳になる年で、なおかつ試験を受ければ、大丈夫であったため、真面なメンバー全員で、ギルドの中へ入ったのだ。
ここでもテンプレに遭うのだろうか。出来れば、面倒は避け、宿を見つけたい。それと、換金して時空属性の付与についての本を買いたいのだ。
だが、悪い予感とは当たるものである。
「おい。ここは、子供が来るところじゃねえぞ。大人しく学校行ってな」
と、阿呆が絡んできた。
酔ってはいないようだが、酔っぱらい並みの、判断力のなさである。近くにいる、我らが真面メンバーは、顔面蒼白である。そして、肩を震わせるボム。どうやら暇つぶしに、観戦するようだ。
「冒険者の登録と従魔の登録に来たんですよ」
「おい。みんな聞いたか? 臆病者がお供連れて、登録しに来たぞ。弱いくせに冒険者になろうって、舐めてんのか? 自分の力で戦えないやつは、俺みたく、Aランク冒険者になれねえぞ。出直せ」
と、教科書通りのいちゃもんである。以前も言ったが、テイムスキルも立派な本人の力だ。ここは、テイマーの地位向上のために、頑張ることにしよう。
「では、俺の試験の相手を、あなたにしてもらいましょう。本当の戦闘とは、どのようなものか、教えてもらいたいのです。さらに、そちらで安全圏から笑っていた方も、全員参加型のイベントを提案させて頂きます。
ここにいる全員で、所持金オールベットで、どちらが勝つか、勝負しませんか? Aランク冒険者と、臆病者のテイマーです。賭けの成立が心配なら、こちら側の全員が、俺に賭けますから、安心してください。それとも、謝罪して引き下がりますか? その場合、テイマーより臆病者となりますが、よろしいですか?」
と、満面の笑みで笑いかけた。
それが気に触ったのだろう。
阿呆共全員が、Aランク阿呆に賭けるようだ。こちらは、熊のボムさんも、賭けるようだ。ストレージから出していた。
ちなみに、ボムはギルドの中では、話さないようにした。子機があるため、特に不便はない。真面系騎士や真面系冒険者、王女は臨時収入の予感からか、ほくそ笑んでいた。
「上等じゃねぇか。倍率が違いすぎて、俺達はあんまり儲けでないが、臆病者と言われるのは、我慢できねぇ。今更逃げるなよ」
金の計算は出来るようだ。
さて、相手に逃げられるのは嫌なので、逃げ道を塞ぐことにする。
「ここに、魔力紙で作った契約書があります。胴元は、ギルドにやって貰うこと。金の回収及び支払いを、ギルドにやって貰うこと。未払いや踏み倒しを、禁止すること。試験形式は、ギブアップの宣言か、戦闘不能になること。死ななければ、多少の怪我に関しては、異議を唱えないこと。怪我や装備の破損については、自己負担であること。
これらに納得するならば、サインと魔力紋をお願いします。俺とAランクさんと、ギルドの計三枚での保管になります。いかがですか?」
すると、ギルド職員が異議を唱えだした。
「私たちには、関係ないことです。利益にもならないことは、お止めください」
そう言うのは分かっていたが、もう遅いのだ。
「そうですか。では、このギルドの今この時間で、働いているものは、全員処罰の対象になるのですが、よろしいですね? 確か、ギルドの規則に、ギルド員は一般人に、暴力行為や脅迫など、迷惑を掛ける行為を禁止し、ギルド職員は、それを監督しなければならない。というものがあったはずですが、今のこの現状はいかがですか? 俺はまだギルドに登録していない、一般人なのですが? このままギルドの、グランドマスターのところに行きますか?」
そこまで言うと、ギルド職員は、全員顔面蒼白になったのである。ギルドは、基本的に一般人の依頼によって、仕事を斡旋している。つまり、お客さんに喧嘩を売っている状況だ。
このまま試験を受けて、合格になれば有耶無耶に出来るし、試験のため試したと言い訳もたつ。断る理由は、ないのだ。
しかも、一部始終を見ているのは、王女である。冒険者ギルドは、この国発祥であり、数多くの支援や政策を講じてきた。だが、ただの一般人に迷惑を掛ける組織だと、認識されるのは、マズいだろう。それも、国の中枢にいるものに。故に、もう遅いのだ。
「畏まりました。早速準備をさせていただきます」
「色よい返事をありがとうございます」
満面の笑顔で言ったのだが、ギルド職員には、悪魔に見えたことだろう。だが、自業自得である。
