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第五章 生命の試練と創造神解放
第百十四話 裁判
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【始原竜・プルーム】。地上に存在せし三体の神のうちの一体。その名に相応しい咆哮は、一撃で周囲を破壊し溶かしてしまっていた。その咆哮は全十一種類の基本属性のうち、創造属性を抜いた十属性の複合属性で構成されている。
それ故、各属性の特性が追加効果として付与される高威力の攻撃となっていた。どれくらいの威力かというと、直撃した場所は綺麗に円柱状に削り取られ、直撃していなくても複合属性らしく、ドロドロに溶けていたり嵐が吹き荒れたり、凍結したりと地獄絵図が表現されていた。
たったの一撃で地獄の光景を現実にできるところは、さすがの大魔王様としか言いようがないだろう。
俺たちの目の前で繰り広げられている地獄の光景に対して、俺ができる唯一のことは防御魔術の多重展開だ。それも、纏狸を使用したときだけ使える最強の防御魔術まで使用して。《纏狸・虚空》は、衝撃や攻撃を全て別空間に飛ばし、何もない状態にするという魔術だ。強力だが、魔力消費が尋常ではないため多用は禁止である。
だが、今使わなきゃいつ使うの? という状況だ。そして、その判断は間違っていなかった。地獄絵図を作る攻撃の余波に襲われていたら、俺たちもあの糞系無能風阿呆天使のように、消し飛ばされていたことだろう。
『ん……大っきい音……した。母ちゃんが怒ってるのかな?』
今日一番の爆音が鳴り響き、その音で眠り姫の目が覚めたようだ。
「カルラー!」
次の瞬間、転生してから最大の衝撃が俺を襲った。それは、大魔王プルーム様の瞳から涙がこぼれているのだ。まさに鬼の目にも涙である。プルーム様の涙は相当衝撃的だったようで、ソモルンも泣き止み呆然としていた。それに呆然としているのは神獣含む全員と、皆が忘れかけていた雷竜王もだった。
『母ちゃん、泣いてる……』
「心配したのだぞ! 前にラースが大怪我したときのカルラは、兄ちゃんがいなくなるかもしれないと大泣きしていたじゃろ? 今回は皆がカルラがいなくなるのではないかと、心配になり助けてくれたのだぞ? カルラも胸が――心が痛かったじゃろ? 我らも痛くて痛くて苦しかったのじゃ。母ちゃんのこと馬鹿にされて言い返してくれたのは嬉しいが、カルラがいてこそ意味があるんじゃ。もう無茶はしないでくれ!」
『ごめんなの……。母ちゃん、痛かったの……』
大粒の涙を流し抱き合う親子。共通点は竜ということだけだが、想いの深さは誰にも負けないと言えるほどの親子の絆を感じた。気づいたときにはボムやセルたちが、大号泣して鼻をすすっていた。
それにしても、今回の大魔王様の姿を見て思ったことがある。それは、二度と激怒しないで欲しい。ダンジョンじゃなかったら、被害がどうなっていたか想像できない。天変地異が起きるかもしれないのだ。
「プルームが泣いているのは初めて見るわ。リオリクスとセレールは、昔はよく泣いていたけどね。成長したのね。まあ今はいいわね。さぁ、ラース君。約束の物を……!」
プルーム様の泣き顔や、親子の感動の対面という衝撃的なことが起こったのに、相変わらずマイペースな創造神様。でも、カルラの治療法を教えてもらった以上、注文の品を納品しなければならないのだが、こっそりと渡したかった。怒られないことを祈る。
それにこっそり渡しても、ドジっ娘の創造神様には無意味な行動だろう。すでにだらしない顔をして呼吸が荒くなっている創造神様を見て、間違いないと確信するのだった。
「こちらです」
