115 / 167
第五章 生命の試練と創造神解放
第百三話 暴飲暴食
しおりを挟む
「「うあぁぁぁぁぁぁ!」」
俺とセルの絶叫がダンジョン内に響き渡る。どうして絶叫しているかというと、蛇にストーキングされているからだ。最初は何もなかった。蛇嫌いの者達全員が全力で威圧をしていたおかげか、全くと言っていいほど何もなく、順調に歩を進められた。
少しすると十字路が見えてきた。辺り一面を照らす光が届きづらいのか、他と違って影ができていた。先頭のヘリオスは、影を飛び越え直進していく。フェンリルとガルーダも飛び越えていく。そして、一番足が遅く最後尾にいるセルが飛び越えた。
だが、そのとき気づいてしまったのだ。影だと思っていたものは、大蛇の胴体だということに。しかも、胴体が道を塞ぐように横たわっているということは、頭部はどこかに潜んでいて獲物を狙っているということだ。そして、その獲物とは俺達のことだろう。
次の瞬間、当たって欲しくない予想が当たり、俺達の後ろに蛇の頭が現れたのだ。それも三つ。この魔物はランクSのトライデント・デスサーペントという蛇で、ランクAのデスサーペントの進化種らしい。この間の蛇の王と同ランクだが、蛇の王よりも小さい代わりに凶暴性と毒に加え、三つの頭それぞれがブレスを放つらしい。
ちなみに、神獣達は気づいていて教えなかったようだ。何で分かるかって? 俺達を振り返ることもせず、全力で逃走しているからだ。本来最後尾はガルーダだったのに、あの影を越えるときは我先にと速度を上げていた。故に、標的は俺達に切り替わってしまったのだ。
「ソモルン……覚えてろー! セル、属性纏を使って走れ!」
「任せて!」
弾かれるように速度を上げ蛇を置き去りにしたのだが、この蛇には子分がたくさんいるようで、俺達の横には蛇の群れが併走していた。
「きゃぁぁぁぁぁ! ラース! どうにかして!」
「今考えているから、全力で走れ!」
どうするか考えていると、火炎魔術と暴嵐魔術の複合魔術が後ろから飛んできた。すぐにブレスだと予想して、結界魔術を展開した。
――結界魔術《城壁》――
物理防御と魔力防御に優れ、好きな場所に展開できる優秀な結界魔術である。魔力の消費も少ないところがより良いところだ。これでブレス対策は完璧だ。あとは蛇だけなのだが、この子分達も高ランクの蛇でランクB以上しかいない。
「できれば、後ろの三つ子の足止めに使いたいな。俺達の代わりに獲物になってもらおう!」
――幻影魔術《幻視》――
幻を見せて、俺達の姿が三つ子の口の中に向かって走っているように見せた。すると、一斉に三つ子の口の中へと進み出す大蛇の群れ。俺達の周りには蛇が一匹もいなくなり、後方からのブレスも止み、三つ子のプレッシャーもなくなった。
「蛇の蛇による蛇のための食事。ビュッフェを心ゆくまで楽しんでくれたまえ。さらばだ!」
「相変わらず、悪魔のようなことをするわね。想像するだけでも気持ち悪くなるわ」
「セルさん。セルさんを助けるためにしたんだよ。蛇塗れになって蛇臭が取れなくなったら、カルラに姉ちゃん臭いって言われるぞ。いいのか?」
「絶対! 嫌! 私は女の子よ! 女の子に臭いって言ったら、絶対に駄目なのよ!」
「それならば、さっきの方法は仕方がなかったと思うだろ?」
「……そうね!」
単純な狼を説得することほど簡単なものはない。それにしても、女の子の自覚があったとは……。百歳近かったはずだが、年齢は関係ないのか? だが、これを言ったらヘリオスと同じ運命を辿る予感がする。やめておこう。
そして、ようやく薄情者達に追いついた。意趣返しとして絶望の言葉を言ってやろう。