そして、ボムや全員が持ち金全部払い。ギルド職員が、確認をした。そして、訓練場へ移動したのである。Aランク阿呆は、ボムと戦うのが不安なのだろう。だが、安心して欲しい。彼は観戦モードだからだ。
「安心してしてください。あなたと戦うのは、俺だけで、あの熊さんは、高みの見物ですよ」
不安を取り除いてあげることにした。
「はぁ? テイマーが一人で戦って、何が出来るんだよ! 本気で舐めてんのか?」
「何が出来るって? あなたをボコボコにですよ」
俺の優しさが伝わらなかったようだ。そして、彼は怒り狂っていた。周りの阿呆共は、手加減してやれ。だとか、早く終わらせろだとか、騒いでいた。
「今謝れば、許してやらないこともないぞ。大人しくママのおっぱいでも吸ってな」
と言ってきた。
なかなか始まらない。審判を押しつけ合っているようだ。それなら、もう少し阿呆の相手をしてやろう。
「では、あなたはパパのを吸っていてください。おそらく、何か出るでしょう。それに、勝てないからと言って、一方的になしにするのは、臆病者がすることですよ」
そう言うと、彼は何を想像したのか。
「俺は男色じゃねぇー! もう許さん! 殺す」
と言ったのだが、彼は分かっているのだろうか。殺したら負けなのだ。そこで、最初に応対した、ギルド職員が来た。彼女が、行うようだ。まあ誰でも同じである。仕事をしない阿呆なのだ。
「お待たせしました。早速始めたいと思います。契約書に不備がなければ、サインをお願いします」
そして俺が用意した、契約書にサインを書き、ついに始まるのだ。昨日は、魔術の大放出だったため、真面メンバーには、あんまり勉強にならなかっただろう。今日は、魔闘術も魔術も、あまり使用しないようにしようと、自分に縛りをつけたのだが、念話が届いたのである。
『なるべく派手にな。その方が、Sランクになりやすいだろ。Aランク冒険者を圧倒出来るのは、Sランクだけなのだから。ちゃんとやれよ』
そう言い、注文は終了した。彼は本気で獅子王神様とお揃いがいいらしい。まぁ善処する。
「では、始め」
審判がそう言うと、大剣を振り下ろしてきた。遅すぎるため、余裕で避ける。左に動くと、薙ぎ払おうと剣を横に振るったのだが、肘が伸びきるタイミングで、肘に掌底を放つ。すると、肘が折れた。すかさず、ローキックで膝を潰し、崩れ落ちたところで、首に手刀を喰らわせ、喉を潰す。
これで、ギブアップは出来まい。
職員が止めに入る前に、さっさと決めてしまうことにした。ただ注文は派手にである。ちなみに、以前体の何処からも、魔術を放てるように練習をしたと、言っただろう。今回はそれを使うことにしたのだ。胸の高さもちょうどいいので、決めやすいだろう。
――雷霆魔術《雷槍》――
胸に向かって、跳び蹴りをかましながら、足の裏で魔術を発動したのだ。まだうまく出来ないが、将来は魔術と格闘技の組み合わせの、流派を創ってもいいかもしれない。そして、注文通り派手に、吹っ飛んで言ったのである。蹴りが胸に当たった瞬間、青白い雷光が胸を貫き、同時に蹴りの衝撃により吹っ飛んだのだ。
一応は、生きている。
右腕と右膝と喉を潰し、左腕と左足も骨折し、現在瀕死であるが、死んでいない。そして、審判を見やると、震えながら終了を宣言したのである。恐怖に震える阿呆共と、歓喜の声をあげる真面メンバーである。恐怖の種類としては、単純に実力のこともあるのだろうが、持ち金全部がなくなり、生活困難に陥ったことであろう。
まぁまだ日が高いのだ。働きに行けば大丈夫である。そして、反対に臨時収入を得た、真面メンバーである。倍率が違いすぎるため、儲けも尋常ではない。さて、失敗ポーションを飲ませてやろう。これである程度は、大丈夫だろう。死ぬのは味覚だけだ。
そして、手続きを終わらせるのだったが、ランクを決めかねているようだ。ボムは気に入らないのか、王女に何やら言っている。
「娘。Aランクを倒したのだから、Sではないのか? Aとかあの阿呆と同じだろ? 本来は俺の力も加味した、ランクであるはずだ。あいつはテイマーなのだからな。なんなら俺が試験を受けるぞ。そうだな、なんとかしてくれたら、モフモフ権をやってもいいぞ」
その言葉に、エルザさんが物申す。
「私にも手伝わせていただきたい。そして、私にも権利を」