【無限収納庫】から出した物は、ボムの生き写しと言っても過言ではないぬいぐるみゴーレム。しかも、フルサイズボム。というよりも、現在のボムはどんなに大きくなっても十mもない。だが、目の前のボムゴーレムは十m超えだ。あえて言い換えるなら、ビッグサイズボムである。
これを作るために魔綿などを集めていたのだが、今回のぬいぐるみゴーレムは特別バージョンである。創造神様の協力により、成長とともに発声可能になるのだ。
「んっ?」
涙と鼻水まみれのボムが、ビッグサイズボムに気づいてしまった。生活魔法で顔面を綺麗にし、幻覚ではないことを確認している様子だ。何度も目をこすっていたからな。
「おい! ラース! 嘘ついたな! 拳骨だぞ!」
「ちょっと待て! 子熊を作ってはいないぞ! 俺は創造神様に頼まれて、巨大なボムを作ったんだ! 決して子熊ではない。だから、約束は守ったぞ!」
「そういうのを屁理屈って言うんだよ!」
その言葉と同時に、俺の頭に拳骨が落とされた。ボムナックルのグーバージョンだ。俺がボムに説教されている間も元凶である創造神様は、ビッグサイズボムの名前を考えていた。
「バムとポムのどっちがいいかしら?」
「バムがいいと思うよー!」
悩む創造神様に、ソモルンが抱っこされたまま答える。早くビッグサイズボムを触りたいのだが、名前をつけないと触れないため、協力することにしたようだ。
「じゃあ、バムにしましょう!」
そのまま宙に浮かび、ビッグサイズボムの頭に触れる創造神様。バムの瞳に光が宿り、創造神様にお辞儀していた。
「か、可愛いぃぃぃぃー!」
「基本的にはリオリクス様にあげたものと同じですから。サイズ調整も可能ですよ!」
大喜びの創造神様と複雑そうな表情のボムの明暗が、分かりやすいほどはっきりしていた。
その後、ひとしきりモフモフした創造神様は、バムにソモルンを預け、バムから離れダンジョン中央に向かって歩き出した。
「さて、ボルガニスいるのでしょう? 早く出てこないと……」
創造神様の言葉は途中で止まり、その代わりに火神様たちがアバター姿で現れた。
「あら、やっと出てきたのね。ずっと隠れていたから、かくれんぼをしているかと思っていたわ。それにしても、神の数が足りないわね? 創造神の名の下に召喚状を発行します。【生命神・リイヴィス】および医療・教育担当神または天使!」
創造神様の目の前にずらっと並ぶ十柱の神々と、生命神の部下たちの姿は壮観だった。生命神もつぎはぎ姿だが、アバターが復活したようだ。
「今回のことは被害者が私一人だけなら、私の不注意も原因だから叱っておしまいにするつもりだったけど、被害者の数や規模が許容量を超えてしまったわ。何よりも、私の可愛い娘のプルームを泣かせたことは、絶対に許さないつもりよ? ねぇ、リイヴィス?」
そこまで言うと、いつの間に装備していたのか分からないが、ガントレットとグリーブを装備し、跪く生命神の頭を抑え顔面に膝蹴りしていた。それを目撃した瞬間、誰も何も言わず少し離れた位置で整列した。
あのいつも明るい火神様が、真顔で俯いているところを見て判断すべきだった。さっきまでと同じ話し口調なのに、やっていることは激怒したプルーム様と全く同じ。
ぶっちゃけ、火神様のお使いは終わったしカルラたちも助けたから、この場にいなくてもいいんじゃないか? と思わないでもない。だが、言える雰囲気でもなければ、言う勇気もなかった。
俺たち全員が新たな恐怖に怯えている間も、創造神様による折檻が続いていた。
「最高の美の女神の座なら簡単にあげたのに、ルール違反を犯したり職務放棄したりと、随分勝手なことしてくれたわね。挙げ句の果てに、モフモフまでいじめてくれて。あんなに可愛いカルラちゃんが血塗れになっていても、何とも思わないのかしら? 心が汚いと体にもにじみ出てくるそうよ。それに、あなたの部下も調子に乗っているようじゃない? 教育を司る神なのに、部下の教育も真面にできていないじゃない。これじゃあ、主神になんてなれないわよ」