「諸君の御飯のメイン食材は、密林で出た大蛇だ! 蛇肉がなくなるまで毎食出してやる!」
「「「「やめろー!」」」」
ヘリオスは詳しく知らないからか、よく分かっていないような顔をしていたが、その他の四人からは猛反対の抗議が殺到した。
「それはズルいぞ! 相棒ならば、同じ料理を食べるべきではないのか?」
「僕に蛇を食べさせるの? ラース……親友だよね?」
「俺はソモルンの言葉に従っただけだぞ! そもそも最後尾と言っても、上空にいる俺にはあまり関係ない話だ! たまたま速度が上がっただけだろ?」
「俺はセルの前を走っていただけで、置いていったわけではない! それに、蛇の胴体だと気づかなかったんだ!」
それぞれの主張を聞くが、嘘っぽい話も出てきたため、ヘリオスからも話を聞いてみた。
「ヘリオス、この紙を覚えているか?」
「嘘発見魔道具だろ?」
「そうだな。さて、フェンリル君とガルーダ君。使ってみたいなって思うならば、手を挙げて欲しいな」
俺の言葉とヘリオスの証言により項垂れてしまった二人は、ボム達にすがるような目を向けていた。彼らは今、運命共同体であるからだろう。そして答えが出たようで、横一列に並び始める。
「「「「ごめんなさい!」」」」
「よろしい!」
同時に頭を下げる神獣と聖獣と怪獣。一番可愛かった者は、聖獣の巨デブの熊さんだった。ヘリオスは俺の蛇嫌いを知らなかったから、謝罪は不要とした。
「結局、あの大蛇をどうやって倒したんだ?」
「倒してないぞ。逃げてきたんだ」
「「「「「えっ?」」」」」
ボムの問いに素直に答えたのだが、倒していないという言葉に不安を感じてしまったようだ。あの三つ子が追いかけて来るかもしれないと。
「それは大丈夫だと思うわ。あの三つ子の大蛇の口に向けて、子分の大蛇の群れが進軍を始めたの。共食いパーティーの開幕よ! これで少しは時間を稼げると思うわ。もしかすると、お腹いっぱいになって動けなくなっているかもしれないわ!」
大喜びのセルには悪いが、もう一つの可能性が存在していた。共食いによる進化。これが起こったら、最悪の未来しか想像できない。聖獣クラスの大蛇と戦わなくてはならないとか、地獄以外の何ものでもないだろう。
「セル……悪魔に感化されてしまったのか? 共食いパーティーという言葉を選ぶあたり、少しずつ影響されているように見えるぞ」
ボムが心配そうにセルを見つめていた。そんなセルはというと、「そうかしら?」と言っていた。この抜けているところが、セルの魅力の一つなのだろう。カルラは、抜けているセルが大好きだからな。
「じゃあ、晩御飯にして寝るか。一つ屋根の下で蛇と一晩一緒に寝る体験が、当ホテルのアピールポイントです。心ゆくまでお楽しみください!」
「「「「「やめろー!」」」」」
「ヘリオスは平気なんだな」
ヘリオス以外の全員から文句が出たが、ヘリオスだけは頷いているだけだった。
「蛇か? 神獣の中にも一体いるし、密林にもよく出てくるからな。まあまあ美味いぞ。知能が足りない馬鹿にしては、そこそこの強さを持っているものもいるからな。戦闘も楽しめるから嫌いではないぞ」
「じゃあ、あの三つ子とやるか?」
「そうしたいのは山々だが、戦闘ではあまり手を出すなと、リオリクス様に言われている。【神馬】のところに説明に行ったときに言われた。どうしても戦いたい相手か、ラースやボム達が死にそうな相手じゃない限りは駄目だと言っていた」
そういえば、ボムの修業も兼ねているんだったな。実際、その言葉にやる気を出している様子のボムを見ながら思った。だが、それならば俺が蛇の相手をすることはいかがなものか。
「じゃあ、ボムが三つ子の相手をするか?」
