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第一章 居候、始めます

幕間二  神の贈り物

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 事件翌日。
 今日も今日とて寝相が悪いルークが俺の上に乗り、イムレを枕代わりにして爆睡している。

「お、重い……」

『罰だ』

「珍しく起きてたんだね」

『いつも起きてる』

 嘘をつかなくてもいいのに。

「そう? じゃあ退いてくれない?」

『罰だから駄目だ』

「な、何の?」

『オレたちのことを忘れてただろ?』

「そんなことないよ……」

『いいんだ、嘘をつかなくて。オレがルイーサに話したから、ルイーサがお前のところに行ったんだ』

「え?」

 何で別行動しているルークが教えられるの?

『イムレが分体をお前につけてくれたおかげで、状況をオレに教えられたんだ。賢い子だ』

 初めて聞いたよ、その能力……。

「イムレ、ごめんね?」

『イムレ、怒ってる』

「もう絶対に忘れない」

『……本当?』

「本当っ!」

『今回だけ』

「ありがとう」

 抱きつこうとルークから奪おうとしたが無理だったので、ルークの顔面ごと抱きついた。

『オレはまだ許してない』

「……寛大な心でなんとか、ね?」

『仕方ない。美味いものと住処の提供で、今回のことは水に流してやろう』

「住処? ここがあるじゃん」

『オレじゃない。【青炎騎士団】の住処だ』

「え? ほとんど従魔なんでしょ? 子分たちも昨夜のうちに帰って行ったし」

『そうだ。契約者がいる子分たちは夜間しか来れないが、野生の子分もいるからな。避難場所と食事を用意してあげてほしい。乱暴なことをする人間がいて困っているそうだ』

 ルークは基本的に面倒見はいいもんなぁ。
 ニアの護衛や子守も嫌がらないし、イムレのことも可愛がっている。
 ずっと監禁されていたから、子分ができて独りじゃなくなったのが嬉しいのだろう。

「まぁご飯は多めに狩って来ればいいけど、美味しい料理はブルーノさんに聞いてからね」

『ブルーノは場所が問題だと言っていたから、お前が場所を用意できればなんとかなる』

「土地は問題ないよ。ついでにやりたいこともあったし」

『本当かっ!?』

「うん。それで、水に流してもらえる?」

『用意できたらな。成功報酬だから、まだ安心はできんぞっ』

「任せなさい」

 誘拐犯への嫌がらせついでにルークの赦しももらえるなら、一石二鳥の最高の計画になりそうだ。


 ◆


 朝食の後、中庭で嫌がらせ計画の準備をしていると、テオドールを従者のように引き連れたルイーサさんが現れた。

「何しているの?」

 いや、こっちの台詞だよ。
 何で従者みたいになってるんだ?

「悪党の遺品整理です」

「まぁ、お金がたくさんあるのね」

 山のように積まれた木箱の全てがお金ではないけど、盗賊ギルドの金庫からももらってきたから、結構な金額があるのは確かだ。

「被害者のニアの日用品や装備を買ってもいいかなって思ってます」

「自分のも買うのよ?」

「もちろんです」

 他に武具などもあるけど、これらは保留だ。
 今一番重要なのは、子爵が持ち歩いていた領主の印章と白地小切手に、子爵から部下に渡されていた裏書手形である。
 これらを使って爆買いしようと思う。
 支払いは全て子爵家が払ってくれるし、子爵領の財政難を煽れば連帯保証人の王弟へ支払いの請求が行くことだろう。

 もちろん、王族相手に本気で取り立てを行う商人はほとんどいない。
 でも、金融業を営んでいる高位貴族もいるし、商業ギルドでは取り立て代行を行っている。国王も王弟のせいで信用がなくなることを嫌がるだろうから、王弟に踏み倒させはしないだろう。