せっかく再生させたアバターが、ぐちゃぐちゃのミンチになっていた。しかし、怒りは収まらないようで、再生させてはミンチにするを繰り返していた。アバターは本体ではないが、痛みや五感が感じることができるらしい。
つまり、今のアバター姿は自我のあるゾンビと同様で、どんなに攻撃されても死ぬことは叶わない。体をミンチになるまで殴打される痛みがひたすら続き、終わりが全く見えない地獄を味わうのだ。創造神様の折檻とプルーム様の折檻を比べると、早く終わらせてくれる分、プルーム様の方が慈悲深く優しい気がする。
ボムも怖いのか、俺の手を握り震えていた。普段なら可愛いと思える行動も、今の状況下では握り返すだけしかできなかった。
「次はー、ヘルスクロね。魂の使い回しや邪獣の召喚など、好き放題やってくれていたわね。でも、詰めが甘すぎて失敗ばかりだったわね。まだまだ主神になんてなれないわよ? 私の下で修業した後、推薦する予定だったのに……残念だわ。法と罰を司るあなたが、真っ先にルール違反をするなんて私を馬鹿にしているのね」
笑いながら冥界神の前にかがみ、アッパーを喰らわせ浮いたところに回し蹴りをする創造神様。リオリクス様やプルーム様が格闘術で闘う理由って、母親である創造神様の影響なのだろうと確信した。
「あれー? おかしいわね? 戻って来ないわ」
蹴りを喰らった冥界神は、壁にめり込んだまま戻って来ない。一瞬、戻って来たくない気持ちに共感するも、《召喚状》を使用しても現れることはなく、冥界神の部下だけが現れるのだった。
「ふふふっ。馬鹿の割にやるじゃない。召喚状の術式変更ができるなんて成長したのね。じゃあ、まずはリイヴィスの罰から執行しようかしら。【生命神・リイヴィス】。あなたは聖戦のせいで命を落とすことになった教国の全ての者が、この先生きたであろう余命分を下界で生活し、転生を繰り返してもらいます。その後、天上界で研修からやり直してください。天使からか神からかは、下界での生活で判断するとします」
「そ、そんな……」
ミンチから復活した生命神に突きつけられた罰は、万年単位での下界での生活であった。俺が考えた魔術《無間地獄》の現実版だ。俺は精神を操ることで、時間感覚を狂わせ擬似的な悠久を作り出したが、創造神様は神の力で本物の悠久を作ってしまったのだ。創造神様の折檻は規模が違いすぎる。
「次はラニブスね。実質的に何かをしていたわけではないわね。むしろ、あなたが無関心だったせいでヘルスクロの計画が失敗したわけだから、お手柄と言ってもいいようだけど、私と敵対することを選んだことは間違いだったわね」
途中、お手柄と聞き嬉しそうにしていたが、許されるはずもなくミンチにされていた。
「あなたはしばらく謹慎にするわ。興味がないことだからと、無関心を貫くことはよくないわ。謹慎している間は、定期的にレポートを持ってくること。嫌だというなら、私のサンドバッグでもいいのよ?」
「レポートの提出でお願いします!」
「よろしい!」
優しそうな裁定だが、神様の謹慎は数日や数ヶ月というものではないだろうことが分かる。きっと長い長い謹慎になるだろう。
「さて、技工神と豊穣神は知らぬ存ぜぬで楽しい思いだけしていたわね。私を救出するために尽力することもなく、美味しいものだけを貪る生活。羨ましいわ。そんなあなたたちに仕事を与えます。【技工神・バッカス】は、ヘルスクロの担当である法と死と賞罰の管理を臨時で代行してもらうわ。【豊穣神・リエース】には、【風神・ラニブス】の代わりに商業と旅と冒険の管理を臨時で代行してもらうわ。当たり前だけど、十大ダンジョンもよ。生命のダンジョンは私が代行するわ。いいわね?」
「「はっ!」」
遊んでいるだけの二人は人事異動だけで済んだようだが、まだ五柱いる神々はどうなるのだろうか?