「それは……いいかな。その代わり、モフモフしてもいいんだぞ。俺から言うのは珍しいだろ?」
自分のモフモフを有効利用し始める賢い熊さん。しかし、蛇とモフモフだと釣り合いが取れない気がする。そんな俺の思いを先読みしたかのように動き出すボム。
「ソモルンのモフモフもつけるぞ。なぁ、ソモルン!」
「うん!」
「……いいだろう!」
昨日、あまり堪能できなかったモフモフを今夜も体験できるのならば、三つ子くらい相手をしてやろう。そして、結局三十階層のボス部屋の手前にある安全地帯で、一休みすることになった。五十階層までは十階層ごとのボス部屋前に、このような安全地帯が用意されているようだ。効果は行き来自由の絶界みたいなもので、湧き水とトイレがある大部屋となっている。
「十階層までの肉を使って肉パーティーをしよう。ステーキやハンバーグ、カツなどを用意したから、好きなだけ食べてくれ。酒とデザートも用意したぞ!」
『いただきます!』
ヘリオスにも教え、全員揃ってあいさつをして食事を始めた。ヘリオスは大喜びで食べていた。ミノタウロスやホーンブルはランクCという低さなのに、ドラゴンに匹敵する美味さだった。ミノタウロスは武器を使って戦闘するからか、ほとんどが赤身の肉なのだが、固い肉などではなく柔らかく弾力がある肉だった。
それに対してホーンブルは、ほとんどが霜降り肉だった。柔らかいとかではなく口に入れると溶けてしまうような部位もあり、ランクCでこれほど美味いならば、もう一回獲りに行ってもいいかもしれない。ちなみに、内臓も美味しくいただきました。ヘリオスは、もう帰らないと言っていた。
その後、【無限収納庫】から風呂小屋を取り出して入り、モフモフに包まれて爆睡した。翌日、朝食を食べボス部屋に行こうとすると、安全地帯の入口を塞ぐ黒い物体があった。
「ま、まさか……これは……」
「おそらく……三つ子ね」
セルの答えに全員が呆然と入口を見る。体が昨日よりも太く高くなっていた。一部だけならば、お腹がいっぱいなのかな? と思えるが、見渡す限り同じような大きさだった。つまり、進化してしまったということだ。
「進化しちゃったか……。ボム、槍作って」
ボムが大地魔術でアダマンタイト製の大身槍を作ってくれた。それに、属性纏《火炎》を施して、蛇の胴体に突き刺した。肉が焼ける音ともに、槍が体の中に侵入していく。蛇の胴体が痛みで波打っているのだが、ダンジョンの広い通路いっぱいに広がる巨体では上手く動けないようだった。
「ボム、この槍を太くして真ん中を空洞にしてくれ」
「何をする気なんだ?」
「最初は鱗の強度を知りたかっただけだったんだが、普通に突き刺さったから、蛇の王にしたように水を入れて凍らそうと思って。口から水が出たら、本当の蛇口だな。……プッ!」
思わず笑ってしまったが、この安全地帯が本物の絶界じゃなくてよかった。本物の絶界ならば、内部から槍だけ出して攻撃など、絶対にできないからだ。
――流水魔術《大瀑布》――
ボムが作り替えた槍の石突きの部分に手を当て、流水魔術の魔法陣を設置した。あとは放って置くだけだ。念のため蛇が動いても水を入れられるようにしたから、本物の蛇口になるまで安全地帯でゆっくりと過ごした。
「プモルン、どれぐらい貯まったかな?」
しばらく経った後、プモルンに探査と解析をしてもらった。
<うーん。九割くらいかな>
「じゃあ、次の段階に進もう! ボム、もう一本同じ物を横に作ってくれ!」
「分かった。でも、水が出てくるだろ?」
「それもそうだな。それなら、石突きはそのままで!」
またも痛みで体が波打つ大蛇。しかし、昨日の蛇の爆食パーティーの後に、水の爆飲パーティーをやらされているからか、元気がなく抵抗も少なかった。