「いいだろう。なんとかしてみろ」
と、こそこそ打ち合わせをしていた。周囲に真面系冒険者を並べ、壁にしてまでもSランクがいいらしい。
「ちょっと待ってください。そちらの方は、テイマーなのでしょう? 個人でAランクを圧倒した上、明らかに格上の魔獣をテイムしているのですよ。魔物ではなく、魔獣をですよ。でしたら、Aランクにしておくのは、おかしな話ではありませんか? 是非判断基準を教えて頂きたい」
そうエルザさんが力説した。
これが打ち合わせの理由である。昨日の夜の真面メンバーは、全員ボムが聖獣であることを、知っている。それぐらいではなければ、話していることが、出来ないのである。だが、ここで言うと、面倒になりそうだったため、ランクS以上の魔獣にした。これだけでも、十分に規格外だ。
ちなみに、既に面倒事になっているが、何故早く終わらせたいのかと言うと、もちろん宿もあるが、王女の問題もある。更に言えば、王女たちはまだ、カルラと遊んでいたいのだ。故に、急いでいるのである。現在人目が多いので、ボムのマントの中で寝ているのだが、カルラは我慢が出来る子なので、素直に大人しくしていられるのである。
「えっと、実績がないからです。まだ仕事をしていないため、勤務態度とかも分かりませんし、それ相応の、品位というものも必要なのです。王族や貴族との謁見も、多くなりますので」
どうやら、コイツの中では、俺は品位に欠けるようだ。それに、お前に勤務態度のことを言われたくないと、思ってしまったのは、俺だけではないだろう。実際に、言ってしまった人がいた。
「ギルド職員の勤務態度は、怠慢な上、品位にも欠けるのに、他の者に強要するのは、いかがなものじゃ? 自分が出来ないことを、相手にのみ行えというのは、いささか我が儘がすぎるとは思わないか?」
そう言ったのは、王女だった。相当モフモフ権が欲しいのだろう。
「お嬢ちゃん。言っていいことと悪いことがあるのよ。両親から教わらなかった? 王族や貴族に怒られるのは、私たちなの。少しは分かって下さらない? 暇じゃないのよ」
阿呆確定である。
完全なる不敬罪である。
周りの騎士を見れば分かりそうなものなのに、何故気付かないのだろうか。不思議だ。それに、暇そうにしてたくせによく言う。
「そうか。では、実績があればいいのじゃな? ならば、妾の命の恩人ということでいいであろう?」
「お嬢ちゃんのこと助けてくれたの。よかったわね。素晴らしいわ」
受付嬢風阿呆は、俺が一般人じゃなくなったをいいことに、態度を変えてきたのだ。ちなみに、シュバルツ達はキレる手前である。どうしてくれよう。まずは、彼女の身分を教えてやろう。
「そこの阿呆。彼女はこの国の第三王女だぞ。いいのか? そんな態度で。確実に不敬罪だぞ」
「そんな冗談は、いらないわ」
阿呆には、期待するだけ無駄のようだ。ちなみに、二階からこちらを覗っている、阿呆の親玉は、無視を決め込むみたいだ。確かまだ、ギルドカードを作っていないし、サインもしていない。そして、王女の護衛の最中である。言い訳はなんとかなりそうだ。ボムをチラッと見ると、すぐに察して、全員を近くに集めた。
――結界魔術《絶界》――
――暴嵐魔術《旋風》――
――雷霆魔術《轟雷》――
――火炎魔術《炎岩》――
ついに、限界が来てしまったのだ。結界魔術を発動後、攻撃術の多重展開である。小規模の竜巻に、小規模の落雷、そして、小規模の隕石落下である。
王都は大きく、三層に分かれている。その一番外側にあったギルド支部は、今日を以て閉鎖されることになるだろう。何故なら、建物がないのだ。人は、竜巻の時点で外に投げ飛ばされ、ほぼ被害なし。賭け金は回収済み。もう、用はない。ただ用があるのは、ギルドマスターだけである。王女襲撃は、コイツ直々の依頼であったからだ。
さて、どこにいるのだろう。
だが、さすが王族。
貴族専用の入り口から、軽い審査で通り抜けてしまった。怪しさ満点なはずなのに、鶴の一声とはこのことを言うようだ。
そして、今ギルドの目の前にいる。
ちなみに、扉から入れないような大きさの、従魔は外で待機だが、扉から入れれば、中に入れられる。何故なら、登録しなければならないからだ。そのため、床も石造りでボムも安心である。
