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死後保険をご存知ですか?
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私は死んだ。
56歳、定年退職目前だった。
腹痛を感じ病院で検査したところ末期の肝臓ガンだった。
半年の入退院を繰り返し病院のベッドで眠って起きた時には、私は死んでいた。
特にこれと言って何かを為し得た訳では無い。会社勤め、郊外の一軒家に住み妻と2人の子供がいる。
我ながら本当に平凡な人生だったと思う。
「それにしても・・・・」
ぼんやりと自分の葬式を眺めながら考えていた。
信心深い方では無いが、死んだら天国か地獄に行くものではないだろうか。
死んでから三日になるが、お迎えの光が来る事も意識が消え去る事も無い。
それどころか昔映画で観たような、魂が浮いたり壁をすり抜ける事も出来ないようだ。
おかげで病院から自宅まで戻って来るのに骨をおった。
「どうしたものかね」
まさかこのまま永遠に地上に留まって守り神にでもなれと言うのだろうか。
そんな大それた事が自分に勤まるようには思えない。人を率先して導いたり決断を下したりするのは元から苦手な方だ。
ただ指示があったから行動し、頼まれたから指導にあたっただけで潮流に抗う事の無い落葉のような生き方をして来たのだ。
「やれやれ」
死んでから何度目か分らない溜息を吐く。
この先どうすれば良いのか、誰かに聞こうにもそこは矢張り死んだ人間なのだろう生きている人とは意思の疎通が出来ない。
かと言って自分以外に死んだ人間も見当たらない。
孤影悄然。
これはもしやあまりにも自分が平凡過ぎて神様ですら死んだ事を見逃してしまったのでは無いか。自嘲気味に笑うとあることに気付いた。
焼香の列から外れて一人若い女性が立っている。
髪を後ろ手に束ねたスーツ姿から会社関係であることは何となく理解出来たが、とんと記憶に無い。
少なくとも同じ部署では無い。葬儀の手伝いに来たようにも見受けられない。ただ涼やかな目で何かを探しているようだった。
よくよく見れば女性のスーツは葬式用の黒では無く紺色だ。その事に気付いた瞬間に女性と目が合った。
驚いたが女性の方は迷うこと無く自分に近付いてくる。
「荒川 晴樹(はるき)様ですね?」
返事を待たずとも女性は確信したのか「この度はご愁傷様でした」と深々と頭を下げる。
一方、私の方は混乱していた。突然知らない若い女性に話しかけられるとは思ってもみなかったからだ。
自分は本当に死んでいるのだろうか、それとも彼女がよく言われる「お迎え」というものなのだろうか。
疑問が腹の奥から泡のように湧き上がってくる。
「あ・・あの・・」
言葉を継ぐ前に頭を上げた女性がにっこりと微笑んだ。
それは営業の時に何度も見たことのある極めて事務的な微笑みだった。
「死後保険にはもうご加入ですか?」
56歳、定年退職目前だった。
腹痛を感じ病院で検査したところ末期の肝臓ガンだった。
半年の入退院を繰り返し病院のベッドで眠って起きた時には、私は死んでいた。
特にこれと言って何かを為し得た訳では無い。会社勤め、郊外の一軒家に住み妻と2人の子供がいる。
我ながら本当に平凡な人生だったと思う。
「それにしても・・・・」
ぼんやりと自分の葬式を眺めながら考えていた。
信心深い方では無いが、死んだら天国か地獄に行くものではないだろうか。
死んでから三日になるが、お迎えの光が来る事も意識が消え去る事も無い。
それどころか昔映画で観たような、魂が浮いたり壁をすり抜ける事も出来ないようだ。
おかげで病院から自宅まで戻って来るのに骨をおった。
「どうしたものかね」
まさかこのまま永遠に地上に留まって守り神にでもなれと言うのだろうか。
そんな大それた事が自分に勤まるようには思えない。人を率先して導いたり決断を下したりするのは元から苦手な方だ。
ただ指示があったから行動し、頼まれたから指導にあたっただけで潮流に抗う事の無い落葉のような生き方をして来たのだ。
「やれやれ」
死んでから何度目か分らない溜息を吐く。
この先どうすれば良いのか、誰かに聞こうにもそこは矢張り死んだ人間なのだろう生きている人とは意思の疎通が出来ない。
かと言って自分以外に死んだ人間も見当たらない。
孤影悄然。
これはもしやあまりにも自分が平凡過ぎて神様ですら死んだ事を見逃してしまったのでは無いか。自嘲気味に笑うとあることに気付いた。
焼香の列から外れて一人若い女性が立っている。
髪を後ろ手に束ねたスーツ姿から会社関係であることは何となく理解出来たが、とんと記憶に無い。
少なくとも同じ部署では無い。葬儀の手伝いに来たようにも見受けられない。ただ涼やかな目で何かを探しているようだった。
よくよく見れば女性のスーツは葬式用の黒では無く紺色だ。その事に気付いた瞬間に女性と目が合った。
驚いたが女性の方は迷うこと無く自分に近付いてくる。
「荒川 晴樹(はるき)様ですね?」
返事を待たずとも女性は確信したのか「この度はご愁傷様でした」と深々と頭を下げる。
一方、私の方は混乱していた。突然知らない若い女性に話しかけられるとは思ってもみなかったからだ。
自分は本当に死んでいるのだろうか、それとも彼女がよく言われる「お迎え」というものなのだろうか。
疑問が腹の奥から泡のように湧き上がってくる。
「あ・・あの・・」
言葉を継ぐ前に頭を上げた女性がにっこりと微笑んだ。
それは営業の時に何度も見たことのある極めて事務的な微笑みだった。
「死後保険にはもうご加入ですか?」
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