「元気がないのか。温めてあげたいな。《火焔龍》をプレゼントしてあげようかな?」
「時間の無駄だ。それにゆでたら、加工肉になるだろ? 売れなくなるぞ!」
ボムの言葉に、それもそうかと思い予定通り凍らせることにした。
――氷雪魔術《八寒地獄・青蓮地獄》――
蛇の王よりも一段階強い氷雪魔術だ。凍傷によりひび割れるが、愛嬌ということで許してくれ。徐々に凍っていく蛇から冷気が放たれていく。蛇は寒さに弱いらしいから、これで討伐完了だと思いたい。というか、死んでくれなければ【無限収納庫】に入れられないし、ここから出られないのだ。
「今のうちに一回でも攻撃すればレベルが上がるぞ。セル、槍で突き刺すんだ」
「えっ? 分かったわ!」
ボムに渡された槍を属性纏《雷霆》で覆い、蛇の体へと突き刺した。蛇は一瞬だけ体を震わせるも、冷気で痛みが麻痺しているのか、何も反応しなかった。フェンリル達もレベル上げをするかと聞くと、レベルが三百を超えると測定不能になるようで、もう気にしていないそうだ。
「そろそろしまってみるか」
俺は【無限収納庫】を使用し、蛇の体をしまうよう意識してみた。すると、徐々にではあるが【無限収納庫】に入っていくではないか。つまり、あの世に旅だったということだ。それも、横っ腹に爪楊枝が三本突き刺さった程度の綺麗な状態で。
「これは売れるぞ。……たぶん」
ふと、買い取ってくれるだろうかという不安がよぎる。しかし、買い取ってくれなくても悪戯に使えるからいいかと思うことにした。
「やっと頭の部分だ。しかも、やっぱり蛇口になっているな。氷柱になってしまっているけど」
口から溢れた水までも凍り、通路に固定されてしまっていた。氷を砕き頭をしまうと、ようやくボス部屋に辿り着くことが出来たのだった。
俺とセルの絶叫がダンジョン内に響き渡る。どうして絶叫しているかというと、蛇にストーキングされているからだ。最初は何もなかった。蛇嫌いの者達全員が全力で威圧をしていたおかげか、全くと言っていいほど何もなく、順調に歩を進められた。
少しすると十字路が見えてきた。辺り一面を照らす光が届きづらいのか、他と違って影ができていた。先頭のヘリオスは、影を飛び越え直進していく。フェンリルとガルーダも飛び越えていく。そして、一番足が遅く最後尾にいるセルが飛び越えた。
だが、そのとき気づいてしまったのだ。影だと思っていたものは、大蛇の胴体だということに。しかも、胴体が道を塞ぐように横たわっているということは、頭部はどこかに潜んでいて獲物を狙っているということだ。そして、その獲物とは俺達のことだろう。
次の瞬間、当たって欲しくない予想が当たり、俺達の後ろに蛇の頭が現れたのだ。それも三つ。この魔物はランクSのトライデント・デスサーペントという蛇で、ランクAのデスサーペントの進化種らしい。この間の蛇の王と同ランクだが、蛇の王よりも小さい代わりに凶暴性と毒に加え、三つの頭それぞれがブレスを放つらしい。
ちなみに、神獣達は気づいていて教えなかったようだ。何で分かるかって? 俺達を振り返ることもせず、全力で逃走しているからだ。本来最後尾はガルーダだったのに、あの影を越えるときは我先にと速度を上げていた。故に、標的は俺達に切り替わってしまったのだ。
「ソモルン……覚えてろー! セル、属性纏を使って走れ!」
「任せて!」
弾かれるように速度を上げ蛇を置き去りにしたのだが、この蛇には子分がたくさんいるようで、俺達の横には蛇の群れが併走していた。
「きゃぁぁぁぁぁ! ラース! どうにかして!」
「今考えているから、全力で走れ!」