余計なちょっかいを、かけられたくなかったので、カルラもプモルンも従魔として、契約してしまうことにした。そして、まだ十歳になっていない俺は、どうするかと思っていたのだが、十歳になる年で、なおかつ試験を受ければ、大丈夫であったため、真面なメンバー全員で、ギルドの中へ入ったのだ。
ここでもテンプレに遭うのだろうか。出来れば、面倒は避け、宿を見つけたい。それと、換金して時空属性の付与についての本を買いたいのだ。
だが、悪い予感とは当たるものである。
「おい。ここは、子供が来るところじゃねえぞ。大人しく学校行ってな」
と、阿呆が絡んできた。
酔ってはいないようだが、酔っぱらい並みの、判断力のなさである。近くにいる、我らが真面メンバーは、顔面蒼白である。そして、肩を震わせるボム。どうやら暇つぶしに、観戦するようだ。
「冒険者の登録と従魔の登録に来たんですよ」
「おい。みんな聞いたか? 臆病者がお供連れて、登録しに来たぞ。弱いくせに冒険者になろうって、舐めてんのか? 自分の力で戦えないやつは、俺みたく、Aランク冒険者になれねえぞ。出直せ」
と、教科書通りのいちゃもんである。以前も言ったが、テイムスキルも立派な本人の力だ。ここは、テイマーの地位向上のために、頑張ることにしよう。
「では、俺の試験の相手を、あなたにしてもらいましょう。本当の戦闘とは、どのようなものか、教えてもらいたいのです。さらに、そちらで安全圏から笑っていた方も、全員参加型のイベントを提案させて頂きます。
ここにいる全員で、所持金オールベットで、どちらが勝つか、勝負しませんか? Aランク冒険者と、臆病者のテイマーです。賭けの成立が心配なら、こちら側の全員が、俺に賭けますから、安心してください。それとも、謝罪して引き下がりますか? その場合、テイマーより臆病者となりますが、よろしいですか?」
と、満面の笑みで笑いかけた。
それが気に触ったのだろう。
阿呆共全員が、Aランク阿呆に賭けるようだ。こちらは、熊のボムさんも、賭けるようだ。ストレージから出していた。
ちなみに、ボムはギルドの中では、話さないようにした。子機があるため、特に不便はない。真面系騎士や真面系冒険者、王女は臨時収入の予感からか、ほくそ笑んでいた。
「上等じゃねぇか。倍率が違いすぎて、俺達はあんまり儲けでないが、臆病者と言われるのは、我慢できねぇ。今更逃げるなよ」
金の計算は出来るようだ。
さて、相手に逃げられるのは嫌なので、逃げ道を塞ぐことにする。
「ここに、魔力紙で作った契約書があります。胴元は、ギルドにやって貰うこと。金の回収及び支払いを、ギルドにやって貰うこと。未払いや踏み倒しを、禁止すること。試験形式は、ギブアップの宣言か、戦闘不能になること。死ななければ、多少の怪我に関しては、異議を唱えないこと。怪我や装備の破損については、自己負担であること。
これらに納得するならば、サインと魔力紋をお願いします。俺とAランクさんと、ギルドの計三枚での保管になります。いかがですか?」
すると、ギルド職員が異議を唱えだした。
「私たちには、関係ないことです。利益にもならないことは、お止めください」
そう言うのは分かっていたが、もう遅いのだ。
「そうですか。では、このギルドの今この時間で、働いているものは、全員処罰の対象になるのですが、よろしいですね? 確か、ギルドの規則に、ギルド員は一般人に、暴力行為や脅迫など、迷惑を掛ける行為を禁止し、ギルド職員は、それを監督しなければならない。というものがあったはずですが、今のこの現状はいかがですか? 俺はまだギルドに登録していない、一般人なのですが? このままギルドの、グランドマスターのところに行きますか?」
そこまで言うと、ギルド職員は、全員顔面蒼白になったのである。ギルドは、基本的に一般人の依頼によって、仕事を斡旋している。つまり、お客さんに喧嘩を売っている状況だ。
このまま試験を受けて、合格になれば有耶無耶に出来るし、試験のため試したと言い訳もたつ。断る理由は、ないのだ。
しかも、一部始終を見ているのは、王女である。冒険者ギルドは、この国発祥であり、数多くの支援や政策を講じてきた。だが、ただの一般人に迷惑を掛ける組織だと、認識されるのは、マズいだろう。それも、国の中枢にいるものに。故に、もう遅いのだ。
「畏まりました。早速準備をさせていただきます」
「色よい返事をありがとうございます」