 というか、バレないように進んで支払うと思う。

『オレの土地は?』

「土地?」

『【青炎騎士団】の宿舎だぞ』

 ルイーサさんがルークの土地という謎ワードに食いついたが、説明された内容も謎だったからか、未だに疑問は晴れないようだ。

「野生の子分たちが人間にいじめられているらしくて、その避難場所が欲しいそうなんです」

「そうなのね。でも土地は買えないわよ?」

 ルイーサさんの話を聞いたルークが、グルンッと顔ごと俺を見た。

『騙したのか?』

「違うよっ! 土地は買えないけど、土地の使用権は買えるんだよ。領主が各ギルドに貸し出している場所の使用権利を、ギルドから借りるか買うかすれば、その土地は好きに使っていいんだよ。まぁ一部例外もいるけど」

「詳しいわね。例外は土地を下賜された人のことね。その人たちは使用権じゃなくて、土地そのものを所有できるのよ」

『オレの土地はどっちだ?』

 貸しを使えば例外所有者になることも可能だけど、それは個人的には面白くない。
 あの場は折檻の短縮という言葉に釣られて帰還してしまったが、明確な時間や期間を言われていないから、本当に短縮になっているかどうかも不明だ。
 そう思うと、処刑せずに帰還したことが損したように思える。

「前者。そんなに高くないしね」

「え? ディル、お金足りる? 工業区でも高いわよ?」

「大丈夫です。僕には神様からの贈り物があるんです」

 それにエイダンさん曰く、宿屋裏の立ち退き被害者のうち何人かはなくなったり、他領の知り合いのところに行ってしまったらしい。
 連絡先も不明だから、俺が使ってしまえって言っていた。

 そのときはどうしようかと思っていたが、宿屋に来たばかりのころに場所がないから風呂を作ってないと言っていたのを思い出し、そこにルークたちも入れる浴場、その名も【楽園湯】を造ろうと思ったのだ。

 ルークの土地は、そこに追加で購入すれば大丈夫だと思う。

「神様からの贈り物?」

「これです」

 ルイーサさんと、従者のテオドールに昨夜手に入れた三種の神器を掲げて見せる。

「──それはっ!」

「なんだそれ?」

 おい、大丈夫か? 貴族の坊っちゃんよ。

「……知らないの? お金だよ?」

「紙じゃねぇか。──あっ、だから神の贈り物?」

「ダジャレじゃないよ。この紙に数字を書けばお金になるんだよ」

「マジでっ!?」

「あれだよ? 言っておくけど、数字を書いたら硬貨が出てくるわけじゃないからね」

「なんだ、違うのかよ」

 多分、俺とルイーサさんは同じことを考えていたと思う。
 もしかしたら、ルークたちも……。

 ──なんて残念な子なのだろうか、と。

「まぁいいや。生産ギルドか冒険者ギルドで買おうと思っているんで、これから買い物に行こうと思ってます」

 空間収納具から武具などの邪魔なものを全て出して木箱に移し、代わりにお金と三種の神器を全て放り込む。
 木箱は再び部屋に運び入れ、出かける準備を終える。

「なるほどね。ママとのデートタイムってことね?」

「…………みんなでお出かけをしようかと思ったのです」

「そうなのね。それでも嬉しいから準備してくるわね。テオ、自分の準備のついでにナディアたちにも声をかけてきなさい」

「はいっ! お姉様っ!」

 苦肉の策を捻り出したことにより、微妙な先送りに成功した。

『お前は馬鹿だな』

「え?」

『でーとと折檻は別だぞ。お前がみんなで出かける提案をするように仕向けただけだ』

「そ、そういえば……。昨日は折檻って言ってたのに、さっきはデートって言ってた」

『でもルイーサみたいな母ちゃんがいて嬉しいだろ?』

「……うん」

『オレたちも好きだぞ』

『イムレ、ルイーサたち好き』

 ルークたちにとっても居心地が良くて守りたい場所だということがわかり、嬉しく思うのと同時に、改めて守っていこうと決意した。




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