どうするか考えていると、火炎魔術と暴嵐魔術の複合魔術が後ろから飛んできた。すぐにブレスだと予想して、結界魔術を展開した。
――結界魔術《城壁》――
物理防御と魔力防御に優れ、好きな場所に展開できる優秀な結界魔術である。魔力の消費も少ないところがより良いところだ。これでブレス対策は完璧だ。あとは蛇だけなのだが、この子分達も高ランクの蛇でランクB以上しかいない。
「できれば、後ろの三つ子の足止めに使いたいな。俺達の代わりに獲物になってもらおう!」
――幻影魔術《幻視》――
幻を見せて、俺達の姿が三つ子の口の中に向かって走っているように見せた。すると、一斉に三つ子の口の中へと進み出す大蛇の群れ。俺達の周りには蛇が一匹もいなくなり、後方からのブレスも止み、三つ子のプレッシャーもなくなった。
「蛇の蛇による蛇のための食事。ビュッフェを心ゆくまで楽しんでくれたまえ。さらばだ!」
「相変わらず、悪魔のようなことをするわね。想像するだけでも気持ち悪くなるわ」
「セルさん。セルさんを助けるためにしたんだよ。蛇塗れになって蛇臭が取れなくなったら、カルラに姉ちゃん臭いって言われるぞ。いいのか?」
「絶対! 嫌! 私は女の子よ! 女の子に臭いって言ったら、絶対に駄目なのよ!」
「それならば、さっきの方法は仕方がなかったと思うだろ?」
「……そうね!」
単純な狼を説得することほど簡単なものはない。それにしても、女の子の自覚があったとは……。百歳近かったはずだが、年齢は関係ないのか? だが、これを言ったらヘリオスと同じ運命を辿る予感がする。やめておこう。
そして、ようやく薄情者達に追いついた。意趣返しとして絶望の言葉を言ってやろう。
「諸君の御飯のメイン食材は、密林で出た大蛇だ! 蛇肉がなくなるまで毎食出してやる!」
「「「「やめろー!」」」」
ヘリオスは詳しく知らないからか、よく分かっていないような顔をしていたが、その他の四人からは猛反対の抗議が殺到した。
「それはズルいぞ! 相棒ならば、同じ料理を食べるべきではないのか?」
「僕に蛇を食べさせるの? ラース……親友だよね?」
「俺はソモルンの言葉に従っただけだぞ! そもそも最後尾と言っても、上空にいる俺にはあまり関係ない話だ! たまたま速度が上がっただけだろ?」
「俺はセルの前を走っていただけで、置いていったわけではない! それに、蛇の胴体だと気づかなかったんだ!」
それぞれの主張を聞くが、嘘っぽい話も出てきたため、ヘリオスからも話を聞いてみた。
「ヘリオス、この紙を覚えているか?」
「嘘発見魔道具だろ?」
「そうだな。さて、フェンリル君とガルーダ君。使ってみたいなって思うならば、手を挙げて欲しいな」
俺の言葉とヘリオスの証言により項垂れてしまった二人は、ボム達にすがるような目を向けていた。彼らは今、運命共同体であるからだろう。そして答えが出たようで、横一列に並び始める。
「「「「ごめんなさい!」」」」
「よろしい!」
同時に頭を下げる神獣と聖獣と怪獣。一番可愛かった者は、聖獣の巨デブの熊さんだった。ヘリオスは俺の蛇嫌いを知らなかったから、謝罪は不要とした。
「結局、あの大蛇をどうやって倒したんだ?」
「倒してないぞ。逃げてきたんだ」
「「「「「えっ?」」」」」
ボムの問いに素直に答えたのだが、倒していないという言葉に不安を感じてしまったようだ。あの三つ子が追いかけて来るかもしれないと。
「それは大丈夫だと思うわ。あの三つ子の大蛇の口に向けて、子分の大蛇の群れが進軍を始めたの。共食いパーティーの開幕よ! これで少しは時間を稼げると思うわ。もしかすると、お腹いっぱいになって動けなくなっているかもしれないわ!」