「次は【土神・ジェイル】。ありがとう。調査報告を読んだわ。おかげで術式の抹消が完了できたのよ。これで二度と、異世界転生や転移ができなくなったはずよ」
「どういたしまして」
初めて目にする神様は、楽しい思いをすることなく仕事をしていたようだ。お礼とともに頭を撫でられていた。土神様は照れているのか頬を赤らめていた。ちなみに、女神である。
その姿を見たバムはソモルンを抱いたまま、火神様の右側の端っこに移動して跪いた。ソモルンも火神様たちも、バムの不可解な行動に動揺しているようだ。
「あらあら」
そんな中、創造神様は行動の意味を理解しているようで、バムの前に移動して頭に手を置いた。大きい頭をモフモフしながら撫でる創造神様に、バムは嬉しそうに笑っていた。バムは土神様が撫でられているのを見て羨ましく感じたのだ。
バムはまだ赤ちゃんだからか、跪けば撫でてもらえると思い動いたのだ。ボムに似ているのだが、環境が違うせいか全く似ていない。
「もう少しだけ待っていてね。まだ四人残っているからね」
バムは大きく頷き、創造神様の後ろに立った。目の前で跪いている火神様は、創造神様とではなくバムと向き合っているようだった。
「あなたたちにも感謝を申し上げます。ありがとう。元々の理由はともかく、ラース君を転生させてくれたおかげで解放されました。これからも大変だろうけど、よろしくお願いします。それと、ボルガニス。熊さんを案内役としたことは、大変素晴らしいことです。ボーナスを考えておきましょう!」
「有難き幸せ! ですが、人選はリオリクスが担当しましたし、プルームが彼らを育てました。セレールも創世の塔を守ってくれています。そのことはお忘れなきよう!」
「えぇ、もちろんよ。では、これにて閉廷します」
全員が頭を下げ、創造神様による裁判は無事に終了するのだった。
それ故、各属性の特性が追加効果として付与される高威力の攻撃となっていた。どれくらいの威力かというと、直撃した場所は綺麗に円柱状に削り取られ、直撃していなくても複合属性らしく、ドロドロに溶けていたり嵐が吹き荒れたり、凍結したりと地獄絵図が表現されていた。
たったの一撃で地獄の光景を現実にできるところは、さすがの大魔王様としか言いようがないだろう。
俺たちの目の前で繰り広げられている地獄の光景に対して、俺ができる唯一のことは防御魔術の多重展開だ。それも、纏狸を使用したときだけ使える最強の防御魔術まで使用して。《纏狸・虚空》は、衝撃や攻撃を全て別空間に飛ばし、何もない状態にするという魔術だ。強力だが、魔力消費が尋常ではないため多用は禁止である。
だが、今使わなきゃいつ使うの? という状況だ。そして、その判断は間違っていなかった。地獄絵図を作る攻撃の余波に襲われていたら、俺たちもあの糞系無能風阿呆天使のように、消し飛ばされていたことだろう。
『ん……大っきい音……した。母ちゃんが怒ってるのかな?』
今日一番の爆音が鳴り響き、その音で眠り姫の目が覚めたようだ。
「カルラー!」
次の瞬間、転生してから最大の衝撃が俺を襲った。それは、大魔王プルーム様の瞳から涙がこぼれているのだ。まさに鬼の目にも涙である。プルーム様の涙は相当衝撃的だったようで、ソモルンも泣き止み呆然としていた。それに呆然としているのは神獣含む全員と、皆が忘れかけていた雷竜王もだった。
『母ちゃん、泣いてる……』
「心配したのだぞ! 前にラースが大怪我したときのカルラは、兄ちゃんがいなくなるかもしれないと大泣きしていたじゃろ? 今回は皆がカルラがいなくなるのではないかと、心配になり助けてくれたのだぞ? カルラも胸が――心が痛かったじゃろ? 我らも痛くて痛くて苦しかったのじゃ。母ちゃんのこと馬鹿にされて言い返してくれたのは嬉しいが、カルラがいてこそ意味があるんじゃ。もう無茶はしないでくれ!」