満面の笑顔で言ったのだが、ギルド職員には、悪魔に見えたことだろう。だが、自業自得である。
そして、ボムや全員が持ち金全部払い。ギルド職員が、確認をした。そして、訓練場へ移動したのである。Aランク阿呆は、ボムと戦うのが不安なのだろう。だが、安心して欲しい。彼は観戦モードだからだ。
「安心してしてください。あなたと戦うのは、俺だけで、あの熊さんは、高みの見物ですよ」
不安を取り除いてあげることにした。
「はぁ? テイマーが一人で戦って、何が出来るんだよ! 本気で舐めてんのか?」
「何が出来るって? あなたをボコボコにですよ」
俺の優しさが伝わらなかったようだ。そして、彼は怒り狂っていた。周りの阿呆共は、手加減してやれ。だとか、早く終わらせろだとか、騒いでいた。
「今謝れば、許してやらないこともないぞ。大人しくママのおっぱいでも吸ってな」
と言ってきた。
なかなか始まらない。審判を押しつけ合っているようだ。それなら、もう少し阿呆の相手をしてやろう。
「では、あなたはパパのを吸っていてください。おそらく、何か出るでしょう。それに、勝てないからと言って、一方的になしにするのは、臆病者がすることですよ」
そう言うと、彼は何を想像したのか。
「俺は男色じゃねぇー! もう許さん! 殺す」
と言ったのだが、彼は分かっているのだろうか。殺したら負けなのだ。そこで、最初に応対した、ギルド職員が来た。彼女が、行うようだ。まあ誰でも同じである。仕事をしない阿呆なのだ。
「お待たせしました。早速始めたいと思います。契約書に不備がなければ、サインをお願いします」
そして俺が用意した、契約書にサインを書き、ついに始まるのだ。昨日は、魔術の大放出だったため、真面メンバーには、あんまり勉強にならなかっただろう。今日は、魔闘術も魔術も、あまり使用しないようにしようと、自分に縛りをつけたのだが、念話が届いたのである。
『なるべく派手にな。その方が、Sランクになりやすいだろ。Aランク冒険者を圧倒出来るのは、Sランクだけなのだから。ちゃんとやれよ』
そう言い、注文は終了した。彼は本気で獅子王神様とお揃いがいいらしい。まぁ善処する。
「では、始め」
審判がそう言うと、大剣を振り下ろしてきた。遅すぎるため、余裕で避ける。左に動くと、薙ぎ払おうと剣を横に振るったのだが、肘が伸びきるタイミングで、肘に掌底を放つ。すると、肘が折れた。すかさず、ローキックで膝を潰し、崩れ落ちたところで、首に手刀を喰らわせ、喉を潰す。
これで、ギブアップは出来まい。
職員が止めに入る前に、さっさと決めてしまうことにした。ただ注文は派手にである。ちなみに、以前体の何処からも、魔術を放てるように練習をしたと、言っただろう。今回はそれを使うことにしたのだ。胸の高さもちょうどいいので、決めやすいだろう。
――雷霆魔術《雷槍》――
胸に向かって、跳び蹴りをかましながら、足の裏で魔術を発動したのだ。まだうまく出来ないが、将来は魔術と格闘技の組み合わせの、流派を創ってもいいかもしれない。そして、注文通り派手に、吹っ飛んで言ったのである。蹴りが胸に当たった瞬間、青白い雷光が胸を貫き、同時に蹴りの衝撃により吹っ飛んだのだ。
一応は、生きている。
右腕と右膝と喉を潰し、左腕と左足も骨折し、現在瀕死であるが、死んでいない。そして、審判を見やると、震えながら終了を宣言したのである。恐怖に震える阿呆共と、歓喜の声をあげる真面メンバーである。恐怖の種類としては、単純に実力のこともあるのだろうが、持ち金全部がなくなり、生活困難に陥ったことであろう。
まぁまだ日が高いのだ。働きに行けば大丈夫である。そして、反対に臨時収入を得た、真面メンバーである。倍率が違いすぎるため、儲けも尋常ではない。さて、失敗ポーションを飲ませてやろう。これである程度は、大丈夫だろう。死ぬのは味覚だけだ。
そして、手続きを終わらせるのだったが、ランクを決めかねているようだ。ボムは気に入らないのか、王女に何やら言っている。
「娘。Aランクを倒したのだから、Sではないのか? Aとかあの阿呆と同じだろ? 本来は俺の力も加味した、ランクであるはずだ。あいつはテイマーなのだからな。なんなら俺が試験を受けるぞ。そうだな、なんとかしてくれたら、モフモフ権をやってもいいぞ」