大喜びのセルには悪いが、もう一つの可能性が存在していた。共食いによる進化。これが起こったら、最悪の未来しか想像できない。聖獣クラスの大蛇と戦わなくてはならないとか、地獄以外の何ものでもないだろう。
「セル……悪魔に感化されてしまったのか? 共食いパーティーという言葉を選ぶあたり、少しずつ影響されているように見えるぞ」
ボムが心配そうにセルを見つめていた。そんなセルはというと、「そうかしら?」と言っていた。この抜けているところが、セルの魅力の一つなのだろう。カルラは、抜けているセルが大好きだからな。
「じゃあ、晩御飯にして寝るか。一つ屋根の下で蛇と一晩一緒に寝る体験が、当ホテルのアピールポイントです。心ゆくまでお楽しみください!」
「「「「「やめろー!」」」」」
「ヘリオスは平気なんだな」
ヘリオス以外の全員から文句が出たが、ヘリオスだけは頷いているだけだった。
「蛇か? 神獣の中にも一体いるし、密林にもよく出てくるからな。まあまあ美味いぞ。知能が足りない馬鹿にしては、そこそこの強さを持っているものもいるからな。戦闘も楽しめるから嫌いではないぞ」
「じゃあ、あの三つ子とやるか?」
「そうしたいのは山々だが、戦闘ではあまり手を出すなと、リオリクス様に言われている。【神馬】のところに説明に行ったときに言われた。どうしても戦いたい相手か、ラースやボム達が死にそうな相手じゃない限りは駄目だと言っていた」
そういえば、ボムの修業も兼ねているんだったな。実際、その言葉にやる気を出している様子のボムを見ながら思った。だが、それならば俺が蛇の相手をすることはいかがなものか。
「じゃあ、ボムが三つ子の相手をするか?」
「それは……いいかな。その代わり、モフモフしてもいいんだぞ。俺から言うのは珍しいだろ?」
自分のモフモフを有効利用し始める賢い熊さん。しかし、蛇とモフモフだと釣り合いが取れない気がする。そんな俺の思いを先読みしたかのように動き出すボム。
「ソモルンのモフモフもつけるぞ。なぁ、ソモルン!」
「うん!」
「……いいだろう!」
昨日、あまり堪能できなかったモフモフを今夜も体験できるのならば、三つ子くらい相手をしてやろう。そして、結局三十階層のボス部屋の手前にある安全地帯で、一休みすることになった。五十階層までは十階層ごとのボス部屋前に、このような安全地帯が用意されているようだ。効果は行き来自由の絶界みたいなもので、湧き水とトイレがある大部屋となっている。
「十階層までの肉を使って肉パーティーをしよう。ステーキやハンバーグ、カツなどを用意したから、好きなだけ食べてくれ。酒とデザートも用意したぞ!」
『いただきます!』
ヘリオスにも教え、全員揃ってあいさつをして食事を始めた。ヘリオスは大喜びで食べていた。ミノタウロスやホーンブルはランクCという低さなのに、ドラゴンに匹敵する美味さだった。ミノタウロスは武器を使って戦闘するからか、ほとんどが赤身の肉なのだが、固い肉などではなく柔らかく弾力がある肉だった。
それに対してホーンブルは、ほとんどが霜降り肉だった。柔らかいとかではなく口に入れると溶けてしまうような部位もあり、ランクCでこれほど美味いならば、もう一回獲りに行ってもいいかもしれない。ちなみに、内臓も美味しくいただきました。ヘリオスは、もう帰らないと言っていた。
その後、【無限収納庫】から風呂小屋を取り出して入り、モフモフに包まれて爆睡した。翌日、朝食を食べボス部屋に行こうとすると、安全地帯の入口を塞ぐ黒い物体があった。
「ま、まさか……これは……」
「おそらく……三つ子ね」