『ごめんなの……。母ちゃん、痛かったの……』
大粒の涙を流し抱き合う親子。共通点は竜ということだけだが、想いの深さは誰にも負けないと言えるほどの親子の絆を感じた。気づいたときにはボムやセルたちが、大号泣して鼻をすすっていた。
それにしても、今回の大魔王様の姿を見て思ったことがある。それは、二度と激怒しないで欲しい。ダンジョンじゃなかったら、被害がどうなっていたか想像できない。天変地異が起きるかもしれないのだ。
「プルームが泣いているのは初めて見るわ。リオリクスとセレールは、昔はよく泣いていたけどね。成長したのね。まあ今はいいわね。さぁ、ラース君。約束の物を……!」
プルーム様の泣き顔や、親子の感動の対面という衝撃的なことが起こったのに、相変わらずマイペースな創造神様。でも、カルラの治療法を教えてもらった以上、注文の品を納品しなければならないのだが、こっそりと渡したかった。怒られないことを祈る。
それにこっそり渡しても、ドジっ娘の創造神様には無意味な行動だろう。すでにだらしない顔をして呼吸が荒くなっている創造神様を見て、間違いないと確信するのだった。
「こちらです」
【無限収納庫】から出した物は、ボムの生き写しと言っても過言ではないぬいぐるみゴーレム。しかも、フルサイズボム。というよりも、現在のボムはどんなに大きくなっても十mもない。だが、目の前のボムゴーレムは十m超えだ。あえて言い換えるなら、ビッグサイズボムである。
これを作るために魔綿などを集めていたのだが、今回のぬいぐるみゴーレムは特別バージョンである。創造神様の協力により、成長とともに発声可能になるのだ。
「んっ?」
涙と鼻水まみれのボムが、ビッグサイズボムに気づいてしまった。生活魔法で顔面を綺麗にし、幻覚ではないことを確認している様子だ。何度も目をこすっていたからな。
「おい! ラース! 嘘ついたな! 拳骨だぞ!」
「ちょっと待て! 子熊を作ってはいないぞ! 俺は創造神様に頼まれて、巨大なボムを作ったんだ! 決して子熊ではない。だから、約束は守ったぞ!」
「そういうのを屁理屈って言うんだよ!」
その言葉と同時に、俺の頭に拳骨が落とされた。ボムナックルのグーバージョンだ。俺がボムに説教されている間も元凶である創造神様は、ビッグサイズボムの名前を考えていた。
「バムとポムのどっちがいいかしら?」
「バムがいいと思うよー!」
悩む創造神様に、ソモルンが抱っこされたまま答える。早くビッグサイズボムを触りたいのだが、名前をつけないと触れないため、協力することにしたようだ。
「じゃあ、バムにしましょう!」
そのまま宙に浮かび、ビッグサイズボムの頭に触れる創造神様。バムの瞳に光が宿り、創造神様にお辞儀していた。
「か、可愛いぃぃぃぃー!」
「基本的にはリオリクス様にあげたものと同じですから。サイズ調整も可能ですよ!」
大喜びの創造神様と複雑そうな表情のボムの明暗が、分かりやすいほどはっきりしていた。
その後、ひとしきりモフモフした創造神様は、バムにソモルンを預け、バムから離れダンジョン中央に向かって歩き出した。
「さて、ボルガニスいるのでしょう? 早く出てこないと……」
創造神様の言葉は途中で止まり、その代わりに火神様たちがアバター姿で現れた。
「あら、やっと出てきたのね。ずっと隠れていたから、かくれんぼをしているかと思っていたわ。それにしても、神の数が足りないわね? 創造神の名の下に召喚状を発行します。【生命神・リイヴィス】および医療・教育担当神または天使!」
創造神様の目の前にずらっと並ぶ十柱の神々と、生命神の部下たちの姿は壮観だった。生命神もつぎはぎ姿だが、アバターが復活したようだ。
「今回のことは被害者が私一人だけなら、私の不注意も原因だから叱っておしまいにするつもりだったけど、被害者の数や規模が許容量を超えてしまったわ。何よりも、私の可愛い娘のプルームを泣かせたことは、絶対に許さないつもりよ? ねぇ、リイヴィス?」
そこまで言うと、いつの間に装備していたのか分からないが、ガントレットとグリーブを装備し、跪く生命神の頭を抑え顔面に膝蹴りしていた。それを目撃した瞬間、誰も何も言わず少し離れた位置で整列した。
あのいつも明るい火神様が、真顔で俯いているところを見て判断すべきだった。さっきまでと同じ話し口調なのに、やっていることは激怒したプルーム様と全く同じ。
ぶっちゃけ、火神様のお使いは終わったしカルラたちも助けたから、この場にいなくてもいいんじゃないか? と思わないでもない。だが、言える雰囲気でもなければ、言う勇気もなかった。
俺たち全員が新たな恐怖に怯えている間も、創造神様による折檻が続いていた。
「最高の美の女神の座なら簡単にあげたのに、ルール違反を犯したり職務放棄したりと、随分勝手なことしてくれたわね。挙げ句の果てに、モフモフまでいじめてくれて。あんなに可愛いカルラちゃんが血塗れになっていても、何とも思わないのかしら? 心が汚いと体にもにじみ出てくるそうよ。それに、あなたの部下も調子に乗っているようじゃない? 教育を司る神なのに、部下の教育も真面にできていないじゃない。これじゃあ、主神になんてなれないわよ」
せっかく再生させたアバターが、ぐちゃぐちゃのミンチになっていた。しかし、怒りは収まらないようで、再生させてはミンチにするを繰り返していた。アバターは本体ではないが、痛みや五感が感じることができるらしい。
つまり、今のアバター姿は自我のあるゾンビと同様で、どんなに攻撃されても死ぬことは叶わない。体をミンチになるまで殴打される痛みがひたすら続き、終わりが全く見えない地獄を味わうのだ。創造神様の折檻とプルーム様の折檻を比べると、早く終わらせてくれる分、プルーム様の方が慈悲深く優しい気がする。
ボムも怖いのか、俺の手を握り震えていた。普段なら可愛いと思える行動も、今の状況下では握り返すだけしかできなかった。
「次はー、ヘルスクロね。魂の使い回しや邪獣の召喚など、好き放題やってくれていたわね。でも、詰めが甘すぎて失敗ばかりだったわね。まだまだ主神になんてなれないわよ? 私の下で修業した後、推薦する予定だったのに……残念だわ。法と罰を司るあなたが、真っ先にルール違反をするなんて私を馬鹿にしているのね」
笑いながら冥界神の前にかがみ、アッパーを喰らわせ浮いたところに回し蹴りをする創造神様。リオリクス様やプルーム様が格闘術で闘う理由って、母親である創造神様の影響なのだろうと確信した。
「あれー? おかしいわね? 戻って来ないわ」
蹴りを喰らった冥界神は、壁にめり込んだまま戻って来ない。一瞬、戻って来たくない気持ちに共感するも、《召喚状》を使用しても現れることはなく、冥界神の部下だけが現れるのだった。
「ふふふっ。馬鹿の割にやるじゃない。召喚状の術式変更ができるなんて成長したのね。じゃあ、まずはリイヴィスの罰から執行しようかしら。【生命神・リイヴィス】。あなたは聖戦のせいで命を落とすことになった教国の全ての者が、この先生きたであろう余命分を下界で生活し、転生を繰り返してもらいます。その後、天上界で研修からやり直してください。天使からか神からかは、下界での生活で判断するとします」
「そ、そんな……」
ミンチから復活した生命神に突きつけられた罰は、万年単位での下界での生活であった。俺が考えた魔術《無間地獄》の現実版だ。俺は精神を操ることで、時間感覚を狂わせ擬似的な悠久を作り出したが、創造神様は神の力で本物の悠久を作ってしまったのだ。創造神様の折檻は規模が違いすぎる。
「次はラニブスね。実質的に何かをしていたわけではないわね。むしろ、あなたが無関心だったせいでヘルスクロの計画が失敗したわけだから、お手柄と言ってもいいようだけど、私と敵対することを選んだことは間違いだったわね」
途中、お手柄と聞き嬉しそうにしていたが、許されるはずもなくミンチにされていた。
「あなたはしばらく謹慎にするわ。興味がないことだからと、無関心を貫くことはよくないわ。謹慎している間は、定期的にレポートを持ってくること。嫌だというなら、私のサンドバッグでもいいのよ?」
「レポートの提出でお願いします!」
「よろしい!」
優しそうな裁定だが、神様の謹慎は数日や数ヶ月というものではないだろうことが分かる。きっと長い長い謹慎になるだろう。
「さて、技工神と豊穣神は知らぬ存ぜぬで楽しい思いだけしていたわね。私を救出するために尽力することもなく、美味しいものだけを貪る生活。羨ましいわ。そんなあなたたちに仕事を与えます。【技工神・バッカス】は、ヘルスクロの担当である法と死と賞罰の管理を臨時で代行してもらうわ。【豊穣神・リエース】には、【風神・ラニブス】の代わりに商業と旅と冒険の管理を臨時で代行してもらうわ。当たり前だけど、十大ダンジョンもよ。生命のダンジョンは私が代行するわ。いいわね?」
「「はっ!」」
遊んでいるだけの二人は人事異動だけで済んだようだが、まだ五柱いる神々はどうなるのだろうか?
「次は【土神・ジェイル】。ありがとう。調査報告を読んだわ。おかげで術式の抹消が完了できたのよ。これで二度と、異世界転生や転移ができなくなったはずよ」
「どういたしまして」
初めて目にする神様は、楽しい思いをすることなく仕事をしていたようだ。お礼とともに頭を撫でられていた。土神様は照れているのか頬を赤らめていた。ちなみに、女神である。
その姿を見たバムはソモルンを抱いたまま、火神様の右側の端っこに移動して跪いた。ソモルンも火神様たちも、バムの不可解な行動に動揺しているようだ。
「あらあら」
そんな中、創造神様は行動の意味を理解しているようで、バムの前に移動して頭に手を置いた。大きい頭をモフモフしながら撫でる創造神様に、バムは嬉しそうに笑っていた。バムは土神様が撫でられているのを見て羨ましく感じたのだ。
バムはまだ赤ちゃんだからか、跪けば撫でてもらえると思い動いたのだ。ボムに似ているのだが、環境が違うせいか全く似ていない。
「もう少しだけ待っていてね。まだ四人残っているからね」
バムは大きく頷き、創造神様の後ろに立った。目の前で跪いている火神様は、創造神様とではなくバムと向き合っているようだった。
「あなたたちにも感謝を申し上げます。ありがとう。元々の理由はともかく、ラース君を転生させてくれたおかげで解放されました。これからも大変だろうけど、よろしくお願いします。それと、ボルガニス。熊さんを案内役としたことは、大変素晴らしいことです。ボーナスを考えておきましょう!」
「有難き幸せ! ですが、人選はリオリクスが担当しましたし、プルームが彼らを育てました。セレールも創世の塔を守ってくれています。そのことはお忘れなきよう!」
「えぇ、もちろんよ。では、これにて閉廷します」
全員が頭を下げ、創造神様による裁判は無事に終了するのだった。
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