その言葉に、エルザさんが物申す。
「私にも手伝わせていただきたい。そして、私にも権利を」
「いいだろう。なんとかしてみろ」
と、こそこそ打ち合わせをしていた。周囲に真面系冒険者を並べ、壁にしてまでもSランクがいいらしい。
「ちょっと待ってください。そちらの方は、テイマーなのでしょう? 個人でAランクを圧倒した上、明らかに格上の魔獣をテイムしているのですよ。魔物ではなく、魔獣をですよ。でしたら、Aランクにしておくのは、おかしな話ではありませんか? 是非判断基準を教えて頂きたい」
そうエルザさんが力説した。
これが打ち合わせの理由である。昨日の夜の真面メンバーは、全員ボムが聖獣であることを、知っている。それぐらいではなければ、話していることが、出来ないのである。だが、ここで言うと、面倒になりそうだったため、ランクS以上の魔獣にした。これだけでも、十分に規格外だ。
ちなみに、既に面倒事になっているが、何故早く終わらせたいのかと言うと、もちろん宿もあるが、王女の問題もある。更に言えば、王女たちはまだ、カルラと遊んでいたいのだ。故に、急いでいるのである。現在人目が多いので、ボムのマントの中で寝ているのだが、カルラは我慢が出来る子なので、素直に大人しくしていられるのである。
「えっと、実績がないからです。まだ仕事をしていないため、勤務態度とかも分かりませんし、それ相応の、品位というものも必要なのです。王族や貴族との謁見も、多くなりますので」
どうやら、コイツの中では、俺は品位に欠けるようだ。それに、お前に勤務態度のことを言われたくないと、思ってしまったのは、俺だけではないだろう。実際に、言ってしまった人がいた。
「ギルド職員の勤務態度は、怠慢な上、品位にも欠けるのに、他の者に強要するのは、いかがなものじゃ? 自分が出来ないことを、相手にのみ行えというのは、いささか我が儘がすぎるとは思わないか?」
そう言ったのは、王女だった。相当モフモフ権が欲しいのだろう。
「お嬢ちゃん。言っていいことと悪いことがあるのよ。両親から教わらなかった? 王族や貴族に怒られるのは、私たちなの。少しは分かって下さらない? 暇じゃないのよ」
阿呆確定である。
完全なる不敬罪である。
周りの騎士を見れば分かりそうなものなのに、何故気付かないのだろうか。不思議だ。それに、暇そうにしてたくせによく言う。
「そうか。では、実績があればいいのじゃな? ならば、妾の命の恩人ということでいいであろう?」
「お嬢ちゃんのこと助けてくれたの。よかったわね。素晴らしいわ」
受付嬢風阿呆は、俺が一般人じゃなくなったをいいことに、態度を変えてきたのだ。ちなみに、シュバルツ達はキレる手前である。どうしてくれよう。まずは、彼女の身分を教えてやろう。
「そこの阿呆。彼女はこの国の第三王女だぞ。いいのか? そんな態度で。確実に不敬罪だぞ」
「そんな冗談は、いらないわ」
阿呆には、期待するだけ無駄のようだ。ちなみに、二階からこちらを覗っている、阿呆の親玉は、無視を決め込むみたいだ。確かまだ、ギルドカードを作っていないし、サインもしていない。そして、王女の護衛の最中である。言い訳はなんとかなりそうだ。ボムをチラッと見ると、すぐに察して、全員を近くに集めた。
――結界魔術《絶界》――
――暴嵐魔術《旋風》――
――雷霆魔術《轟雷》――
――火炎魔術《炎岩》――
ついに、限界が来てしまったのだ。結界魔術を発動後、攻撃術の多重展開である。小規模の竜巻に、小規模の落雷、そして、小規模の隕石落下である。
王都は大きく、三層に分かれている。その一番外側にあったギルド支部は、今日を以て閉鎖されることになるだろう。何故なら、建物がないのだ。人は、竜巻の時点で外に投げ飛ばされ、ほぼ被害なし。賭け金は回収済み。もう、用はない。ただ用があるのは、ギルドマスターだけである。王女襲撃は、コイツ直々の依頼であったからだ。
さて、どこにいるのだろう。
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物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
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