セルの答えに全員が呆然と入口を見る。体が昨日よりも太く高くなっていた。一部だけならば、お腹がいっぱいなのかな? と思えるが、見渡す限り同じような大きさだった。つまり、進化してしまったということだ。
「進化しちゃったか……。ボム、槍作って」
ボムが大地魔術でアダマンタイト製の大身槍を作ってくれた。それに、属性纏《火炎》を施して、蛇の胴体に突き刺した。肉が焼ける音ともに、槍が体の中に侵入していく。蛇の胴体が痛みで波打っているのだが、ダンジョンの広い通路いっぱいに広がる巨体では上手く動けないようだった。
「ボム、この槍を太くして真ん中を空洞にしてくれ」
「何をする気なんだ?」
「最初は鱗の強度を知りたかっただけだったんだが、普通に突き刺さったから、蛇の王にしたように水を入れて凍らそうと思って。口から水が出たら、本当の蛇口だな。……プッ!」
思わず笑ってしまったが、この安全地帯が本物の絶界じゃなくてよかった。本物の絶界ならば、内部から槍だけ出して攻撃など、絶対にできないからだ。
――流水魔術《大瀑布》――
ボムが作り替えた槍の石突きの部分に手を当て、流水魔術の魔法陣を設置した。あとは放って置くだけだ。念のため蛇が動いても水を入れられるようにしたから、本物の蛇口になるまで安全地帯でゆっくりと過ごした。
「プモルン、どれぐらい貯まったかな?」
しばらく経った後、プモルンに探査と解析をしてもらった。
<うーん。九割くらいかな>
「じゃあ、次の段階に進もう! ボム、もう一本同じ物を横に作ってくれ!」
「分かった。でも、水が出てくるだろ?」
「それもそうだな。それなら、石突きはそのままで!」
またも痛みで体が波打つ大蛇。しかし、昨日の蛇の爆食パーティーの後に、水の爆飲パーティーをやらされているからか、元気がなく抵抗も少なかった。
「元気がないのか。温めてあげたいな。《火焔龍》をプレゼントしてあげようかな?」
「時間の無駄だ。それにゆでたら、加工肉になるだろ? 売れなくなるぞ!」
ボムの言葉に、それもそうかと思い予定通り凍らせることにした。
――氷雪魔術《八寒地獄・青蓮地獄》――
蛇の王よりも一段階強い氷雪魔術だ。凍傷によりひび割れるが、愛嬌ということで許してくれ。徐々に凍っていく蛇から冷気が放たれていく。蛇は寒さに弱いらしいから、これで討伐完了だと思いたい。というか、死んでくれなければ【無限収納庫】に入れられないし、ここから出られないのだ。
「今のうちに一回でも攻撃すればレベルが上がるぞ。セル、槍で突き刺すんだ」
「えっ? 分かったわ!」
ボムに渡された槍を属性纏《雷霆》で覆い、蛇の体へと突き刺した。蛇は一瞬だけ体を震わせるも、冷気で痛みが麻痺しているのか、何も反応しなかった。フェンリル達もレベル上げをするかと聞くと、レベルが三百を超えると測定不能になるようで、もう気にしていないそうだ。
「そろそろしまってみるか」
俺は【無限収納庫】を使用し、蛇の体をしまうよう意識してみた。すると、徐々にではあるが【無限収納庫】に入っていくではないか。つまり、あの世に旅だったということだ。それも、横っ腹に爪楊枝が三本突き刺さった程度の綺麗な状態で。
「これは売れるぞ。……たぶん」
ふと、買い取ってくれるだろうかという不安がよぎる。しかし、買い取ってくれなくても悪戯に使えるからいいかと思うことにした。
「やっと頭の部分だ。しかも、やっぱり蛇口になっているな。氷柱になってしまっているけど」
口から溢れた水までも凍り、通路に固定されてしまっていた。氷を砕き頭をしまうと、ようやくボス部屋に辿り着くことが出来たのだった。
0
あなたにおすすめの小説
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる